11月21日から23日まで、東京都三鷹市にて第6回三鷹コミュニティシネマ映画祭が開催されました。
今回の目玉のひとつはアイドル映画特集。というわけで……。
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~ vol.68》
武田梨奈さんがご来場!
『少女は異世界で戦った』の原点は三鷹での映画鑑賞⁉
11月21日は、まず午前中は特集「アイドルは時空を超える①」として原田知世主演の『時をかける少女』を上映。
続いて午後は特集「アイドルは時空を超える②」として、福士蒼汰主演の『江ノ島プリズム』(13)と、武田梨奈ら4人のアイドルが異世界戦士に扮し、激しいバトルを繰り広げる『少女は異世界で戦った』(14)が上映。
その後シンポジウム『アイドルは時代を超える―時代を超えて語られるアイドル、未来へ語り継がれるアイドル―』が開催されました。
出席は『少女は異世界で戦った』主演の武田梨奈、『江ノ島プリズム』『少女は~』脚本を担当した小林弘利、そしてアイドル評論家・北川昌弘。司会は放送作家・映画活動家の松崎まこと。
そして当日来場されていた『少女は~』の金子修介監督も特別参加!
実は、三鷹高等学校出身でもある金子監督が、かつて三鷹にあった伝説的名画座・三鷹オスカーの前身だった三鷹東映で『仁義なき戦い』(14)や志穂美悦子のアクション映画などを見ていたことが、『少女は異世界で戦った』企画発想の大きな要因になっているとのことです。
金子「そういった70年代東映調のアクション映画をやってみたいと思い、志穂美さんの遺伝子を持つ女優さんを集めて撮りました」
金子修介監督
北川「闘う美少女たちということでは、最近では戦隊もののパロディ『女子ーず』(14)がありましたね。80年代には『Vマドンナ大戦争』(85)が作られています」
小林「『少女は異世界で戦った』の脚本を書くときは、アメリカ映画『エンジェル・ウォーズ』(11)を意識していました」
武田「現場は、とにかく体を動かすことが好きなメンバーでしたので、休憩時間もずっとみんなで練習したりしていました」
松崎「キャストの中で一番強いのは誰ですか?」
武田「私です!(笑) 現役で空手やってますので、可愛らしさは全然ですが、強さだけは(笑)。ただ、花井瑠美ちゃんも加弥乃ちゃんも新体操やってましたし、清野菜名ちゃんも運動が大好きですし、そういったメンバーが揃ったのはすごくよかったなと思っています。ただ、当時の悩みは、あのミニスカートでアクションやるのかと(笑)」
金子「女子アクションでチャンバラやりたいんだけど、現代に剣が登場する理由がないので、銃が存在せずに剣以外の武器はない世界という設定にして、また見えそうで見えないお色気ということでミニスカートにはこだわりたかった(笑)。ただし、見た目はHでも撮り方はちゃんと抑制しています。また3・11の大地震以降、現実の世界が少しずつ異世界のように変わってきているという実感の要素も入れるべく、パラレルワールドという設定を思いつきました」
小林「やはり銃のない世界という設定と、もうひとつ別の世界とを描きわけるところは難しかったですね」
小林弘利
–{アイドル映画は自由に何でも入れ込める}–
アイドル映画は自由に何でも入れ込める
松崎「『江ノ島プリズム』も小林さんの脚本で、こちらはタイムスリップが用いられていますが、小林さんのデビュー作『星空のむこうの国』(85)以来、異世界を描く機会が多いですね。こういった設定ってアイドルや若い女性に似合うというのがあるのでしょうか」
松崎まこと
