あ…ありのままに起こったことを話すぜ。一触即発!?映画『ディアーディアー』北関東バトル潜入レポ

映画コラム

編集部公式ライターの大場ミミコです。
先日、インタビュー記事を書かせていただいた映画『ディアーディアー』。

原案は某ゴウチ氏だった?『ディアーディアー』菊地監督インタビュー・前編

染谷将太がスゴんだ理由に爆笑&感動!『ディアーディアー』菊地監督インタビュー・後編

10月24日〜11月13日まで、テアトル新宿にてレイトショー上映された本作ですが、公開初日からの3週間、上映後に毎回トークイベントが行われたことでも話題となりました。

…って簡単に書いちゃってますけど、21日間ぶっ通しで、一日も休むことなくトークショーって凄くないですか?しかも菊地監督はほぼ毎日登壇という、まさに千本ノック的な荒行と言っても過言ではありません。インタビューから10日ぶりに会った菊地監督のお姿は、そのハードさからか2〜3回り小さくなっていたように感じました(笑)。

そんな歴史に残るトークイベントに、映画ライターとして立ち会わない手はありません!しかし筆者は、片田舎に住む主婦…。せいぜい1度か2度しか、イベントに参加できません。ということで、21日間の中から筆者が選んだのは『北関東映画バトル! 群馬VS茨城VS栃木』という、11/9に行われたイベントでした。

群馬の玉村を舞台にした『お盆の弟』、茨城の水戸を舞台にした『ローリング』、そして栃木の足利を舞台にした『ディアーディアー』。…普段、日の目を見ることのない北関東ですが、2015年は何故か、この3県を舞台にした映画が立て続けに公開されました。

左から『ディアーディアー』菊地監督、『お盆の弟』大崎監督、『ローリング』冨永監督

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実は筆者、茨城の水戸出身でして、『ローリング』の舞台となった大工町には非常にお世話になった人間なんです。それに『バトル』という響きにも大いに惹かれました。あの物腰柔らかな菊地監督が、長男気質を脱ぎ捨てて、群馬と茨城に挑戦状を叩きつける…。その姿を想像するだけで、平凡な毎日に飼い慣らされたアラフォー主婦の胸は高鳴りました。

ということで、行ってきました。夜のテアトル新宿!!かねてより仲の悪さが取り沙汰されている北関東三県ですが、当日はどんなバトルが巻き起こったのでしょうか?イベントの模様をまとめましたので、ぜひお楽しみ下さいませ。

血みどろの三つ巴戦に北関東が震撼!…してほしい

イベント開始前に現場入りした筆者を迎えてくれたのは、映画『ディアーディアー』の中で長男・冨士夫役を務めた桐生コウジさん。桐生さんは、本作のプロデューサーでもあり、21日間トークイベントではいつもMCとして登壇しているとのこと。しかし今日はトークバトルということで、あえて菊地監督を司会に据え置く魂胆のようです。

前回のインタビューでも、テンポの良い語り口で沢山のお話を聞かせて下さった菊地監督。「MCもかなり期待できそうですね〜」と筆者が言うと、桐生さんは困ったように「バトルを焚きつけるなんて、監督にできますかねぇ」と苦笑いを浮かべました。

そんな懸念の中、バトルの火蓋が切って落とされました。まずは『お盆の弟』を監督された大崎章監督と、『ローリング』を監督された冨永昌敬監督についての紹介です。快調な滑り出しに安心したのも束の間、菊地監督が放った次の一言で会場の空気が一変しました。

菊地監督「まぁねぇ。『北関東バトル』なんて銘打ってますけど、桐生コウジさんが勝手にこじつけたタイトルなんで。僕はバトッてもしょうがないと思ってるんですけどね。」

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おっと!のっけからの戦意喪失モードに、北関東を血で染める激闘を期待していた者としては冷水を浴びせられた形となりました。ですが、これは菊地監督ならではの作戦かもしれません。「決して怪しい者じゃござんせんよ」と相手に油断させたところで、ビックカウンターを狙いに行くための布石かもしれない…。

