さんみゅ~初主演映画 『JK中野~退屈な休日~』撮影現場ルポ!

俳優・映画人コラム

■「キネマニア共和国」

“アイドル戦国時代”と呼ばれて久しい今のアイドル業界ですが、ここに至って久々に、日本映画界が誇る80年代アイドル映画の香りをたたえた作品が誕生しそうな予感です。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.45》

アイドル・グループ“さんみゅ~”主演の映画『中野JK~退屈な休日~』の撮影現場を訪問してきました!

さんみゅ~勢揃い!

懐かしくも明るく清楚なオーラを漂わせる7人のアイドル・グループ!

さんみゅ~は1980年代のアイドル文化華やかなりし頃に松田聖子や早見優、岡田有希子など数々のスーパーアイドルを輩出したサンミュージック・グループが送り出した7人組(木下綾菜、小林弥生、新原聖生、西園みすず、野田真実、長谷川怜華、山内遥)のアイドル・グループです。

13年にメジャー・デビューを果たし、現在9枚目のシングル『トゲトゲ』がオリコンウィークリーランキング第5位にランキングされるなど精力的に活躍中の彼女たちは、どこか80年代正統派アイドルの懐かしくも明るく清楚なオーラを漂わせつつ、今の時代に見合った「静」と「動」のメリハリを利かせた心地よい新しさを伴いながら多くのファンを魅了し続けています。

①CDシングル『トゲトゲ』

さんみゅ~最新CDシングル『トゲトゲ』好評発売中。
なお、TypeA & 通常盤カップリング曲『僕はココにいる』が映画主題歌、TypeBカップリング曲『Good Bye~笑顔のままで~』が挿入歌となります。

さて、そんなさんみゅ~が初主演する映画『中野JK~退屈な休日~』ですが、簡単に記すと彼女らが扮する女子高校生たちが学校をさぼって1日中、中野の街を闊歩するという不思議感覚の作品です。

監督は中田圭。『ホーク/B計画』(98)『新宿インシデント』(08)など香港映画界に精通する俳優として、また『0&1』(01)『非金属の夜』(13)など数々のクール&バイオレンス映画の演出で定評のある彼ですが、アイドル映画はおろか血が流れない映画はこれが初体験⁉

もっとも大の映画ヲタクが高じて映画界に飛び込んだ彼の映画的知識は他の追従を許さないものがあり、今回も「街と少女」をモチーフに、フランスのエリック・ロメール監督作品のような、夏のまばゆくも淡い光の下で少女たちを活写しつつ、日本映画界が誇る80年代アイドル映画をリスペクトしたものにしたいと意欲を燃やして本作に取り組むことになりました……。

緊張の中にもほっこりほんわかな初日の撮影現場

8月も半ばを過ぎた某日午前7時半、中野の駅から近い中野四季の森公園にスタッフ&キャストが集合。夏真っ盛りでさぞ暑かろう……と覚悟していたら、この日は朝まで雨で、意外やヒンヤリ⁉ 「暑くて汗かくより、このくらいのほうが撮影しやすくていいですよ」と、初日を迎えて緊張の中にも余裕がうかがえる中田監督。

まもなくして、さんみゅ~の木下綾菜、西園みすず、野田真実のお三方が到着。それまでぐずついた天気でどんより気分だった現場の空気が、パアッと一気に明るく爽やかに変わったのに、まずびっくり(これがアイドルのオーラというものか!)。

②木下綾菜

学校をエスケープして街に繰り出すノーテンキな主犯みゆき(木下綾菜)

③西園みすず

みゆきに振り回されながらも、突っ込みは欠かさないまみ(西園みすず)

④野田真実

一見周囲に流されているようで、美味しいところはいただくともみ(野田真実)

記念すべき最初の撮影シーンは、学校をさぼって公園にやってきたみゆき(木下綾菜)、まみ(西園みすず)、ともみ(野田真実)の3人が、ゾンビの真似をした小さな女の子(扮するは、監督の友人でもある映画評論家ジャンクハンター吉田さんの愛娘・吉田美桜ちゃん)に驚かされるシーン。
ただしこのゾンビちゃん、いや美桜ちゃん、恥ずかしがってなかなか監督の指示通りに動いてくれず、早くもトラブル勃発か⁉ と思いきや、そんな少々おむづかりのご様子を目の当たりにしたさんみゅ~の面々が「かわい~い!」の連発。
現場も妙にほっこりし始め、おかげで美桜ちゃんも徐々に打ち解けてきて、何とか撮影はクリア。

この時点で、撮影初日の緊張みたいなものも和らぎ、ほんわかした雰囲気が全体に漂い始めていきます。

子役の吉田美桜ちゃんと一緒に

子役の吉田美桜ちゃんと一緒に

続いてはバスに乗っての撮影で、関東バスのゆるキャラ“かんにゃん。”がバス停にてお出迎え。ここでもさんみゅ~のお三方、思わず黄色い悲鳴をあげながら“かんにゃん。”に手を振り~の、抱きつき~の、写メを撮り~の、と大はしゃぎ!
また、そんな光景をスタッフが微笑ましく眺めつつ撮影の準備をし続けていくうちに、現場のほっこり気分は増していくばかりなのでした。

