TIFF監督特集“原田眞人の世界”『KAMIKAZE TAXI』トークショー

俳優・映画人コラム

■「キネマニア共和国」

10月24日夕方、新宿ピカデリーにて第28回東京国際映画祭Japan Now監督特集“原田眞人の世界”より『KAMIKAZE TAXI』の上映とトークショーが開催された。(司会:安藤紘平)

⑨(一応最後の集合写真。使っても使わなくても。司会者がなんかいつも邪魔)

『KAMIKAZE TAXI』は原田眞人監督が1995年に手掛けた作品。当時の日本の社会風俗を背景に、ペルー育ちの日系人タクシー運転手・寒竹さん(役所広司)と恋人をヤクザに殺され、自らも命を狙われてしまうチンピラ達男との交流を描いたロード・ムービーでもあり、政治やヤクザ、自己啓発セミナー、そして戦時中の神風特攻にまつわる真実などをえぐりだす社会派ハードボイルド映画の大傑作である。

原田映画を語るときに決して外してはいけない代表作の筆頭であり、また本作で初めて役所広司を起用したことでも記念碑的作品。以降、両者は『金融腐蝕列島〔呪縛〕』(99)や『突入せよ!あさま山荘事件』(02)『わが母の記』(12)『日本のいちばん長い日』(15)など、名コンビとしてコンスタントに作品を発表し続けることになるのだ。

場内は20年前の初公開以来、銀幕で本作を見られるということで駆けつけた映画ファンや、伝説的評判を聞きつけてやってきた若い世代などで埋めつくされ、また今回は国際映画祭ゆえに英語字幕が必要ということで、世界中の映画祭を渡り歩いた140分インターナショナル版の35ミリ・プリントでの上映。

今や滅多に見られない貴重なフィルム上映もファンには喝采をもって迎えられ、上映後はいよいよ原田監督と達男役の高橋和也が登壇。

③原田監督と高橋和也

原田「久々に最前列でこの映画を大画面で見ましたが、胸迫るものがありますし、見ていて飽きなかった(笑)。でも、いつ見ても役所広司さんは可愛いし、セクシーだし、素晴らしいですね」
高橋「今から21年前に撮影した作品で、当時は25歳でした(笑)。この作品に出会えたことで、その後俳優としてやっていけるきっかけにもなったと思っています」

20年前の作品ながら、今の時代に訴える要素も多い。

原田「そうですね。日本の政治状況は変わってないというか、映画の冒頭に外国人労働者とヤクザと政治家の数が出てきますが、今減ったのはヤクザの数だけで、どうしようもない腐った政治家の数はどんどん増えている」

①原田眞人監督

元『男闘呼組』高橋和也の起用は?

原田「彼とは『男闘呼組』時代にコマーシャルを撮っているんですよ。そのとき役者といいなというのがずっと頭にありました。そして達男役を探しているとき、プロデューサー連がネームバリューのある人をということで、当時売れていて今はノーバディの人(笑)をキャスティングしたら、最終的に『裸になって濡れ場をやるのが嫌だ』と言い出したのでNGにして、それで和也に声をかけてみたんです」

高橋「クランク・インの1週間くらい前でしたね(笑)。僕はその前年に男闘呼組を解散して1年ほどアメリカへ演技の勉強へ行き、帰国して舞台をやっているときだったんですけど、とにかく台本が素晴らしかったのでやってみたいと思いましたし、裸でも何でもやる!と(笑)。さすがに最初は昼間は舞台の本番で、夜はロケに参加と、もうわけがわからなかったのですが(笑)、やっていくうちに役もつかんできて、どんどん面白くなっていきました」

②高橋和也

原田「彼が入ってから、台詞もどんどん即興的なものになっていきました」

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–{サプライズゲストが登場!!}–

と、ここでさらなるゲストが。野良猫のようなヒロイン、タマ役の片岡礼子と、達男の仇となるヤクザの親分亜仁丸役のミッキーカーチスのサプライズ登場で、一斉に場内が沸く!