淡い期待に震えていると、菊地監督が『ローリング』の冨永監督に突然、自らのデビュー作『ディアーディアー』の感想を求め始めました。おおっ!いよいよバトルの始まりです。

すると冨永監督、屈託のない笑みを浮かべながら「実に老練な、特に終わり30分くらいは『上手いな〜』と思って観てました。でも、シカの部分が良く解らなかったですね」と無邪気に答えました。

何と!前評判ではバトル色が最も薄いと噂されていた冨永監督が“上げて・落として”のテクを駆使し、菊地陣営に火種を投げ込みます。するとそこに、最年長にして重鎮の大崎監督が乱入し、火に油を注ぎます。

大崎監督「上手いって言うけど、どこがどう上手いのか、もっと具体的に説明してよ。」

さすが大崎監督!威圧的な言動で、若い才能を潰しにかかります。「バトルのポイントは、大崎さんをどう焚きつけるかですね」とイベント前に桐生さんが仰ってただけあって、竹を割ったような雰囲気の大崎氏に期待が高まります。

しかし、冨永監督の返しは「僕にはこういうこと思いつかないし、菊地監督みたいに撮ってみたい」という、菊地監督への憧れと賛美に終始しました。そうなってくると、長男系平和男子の菊地監督の舵取りが一気にブレ始めます。

菊地監督「冨永さんの『パビリオン山椒魚』で助監督として携わったんですけど、自主制作時代の『亀虫』や『VICUNAS』、もっと言うと大学の卒業作品とか、むちゃくちゃ上手いな〜、よくこんな事思いつくな〜って思ってたんですよ。」

え?何なの、この讃え合いは!筆者が観たいのはバトルなの!バトルロワイヤルなの!…と叫びそうになった時、大崎監督が鶴の一声を発します。

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大崎「おやおや?…やり合ってほしいよね、バトルなんだから」

一向にバトルとならない序盤戦。制限時間は20分とのことですが、こんなスロースタートで果たしてガチンコバトルを目の当たりにすることができるのでしょうか?筆者の不安をよそに、トークは中盤へと進みます。

–{ダークホース・冨永監督が禁じ手を乱打}–

ダークホース・冨永監督が禁じ手を乱打!!

どうにもホメホメ合戦になってしまいがちな戦局に、爆弾を投下したい大崎監督が次に繰り出したのは『ディアーディアー』が自分の作品『お盆の弟』に酷似しているというクレームでした。

大崎監督「率直に言うと、『お盆の弟』と『ディアーディアー』って、そっくりなんですよ。兄弟の話だし、監督の出身地で撮影をしてるし、基本ダメな奴しか出てこないし、北関東ってことで風景も似てるし、しかも最後の墓のシーンなんて丸かぶりじゃないですか!共通項のオンパレードで気持ち悪いんだよ。」

そこで菊地監督が「予算もきっと共通項ですよね」とお財布事情の話を持ち出すと、バトルどころか意気投合していく3監督。「絶対、同じくらいの予算だよね」「この中でどれが一番安いかな?」などと盛り上がり、さらに互いの距離が縮まった印象を受けました。

ああ…。せっかく大崎監督が投げかけた口火でしたが、燃え広がることはなかったようです。一体、いつバトルが始まるの?とヤキモキしていると、伏兵・冨永監督が何の前振りもなく禁断のネタをぶっ込んできました。

冨永監督「あの〜。茨城と栃木って、仲悪いんでしたよね?」

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一瞬、会場が凍り付きました。群馬は玉村出身の大崎監督、栃木の足利出身の菊地監督。それぞれの故郷を舞台にした映画を撮られたわけですが、冨永監督の出身地は愛媛県です。おそらく、北関東のタブーをご存じないのでしょう。屈託のない笑顔で地雷を踏みつける冨永監督の勇姿に、おのずと感嘆の吐息が漏れました。

