現在大ヒット公開中、Jホラーの巨匠・中田秀夫監督の最新作となる映画『劇場霊』のティーチインが東京 池袋シネマ・ロサに行われ、中田秀夫監督と脚本・三宅隆太さんが登壇し、映画製作の裏側や本作にかけた思いなどを語られました。
思わず白熱したトーク!映画『劇場霊』ティーチインイベントレポ
(写真左から西尾沙織プロデューサー、中田秀夫監督、脚本・三宅隆太氏)
中田監督から「他では言ってないようなことを特別にお話できたら」との挨拶から始まったティーチインは、冒頭は構想段階の話から、撮影中に関してのお話まで飛び出しました。
西尾沙織(映画『劇場霊』プロデューサー、以下・MC):
今回の『劇場霊』はかなり早い段階から「ジェット・コースターのようなホラーを作りたい」と言われていたと記憶しています。
中田秀夫監督(以下・監督):
そうでしたね。前作の『クロユリ団地』では、じわじわと中盤までいくお話だったので、今度はどんどんいっちゃおうと思ってたのは確かです。秋元康さんは、ズバッと企画や設定の切り口を言う人で、今度は劇場で起こる怖い話にと言われたんですね。大きな設定をもらって、さてどうするかって感じで考えたところからはじまりました。
三宅隆太(以下・三宅):
一番当初はストレートなJホラーをやろうかっていう雰囲気があったんでが「思い切ってJホラーを外れてみませんか?」と話をしたんです。違うことをやってみましょうと。それに監督も乗っていただいて、そこから怪奇映画でスピーディーでヤンチャなもの、少女漫画的なストーリーも展開する中で、恐怖の対象を人形にしてみたらどうかと提案させてもらい、盛り上がった感じでした。
–{ぱるるはネコ科の目}–
MC:
最初は「潜む何者か…」って感じで本が作られていましたよね。
三宅:
劇場が怖いという時に、人形のところまでにいくのは、若干時間がかかりました。
MC:
人形が襲ってくる設定を作ったあとの方向性は、三宅さんから「ちょうだい」というキーワードが出て、みんなで「これだ!」となりましたね。
三宅:
そうでしたね。スピーディーな展開、いい意味で“80年代のアメリカ映画”のような展開をやりましょうというコンセンサスがとれてたわけですけど、何かひとつ端的に言い表せるものが欲しかった。「ちょうだい」を発見するプロセスは実にシンプルで、元になった人物が、可哀想なくらい真面目な子で、彼女はとある理由で自分がしっかりしないといけない状況になり、自分をおさえて我慢していく人になったんだろうと。本当は「ちょうだい」って一言が言えたらどんなに楽だったのかと、そこからでしたね。
島崎遥香は“ネコ科の目”
ティーチイン中盤では、主演の島崎遥香さんについて、オーディションで選ばれた理由などが監督の口から語られました。
監督:
AKBグループ全体の300人からオーディションをして、これは本当にやったことなんですね。2次選考では、テレビによく出ている人もいました。
MC:
2次選考が30人でした。
監督:
その中で、4,5人はお芝居で選ぶならこの人っていうのはいたんです。ただし『劇場霊』には、若い女の子が女優として頑張っていくとうバックストーリーがあって、演技力だけで選んでいいのかという疑問があった。それで、直感に頼って選びました。島崎さんは自信なさげに不安げにいたんですが、話を聞くと本人はすごくやる気があるっていうのが分かってきて、そこが水樹沙羅という役に重なるところがあった。ただ正直、最初やってもらった時は、演技はまだまだだなと思ってました。
MC:
本人も選ばれると思ってなかったと言ってましたね。
(C)2015『劇場霊』製作委員会
監督:
「私でいいんでしょうか?」と自信なさげで、だけど演じてみたいという欲求は強くある。僕は彼女の目を「ネコ科の目」と呼んでいて、猫のような目。ただ、それが例えばラストのカットでは、ネコ科でも虎になってキリッと変化する。ホラー映画ってこの世のならざるものを相手にするので、叫ばなければならないシーンで彼女が適役だろうなと思った。もちろん、彼女の目だけで選んだわけじゃないし、僕の一存だけで決めたわけじゃないです。
–{観客の質問にアツい回答が…}–
中田秀夫韓屋「あと20年はホラーをやりたい」
ティーチインの終盤では、会場に集った観客のみなさんから質問を受け付けることに。率直な質問に、ここからさらにトークが白熱する展開になりました。中でも、中田秀夫監督作品は女優霊からずっとみているというファンの方からの質問では、中田秀夫監督、そして三宅隆太さんの本作にかけた挑戦と情熱が語られました。