⑥ミッキー&片岡の登場に場内大いに沸く

ミッキー「最初この役は安岡力也だったんですけど、たまたま俺も台本読んで、亜仁丸をやりたくなって、力也に俺に譲れと電話で頼んだら、駄目だと(笑)。でも、そのうち力也が舞台のスケジュールで急に出られなくなっちゃった」

原田「危うく血生臭い話に突入するところでしたね(笑)」

ミッキー「俺が力也を殺すか? てね(笑)。それでもうひと押しと思って監督のところへ行ったら、ちょうどサックスの音を録音(プレスコ)しているところで、そこに自前の仕込み杖を振り上げて『亜仁丸は俺だあ!』ってスタジオに殴り込んだら、即、俺に決まりました(笑)」

④ミッキー・カーチス

原田「誇張も多分にありますけど、大方そういうことです(笑)」

ミッキー「でもサックス大変だったよ。一晩で覚えなきゃいけなかったから」

原田「だって最初からできるって言ってたじゃないですか⁉」

ミッキー「そういわないと雇ってくれないと思ってさ!(笑)。車がぶつかりそうになって、亜仁丸が寒竹さんと初めて出会うシーン。実はあそこで初めて役所さんと会ったんですけど、そのとき“役所広司の風”を感じましたね。ものすごく彼のことを気に入っちゃって、だからあの後で『食事にでも誘ったらどうですか』『いや、照れ臭いだろ』みたいな台詞がとても言いやすかった(笑)。で、あの後ラストでようやく彼と再会して、そこでまた面白いことになるんだよねえ。この映画で初めてキネマ旬報助演男優賞をいただきました」

片岡「私は当時デビュー2、3年目くらいで、この作品もオーディションだったんですけど、何回か受けて最後のふたりまで残ったんですよ」

⑤片岡礼子

原田「え、最初から片岡礼子ってイメージだったけどなあ」

片岡「違う!(笑)」

原田「もうひとりって誰?(笑)」

片岡「有名な劇団の看板女優の方でした。ああ、もうだめだなと思ったんですけど、台本がとにかくショックを受けるほどに素晴らしくて、これは誰にも手渡したくない! と。そして最後、演技テストの相手役に本当の寒竹さん(役所広司)がいらっしゃって、もう既に役のままでいらしたんですね。そのとき私も“風”を感じましたし、すっと台詞を言えていました。それからしばらくして、私に決まったと連絡を受けたのですが、そのときも何だかあの“風”を受けての浮遊状態が続いていましたね」

ミッキー「(ぼそっと)あ、そうですか(笑)」

一同「(笑)」

ミッキー「役所さんの台詞『あ、そうですか』が現場で流行ったんですよ。役所さん、撮影が終わって家に帰って奥さんが『おかえりなさい』って言ったら『あ、そうですか』と(笑)」

原田「最初にみんなでホン読みをやったとき、役所さんは既に寒竹さんになっていて、最初の一言を発したとき、本当にみんな“風”を感じましたね」

⑧観客からの質問も多数

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–{続編の構想は?}–

さて、観客からの質問の中には「続編の構想は?」というものが。

原田「やろうと思っていました。ただ役所さんにとって寒竹という役は聖域ですし、僕もやるならペルー・ロケしないと駄目だと。結局、その企画は換骨奪胎されて『RETURN』(13)になったわけですが、今日久々に見ていて思ったのは、続編ではなく、今の旬の役者で、今の世相を反映させた『KAMIKAZE TAXI』をやったほうがいいのではないかという気にはなりましたね。

もともとこの企画は、今僕の作品の編集をずっとやってくれている息子の遊人が小学生でアメリカから日本に帰ってきたとき、寒竹さんと同じように日本語が少し変で、そうすると帰国子女を受け入れてくれる学校でも差別意識があることに気づかされた。その腹立たしい想い、言葉から始まる日本人の差別感に対するモヤモヤしたものが、日本の戦争犯罪や劇中の土門(内藤武敏)みたいな政治家に対する攻撃的メッセージなどと合わさっていきました。

またそれまで僕はキャラクターよりもプロット主体で映画を作ってきていたのですが、前作の『ペインテッド・デザート』で行き詰まり、次はひとりひとりのキャラクターを深く作り上げて、それぞれに引っ張られていくような形で脚本を書いてみたいと思っていた。

これらの要素を踏まえて、いざ脚本を書き始めていくうちに、寒竹さんがしゃべっているゲリラの戦いとか、そういう事実がどんどん情報としてこちらに入ってきたんです。そういう幸せな脚本作業でした」

この後、客席で観覧していた達男の友人テロ役の中山峻も監督に呼ばれて登壇するなど、場内はさながら『KAMIKAZE TAXI』同窓会といった風情で盛り上がっていった。

⑦中山峻(右)も客席から呼ばれて

『KAMIKAZE TAXI』はビデオ上下巻の『復讐の天使』や169分劇場公開版、今回上映された140分インターナショナル版など、さまざまなバージョンが存在する。いずれはそれらをすべてまとめたブルーレイなりリリースしていただきたいもの。監督自身、もっとも気に入っているという劇場公開版のリバイバルなども大いに切望したいところだ。

映画ファンを自認するしないを抜きにして、『KAMIKAZE TAXI』こそは絶対に見ておくべき傑作であり、その魅力は今もこれからも薄れることはない。

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(文:増當竜也)