菊地監督「…仲悪いですよ。」

大崎監督「あの某漫才コンビが影響してるのかもしれないけどね。あと、都道府県魅力度ランキングっていうのがあって、確か3年連続で茨城が最下位です。で、群馬が45位、栃木が35位だったかな。底辺で争ってんのよ、北関東は。」

そんな折、愛媛出身にして茨城代表の冨永監督から会心の一撃が繰り出されました。

冨永監督「群馬と栃木って、海なし県ですよね。」
「群馬と栃木って、海なし県ですよね。」
「群馬と栃木って、海なし県ですよね。」・・・。

ああ、魔法の呪文『うみなしけん』。この6文字で栃木・菊地と群馬・大崎のライフは一気に急降下!三方を海に囲まれた愛媛の猛者・冨永は、ドヤ顔で他の2人を攻め込みます。

冨永監督「海がない事で、スネたり捻くれた事はありますか?」

まさに鋭角から急所をえぐり込んだ質問に、大崎監督も菊地監督も命の危機を感じたのか、両者ともここは素直に負けを認めます。

大崎監督「あります!」
菊地監督「いやぁ、相当あると思いますよ。」
大崎監督「小学校5年の時に初めて海を見た時、愕然としましたもんね。」

「えー!小5まで見てないんだ?」と、さらにマウントを取る冨永監督。もう北関東のことなどどうでもいい、俺は愛媛を背負って戦っているんだと言わんばかりの気迫です。海を出されては勝ち目がない…そう思ったのか、大崎監督は標的を栃木にシフトします。

大崎監督「そういや栃木はね、日光があるから30位台なんだって。」

うん。筆者も同感です。栃木なんて日光という金箔がなければ、ただの茨城ですよ。図星を突かれた形になった栃木の菊地監督ですが、そのプライドからあくまで平静を装います。

菊地監督「でもね。日光は、あまりにも『日光』で、すでに別物っていうか。栃木に帰属している意識ってのもあんまりないんで。」

その、栃木県民然とした、栃木の人から聞き飽きたリアクションに「あー。そうですか」と気のない返事をする大崎・冨永両監督。やっぱこのネタでもバトルにならなかったか…。

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近すぎて見えてない?不遇な埋もれ木・北関東の逆襲

そしてイベント終盤。愛媛の人なのに、不本意ながら茨城県民として登壇している冨永監督が、北関東と東京の距離を図るような質問を会場に投げかけました。

冨永監督「気になってたんですけど、この中で北関東3県の方ってどのくらいいらっしゃいます?ちょっと手上げてもらっていいですか?」

手が上がったのは群馬出身の方が1人だけ。ということで、筆者も取材という立場ながら、場のテンションアップに一役買いたいと、思い切って挙手してみました。

冨永監督「たった2人ですか。北関東の人はもっと東京にいると思ってたんですけどね。」

実は北関東って、かなり東京に近くてですね。筆者の故郷・水戸を例に挙げますと、特急で1時間もあれば都内に行けてしまう為、上京する必要がないんです。今はネットや小売業も盛んですから、地方にいながら東京と同等の生活もできるし、モノも入手できる時代です。なので、わざわざ家賃の高い東京に住まずとも、居心地の良い地元に居着いてしまうという話を、菊地監督が説明されました。

大崎監督「都心から近い北関東は、ロケーションしやすいんですよ。けど、何もない。この3作品って、何もないところの話なんですよ。例えば京都で撮る映画って、京都で撮った感が出るじゃないですか。でも、我々の映画はどこで撮ったか言わないと解らない。どこにでもある風景が必要な時、北関東に撮りに来るんですよ。」

なるほど。寺社や長屋が建ち並んでいたら京都、ラベンダー畑や流氷だったら北海道と明確に伝わるものがあります。しかし北関東は、そういうのを期待してロケをする場所じゃないのかもしれません。

