11月28日より食人残酷映画『グリーン・インフェルノ』が公開されますが、ちょうど同じ日に日本の食人映画もお目見えします。
しかし、こちらはある意味オシャレでシュールかもしれません……。
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.67》
『フリーキッチン』、最初の肉はお父さんとその愛人でした……⁉
人肉を美味しく調理する母の狂気と肉の性別や年齢を当てる息子の恋
福満しげゆきの漫画『娘味』を原作とする『フリーキッチン』は、内気でいじめられっ子の高校生ミツオと、美しい母キョウコのふたりきりの、それとなくゴージャスな食卓をまず映し出します。
しかし、食卓に並ぶステーキやらミートロ-フやらといったお肉の類は、どうも母が“調達”してきた人間の肉のようなのです。
ミツオがまだ幼い頃、母は父とその愛人を殺害し、彼らの肉を料理し、食しました。
以来、母は定期的に誰かを捕まえては手際よく料理するようになり、ミツオはいつしかその肉を食べただけで性別や年齢などがわかるような舌を持ち合わせていくようになっていったのでした。
こうした異様な状況から逃れたいと思いつつ、母を憎みきれないミツオは、ある日ペットショップの店員カナと出会い、次第に心惹かれていくのですが……。
完全なるカニバリズムの映画ではあるのですが、本作はあからさまな残酷シーンはほとんど出てきません。
まあ、ちょっとばかし血まみれになったりするシーンはありますが、『グリーン・インフェルノ』のような即物的なおぞましいショットはありませんので、私のようにスプラッタ映画が苦手な気の弱い人でも、全然平気で見ていられます。
ただし、そういったシーンを見せず、完成した美味しそうな料理がグルメ映画のように移されていく分、逆に想像の翼が広がってしまって、鑑賞後、あとを引くことにはなるかもしれませんが、全体的にシュールでオシャレな世界観は、どこかブラックコメディ的な情緒を育んでおり、そこがまた妙味ともいえるでしょう。
また、割かしシンプルなストーリーながら、実は用意周到に仕組まれた展開の妙で、ラストに至っては……おっと、これ以上は言わずが花ですね。
–{しばらくは肉を食べられないような、でも心のどこかで食べたいような}–
しばらくは肉を食べられないようなでも心のどこかで食べたいような⁉
監督は、本作が劇場用映画デビューとなる中村研太郎。
実は彼、2000年にこの題材を40分の中編自主映画として既に手掛けており、今回はいわばそのリメイク作品でもあるのですが、『Z』(14)や『極道大戦争』(15)、『映画 みんな!エスパーだよ!』(15)などで現在注目されているキャメラマン神田創の耽美に醸し出される映像によって、この異様な世界に不可思議なリアリティが与えられており、同時に、実は我々が生きている日常そのものこそが異様なのではないかといった説得力すらもたらしています。
主人公のミツオには『神様の言う通り』(14)『ビリギャル』(15)などに出演の森田桐矢、カナには『絶狼〈ZERO〉-BLACK BLOOD-』(14)『罪の余白』の大貫真代。本作の撮影はそれ以前の13年に行われている分、とても初々しく映えています。
また母親役の延増静美の美しくもどこか狂気を帯びているかのような存在感は、一度見たら忘れられないほどのインパクトをもたらしてくれることでしょう。
本作のスタッフ&キャストの名前は、映画ファンなら覚えておいたほうがいいかもしれません。
いつか、ものすごい作品を世に打ち出してくる可能性が大いに感じられるからです。
いずれにしましても鑑賞後、しばらくはお肉を食べるのを躊躇してしまいそうな、でも心のどこかで食べたくて食べたくて仕方がないといった飢餓状態にも突入してしまうといった、そんな複雑かつ甘美な心理状態に陥らせてくれる快作、それが『フリーキッチン』なのです。
(文:増當竜也)
『フリーキッチン』は2015年11月28日(土)より全国ロードショー!
公式サイト http://fuzzfilmworks.com/index.html