編集部「スポーツの秋だから、何かスポーツ映画について書いてよ」
私「は~い(^o^)」
などと、気安く返事してみたものの……
スポーツ映画と一口に言っても、実は結構漠然としてるんだよねえ……。
まず、スポーツ映画の定番といえば野球映画ですが、実際はそれだけで1冊の本ができるくらいの数があるし、アメリカン・フットボール同様、このジャンルはアメリカ映画の十八番。
ならば、ちと変わったスポーツ映画はないものか……。
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~ vol.55》
何のことはない、実は日本映画こそ変わったスポーツ映画の宝庫なのでありました!
野球映画だけ採っても意外に多い日本映画
とりあえず野球映画から始めますと、日本映画も昔からこのジャンルの作品はかなり作られていて、古くは『男ありて』(55)や『不滅の熱球』(55)『鉄腕投手稲尾物語』(59)や、ドキュメントとドラマを融合させた『巨人軍物語 進め!!栄光へ』(76)、水島新司の人気漫画の実写化『ドカベン』(77)『野球狂の詩』(77)、戦後のヤクザ抗争の決着を野球でつけさせようとする『ダイナマイトどんどん』(78)の岡本喜八監督は、戦時中の6大学野球選手たちの顛末を描いた『英霊たちの応援歌 最後の早慶戦』(79)を撮って、戦争のあるなしで野球がいかに変わるかを描いています。
80年代の代表格は、戦後の淡路島を舞台に、野球少年たちとその周囲の人々を描いた夏目雅子の遺作映画でもある『瀬戸内少年野球団』(84)。90年代に入るとフジテレビ映画『ヒーローインタビュー』(94)が大ヒットしました。
21世紀に入っても長嶋一茂が覆面選手に扮した『ミスター・ルーキー』(02)やぶっとび高校野球コメディ『逆境ナイン』(05)、実写版『タッチ』(05)や『キャプテン』(07)、内村光良初監督作品『ピーナッツ』(06)、『ラストゲーム最後の早慶戦』(08)に『ひゃくはち』(08)、通称“もしドラ”『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(09)、戦前カナダの日系野球チームの実話『バンクーバーの朝日』(14)、かつての高校球児たちの復活戦『アゲイン 28年目の甲子園』(15)など今も数多く制作され続けています。
–{ちょっと変わり種のスポーツ映画たち}–
ちょっと変わり種のスポーツ映画たち
こういった流れとは別に、90年代、学生相撲を題材にした周防正行監督の『シコふんじゃった。』(92)が大ヒットし、その年の映画賞を総なめしたあたりから、ちょっと変わったスポーツに挑戦する人々を描いた映画が徐々に登場し始めます。
周防監督自身、続いて社交ダンスを題材にした『Shall we ダンス?』(96)を発表して、これまた大ヒットを記録するとともに、前作以上の評価を得るに至り、そういった題材を扱う傾向はさらに高まっていくことになるのでした。
では、ざっと思いつく限り記していきましょうか。
高校女子ボート競技を題材にしたのが『がんばっていきまっしょい』(98)。この作品でデビューした田中麗奈は、後にその名もずばりの『Ekiden 駅伝』(00)や、ラクロスを題材にした『ドラッグストア・ガール』(03)、スキー場を舞台にした『銀色のシーズン』(08)でヒロインを務めています。
氷上ということでは、女子高校生たちがカーリング・チームを結成して試合に挑む実話を基にした『シムソンズ』(02)も作られています。
フィギュアスケートでは名脚本家・倉本聰が初監督した『時計 Adieu I’Hiver』(86)。これはまだ幼かった中嶋朋子に9歳から14歳までの5年間フィギュアスケートを学ばせ、その成長過程もリアルに収められていましたが、このとき助演していた陣内孝則は、後に小学生アイスホッケー映画『スマイル 聖夜の奇跡』(07)を監督しています。
プロのフィギュア・スケーター西田美和が主演した『COACH コーチ 40歳のフィギュアスケーター』(10)なんてものもありましたね。
『ドッジGO!GO!』(02)はドッジボール少女と野球選手の父との交流を描いた日韓合作映画。
鹿児島県の子どもたちが錦江湾を泳いで横断する行事を描いた『チェスト!』(08)も異色作ではあるでしょう。
野球映画『バッテリー』(07)でその年の新人賞を総なめした林遣都は、翌年水泳の飛び込みを題材とした『DIVE!!』(08)に主演し、さらに続けてボクシング『ラブファイト』(08)、パラグライダー『RISE UP』(09)、大学駅伝『風が強く吹いている』(09)といったスポーツ映画に連続主演し続けました。
『綱引いちゃった!』(12)は文字通り綱引き競技の映画で、松坂慶子と井上真央の共演も妙味。
そしてやはり何といっても、男子のシンクロナイズドスイミングを描いた『ウォーターボーイズ』(01)の登場は画期的だったのではないでしょうか。
–{まだまだこんなにある日本のスポーツ映画!}–
まだまだこんなにある日本のスポーツ映画!