冨永監督「地元にしてみれば、初めは嬉しかったロケも、だんだん『もういいよ』みたいになってきちゃうと思うんですよ。ウチの街で撮っておきながら“どっかの街”ってことになってるし。ま、場所借りただけですよね。多分よくあることだと思うんですけど、この3作は『ここを舞台に撮りました』ってやってる映画だと思うんです。」

大崎監督「それと、今回の3作品の共通点は、現場となった地元を全く宣伝しないという点だよね。ある種、だいたい観光映画になるじゃないですか。それはやだなーと思って。」

確かに、全然地元の宣伝などは出てきませんでしたが、地元の力もお借りしたという話だし、地域活性に一役買おうという地元愛があっても良さそうですが…。

菊地監督「ないない!まったくないよね。俺なんか地元出身だけど、ご当地精神でやってないからさ。…あ、これって問題かなぁ?(汗)。」

大崎監督「いや、むしろ清々しいと思います。でも俺は、そっちの方があとあと宣伝になると思うんですよね。地方都市の空気感みたいなものが素直に出ていて、観る側にも伝わるものが大きいんじゃないかな。」

3人でのバトルを期待したイベントでしたが、結果的には北関東を取り巻くロケの実情をスケープゴートするという、変則バトルでトークイベントは終了となりました。

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トークバトル終了後は・・・ん?ちょっと待てよ?
あれは本当にトーク“バトル”だったのしょうか?リョウモウシカのように幻の存在だったという事はないでしょうか?

もしかすると「バトルであって欲しい」と願うあまり、筆者は夢を見ていたのかもしれません。幻の存在に翻弄された3兄妹のように、数年後「全部バトルのせいなんだ!」と叫ばずに済むよう、自分をしっかり持って今後の人生を生きたいと思います。

–{今後の予定はこちらでチェケラ!!}–

今後の予定はこちらでチェケラ!!

このように、夜な夜な楽しいイベントが繰り広げられた『ディアーディアー』ですが、11月14日からキネカ大森静岡シネ・ギャラリーに会場を移し、その後も全国で順次公開となっております。

その後のイベントも目白押しで、キネカ大森では11月21日(土)と11月25日(水)に18:45の回の上映後から行われますよ〜!

11/21の登壇者は、菊地健雄監督・平林勉さん・桐生コウジさん(MC)。
11/25は桐生コウジさん・松本若菜さん・菊地健雄監督が登壇予定となっております。

いずれも『しゃべれ場』という観客参加型の交流会となっているので、素朴な質問からマニアックなネタまで、気軽に登壇者と語らってみてはいかがでしょうか。

また、名古屋シネマテークでは12月12日(土)、12:50の回の上映後に初日舞台挨拶が行われます。その後は、ロビーにてお客様との交流会も用意されています。

同じく12月12日には、大阪の第七藝術劇場でも、初日舞台挨拶が行われます。初日先着50名様に「シカせんべい」のプレゼントもありますので、関西の方はぜひ足を運んでみてくださいね。

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群馬代表・大崎章監督の『お盆の弟』は、11月25〜27日まで新宿K’s cinemaにてレイトショー公開が決まっています。

トークイベントは11月26日(木)、21:00の回の上映前に行われます。
登壇者(予定)は、渋川清彦さん・大崎章監督・越川道夫監督(「アレノ」監督)。

その後も順次全国劇場にて公開となります。
・11月20日 松本CINEMセレクト
・11月28日〜12月4日 塚口サンサン劇場

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茨城代表・冨永監督は、次の作品の撮影に入っているとのこと。精鋭的に映画を撮られる冨永監督ですが、『ローリング』もまだまだ各地で公開予定となっています。

・11月29日 TAMA映画フォーラム
・12月12日〜 キネカ大森
・2016年2月6日〜2月19日 宇都宮ヒカリ座

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北関東三県を舞台に、ダメな大人たちが懸命に生きるヒューマンドラマを、ぜひお近くの劇場でご堪能下さいませ。絶対損はさせませんよ〜!!

(取材・文:大場ミミコ)

映画『ディアーディアー』予告篇