編集部公式ライターの大場ミミコです。
2015年10月24日から絶賛上映中の映画『ディアーディアー』。レイトショーでありながら、立見続出という話題作を手掛けた菊地健雄監督にお話を伺ってきました。
前編の模様はこちら→(原案は某ゴウチ氏だった?シカがモチーフの新感覚ムービー『ディアーディアー』菊地健雄監督インタビュー・前編)
「リョウモウシカなど存在しない」という爆弾発言で終わった前編ですが、後編は監督の故郷・足利についてや、朋友・染谷将太さんとの面白エピソードも飛び出しますよ!
前編に引き続き、お楽しみ下さい!!
幻のリョウモウシカと、足利の原風景
―― リョウモウシカが架空の存在だったとは…。足利の原風景にいても不思議じゃなさそうだし、すっかり存在を信じてました。
菊地監督「最初から、『ロケ地はどうしても足利で!』って訳ではなかったんです。脚本を詰めていく中で、舞台が都会になったこともありましたしね。でも最終的に『再会する三兄妹』という話になった時に、それだったら地方都市だよねって話になったんです。助監督歴が長い僕は、無駄なところにお金をかけず、効率良く芝居を撮ることに集中する為には、自分の地元でもある足利で撮った方がいいと思ったんです。」
―― 土地勘があればイメージ湧きやすいし、ロケハンも減りそうですね。
菊地監督「…と思ったんですけどね〜!でもそれは、“取らぬ狸の皮算用”で、やってみたら全然違いました。『3人が街を見下ろす』なんて脚本に書いちゃったけど、自分が小さい頃に見た風景って必ず残ってるわけでもないんだなって。全然イメージも違うし。」
―― 記憶の中の風景と開きがあったり、風景自体が変わっちゃったということですか?
菊地監督「今の自分と、足利との距離感をまざまざと見せつけられるというか…。僕が子供の頃は、林業の方がちゃんと森林に手を入れていたせいか、景観的にも抜ける所は抜けてたんです。でも今はそういう管理がされてないようで、どんどん木が生い茂っちゃって、かつての風景がなくなったり。」
―― 逆に、原風景が文明によって変わったというのもありますよね。
菊地監督「そうですね。いきなり展望台みたいなのが立ってて、これがなかったら最高の景色なのに〜って思ったこともありました。あと、市街地も変わりましたよね。昔は商店街のおもちゃ屋やゲームセンターで遊んでましたが、今はすっかりシャッター街なっちゃって。…で、町おこしの一環として、足利を『映像のまち』にするという動きがあったんです。そういう諸事情もあり、舞台は足利がいいんじゃないかという話になりました。」
–{親友・染谷将太さんにまつわるエトセトラ}–
親友・染谷将太さんにまつわるエトセトラ
―― 今、地域活性に映画やドラマを活用されてるところが多いですよね。エキストラは、地元のフィルム・コミッションで登録されている方にお願いしたのですか?
菊地監督「そういう方もいますし、市役所の方が集めてくれた人達だったり、自分の両親や、親戚のおじさんなんかも参加してます。その一方で、あちこちの現場にエキストラで参加している、エキストラが趣味みたいな方々がいまして。助監督時代に仲良くなったんですけど『僕が監督するなら是非協力したい』と参加してくれた方もいましたね。」
―― いいですね、そういう信頼関係って!キャストの中にも、菊地監督が映画を撮るなら協力させて欲しいと名乗りを挙げた役者さんはいましたか?
菊地監督「基本、出演してほしいと思った役者さんに声を掛けさせていただきましたね。次男・義夫役の斉藤陽一郎さんとは古い付き合いなので、割と早くから声をかけました。あとはやっぱり、染谷将太さんですよね。」
―― ここのところ、映画を観るとかなりの確率で染谷さんが登場します。
菊地監督「ねー。大活躍ですよね。駆け出しの助監督だった頃、小学生だった彼と初めて会いまして、そこからポイントポイントで仕事が一緒になることが多かったんです。なので、彼に対しては成長を傍らで観ていた親戚のおじさん的な視点もあるんです。
その後、彼が高校生になると、映画や写真など、色んな事に興味を持ち始めるんですが、彼の好きな事と僕の趣味がよく似ていたんです。その辺からプライベートでもご一緒するようになりました。お互いオフの日とかに一緒にゴハンとか食べに行って。」
―― わ〜。仲良しなんですね!