長回し撮影を果敢にこなす演技への意欲

一方で彼女たち、少しでも時間があると台詞の読み合わせを始めたり、役に関する感情や仕草などなどわからないところは積極的に監督に質問したりと、なんとも意欲満々の姿勢。
実際、リハーサルの時点で台詞をとちることもほとんどなく、おかげで基本的にリハ1回本番1回でOKと、撮影の効率もすこぶるよいのです。

そんな彼女たちを見て「ここまでやれるのなら……!」と、中田監督は電車の線路沿いを3人が歩くシーンを、カットを割らずに長回しで撮ることを決定。

もともと80年代の日本のアイドル映画は、相米慎二監督の『セーラー服と機関銃』(81)を代表格に長回し撮影が非常に多いのが特徴で、その緊張感の中からアイドル個々のリアリティを醸し出していくものでしたが、彼女たちならそれが可能なのではないかという監督の賭けは……見事に成功!

お三方とも実に自然な佇まいで、どこかけだるい夏の散歩を体現してくれました。

これを機に、その後の撮影は長回しがどんどん増えていくことになりますが、彼女たちはまったく臆することなく、果敢に挑んではスタッフを感嘆させていくことになります。

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–{次第に演出のノリがギャグ化!?}–

次第に演出のノリがギャグ化していくバスケットボールの試合シーン⁉

8月末日、小さなグラウンドを借りて、みゆきたちがひょんなことから中年オヤジたちのバスケット・ボールの試合に付き合わされるシーンを撮影。

ここでは80年代アイドル映画のもう一つの大きな特徴である、鈴木則文監督の『伊賀野カバ丸』(83)『パンツの穴』(84)などドタバタ・コメディとしてのノリが重視されていて、工藤俊作、新大久保鷹、リカヤ・スプナー、高橋俊次、佐藤永典と、見るからに濃ゆ~い個性派俳優による怪演バスケ試合を、さんみゅ~メンバーはただただあっけに取られながら見守るのみといった、やっている側も見ている側も開いた口がふさがらないオバカなショットの連発!
もう、現場を見ていると、どんどんギャグ演出がエスカレートしていくのがわかる!
果たして、これでエリック・ロメールへ向かえるのか⁉(ひょっとしたら『トラック野郎』になりかねないぞ!)

演出中の中田圭監督

演出中の中田圭監督

しかも、バスケのゴールをなぜか黒子が持っている? このグラウンド、もともとバスケのゴールが設置されていないので、じゃあ黒子に持たせよう。ついでに要所要所に黒子を登場させて、さんみゅ~をサポートさせようという、アホで楽しい便利な試みなのでした。

この後、高円寺の古民家に移り、みゆきの寝起きシーンを撮影。爆発ヘアーでお目覚め木下さんのパジャマ姿はファン必見!

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–{そして雨の中最終日!}–

雨にもめげず、7人全員揃っての撮影敢行そして最終日!

9月1日。この日はさんみゅ~のメンバー全員が勢揃いしての撮影が行われました。

⑤さんみゅ~全員集合!

さんみゅ~全員集合!

ただし、この日は朝から雨!
幸いにも午前中は大学の校舎を借りての室内撮影が主なので、午後に止んでくれるのを祈るのみ。

ここでは教室内でのみんなのやりとりや、前日のさぼりを教頭たちに怒られている3人のシーンなどを撮影。
校長役のベテラン久保新二さんが、さすがのいぶし銀で、なかなかオチャメな味を出してくれています。

午後になっても天気は雨が降ったり止んだりですが、その合間を縫いながら、みんなの登校シーンなどを撮影。
ここでも長回しをふんだんに使っていますが、さんみゅ~メンバーはスタッフの期待に果敢に応えながら、時間との闘いに勝利し続けていきます。

夜は少数精鋭編成で中野の市街地へ移って、さんみゅ~全員の決めショットなどを撮影。
綱渡りのスケジュールながらも、彼女たちの頑張りで見事に全ての撮影をクリアすることができました。

そして9月4日。いよいよ撮影最終日です。

この日は天気も良く、中野の街のあちこちを渡り歩きながら、みゆきたちのさぼり、いや休日エピソードの数々を、楽しくも着実に撮り続けていきます。

この日は志水季里子、川村エミコ(たんぽぽ)、四方堂亘といったユニークな面々と、さんみゅ~が面白おかしく触れ合いながら時間を過ごすといった趣向で、タイトなスケジュールをものともせず、さんみゅ~メンバーは健気にそれぞれの役柄と対峙し続けていきます。

またこの頃になるとスタッフもノリにのって、現場でさまざまなアイデアが飛び交うようにもなっており
(撮影の飯岡聖英さんが「ここで録音マイクが画面の中に入っちゃうのも面白いよね」と言い出して、録音の山口勉さんが絶句しながらも、結局そういうシーンを撮ってしまった⁉)、
とにかくみなさん、さんみゅ~のみんなをいかに可愛く魅力的に描くか腐心しているご様子。
(というよりも、スタッフの目が日に日にハートマークと化しているのがよくわかる?)