小林「アイドル映画って自由だという意識が僕の中にありまして、登場するアイドルやスターがかっこよかったり可愛かったりすれば、後は何をやってもいい。だからこういうSF的なものや社会的な設定も、アイドルものだから入れ込めるんです」
北川「アイドルには70年代から80年代にかけて一つの流れが出来上がっていたのが一旦途切れて、今また別の流れが生まれているという気がしています。映画に関しては『セーラー服と機関銃』や『時をかける少女』のように、ひとつの原作を基に何人ものアイドルが繰り返し演じ続けているという意味で、古典が時代の流れに即しながら蘇っていくという形が、僕的にはアイドル映画の大きな要素のひとつのように思います。あと『江ノ島プリズム』は月9『恋仲』のキャスティングを先取りしている(笑)」
北川昌弘
小林「『恋仲』を続編だと思っている人、多いですよ(笑)。僕自身は『江ノ島プリズム』主演の3人(福士蒼汰・本田翼・野村周平)で『赤い』シリーズをリメイクしてほしいというか、そういう存在になってくれればと思っていました。同じキャストで、いろいろ別の役をやると面白いんじゃないのかな」
松崎「それもある意味パラレルワールドですね(笑)」
小林「『江ノ島プリズム』はもともとプロデューサーが『時をかける少女』をやりたいということだったのですが、でも既に『時をかける少女』はアニメやTVドラマも含めて映像作品が7本あるんですよ。だから同じ話をずっとやるのではなく、違うお話でやりましょうよということで作ったのが『江ノ島プリズム』だったんです」
手が届きそうで届かない部分を大切にしたい
この後、アイドルをどう魅力的に捉えるかといった話やアイドルの歴史的流れなどに変わっていきます。
金子「いかに可愛らしいポイントを探すか、またいかに仰ぎ見るというか、憧れて見える部分を探し出すことですね。ただし、もともとアイドルって手が届きそうで届かない存在だったのが、今は時代が変わって『先輩と彼女』(15)みたいに等身大でリアルなストーリーの映画が作られるようになり、その中で『江ノ島プリズム』や、来年公開の橋本環奈・主演『セーラー服と機関銃』はそこからさらに新鮮な部分を探ろうとしているんじゃないかな。僕自身は、手が届きそうで届かない部分を大事にしていて、現場でもそんなに親しく踏み込まず、憧れの存在に留めておきたいという風に撮っていますし、それが女優さんを輝かせると自分では思っています」
武田「『少女は異世界で戦った』のとき、私以外の3人は既に金子組に出演していましたので、撮影に入る前にどんな監督さんかを聞いたら、みんな口をそろえて『女の子を可愛く撮るのがすごく上手い!』と。私自身、金子監督の作品はそれ以前から見ていましたので、それは理解していたのですが、逆にそれがプレッシャーになりまして(笑)。アイドルの役で歌ったり踊ったりするのがすごく難しくて……。歌や踊りの練習のときも、監督はずっと苦笑いされてましたよね?(笑)」
金子「自分の中に苦手意識はあっただろうけど、そんなことはないよ(笑)。もともと運動能力はあるから、アイドルの動きなどもちゃんとできてました」
武田「(笑)ただ、最初はアイドルという役を意識してしまっていたんですけど、みんなで一緒にやっているときはすごく楽しくやらせていただきました。また加弥乃ちゃんはAKB48出身ですので、アイドルの動きとか、いろいろ教えてもらえましたね」
スターとアイドル、両方の要素を備えていた山口百恵
金子「アイドルって70年代以降に出てきた言葉で、それ以前はスターと呼んでたんですよ。本来“アイドル”とは“偶像”という大変な意味なんですけど、日本ではまだスターとは呼びきれない未完成の存在に対して、この言葉を使うようになった」