ここらで、もっと一般的な(といっては失礼ですが)スポーツに目を向けてみますと、サッカーはTV青春ドラマの映画版『飛び出せ!青春』(73)や、若き日のSMAP主演映画『シュート!』(94)、最近では『1/11』(14)とか、変わり種では『かにゴールキーパー』(06)なんてオチャラケ・コメディや『劇場版仮面ライダー鎧武 サッカー大決戦!黄金の果実争奪杯!』(14)などがあります。
ラグビーでは『これが青春だ』(66)や、石原慎太郎原作の『青年の樹』日活版(60)&東宝版(77)などありますが、決定版はやはり『スクール☆ウォーズ』(04)かな。
アメリカン・フットボールでは、主人公が大学アメフト部に属していたという設定の衝撃的青春映画『青春の蹉跌』(74)や、日大創立100周年記念映画『マイフェニックス』(89)。
ゴルフを題材にしたものでは、何と幕末の坂本龍馬と近藤勇がゴルフ試合をする時代劇コメディ『ゴルフ夜明け前』(87)がありますが、監督の松林宗惠はそれ以前に70年代後半から80年代にかけて世界に君臨した柔道王・山下泰裕の少年時代を描いた快作『山下少年物語』(85)を、それ以後には三國連太郎主演でゲートボール映画『勝利者たち』(92)を撮り、これを遺作としました(スポーツではないけど、76年には『恋の空中ブランコ』なんて作品も撮っています)。
ソフトボールの映画もあります。男子高校ソフト部の奮闘を描いた『ソフトボーイ』(10)は実話の映画化。
バレーボールでは人気TVドラマの映画版『燃えろ!太陽』(68)および『サインはV』(70)、70年代松竹青春スターが出演した『青春の構図』(76)などがありますが、逆に男子バレーボールの映画って何かあったかな?(知ってる方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてくださいませ。ちなみに現在TVアニメでは『ハイキュー』が話題になってますね)。
モスクワ・オリンピックをめざす日ソの女子選手の青春像を描いた合作映画『甦れ魔女』(80)は、結局ソ連のアフガニスタン侵攻が問題となって日本がオリンピック不参加となったことで、映画の存在意義そのものがなくなってしまったのは残念です。
バスケットボールでは、日本航空女子バスケットボール部を描いた石原さとみ主演『フライング☆ラビッツ』(08)が、また車椅子のバスケットボール映画『ウイニング・パス』(04)は、松山ケンイチの初主演映画でした。
車椅子といえば、下半身が不自由になった青年が合気道を習う『AIKI』(02)も優れた青春格闘映画です。
チアダンス映画『Cheerfu11y』(11)では、吉川友らアイドル11人が女子高生チアダンス選手権に臨みます。
サーフィンでは、あの桑田佳祐が初監督した茅ケ崎のサーファーたちが伝説の波を待つ群像劇『稲村ジェーン』(90)が、未だにDVD化されない幻の映画と化して久しいですね。
格闘技に武道、競馬に競輪日本にはさまざまなスポーツがある
ボクシングは石原慎太郎が監督した『若い獣』(58)や、ご存じ『あしたのジョー』(70)、寺山修司宿願のボクシング映画『ボクサー』(77)、阪本順治監督のデビュー作『どついたるねん』(89)とその次の『鉄拳』(90)、人気ラブコメ漫画の映画化『のぞみウィッチィズ』(90)、北野武監督『キッズリターン』(96)、『ラブファイト』(08)『ボックス!』(10)、そしてリメイク版『あしたのジョー』(11)などなど、こちらもなかなか数多いですね。
プロレスに目を向けてみるとプロレスラーの父と子の交流を描いた『お父さんのバックドロップ』(04)や田口トモロヲの肉体改造が話題になった『Mask De 41』(04)、記憶障害の学生プロレスラーを主人公にした『ガチ☆ボーイ』(08)、ご存じ『タイガーマスク』(13)など。
女子プロレスでは、つかこうへいの戯曲の映画化『リングリングリング 涙のチャンピオンベルト』(93)や、弱小女子プロ団体の哀歌を通して格闘技のスピリットを感動的に説く『ワイルドフラワーズ』(04)、バラエティ番組の企画から生まれ、実際にプロレスラーを映画からデビューさせた『スリーカウント』(09)、女子プロと地下アイドルをミックスさせた『太陽からプランチャ』(14)。
相撲を題材にしたものでは、女相撲を題材にした『ちゃんこ』(05)や、20年に一度の遷宮相撲を描いた『渾身 KON-SHIN』(13)。
