10月25日(日)に新宿ピカデリーにて東京国際映画祭のイベントの一環として、映画『駆け込み女と駆け出し男』のトークイベントが開催され、原田眞人監督と樹木希林さんが登壇ました。
今作は井上ひさしの歴史小説「東慶寺花だより」を原案に、離縁を求めて幕府公認の駆け込み寺である東慶寺に訪れる女たちと、聞き取り調査をする御用宿・柏屋の主の源兵衛(樹木希林)や居候の中村信次郎(大泉洋)など彼女たちを取り巻く人々を描いた人情劇。
名作を継承したテンポのいい時代劇
MCが「この映画には忘れてしまいがちな日本の美意識みたいなものが詰まっていて、特に若い方に観ていただきたい。難しい分かりづらい言葉もあるけれども、リズム感が心地いい」と今作を選んだ理由を語ると、原田監督も日本映画の時代劇のいい部分を忘れないようにしたいと思ったと話し、「例えば、お吟役の満島ひかりが具現してくれた体のさばき方ひとつにしても粋な芸者さんっていう。そういう動きは大映時代劇だと山本富士子さんだとか京マチ子さんだとか木暮実千代さんだとか、みなさんお上手だったんですよね。指導する監督さんもいたけど、今はフィルムとして残っているのでそういうものを観て研究して。それから『幕末太陽傳』のようなテンポのいい時代劇、あれが江戸っ子ですよね。そういうものを継承していきたいなと思って作りました」と具体的な例を出しつつ、目指したところをお話していました。
また本当は女性ながら男性として柏屋に立つ源兵衛を演じた樹木さん。
役柄に特別抵抗はなかったそうで、「現代ではああいうタイプの人は結構いますからね」と笑いを誘います。
先に話題にあがっていたセリフのテンポについても「ものすごい言葉の早さの中に、チャーミングな日本語もたくさん散りばめられていて。でもわからなくてもいいんじゃないか、って思いますね。いちいち引っかからなくても楽しめるんじゃないかと」と話し、御用宿のしきたりが説明されるシーンについても、源兵衛のセリフが長過ぎたために「みんなにセリフを差し上げました(笑)」とベテランの技で、監督をうまく誘導してセリフを減らしたことを明かしていました。
女性の活躍を描く次回作の展望も
源兵衛が男性の格好をしている女性だということから「名前を継ぐということも会ったと思うし、徳川家光の時に女性が二本差し禁止という御触れが出てるんですね。ということは、かなりの女性たちが二本差しをしていたということ。日本の歴史は勝者の歴史で、なおかつ男の歴史ですから、女性たちが活躍したケースというのは隠されちゃってるんですよね」と監督。
来年やるという戦国ものでは、女性の立場や役割が普通の戦国ものとは違うものになるだろう、と次回作の展望にも話が展開し、「集団時代劇をやる場合には『13人の刺客』でもなんでも、半分は女性にしますけど」という監督の発言に会場からは笑いが起こっていました。
「ハリウッドっぽいコメディの感覚を持つんですが」というMCからの指摘に対して、監督は「源兵衛さんが、原作では男だったのに女にしたというのは、ハワード・ホークスの『ヒズ・ガール・フライデー』があったからこそで、僕の好きなハワード・ホークスの世界なんですよね。そこに樹木さんがいて締めてもらったら、ハワード・ホークスが観ても喜んでくれんじゃないかと思いました(笑)」と回答。
また、冒頭のお吟とじょごのバディ感は、溝口健二監督の描く、木暮実千代さんと若尾文子さんの祇園の疑似姉妹の関係を意識しているとのことでした。
–{信次郎は大泉洋さんと決めていた}–
「原作を読んだときから信次郎は大泉洋さんと決めていた」
イベントの後半には客席からのQ&Aも行われ、原田監督と樹木さんが回答しました。
質問「天保年間の文化人がたくさん出てくるシーンで、気になるセリフなどもたくさんあったんですが、スピンオフなど私たちが彼らのことを観ることができる機会はあるのでしょうか?」
原田監督「僕が時代劇を作る度に、同じようなキャラクターが出てくるということはあると思います。ただ、僕自身は天保年間の表現者たちも含めて、ちゃんとしたかたちでやったら面白いだろうなと思うし、杉本苑子さん原作の「滝沢馬琴」はやりたいなと。そのために今回は馬琴さんの世話をした路女は出さずにとっておいて、ちゃんと馬琴さんと路女の関係をやってみたいなというのはあります。この時代の登場人物との関わりはこれからもずっとやっていきたいと思っています」
樹木「じゃあ、果てしなく作品を作れるじゃないですか。原田さんのすごいところは群像劇のさばき方ですよね」
原田監督「もう少し撮っていた部分もあるので、DVDの特典映像に入れたらよかったんですが、なぜか外しちゃったんです(笑)」
質問「キャスティングの決め手を知りたいです」
樹木「山崎努さんは原田監督のことが大好きで。いつもは台本を読んでお断りするのに、原田さんの声がかかれば、とマネージャーが言っておりました。山崎さんは脱ぐって書いてないのに、全裸になって周りの人がびっくりしたそうですね。そういう選び方をしますよね」
原田監督「(笑)。山崎さんのヌードのお話が出たので話しますと、クアラルンプールの映画祭に出品しているんですけど、そこは検閲があるんですね。それで隠さなきゃいけないところがあると最初に言われて。当然、ゆう(内山理名)が縛られて拷問されるシーンだと思ったんですけど、そこはそのまま見せてOKなんですよ。で、お風呂で男のお尻を見せちゃいけないんですって(笑)。だから、クアラルンプールでは、山崎さんが立ち上がると黒い紙がすっと入って隠すんですよ。これはめちゃくちゃおかしかったですね。キャスティングの話に戻りますと、原作を読んだときから信次郎は大泉洋さんと決めていて、プロデューサーに大泉洋さんを落とすことと、ロケーション的には東慶寺として姫路の円行寺を使うということを条件として出して。これは『ラスト・サムライ』に出たときに観て、ここで映画を撮りたいと決めていた場所だったので。あとは戸田恵梨香と満島ひかりは前から使いたかった女優たちでしたので。それ以外のキャストは舞台を観て気に入った人とかですね。今回チャレンジ的に選んだのはおゆき役の神野美鈴で、彼女も舞台で観てよかった。なるべく舞台は見に行くようにしてるし、そういうところで発見した役者さんと会って、普通の会話をしたときに魅力を感じた人を選ぶことが多いですね」
MC「満島さんはあんなに時代劇の所作ができる方?」
原田監督「いや、できないです。だから彼女がチャレンジとしてやりたくて、2ヶ月くらいの指導があったんです。最初の1ヶ月は形になってなくて、失敗したかなと思ったくらいなんです。だけど本人は「本番には間に合わせますから」と。アスリートなんですよね、彼女は。運動神経が抜群にいい」
樹木「踊りがうまいんですよ。だから、体で覚えると早いんじゃないかな。色気がありましたよね」
質問「海外の人に観てもらいたいポイントがあれば教えていただきたいです」
原田監督「女性たちの連帯というのが封建制度の厳しい男性社会の中にもあったということ。あと、政府が表現者を圧迫するという時代というのが、ある部分現代にも通づる部分で、日本の政治家には江戸時代から考えが変わってないヤツもいるよ、ということですかね(笑)」
Q&Aでは山崎さんの意外なエピソードも飛び出すなど、笑いの絶えないイベントとなっていました。
映画『駆け込み女と駆け出し男』は11月26日(木)にBlu-ray、DVDが発売されます。
(文・取材:大谷和美)