菊地監督「今回、僕がデビューするにあたって、ぜひ染谷君にも出て欲しいと思いましたが、日本を代表する若手実力派として今や引っ張りだこですからね。それに、プライベートでも親交ありますから、お互いのスケジュールも何となく分かるんです。この作品の撮影が始まる頃、染谷君は僕の師匠・瀬々敬久さんの『ストレイヤーズ・クロニクル』に出演していたので、オファー出すのを控えてたんですよ。
でも、僕の初監督作品が進行してる事は彼も知ってますから『あれ?声かけてくれないの?』
っていう感じだったらしくて。もっと正確に言うと『お前のデビュー作に俺を出さなかったら、どうなるかわかってんだろうな!』くらいの勢いでした(笑)。」
―― アハハ!それは監督冥利に尽きますねー!!
菊地監督「いやぁ、凄く嬉しかったです。彼のマネージャーさんも本当に長い付き合いで、染谷君の判断かマネージャーさんの判断かは解らないんですけど『ディアーディアー』の制作プロダクション(冨士夫役の桐生コウジさん)のところに、プロフィールを持って営業しに行ったって言うんですよ。普通はそんなことしないんですけどって。」
―― そりゃそうでしょう!きっと今一番、オファーしてもスケジュールが取れない俳優さんですからね(笑)。
菊地監督「だから本当〜に有難くて。そう言って下さるんだったら是非ってことで、染谷君に出演をお願いしました。」
喜劇?悲劇?…必死度と笑いは比例する
―― あの、タカシというニート学生は、染谷さんが演じることを前提に作ったキャラクターだったんですか?
菊地監督「染谷君がキャストで参加してくれるなら、タカシ役をやってもらおうと思いました。なので、元々脚本の中に居たタカシを、僕が見たい染谷将太というか、この映画でしか見られない彼を作ろうと思い、細部を練り直しました。また、タカシを染谷将太に寄せていったところもありますね。」
―― だからタカシ役がめちゃめちゃハマってたんですね。胡散臭くて利己的なんだけど、その存在自体が笑えるっていう…。染谷さんのシーンで一番笑ったのが、冨士夫とタカシがお金を盗みに入って、お金を独り占めしたいタカシが冨士夫の頭を木魚で叩くシーンなんですけど。ホントもう、笑いを噛み殺すのが大変でした。
菊地監督「木魚で叩いたもんだから『ポコーン』って音がマヌケに響く場面ですよね。」
―― そうです、そうです!しかしこの『ディアーディアー』という映画は、シリアスのようなコメディのような、本当に不思議な映画ですよね。登場人物全員が、とにかく必死なんです。必死にお金を盗んだり、嘘を重ねたり、追っ手から逃げまわったり…。必死度がハンパない人を見ると、第三者は滑稽で笑ってしまうじゃないですか。それがこの映画と観客の間で起こっているように思えました。
菊地監督「チャップリンの名言で『人生は、クローズアップで見ると悲劇だが、ロングショットで見ると喜劇である』とありますけど、そういう感じですよね。例えば地方都市って重い現状があったりしますが、それを『今、地方ではこんな問題があって、住人達はハードな生活を送ってます』と訴えるのも良いですが、やっぱり映画っていうのは、お客様に楽しんでもらいたいんですよね。それが映画にできる、映画的なことだと僕は信じてます。」
―― なるほど。しかしながら、コメディ映画かと思えば、シリアスなシーンも多く、ヒューマン的な側面も色濃くて、しかも感動させられる…。という、非常に分類しにくい、どのカテゴリーにも当てはまらない映画だと思ったのですが。
菊地監督「ですよねー。デビュー作…しかも長編だったので、いろいろ盛り込み過ぎた感はあります。ずっと、やりたいことを溜め込んでましたからね(笑)。でも、思いを全部ブチ込めたので満足しています。まあでも、この映画はある種のコメディかなって僕は思いますね。」
