若手女優たちの魅力を引き出すための ホラー映画『劇場霊』

映画コラム

■「キネマニア共和国」

今回はホラー映画の紹介なので、ネタバレは避けたいところなのですが……(あ、だから気になる方は鑑賞後に読んでくださいね)。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~ vol.65》

『劇場霊』ってタイトル、ちょっと違っちゃいませんかね?

劇場霊 ポスター

ホラー映画版『ガラスの仮面』?

『劇場霊』のストーリーは、なかなか役に恵まれない若手女優・水木沙羅(島崎遥香)が、気鋭の演出家(小市慢太郎)の新作舞台『鮮血の呼び声』のオーディションを受け、実は主役の座こそ同じ事務所のスター篠原葵(高田里穂)に内定してはいたのですが、そこで知り合った同じ境遇の女優・野村香織(足立梨花)ともども端役を勝ち取りました。

しかし、その後、劇場の中で謎の殺人事件が起こります。しかも、その死体は死蝋化(長期間空気との接触を断つことで、遺体の脂肪が蝋状化すること)していたのです……。

ここまで記すと、本作が『ガラスの仮面』のごとき世界観の中で繰り広げられるホラー映画であることがおわかりいただけるかと思います。

一方で、おそらく予備知識なしでこの映画に接する方々のほとんどは、劇場に棲みついた霊の恐怖が描かれるものと思われているのではないでしょうか。

違うんだなあ、これが……。
(はい、以下ネタバレです)

劇場霊 予告

この映画に登場する劇場に、霊なんか棲みついていません。

舞台の小道具として劇場に運ばれてきた等身大の人形に、霊が棲みついているのです。

もっとも、その事実はオープニングの段階であらかた匂わせているので、さほどネタバレというほどのものではないのかも。

で、当然ながら、この人形が人を襲い始めるわけなので、『劇場霊』というよりは『人形霊』のほうがふさわしいのではないかという気もしないではありません(同じ邦題の韓国ホラー映画もありますが)。

おそらく今回は、映画撮影所に霊が棲みついているという設定の『女優霊』(96)で映画監督デビューを果たし、その名を高めた中田秀夫監督による最新ホラー映画ということで、こういうタイトルにしてみたのでしょうが、逆に『女優霊』のノリを期待して見に行くと肩透かしを食らうことにもなるでしょう。

劇場霊

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–{中田秀夫監督によるホラーへの新しい挑戦}–

中田秀夫監督によるホラーへの新しい挑戦

実際、今回の中田監督の演出は、彼がこれまで手掛けてきたホラー映画群とはかなり異なり、いわゆるショッカー的なものがほとんど見受けられないのも意外なほどです。

その一方、人形が人を襲うクライマックスは、あたかもトビー・フーパー監督の異色SFホラー『スペースバンパイア』(85)でも見ているかのようで、その意味ではニマニマしてしまうものもあるのですが、オカルト・ホラーというよりもモンスター・ホラー的なテイストが濃厚になっているのも意表を突かれた感じではあります。

(一方でこの人形、同日公開の深田晃司監督によるヒューマン映画『さようなら』に登場するアンドロイドとも何となく雰囲気が似ているので、両作の同日ハシゴ鑑賞はしないほうが得策かとは思います。特に『劇場霊』→『さようなら』の順は危険⁉)

もしかしたら中田監督は、今回は今までと異なるタッチのホラー映画にしたかったのかなという気もしてならないのですが、同時に島崎遥香をはじめとする若手女優たちに対する目線は、どこかアイドル映画的な慈愛を感じもします。

劇場霊

もともと日活撮影所で助監督を務めてきた中田監督は、映画撮影所が舞台というところに惹かれて『女優霊』演出の任を受けたところ、これが大評判となり、続く『リング』(98)の大ヒットで押しも押されぬホラー映画のヒットメーカーとして君臨してきているところはありますが、本来は女優そのものの資質を引き出すメロドラマ的志向の強い監督であると私は捉えております。

日活出身なだけあって、『女教師日記・禁じられた性』(95)や『(裏)ナンパ道』(96)といったエロス系オリジナル・ビデオ映画の佳作も手掛けていますし、『サディスティック&マゾヒステイック』(00)なる日活ロマンポルノおよび師匠である小沼勝監督に捧げたドキュメンタリー映画も手掛けています。

劇場霊 ぱるる 特報

さらには手塚治虫の漫画を原作とするファンタジック・ラブストーリー『ガラスの脳』(00)は、もしかしたら今回の『劇場霊』のテイストに意外と一番近いのかもしれません。

そうこう考えていくと、『劇場霊』とはやはり、主演のぱるること島崎遥香をはじめ、出演する女優たちをいかに魅力的に描くかに最大の力点が置かれ、そのための“人形霊”であり、劇場での惨劇という設定が設けられているようにも思います。

その点、ぱるるファンならば彼女の愛らしき好演を堪能できることでしょうし、足立梨花の安定した上手さも買い。ただし個人的には『仮面ライダーオーズ/◯◯◯』(10~11)ヒロイン以降ずっと注目している高田里穂を、いじわるなスター役に据えているのは、ファンとしては許せない!(もっとも、いかにも往年の少女漫画的な設定ということでは、どこか微笑ましくもあり⁉)。

中田監督には罪滅ぼしとして、いつか高田里穂主演の映画をぜひ撮っていただきたいものです。

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(文:増當竜也)

『劇場霊』は2015年11月21日(土)より公開中!
公式サイト http://gekijourei.jp/