質問者:
少し失礼な質問かもしれませんが、リングなどと比較して、中田監督の演出方法が変わったかなと思うんです。最近向けというか、ちょっと怖さを抑えた見やすいホラーになったのかなと思うのですが。以前、ホラー監督が本気でお客さんを怖がらさせようとして作品を作ると、怖すぎて公開できないと聞いたことがあって、そういった理由なんでしょうか。
監督:
やっぱりホラー映画の最大の目標は「怖い」と言われることなんです。『女優霊』から20年ということで、比べる人も多いんですが、『女優霊』は公開した直後は注目されていなくて「怖い」とも言われなかったんですよね。作り手の努力を分かってくれというのもいけないと思うのですが、作る側としては、同じことを繰り返すのはお客さんに失礼じゃないかなと思っちゃうんです。でも、お客さんは『リング』のような作品を観たいとも言う。『リング』と同じじゃないかと言われるのも悔しいし、比べて怖くないと言われるのも悔しい。そこをどう開拓していくか、それがある意味チャレンジだったんです。
実態のある人形がいかに怖くみせられるか、人形を動かしたりするなかで、女優さんに演じてもらったところなんかは、敢えてチャレンジでやったことでした。僕、今回『劇場霊』をやって、あと20年はホラーをやりたいなと思ったので、もっと新しい怖いを見つけて、またお届けできるように頑張りたいと思います。
三宅:
この映画のスピンオフドラマを今やっていて、僕も1作品監督をさせていただいんたんです。それを観終わった監督から「超怖かった」と可愛いメールが送られてきたんですね。これを言える人ってあんまりいないんです。
映画って人が作っているんですよね。で、人っていい意味でも悪い意味でも変わるんです。その時のその人がいかに届けられるかが大事だと思っています。僕は『女優霊』の中田さんと仕事をするのじゃなくて、今の中田さんと向き合いたいと思うんです。監督と脚本家の関係って、夫婦だとか宿敵だとか例えられますが、僕は中田さんとの関係を、潜水艦の艦長と副長だと思っています。監督の作戦に絶対ついていいく、周りの人が何を言おうと全面的に中田さんの味方だと。
Jホラーのくくりを外してみましょうと言ったのは僕です。なのでJホラー的なものを期待して責められるとしたら、責められるべきは僕だと思います。でも、中田さんが今作りたいものを作りましょうと言って、作りました。当然迷う時は迷っていいと思うんです。僕はそれにとことん付き合う。一緒に今の2015年の中田監督の新作ホラーを出しましょうといって完成したのがこれでした。
女優霊を観た時は学生でした。中田秀夫のファンでした。その監督が「超怖い」って言ってくれる。こんなに嬉しいことは無かったですね。僕は、中田さんが呼んでくれるんだったら、これからもずっと一緒にホラー映画を作っていきたいと思います。そしてそれが、その年のお客さんの感情とリンクするといいなと思っています。
しっかりと記憶してもらいたい
監督のサインが欲しいとの質問にも「この後ロビーでサインします」と快諾してくれた中田監督。最後にそれぞれから締めくくりの挨拶が行われました。
三宅:
『劇場霊』という作品は、いわゆるJホラーとは異なる作品に仕上がっていると思います。しかしながら、2015年にこういう作品を我々チームが届けたいとの思いがつまっています。作り手の都合かもしれませんが、何か少しでも同調していただけるものがあれば、楽しんでいただきたいなと思います。
監督:
先ほど、楳図かずおさんのホラー漫画を思い出したと言ってくださった方がいましたが、すごい嬉しかった。三宅さんとは、ずっと前に脚本作りをするときにもそういう話をしていたんです。『呪怨』の清水崇さんもそう言ってくれたし、小中千昭さんも怪奇映画で『血を吸う人形』を思い出したと言ってくれた。クラッシックな匂いが強い映画だと思います。またこんなの放り込んできたぞっていうのもお見せすることがあると思うので、この映画もしっかりと記憶してもらって、そしてもしよければご家族や友人に薦めてくださればありがたいです。
今もなお、挑戦を続ける中田秀夫監督の最新作『劇場霊』は、現在大ヒット公開中。
(C)2015『劇場霊』製作委員会
(取材・文/黒宮丈治)
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