–{“ドッカン”よりも、“クスクス”な映画}–
“ドッカン”よりも、“クスクス”な映画
―― 劇場でも、ちょいちょい笑いが起きる様子が想像できますね。セリフもかなり面白かったし。「犬くらい1人で埋められるよ」とか、葬儀屋さんのくだりとか最高でした。
菊地監督「葬儀屋さんを演じた川瀬陽太さんは、僕が駆け出しの頃に映画業界のマナーみたいなものを教えてくれた先輩なんです。葬儀屋は、川瀬さんにやって欲しいと思ってました。最近、祖父をの葬式に立ち会ったんですが、葬儀屋さんの振る舞いが面白く見えちゃって。葬儀屋さんって、いちいち重い感じに溜めて言うじゃないですか。」
―― 故人の…旅立ちの時がやってまいりました。みたいな(笑)。
菊地監督「そうです!至って真面目にやって下さってるんですけど、頑張ってお芝居してるみたいに見えたりするんですよね。不謹慎だけど本当に可笑しくなっちゃって。」
―― 川瀬さんの演技も、仰々しさがばっちり表現されていました。
菊地監督「あそこは、脚本家とも入念に打ち合わせましてね。別にふざけてる訳じゃないけど、葬儀屋さんと関わったことのある人には『クスッ』って笑える、みたいなところを狙って作りました。そう。この映画は“ドッカン”っていう笑いは少ないけど、“クスクス”って笑いを散りばめた映画なんです。」
誰しもが役に縛られた人生を送っている
―― 例えば義夫がらみのシーンですよね。元々、義夫が犬を轢いたことから悲劇…いや、喜劇が始まるのですが、その飼い主が実は…っていうので、義夫の歯車がどんどん狂っていくんですけど(笑)。これ以上はネタバレになるので言えませんが、嘘に嘘を固める義夫の姿は、あれこそ必死さ極まって喜劇に転ずるという典型でしたよね。
菊地監督「ですね。義夫は一番心に傷を負ってるはずなんですが、それが空回りすることで、劇中で狂言回し的な役割を担っています。義夫に関わる畠中さん…あの畠中さん家族が、この映画の中で唯一真っ当で、幸せな人達なんですよね。」
―― 確かに。あの家庭には誰も勝てないですよ。もう、完全なる勝者ですね。
菊地監督「でも、そんな畠中もかつてはいじめられっ子だった。いじめられっ子という役割を選んでいたというか。結局、誰しもが役柄に縛られた人生なのかもしれません。長男って役割だったり、奥さんって役割だったりね。あのお坊さんだって、意外に家庭では普通の人かもしれないしね。」
―― そうですね。私も妻だったり、母だったり、娘だったり、色んな役を持ってます。
役を脱いだらどうなるか?背負い続けるとどうなるか?
菊地監督「その都度みんな、役を演じて生きているんですよ。でもその役が息苦しいとか、演じることに疲れたとか、誰しもあるじゃないですか。じゃあ役を脱いだらどうなるのか?逆に、そのまま役を脱がずに背負っていくとどうなるのか?…そういうところを描きたかったというのはありますね。
かと言って、それを観客に押し付ける気はないんです。あがいている時に、ふと観ていただけたらいいなと。そして観終わった後に少しだけ、ご自身の生活に一瞬気持ちを戻したり、立ち止まったり、考えてもらえたら嬉しいですね。」
―― 知らず知らずのうちに、誰しもが仮面を付け替えながら生きているんですね。
菊地監督「ですね。そこがやはり、本当に滑稽であり、面白くもあり、悲しくもありっていうのは、すごく人間的だと思うし、映画が扱うドラマのモチーフとしては非常に面白いと思っています。」
―― その話を伺って、いま改めて映画を振り返ると、すごく腑に落ちます。
–{地方と都会、両輪をアップデートしていく}–
地方と都会、両輪をアップデートしていく
―― 最後の質問です。次に映画を撮るとしたら、どんな設定・展開の作品にしますか?