松崎「金子監督が最初に意識したアイドルは?」
金子「意識したということでは桜田淳子とかですけど、歴史的にいくと小柳ルミ子ですね。彼女こそスターとアイドルの中間にいるミッシング・リンク(笑)。それまでは直立不動に近いポーズで歌っていたのが、彼女あたりから手を動かすようになり、麻丘めぐみあたりからは無意味な動作をするようになっていった(笑)」
北川「一方であの頃は、山口百恵のように歌もやれば、お盆と正月の映画に主演し続け、連続ドラマまでやる存在もいたわけです」
金子「山口百恵さん主演の作品に助監督として就いたことがありましたが、彼女はスターとアイドルの両方の要素を備えているように思えました」
武田「実は私もアイドルがすごく好きで、特に昭和のアイドルが大好きで、カラオケでは山口百恵さんの歌ばかり歌うんですけど、その理由というのが、最近のアイドルは可愛くて守ってあげたいタイプが多くて、歌詞も”上手く踏み出せない”とか”寂しいよ”みたいなものが多いのに対して、山口百恵さんの歌は“馬鹿にしないでよ!”とか“去年の人とまた比べている”とか、キャンディーズさんでも“内気なあいつ”とか、どこか男の人を上から見ている感じがあって、そこが私の萌えポイントなんです(笑)。『少女は異世界で戦った』で私たちが歌っている主題歌の歌詞も、“チャラ男みたいな奴は生きている意味がない”と(笑)」
北川「スターは高根の花で、アイドルは届きそうで届かないといった存在だったのが、今は届いちゃうんですよ。イベントですぐに会えるし、握手会もあるし、こちらのことを認知してもくれる。その意味でも僕は昭和のアイドルと今のアイドルは別物だと思っています」
松崎「今は裏アイドルなんて言葉も出てきているように、幅もどんどん広がっちゃってますよね」
小林「僕にとってアイドルってときめく存在であり、スターは尊敬したり憧れる存在。ですから『江ノ島プリズム』も『少女が異世界で戦った』も、実は自己犠牲の話なんですが、それを通して主人公たちをいじらしいなあと思っていただけたら」
–{これからは強いアイドルを!}–
これからは強いアイドルを!
松崎「金子監督は、強いアイドルが成立していく要素が今後の映画界にあると思いますか」
金子「成立してほしいと思いますね。だから『少女は異世界で戦った』を作ったわけだし、武田さんにもどんどん戦っていってほしい(笑)」
松崎「女の子っぽい路線も交えつつ、ね」
武田「最近よく『アクション辞めちゃったんですか?』なんて言われるんですけど、全然そんなことはなくて、今すぐにでもやりたいくらいなんですよ。ただ、どうしても企画が……」
金子「そう。昔に比べてアクションをやりたがっている女優さんは増えているんですけど、その意気を活かす現場がないのが問題なんです」
北川「志穂美悦子さんの『二代目はクリスチャン』(85)を武田さん主演でリメイクするというのはいかがですか?」
松崎「井筒和幸監督のね。うん、それはいいと思う!」
武田「!(笑)」
武田鉄矢さんと親子刑事をやってみたい!
この後、観客からの質問コーナーに突入します。
―― 武田さんは、今後アイドル活動をやっていくご予定は?
武田「(笑)嬉しいですけど、私、本当にアイドルの素質はないなと感じているので……。可愛い仕草とかも全然できないんですよ」
北川「でも、今はアイドルの幅も広がってますから」
金子「可愛い仕草をしない、不愛想なアイドルという道もあるからね(笑)」
―― 『少女は異世界で戦った』は血が飛び散って衣裳にかかったりするシーンが少なかったように思いますが、予算がなかったのでしょうか?