それでもさすがに時間が経ち、ついに暗くなってしまいましたが、まだ昼間のシーンがひとつだけ残っています。

中田監督「じゃあ、急に日食が起きたってことにしちゃいましょうか!(笑)」

一同「は~い!(笑)」

スタッフもキャストもみんな笑顔で同意して、難なくそのショットを撮り……、ついにクランクアップ!

まもなくクランクアップ!

まもなくクランクアップ!

クランクアップ直後のさんみゅ~からのコメント

記念すべき初主演映画の撮影を全てやりとげて感無量のさんみゅ~メンバーを代表して、木下、西園、野田のお三方からコメントをいただきました。

木下「初主演の映画で、本当に無我夢中でしたけど、スタッフさんから『こうしたらいいよ』とか細かいところまでいっぱい教えていただけて、とてもありがたかったですし、何よりもお芝居ってこんなに楽しいんだ!って。これからもさんみゅ~としての活動はもちろんのこと、お芝居のほうも頑張っていきたいと思いました」

野田「撮影初日はすごく緊張していたんですけど、現場がすごく明るくて楽しかったので、すぐにリラックスできましたし、楽しく演技ができたと思っています。もう撮影初日からゾンビちゃん相手でしたから(笑)。こんなに長い間メインでお芝居できたのも初めてでしたし、本当に楽しかったです。あっという間の撮影期間でした」

西園「まさか初出演の映画で初主演を務めることができるなんて、夢にも思っていませんでした。本当に感謝しています。もう撮影現場に入るのが毎日楽しみでしかたなくて、監督をはじめスタッフ&キャストのみなさんの雰囲気がすごく良くて、とても良い環境の下でのびのびとやらせていただけて本当に感謝しています」

野田「とにかくもう、本当に楽しかった!」

西園「でも台本読んで現場に行ってみると、全然ガラッと変わっていることも多くてね(笑)」

木下「そうそう(笑)。でもそれがまた楽しくて!」

西園「自分の中にない引き出しがどんどん出てくる感じでした。あそこまで長回しのシーンをいっぱいやるのも初めてで……」

野田「ね、もうびっくり!(笑)」

木下「でも新鮮だったよ!ブルース・リーの物真似とかもやったし(笑)」

野田「さんみゅ~として普段の活動だと、今回みたいにいろんな共演者の方々とこんなに関わることもそうなかったので、すごく新鮮で楽しかったです!」

木下「共演者の方々に、いろいろ自分たちの引き出しを開けていただけたと思っています」

西園「8月はさんみゅ~としての活動もすごく忙しかったのですが、もともとみんなお芝居はすごくやりたかったので今回こういうチャンスをいただけてすごく嬉しかっ
たし、めっちゃ充実してました!」

“アイドル映画”の中から“映画女優”を見出す中田圭監督のこだわりの姿勢

さて、こういった感想を受けて中田監督は?

中田「今回、僕は彼女たちを“映画女優”として念頭に置きたかったんです。そもそも撮影前に打ち合わせしたとき、みんなお芝居をちゃんとやりたいという意欲を持っていることがわかりましたので、その想いを大事にしたかったし、その意味でも今回は彼女たちの“主演映画”であるということを常に意識しながら演出していきました。
今後、彼女たちは別の作品などで演技する機会もあると思いますが、そのときさらに羽ばたけるための手助けになれたかなと自負しています」

後日、ラッシュを見せてもらいましたが、正直もっとドタバタ色が強いかなと思いきや、中田監督が当初の目標としていたエリック・ロメール的な淡くしっとりとした少女たちのちょっとしたエスケープが、あたかもプチ・ロードムービーのように好もしく展開しているのに感嘆しました。

そして、さらに驚きなのがエンド・タイトル!

ここでは80年代アイドル映画の名手でもあった大林宣彦監督の名作『時をかける少女』(83)の……、嗚呼、これ以上はもう言えない!(直に見て確かめてください!)

いずれにせよ、これに音楽や効果音(ここにもまた、さんみゅ~ファンお楽しみの仕掛けがいっぱい!)などが加わって、どのような仕上がりになるか、非常に楽しみです。

さんみゅ~初主演映画『中野JK~退屈な休日~』は、10月31日より開催される第2回中野新人監督映画祭で特別プレミア・オープニング作品としての上映が決定。

場所:中野サンプラザ(15Fフォレストルーム)
時間:10月31日(土)14時~
11月3日(祝)10時~
(※各回舞台挨拶あり)

レッドカーペット&オープニングセレモニー:31日12時~
(詳細は http://ndff.net/ まで)

オープニングセレモニーでは、さんみゅ~も出席してレッドカーペットを歩く予定なので、そちらもお楽しみに!

⑥(これは一番最後にでも)

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(文:増當竜也)