原節子の小津映画出演第1作 『晩春』がブルーレイ化

音楽

■「キネマニア共和国」

昭和を代表する映画スターの至宝とでもいうべき原節子が今年9月5日に95歳で亡くなりました。
奇しくも松竹では、彼女の主演映画をデジタル修復し、12月にブルーレイ&DVDでリリースしようとしていました……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~vol.70》

小津安二郎監督の1949年度作品『晩春』です。

晩春

戦後小津映画の作風を決定づけた記念すべき名作

『晩春』は原節子が初めて小津安二郎監督作品に出演した記念すべき作品ですが、小津監督にとっても戦後の彼の作風を決定づけた意味で画期的な作品でもあります。

妻を亡くして久しい大学教授・周吉は、27歳になっても嫁に行こうとしない娘・紀子のことが気がかりでならない。そんな折、周吉にお見合いの話が持ち上がり、父の再婚を嫌悪していた紀子の心が揺れるのを察知した彼は、紀子に再婚の意思を伝え……。

廣津和郎の短編小説『父と娘』を原作に、嫁いでいく娘と、それを見送る父の麗しき愛の絆を清廉なタッチで綴りつつ、その中から親の老いと孤独を露にしていく本作のモチーフは、戦後から晩年にかけての小津映画に精通するものともなっていきます。

また原節子はそういった戦後小津映画の象徴的存在となり、以後『麦秋』(51)『東京物語』(53)『東京暮色』(57)秋日和』(60)『小早川家の秋』(61)と、計6作品の小津映画に出演しました。

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

–{日本人離れした美貌、そして実力}–

原節子はそれまで、どちらかといえば日本人離れした美貌ばかりが取り沙汰され、それが災いしてか、戦前は「演技が硬い」「冷たく血が通っていない」といった批評家たちの酷評にさらされることも多々ありましたが、彼女自身、戦後に入るとそういった意見を凌駕すべく女優としての意欲的姿勢を示し始め、そのひとつの大きな成果が、この『晩春』であったともいえます。

この年、彼女は今井正監督の『青い山脈』、木下恵介監督の『お嬢さん乾杯』、そして本作の好演により、毎日映画コンクール女優演技賞を受賞し、人気と実力を兼ね備えたトップスターとして君臨することにもなりました。

小津監督も『麦秋』の頃、原節子のことを「脚本に提示された役柄の理解力と勘は驚くほど鋭敏」と絶賛するコメントをマスコミに披露しています。

綿密なデジタル修復で蘇る高画質ブルーレイの『晩春』

さて、今回リリースされる『麦秋』ブルーレイ&DVDは、松竹と米シネリック社にて4K修復したもので、画調を川又昂、近森眞史といった日本映画界を代表する名キャメラマンが監修。音声は清水和法の技術監修によって米オーディオメカニクス社にて、それぞれデジタル修復作業がされたものをマスターにしていますが、ここまで手間暇をかけたものがこれまでの日本映画にあっただろうかと驚くほどの高画質を実現させています。

もともと日本映画界は映画プリントの保存に無頓着で、ネガが残っていない作品も多数ある中、小津作品や黒澤明監督作品などが世界的にリスペクトされるようになり、ようやく欧米に倣って修復&保管作業が行われるようになっていきました。

特に小津監督作品はこれまで遺作の『秋刀魚の味』(62)や『秋日和』(60)『おはよう』(59)『彼岸花』(58)、そして『東京物語』がブルーレイ化されてきましたが、個人的にはこの『晩春』がもっとも嬉しいリリースでもあります。

願わくば、この後も小津作品や原節子出演作品、そして多くの日本映画が美しい映像で蘇ることを祈ってやみません。

なお、原節子追悼イベントとして、東京・丸の内ピカデリーにて『秋日和』(12月5日~11日)と『東京物語』(12日~22日)が、埼玉・MOVIX三郷にて『晩春』(5日~11日)が上映されます。お近くにお住まいの方は、銀幕で原節子の美を、そして日本映画の美を堪能できる絶好の機会ですので、ぜひ足をお運びください。

そして遠方の方などは、この年末、自宅にて『晩春』など原&小津コンビによる名編の数々をブルーレイ&DVDで鑑賞してみてはいかがでしょうか。

【Blu-ray セル】 晩春 デジタル修復版

■「キネマニア共和国」の連載をもっと読みたい方は、こちら

(文:増當竜也)