編集部公式ライターの大場ミミコです。
さて、今年もやってきました。東京国際映画祭!
今回も多くの魅力的な作品が目白押しの東京国際映画祭ですが、筆者が注目したのは『ディーン、君がいた瞬間(とき)』です。
その舞台挨拶が、2015年10月24日、新宿バルト9にて行われました。
登壇したのは、カリスマ写真家でもあるアントン・コービン監督。映画同様、世界的スター達の人生を切り取ってきたコービン監督ならではの視点で、映画の見どころやキャスト達の魅力を語って下さいました。
その様子を余すところなくレポートさせていただきますので、皆さま最後までお楽しみ下さいませ。
写真家、デニス・ストックへのシンパシー
まず、作品の背景やあらすじ、コービン監督の経歴などがMCによって紹介されました。
―― 舞台は1950年代のアメリカ。20世紀最大のスターとして今も語り継がれるジェームス・ディーンと、若き写真家デニス・ストックの知られざる旅を描いた物語です。
この旅の写真が『LIFE』誌に掲載され、デニスの写真とともにジェームス・ディーンはスターへの道を駆け上ることになります。
ジェームス・ディーンを演じるのは『アメイジング・スパイダーマン2』のデイン・デハーン、写真家デニスを『トワイライト』シリーズのロバート・パティンソンが演じ、ハリウッドの次世代を担う2人の俳優が共演しています。
また監督は、自身もローリング・ストーンズ、U2、ビョークなどの世界的アーティストから愛される、写真家のアントン・コービン。自身が写真家だからこそ描くことのできた、写真家デニス・ストックの視点から見たジェームス・ディーンを、リアリティたっぷりに描き、輝きの瞬間を捉えました。
それでは、ただいまより舞台挨拶を始めます。本日のゲスト、アントン・コービン監督です。どうぞお入り下さい。
―― ではまず、ご挨拶をお願いいたします。
コービン監督「東京の皆さま、おはようございます。東京国際映画祭で上映できたこと、非常に光栄に思っています。フェスティバルに来ていただいた皆さま、映画祭の皆さま、配給会社の皆さまに心から御礼申し上げます。そしてこの映画『ディーン、君がいた瞬間(とき)』を上映させていただけて、とても嬉しいです。」
―― 早速質問ですが、この映画を監督する決め手は何だったのでしょうか。ジェームス・ディーンへの興味からでしょうか。それとも写真家・デニス・ストックへの興味だったのでしょうか。
ジェームス・ディーンを知ったのは最近?!
コービン監督「多分、この映画のタイトルを聞くと、殆どの方がジェームス・ディーンに関心を向けると思うのですが、私はカメラマンの方…デニス・ストックに興味がありました。というのも、私自身40年以上カメラマンをやっており、公に晒される人たちの写真を撮ってきたからです。デニス自身や、彼と被写体との関係に非常に共感を覚えました。
これは、カメラマンとその被写体である“公に晒される立場の者”との関係の話であり、またその両者のバランスの話なんですね。それで、その被写体がたまたまジェームス・ディーンだったということが、このストーリーをより面白くしていると思います。」
―― この作品に携わったことで、ジェームス・ディーンへの興味は今までと変わりましたか?
コービン監督「私は1955年、ジェームス・ディーンが亡くなった年に生まれました。ですので、彼に会ったことは当然ありません。また私は、オランダの小さな島で生まれたので、ジェームス・ディーンとは縁のない生活を送ってきました。10代後半になり、初めてジェームス・ディーンのポスターを見ました。彼の出演映画を観たのは、さらに後のことでした。ということで、人物としてのジェームス・ディーンを知ったのは、この映画を撮るようになってからだと思います。
そしてジェームス・ディーンは、1950年代半ばに起こった変化にとって大変重要な存在でもありました。第二次大戦中に育った人たちが、戦後10年経って、はじめて自分たちの世代の声をみつけた…。それがジェームス・ディーンだったんです。その“声”が音楽であったり、映画であったんです。その中に、大衆は自分たちの姿を見つけたのですね。」
U2、デヴィット・ボウイ…名だたるスター達との信頼関係
―― 続いての質問です。監督は写真家としてU2、デヴィット・ボウイなど、数々の世界的アーティストを撮られてきました。先ほど被写体との関係のお話が出ましたが、被写体とご自身との信頼関係を築く秘訣などはありますか?またそれは、映画においてどう生かされましたか?
