生田斗真は僕の息子⁉『グラスホッパー』ティーチイン試写会

映画コラム

『重力ピエロ』『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎の最大の問題作が映画化された、2015年11月7日公開『グラスホッパー』のティーチイン試写会が、先日10月29日に松竹にて行われました。
試写会の後に行われたイベントには、瀧本智行監督と水上繁雄プロデューサーが登壇し、観客からの質問に答えていただきました。

予測不能のストーリーに、激しいアクション

拍手につつまれて、瀧本監督と水上プロデューサーが登場。
すると監督から「どうも、監督の瀧本です。すいませんこんな時間なんで、酒飲んできました(笑)」と爆弾発言が飛び出し、「顔は赤いですけど、舌は滑らかかなぁと思いますので、よろしくお願いします。」と早速会場を沸かせました。それに続き、水上プロデューサーからも「プロデューサーを担当させていただきました水上です。よろしくお願いします。」と挨拶があり、ティーチインが始まりました。

圧倒的に女性のお客様の比率が多い会場を前に監督が、伊坂さんの原作ファンだという方と俳優さんのファンだという方がそれぞれどのくらいいるか、挙手で問いかけます。

心づもりが違いますか?というMCの問いかけに、「違いますね。伊坂ファンの方が多いとアウェー感が凄く(笑)」と監督。
やはり観客から直接意見がぶつけられるティーチインの場に、いささかプレッシャーがあったのでしょうか。

作家・伊坂幸太郎からのリクエスト

MCよりまず初めに、実写化において意識した点と、伊坂さんからなにかリクエストはありましたか?と問われると、「伊坂さんは、なんにもおっしゃらなかったです。」と即答する監督。丸々お任せします、というスタイルだったのだそう。「好きにやれて大変ありがたかった。」と応えました。
水上プロデューサー:「最初にお話を持って行った際に、瀧本監督の『脳男』が公開されたばかりで、「脳男面白いですよね~凄い良かったですよね~」と話を振ったら伊坂さんがガツッ!っと来て。

「本当に、瀧本さんって良いよね」という話から(瀧本監督作品である)「犯人に告ぐ」を伊坂さんが凄く好きだそうで、「瀧本監督だったら良いかも。。」という雰囲気が出たところを見逃さなかったんですね。「わかりました」と。」

その後、共通の知人である杉崎プロデューサーに監督を紹介していただきオファーをかけた、という経緯があったそうです。
実写が難しいとされる本作を丸々預けられたのも、監督への信頼があったからこそだったのですね。

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先日のイベントで伊坂さんが「僕の作品はPOPで新しいタイプのミステリーといわれることが多いので、もっと作品に重力を産んでくれるような作家さんであれば、映像化に勝ち目があるんじゃないか。」と仰っていたそうで、今回まさしくそういった演出のなされた作品が出来上がりました。

瀧本監督:「先ほど手を挙げられた伊坂ファンの皆様はおそらく、「なぜ中村義洋じゃないのか」と(笑)言われることがハナからわかっている訳ですよ(笑)もう、アウェー感満載で。

僕、最初「無理ですよ」って言ってたくらい、伊坂さんと中村さんの関係で出来上がった映画って凄く評価が高いし、僕も観てて面白いと思うんですよね。僕がのこのこ出て行っても勝ち目がないから、「中村さんでやってよぉ~」(笑)って。
そうやって言ってたところからのスタートでした。

でも、水上さんと杉崎さんの両プロデューサーが信頼を寄せてくださったので、そこまで言ってくださるなら監督冥利ですから。挑戦してみようとなりました。」

瀧本監督:「グラスホッパーは2004年の、少し古い小説だったこともあり後から追いかけて読んだのですが、一晩で一気に読んでしまって。
結構厚い小説なんですが、一気に読まされたのは一体何なんだろうというこの印象は、一言でいうと自分が小説に巻き込まれたという。

次はどうなるんだろうと、「もうちょっとだけ読んでみよう、もうちょっとだけ読んでみよう」と思っているうちに最後までいっちゃったというように、一気にダダーっと疾走していく。3つのチャプターに分かれているんですけど、それを交互にしながら一気に読まされてしまう、といった自分が受けた印象を、映画を観たお客さんにも持っていただきたいなというところが、一番意識した所ですね。」

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そのために、撮影や編集などで意識した部分は?

瀧本監督:「私は本作で8本目になりますが、これほど作るのに悩んだのは初めてで、脚本家の青島さんに「瀧ちゃんしつこいよ~」って言われるくらい付き合っていただいて。
3つの視点があるので積み木細工のように1つ1つ気になってしまったし、撮影が始まって俳優さんが演じると面白いんですが、逆に面白かったらマズかったり。
蝉・鯨・鈴木という視点がそれぞれ突出しすぎないように、次に上手くバトンを渡せるような感じの、観客の意識があまり飛び出さないように意識しました。

リテイクしたり、現場では面白い芝居も編集ではバッサリ落としたり、一番何を気にしたかというよりそういった細々した事を延々やっていた気がしました。」

–{キャスティングの裏話が!}–

キャスティングはどのように?