菊地監督「やっと監督できたので、やりたいことはいっぱいあるんですが、まずは都会の話ですね。今回は地方を舞台にしたので、都市部で生活する人の距離感を描きたいと考えています。僕も人生の半分を東京で過ごしているのですが、都会に住んでる人達の距離感って田舎とは全然違うんです。そこで何か作れたらいいですね。」
―― 脚本を煮詰めていく過程で、都会の話になった事もあったと仰っていましたが。
菊地監督「今回の『ディアーディアー』とは全く違う感じになるとは思いますが、都会を舞台にした家族の話というのも絶対面白くなると思っています。その一方で、地方都市の話をさらにアップデートしていきたい気持ちもあります。それこそ『ツイン・ピークス』みたいな感じで、街の複雑な人間関係が徐々に明かされる話はやってみたいです。」
―― それ、面白そうですね!!
菊地監督「都市と地方、両方撮っていけたら良いですよね。その両輪を行ったり来たりしながら、それぞれがアップデートしていけたら最高です。」
―― 地方の話と都会の話、両方とも観たいです。今後もガンガン撮って、やりたいことを全部やり尽くして欲しいです。『ディアーディアー』は最高に面白く、中身の濃い映画ですから、きっと次々とオファーも舞い込んで来ると思いますよ。
菊地監督「いや〜、そうなるといいですね。まずは今回の作品『ディアーディアー』を多くの人に観ていただけたら嬉しいです。」
―― 今日はお忙しい中、お時間頂き本当にありがとうございました。
(インタビュー終了)
テアトル新宿上映後、全国各地で順次公開!!
サービス精神旺盛にして、トークの腕もプロ並みの菊地監督。いるだけで場がパッと明るくなるようなお人柄は、多くの俳優や映画人を魅了して止みません。
『菊地が撮るなら…』と、作品に携わったスタッフ・キャストが多かったというエピソードからも、その絶大なる信頼が伺えました。
そんな菊地監督のデビュー作『ディアーディアー』は、2015年10月24日から11月13日までテアトル新宿にて絶賛上映中です。そして、11月14日からはキネカ大森&静岡シネ・ギャラリー、その後も順次公開予定です。
ぜひお近くの映画館で、役割の仮面を外しつつ“クスクス”笑って観て下さいね。
(取材・文:大場ミミコ)
上映期間中は毎晩、菊地監督とゆかりのある監督や俳優、著名人を招いてのトークイベントが行われています。今後の予定は
11/7 不倫、嫉妬そして借金 山本剛史×松本若菜×桐生コウジ
11/8 映画心理カウンセラーの性格診断 コトブキツカサ(映画パーソナリティ)×斉藤陽一郎
11/9 北関東映画バトル! 群馬VS茨城VS栃木 大崎章(監督)×冨永昌敬(監督)×菊地健雄
11/10 世界の菊地VS足利の菊地 菊地凛子×菊地健雄
11/11 甲斐性なし×いじめられっ子×守銭奴 柳憂怜×政岡泰志×佐藤誓
11/12 足利そして映画祭ライバルとして 竹馬靖具(監督)×結城秀勇(映画評論家)×菊地健雄
11/13 最終日舞台挨拶 シカるべき時が来た! 菊地健雄+スタッフ&キャスト有志
となっております。イベントの詳細・日程は公式サイトにて随時公開されていますのでご確認下さいませ。
→『ディア―ディア―』THEATER & EVENT/劇場情報 & イベント
ディアーディアー公式Facebookページではイベントの模様も掲載されています。11月6日のイベントではゲストに斎藤工さんが登場するというサプライズも。ぜひテアトル新宿まで足を運んでみてください。
→『ディア―ディア―』公式Facebookページ
映画『ディアーディアー』予告