金子「いや、あれは予算じゃなくて(笑)、子どもにも見せられるものにしたかったので。かつての東映白塗り時代劇のノリですね。あれを目指していました」
松崎「黒澤時代劇以前のノリですね(笑)」
金子「そう。血を出さずに、殺陣の型を見せる」
小林「TVの『水戸黄門』も血は出ないですから(笑)」
金子「あと本格的な殺陣が始まって血を出したりしたら、現場の収拾がつかなくなる(笑)」
武田「確かに(笑)」
―― アイドルの仕草ということでは、CMで武田さんが瓦を割った後の仕草がすごく素敵でした。
武田「ありがとうございます(笑)。あれは最初可愛くやってくださいって言われたんですけど、それができずにちょっと恥じらいをもってやっちゃって、NGかなと思ったらそれが面白いということになりまして(笑)。私、手を振るシーンとかでも『手刀じゃないんだから』って言われます(笑)。なんでもキレが良すぎるそうで……」
―― タイムトラベルの道具っていろいろあると思うのですが、『江ノ島プリズム』ではオモチャの時計が使われていました。ああいったアイデアはどこから?
小林「映画ではプラスティックの時計ですが、もともと脚本では本の付録についているダンボ-ルに描かれた時計だったんです。ああいうものはノリシロであって、結局何でもよくて、そこに人物が想いを込めることによって時間を超えていく。そういう映画にしたかったんです。特にSF的な機械を発明するとかではなく、主人公の想いの力で過去へ飛ぶ。そのためのノリシロであり、そこで「ジャック・フィニー・アプローチ」という言葉を使っています。おそらく日本映画でジャック・フィニーの名前を出したのは『江ノ島プリズム』が初めてだと思いますが、主人公の想いで時を超える時間SFを描き続けた作家です」
――武田梨奈さんは武田鉄矢さんがお好きとのことですが、ならば『刑事物語』シリーズ(82~88)の女性版とかやってみる気はありませんか。
武田「ああ、やってみたいです!あのハンガーヌンチャクみたいに、私も新しい武器を開発したいですね(笑)」
松崎「武田鉄矢さんと親子刑事という設定はいかがでしょう?」
武田「やれたら嬉しいです。苗字も同じ武田ですし(笑)」
―― 『少女は異世界で戦った』は刀を使うアクションと格闘と派手にやられてましたが、最近のアメリカ映画のアクションは重厚感が強くなっています。金子監督はどちらがお好きですか。
金子「この映画の場合は派手なものを求めて、アクション監督と相談して、メキシコのルチャリブレを取り入れようということになったのですが、アメリカ映画の場合はもっと重厚でリアルにやるでしょうけど、こちらは架空の世界でしたので、華やかにやってもらいました。まあ、映画によってやりかたは異なるということですね」
武田「先日、金子監督の最新作『スキャナー 記憶のカケラを読む男』に主演された宮迫博之さんが、ツイッターで『誰か武田梨奈主演で「女必殺拳」(74)みたいな映画を撮ってくれ!』とつぶやかれていて、すごく嬉しかったんです。現代アクションももちろんですが、ああいった昭和アクション風のものもやってみたいですね」
出席者、それぞれのこれから
では最後に、みなさんの告知などを。
北川「告知ですが、東京カレンダーという出版社から発売中の『女優美学Ⅳ』というムックの中で、今年の女性タレント・ランキングをやっております」
小林「三栄書房から『ハリウッド映画の暗号』という、映画の本を初めて出しました。あっと驚くような『スター・ウオーズ』論とか展開させておりますので、ぜひ手に取っていただけたら」
武田「来年からドラマ『ワカコ酒』新シリ-ズや、まだ公表できないのですが新春からドラマや映画もいろいろやらせていただいております。あと、初めてカレンダーを出させていただきます!(武田梨奈2016年カレンダー) 実はアイドルっぽいこともやってるんですよ(笑)」
金子「さっき梨奈ちゃんから言われたのですが、宮迫さんと野村萬斎さん主演の『スキャナー 記憶のカケラを読む男』が、東映でGWに公開されます。ちょっと変わったミステリーで、古沢良太さんの完全オリジナル脚本です。野村さんは初の平成現代劇出演とのことですので、そちらもご期待ください」
松崎「僕の情報は、あとでツイッターにまとめておきますので、よろしければご覧になってください(笑)」
みなさま、おつかれさまでした!
(文:増當竜也)