水上プロデューサー:「業界ではこの作品は誰が映画化するんだと噂にはなってたんですが、なかなかされなかったんです。で、今回監督が手を挙げてくださったのですが、なかなか手強いぞ、本当にヒットするのか?と。そういう会話の元に、『脳男』コンビの生田君がやってくれるなら”見える”気がすると監督が仰って。その一言から僕は速攻ジャニーズさんに行って是非お願いしますといった経緯です。」

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生田君なら”見える”というのは?

瀧本監督:「生田斗真という役者は、映ってる部分でも魅力的だけれど、自分が関わった映画を背負う覚悟とか、現場も含めた座長としての在り様とか、公開にあたっていかに多くの人に届けるかみたいなプロデューサー的意識とか…

僕の息子…と言ったら僕が18歳の時の子になってしまうんですが(笑)尊敬しているんです。実は。凄いなこの人は、と思っていて。
中身もそうなんですが、最後に観客に届くと考えた時に、自分の伴走者として隣にいてくれたら”やれる”気がする。という感じだったんです。

ここだけの話ですが、鈴木という主人公ってそんなオイシくないんですね。最初は蝉を…とも思ったんですが。オイシくないけれども、彼ならそれをわかった上で、鈴木が真ん中に居てくれるからこそ、この映画が一本の映画として成立するんだということを理解して引き受けてくれた。彼には感謝しかないんです。」

蝉役は山田涼介さんがキャスティングされましたが、なかなかチャレンジングだったと思うのですが?

水上プロデューサー:「そうなんです。僕個人的には、いかにも人をブスっとやりそうな、悪そうなキャスティングって面白くないじゃないですか。なのでいかにもそんな事やらなそうだったり、あるいは初めてそういう顔を見るような意外性が無いとなぁ…と思っていて。
で、せっかく今回ジャニーズさんとご縁があるので、運動神経の面でも、ジャニーズさんでベビーフェイスで。ってアイディアどうかなって。」

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瀧本監督:「僕その時、山田君の存在を知らなくて、正直え~って(笑)CMかなんかを見たイメージだけでそう言ってて。「商売に転びやがって」みたいな(笑)

ですが、あまりに何回も勧めてくるから「わかったよもういいよ」みたいなスタートだったんです。これがやってみたら僕が一番ビックリしちゃって。本当に素晴らしいなと思っているんです。撮影の2日目くらいに、誰かに似てるなぁ~と思ってたら、「あ、『脳男』の時の斗真だ」と思って、ちょっと背筋がゾゾっとしました。

だからそこまでプロデューサーがこだわるという事は、一回ダメと言ったのに引き下がらないような話は乗った方が良いという…。」

(会場笑)

瀧本監督:「でも実は何度もあるんですよ、そういうことは。
例えばココだけの話し…もう酔っぱらってるからなんでも喋っちゃうね(笑)『イキガミ』の時の山田孝之君。絶対嫌だって言ってて。でもやってみたら素晴らしくて、なんだこの俳優さん!って圧倒されちゃたという経験とか。
だからここまで言うんなら、絶対その人には何かあるんだろうなっていうのは経験上間違いないというのはありました。なので嘘偽りなく、これが最大の発見で、現場で一番ビックリした事です。」

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鯨役が浅野さんになった決め手というのは?

瀧本監督:「僕も浅野さんは憧れの俳優さんでして。なんだかよくわからないけど人を自殺させるって、小説では面白いけどじゃあ一体どうやって撮ったらいいんだって話で(笑)なのでそういうのを納得力を持った俳優さんに演じてもらうしかないだろうといった所で、じゃあ一体誰?となり、真っ先に名前が挙がりました。何の文句もないですよね。」

水上プロデューサー:「もう最高です。」

瀧本監督:「浅野さんのどの映画見ても思うのが、フッとスクリーンに映った瞬間に不穏な空気が流れるんですよ。セリフが無ければ無いほどこっちの想像力が掻き立てられて、磁場のようなものが出来てくる。日本映画界では稀有な存在です。」

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–{巻き込まれ型エンタテイメントとは??}–

巻き込まれ型エンタテイメント!となっていますが、巻き込ませるためにこだわった演出は?

瀧本監督:「まず冒頭の事件の部分がハロウィンのスクランブル交差点での事件という設定で、原作とは違います。フィクショナルな世界を描く上で、最初にバーンとお客様に「嘘の世界へようこそ!」といった感じを出したかったので、ああいう設定に変えました。あれ結構お金かかってるんですよ(笑)」

あの渋谷のシーンは、実際に渋谷で…?