剣道では、何といっても三島由紀夫原作、市川雷蔵主演のストイックかつ悲痛な青春映画の名作『剣』(64)。これは時代劇『斬る』(62)『剣鬼』(65)と併せて“剣三部作”とも呼ばれています。
かたや女子剣道を題材にした快活な『武士道シックスティーン』(10)と、書道甲子園を題材にした『書道ガールズ!!わたしたちの甲子園』(10)、この2作はともに成海璃子主演でした。
柔道では黒澤明監督のデビュー作『姿三四郎』(43)とその続編『続 姿三四郎』(45)があまりにも有名ですが、その後55年に東映(田中重雄監督)、65年に松竹(内川清一郎監督)、70年松竹(渡辺邦男監督)、そして77年に東宝(岡本喜八監督)でリメイクされています。
その他、柔道映画は古くは『風雪講道館』(55)や『柔道一代』(63)、アイドル映画『YAWARA!』など多数。最近では『黒帯KURO-OBI』(07)などがあります。
空手映画は70年代カンフー映画ブームとごっちゃになった武闘映画として日本でも多数作られていますが、極真空手の創始者・大山倍達の激動の半生を描いた梶原一騎原作による名作空手漫画の映画化『空手バカ一代』(77)は、実は『けんか空手極真拳』(75)『けんか空手極真無頼拳』(76)に続く映画化シリーズ第3作です。
競馬では『幻の馬』(55)が50年代当時の東京競馬場の風景をカラー映像で捉えていることで貴重とされています。『日本ダービー勝負』(70)は競走馬調教師の半生をオールスターキャストで描いたもの。『優駿 ORACION』(88)は競走馬とそれを取り巻く人々の絆を描いたフジテレビ制作の大ヒット映画です。
一方、海道のばんえい競馬を題材にした根岸吉太郎監督の『雪に願うこと』(06)や、農業系青春映画『銀の匙 Silver Spoon』(14)もあります。
競輪では、トップをめざす競輪選手の青春を描いた小松隆志監督の『打鐘(ジャン)』(93)がありますが、オリジナルビデオの扱いとなった続編『打鐘(ジャン) 男たちの激情』(94)は黒沢清が監督しました。
競艇では、モーターボート選手を目指す少女を主人公にした曽根中生監督の『フライング飛翔』(88)があります。
陸上系では増村保造監督の『セックスチェック 第二の性』(68)は半陰半陽と診断された女子短距離走選手と鬼コーチとの愛憎を描いた問題作。高校生男女の性と友情を赤裸々に描いた『800』(94)。天才ランナーの成長物語『奈緒子』(08)などなど……。
バイクレースでは、モトクロスに青春をかけた青年をデビュー当時の石田純一が熱演した『鉄騎兵、跳んだ』(80)や、草刈正雄主演のスタイリッシュなレース映画『汚れた英雄』(82)、本田美奈子唯一の映画出演作『パッセンジャー 過ぎ去りし日々』(87)は、今話題の故・西崎義展プロデュース作品でした(DVD化してくれないかなあ)。
四輪ものでは石原プロ制作の大作『栄光への5000キロ』(69)や、若き日の中井貴一が主演した『F2グランプリ』(84)、高倉健主演でパリ・ダカ-ル・ラリーを描いた『海へ-See You-』(88)などがあります……。
–{新作『田沼旅館の奇跡』}–
……何だか、つらつら羅列していくのに疲れてきたので(というか、こんなにあるとは思ってなくて……、まだまだこれでほんの一部⁉)、今回はこのへんで。
最後に、卓球を題材にしたものでは、試合シーンをCGでダイナミックに描出した画期的な快作『ピンポン』(02)がありますが、温泉場でいかにラリーを長く続けるかで勝敗を競う『卓球温泉』(98)もなかなかオツな作品で、松坂慶子と蟹江敬三扮する夫婦が延々とラリーを続けていく姿は実に感動的でした。
また12月5日には、これと同傾向の作品『田沼旅館の奇跡』が公開されます。
これは閉館を決めた老舗旅館の中で離婚寸前の夫婦が卓球を始めたところ、延々ラリーが続いていることに周囲が気付き、やがてはギネス入りするか否かで館内およびネットを通じて世界中が盛り上がっていくドタバタ・ヒューマン・コメディ。
夏菜や遠藤久美子といった美人女優キャストに加えて、バッファロー五郎や東京03、ロバート、シソンヌなどなどTBSのコント番組『キングオブコント』の歴代王者が総出演しての作品です。
小品ですが鑑賞後なかなか心地よい気持ちにさせてくれる佳作になっています。
(文:増當竜也)
『田沼旅館の奇跡』は2015年12月5日(土)全国ロードショー!
公式サイト http://tanumaryokan.com/