コービン監督「公の目に晒されてる人というのは、だいたい(セキュリティなどで)守られてるんですね。しかし信頼関係を築くと、家族の一員のようになって、他人が入り込めない状況でも一緒に居ることができます。すると非常に面白い写真を撮ることができます。実際に私も、そういう関係を様々なアーティストと作ることが出来ました。
U2、トム・ウェイツ、マイケル・スタイプ(R.E.M.のリード・ヴォーカリスト)、デペッシュ・モード(イギリスの音楽グループ)などなど…彼らと信頼関係を築くことで、非常にユニークな写真を撮ってきました。
そしてこの映画にも、それが起こっているんですね。ジェームス・ディーンとデニス・ストックの間には特別な友情が生まれ、それゆえデニスは“ジェームスの生まれ故郷”という特別な場所で写真を撮ることができたわけです。」
–{デイン・デハーン&ロバート・パティンソン起用のウラ話}–
デイン・デハーン&ロバート・パティンソン起用のウラ話
―― 続いて、ジェームス・ディーンとデニス・ストックを演じた、お二人の俳優についてお伺いします。デイン・デハーン、ロバート・パティンソン共に、日本でも人気急上昇の俳優ですが、この2人を起用した理由について…また、それぞれの魅力についてお聞かせ下さい。
コービン監督「ジェームス・ディーンというのは、非常に有名なアイコンです。それを他の俳優が演じるというのは、とても難しいことでしょう。デイン・デハーン自身も、ジェームス・ディーンの大ファンということもあり『僕には出来ない』と、最初は監督の私に会ってもくれませんでした。
ですが、最終的に会ってくれて、この役を演ると承諾してくれました。いやぁ、デインがいなかったら、私は本当に困っていたでしょう。
デイン・デハーンという俳優は、どんなキャラクターを演っても『ああ、この人は実在するんだな』と信じさせてくれんです。『アメイジング・スパイダーマン2』であれ、『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』であれ、色んな役をやっていますが、どれも『あ、この人は存在するんだ』と観客に思わせる才能を持っています。
ジェームス・ディーンについで言うと、外見を似せることはある程度は出来ると思うんですが、やはり本物ではないわけですよね。その本物ではないギャップ…距離を縮めるのは俳優の能力なわけですが、デイン・デハーンは、そのギャップを埋められる俳優さんだと思いました。
一方、ロバート・パティンソンは、『トワイライト』という小さなカルトフィルムに出て成功しましたが(←コービン監督ならではの冗談(笑))、そのあと彼が求めていたのは、お金ではなく“役者として成長できるような面白い役”でした。つまり彼は、自分の才能を証明することに今一生懸命なのだと思います。
そして、彼が演じるデニス・ストックというカメラマンは、やはりカメラマンとして自分の才能を世に知らしめたいと思っているわけで、ロバートと考え方が似ていると感じました。彼は直感的な俳優ですし、それゆえの苦悶も抱えているわけですが、その点も役と同じだと思ったんですね。だからロバート・パティンソンは、この役をやるのにピッタリだと、理想的な俳優だと思いました。
また、この2人の役者が居ることで、すごく良いエネルギーが現場に生まれましたし、一緒に仕事をしていてとても楽しかったです。
デイン出演に一役買った、意外なアーティストとは?!
―― デイン・デハーンについてお伺いします。最初会ってもくれなかったという彼を、どうやって口説き落としたんですか?
コービン監督「あの、僕を見なかったことにするのはとてもむずかしいと思うんです。こんなに背高いし(190センチ以上の長身です)。
まぁ、とにかくデインは会ってくれなかったわけですが、共通の友人がおりまして。その友人…メタリカのドラマー(ラーズ・ウルリッヒ)なんですが、彼がデインを説得し、僕に会わせてくれました。」
―― では次の質問です。日本のアーティストの中で、監督が興味を持ってらっしゃる方はいますか?
コービン監督「カメラの世界に限って言いますと、森山大道さんとかアラーキー(荒木経惟)さんが凄く好きなので、お会いしてみたいです。また、彼らを写真で撮ってみたいです。」
―― 日本の印象なども併せて聞かせてください。
コービン監督「私は、今まで6回ほど来日しています。前回は『コントロール』という映画を撮って日本に来ましたが、それより前は、U2やスージー・アンド・ザ・バンシーズなどと一緒に、カメラマンとして来日しています。
毎回日本に来るたび、素晴らしい国だと驚かされます。ハイテクでありつつ、人々、色合い、食べ物などのコンビネーションも最高ですよね。僕はベジタリアンなんですが、日本の食べ物の大ファンです。毎回とても楽しいので、もっと長く滞在できればいいな〜と思っています。私の感覚を常に刺激してくれるところ、それが日本なのです。」
メッセージ性よりも、ニュアンスを楽しんで
―― 最後になりますが、作品の見どころを、ポイントを踏まえてお教えいただけますか?
コービン監督「この映画というのは、大きなメッセージを伝えるための映画ではなく、ニュアンスを楽しんでいただく映画だと思っています。
原題は『LIFE』というんですが、その『LIFE』というのは、雑誌『LIFE』の他に、“人生”という意味も兼ねています。誰かに出会い、互いが影響され合うことで展開する人生…。
また、映画では直接言及されていませんが、『LIFE』には“死”も根底に流れているわけです。皆さんご存知のように、ジェームス・ディーンはこの映画のエピソードがあった直後に亡くなっています。『LIFE』の反対側にある“死”というものも、この作品から感じられると思います。
本作に携わることで、微妙なニュアンスの表現も楽しみました。また、先程も申し上げましたが、カメラマンと被写体との関係やバランスというものも、若き2人の俳優さんが素晴らしい演技で見せてくれたので、作り手として凄く楽しかったです。」
―― ありがとうございました。
(コービン監督舞台挨拶 終了)
『ディーン、君がいた瞬間(とき)』は12月より順次公開!
いかがでしたか?U2をはじめ、ローリング・ストーンズ、デペッシュ・モード、ニルヴァーナ、ボブ・ディランなど、錚々たるスターを作品に収めてきた写真家であり、映画監督でもあるアントン・コービン。
時おり冗談を挟みつつ、人懐っこく笑うその姿は、まるで少年のようでもありました。飾らないその人柄に、多くの著名人たちは心を開いていくのでしょうね。
そんなコービン監督がメガホンを取った最新作『ディーン、君がいた瞬間(とき)』は、2015年12月から順次、全国の映画館で公開となります。今もなお、世界中の人々を虜にするジェームス・ディーン。彼の最も美しい時代の光と影を、ぜひ劇場でご堪能下さい!
公式サイト:http://dean.gaga.ne.jp/
(文・取材:大場ミミコ)