瀧本監督:「そうですね、警察と追いかけっこしながら…と言いたいところですが(笑)日本の警察はそんなに甘くないので、当然出来ないんですが、去年のハロウィンの日の状況は実際にいっぱい撮って織り交ぜています。
芝居が絡んでいるシーンに関しては全て、千葉の市原にある潰れたショッピングモールの駐車場にスクランブル交差点を再現しました。
実寸大で交差点を作って、TSUTAYAの2階までを建てて、地下鉄に降りる入り口を作って、反対側は交番とその隣のカレー屋さんを建てて。
で、観光バスで何百人もの雑踏(笑)を呼んで、車でご協力いただける方を集めて。
でもやっぱり地元の人が多いから、軽自動車が多いんですよね。渋谷で軽はあんまり見かけないんですけど(笑)
だからよく見ると走ってる車、軽ばっかりなんです(笑)実は山田君の前を通る一番目立つ車は僕の車です(笑)」

瀧本監督:「去年のハロウィンも渋谷は凄くて、ハチ公がハロウィンの恰好してるんですけど、実はあれウチのスタッフが着せて撮影したものです(笑)
そしたら隣に日テレのスッキリ!が取材に来てて、それを映しながら「今日はハチ公も扮装しています!」って撮影していて(笑)」

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さらに、サンジャポさんにもエキストラを少し貸したりしたんだそうです。

観客からはこんな質問も

さらにこの日は試写上映後、いらっしゃったお客様からアンケートで質問を募集。その中から質問をピックアップしていきます。
観客の皆さまから、率直な意見や質問が飛び出しました。

Q:『脳男』に引き続き、キャラがまた違った鈴木役に生田さんを起用した理由は?

瀧本監督:「普段の彼って、本当にナイスガイなんですよ。本当に良いやつで。鈴木という役は、どんどん巻き込まれていくので、素顔というのは波留ちゃんとの回想シーンくらいでしか出てこないんだけれども、巻き込まれてゆく中でもフッと素顔が出るとき、素の生田斗真の魅力というものがそのまま出ればいいな、というのがありました。」

Q:蝉が透明のレインコートを着ている理由は?

瀧本監督:「汚れないためです。現実的な問題で(笑)きっとあの黄色いシャツを気に入っているんでしょうね。途中、あまりにアクションが激しくてボタンが取れてしまい汚れてしまったので、急遽シャツを洗うシーンを足しました(笑)次のシーンでは(シャツが)まだ濡れているので、タンクトップ姿になっているという設定に変えたという、実に現実的な理由です(笑)」

でも、思わぬサービスカットになったんじゃないでしょうか?

瀧本監督:「えっ!そうなの?タンクトップが嬉しいの?」

水上プロデューサー:「みなさん、どうですか?」

(会場うなづく)

瀧本監督:「ファン心理はわからないねぇ(笑)」

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Q:浅野さんが汗一つかいていませんが、撮影時期はいつ頃ですか?

瀧本監督:「時期は去年の真夏です。暑い中やっていたんですが、鯨だけは汗をかかせたくなくて。
唯一雨のバスの中、汗がツーっと落ちるシーンがあったと思いますが、あそこで流して欲しかったので他は汗かかない人にしちゃおうと。」

メイクさんは大変だったんじゃないですか?

瀧本監督:「汗隊というのが常に何人もいましたよ。」

Q:伊坂ファンという大きな存在をどう思いますか?色々言われるのをわかった上で、どう思っていますか?

水上プロデューサー:「手厳しいなぁ(笑)」

瀧本監督:「そういうもんだと割り切らないとしょうがないというか、実際に撮る上では自分に寄せないと撮れないわけですから。その結果、今流行りの言葉でいう「原作レイプ」とか言われちゃう。

僕ね、「進撃の巨人」のネット評価とか凄い見て予習してるんです(笑)だから今もう鉄の心臓になっていますから大丈夫です(笑)」

この後の懇親会は大丈夫ですか?

瀧本監督:「酔っぱらったらどういうリアクションになるかわかりませんよ(笑)」

グラスホッパー

【STORY】
ハロウィンの夜、事件は渋谷のスクランブル交差点で起きた──。愛する女性をその事件で失った元教師【鈴木】は、殺された恋人の復讐のため裏組織に潜入し“その時”を窺っていた。一方、別の目的でその事件と関わる2人の殺し屋がいた。ひとりは人の心を狂わせる眼力を持つ“自殺屋”と呼ばれる自殺専門の殺し屋【鯨】。もうひとりは人を殺すことで生を感じる、孤独な若きナイフ使い【蝉】。接点のなかった3人の男たちが引き寄せられ1つに繋がったとき、それぞれが抱える闇の出口が見えてくる。

映画『グラスホッパー』は、2015年11月7日(土)全国ロードショー!
公式サイト http://grasshopper-movie.jp/