映画情報サイト・ぴあ映画生活が毎週実施している『ぴあ映画初日満足度調査』の調査隊へ、シネマズは前回アンケートを実施した。そこには様々な苦労話やなぜ調査隊を続けているかなどの回答とともに、映画に対する熱い情熱が溢れていた。
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なぜ彼らが調査隊の仕事に魅力を感じ、そして続けていけるのか?もっと深く知るために、今回はぴあ株式会社を訪問して、調査隊をまとめるリーダーの藤原さんと、ぴあ映画生活の阿草編集長に直接話を聞いてきた。
『ぴあ映画初日満足度調査』の中の人に話を聞いてきた
―調査隊のアンケートを拝見していると、とても苦労されることが多いように感じたのですが、インターネットがこれだけ普及している中で、どうして現地調査にこだわっているんですか?
阿草:
これまで、やめようかという話が出てこなかったわけではありません。ただ、映画館に足を運んで“生の声”で聞き取り調査をするっていうのは、現状他にはないんですよね。読者の人も、映画業界の人からも、『ぴあ映画初日満足度調査』を見て、そこから実際に作品を観に行こうと思ったというような声があるので、意義を感じて続けているのはありますね。
『ぴあ映画生活』阿草編集長
―調査隊の方も“生の声”の熱量に関して、すごく重要性を感じている方は多かったように思います。しかし、ウェブ調査への移行などは考えていないのですか?
阿草
現地での聞き取り調査だと、慣れた調査隊が行っているのもあり、うまく観客の方の言葉を引き出せているというのもあると思うんです。ウェブ調査で得られるユーザーの方の表現とは、また違ったものになるんですね。けれど、運用面でいえばウェブ調査というもの自体は試験的にやってみたりはしているんですよ。
―実際にやってみてどうでしたか?
阿草
思っていたよりも声が集まらなかったです。特に200人規模のスクリーンで公開される作品などは、ほとんどと言っていいほど集まりませんでした。調査隊が現地で行っているアンケートだと、初日に来る人は存在を知ってくださっているのもあって、アンケートに答えてくれるのですが「いきなりウェブでやっても…」というのはあったでしょうね。
―届いている声の内容も違いますか?
阿草
自由記入してもらえるようにはしていましたが、あまりコメントが入っていませんでしたね。ただ、慣れの問題もあると思っていて、継続してやっていけばユーザーの方もウェブ調査であっても回答が増えてくることはあると思っています。今後、調査自体を大きくしていくとか、時代に沿った、という考えでいくと、現地での聞き取り調査だけにこだわらなくてもいいかなというのは思っています。状況を見つつ、何がベストかを常に探っていければと。
–{回答の熱量に違い}–
“生の声”は熱量が違う
―そもそも『ぴあ映画初日満足度調査』はいつごろから行われているものなのですか?
藤原
1998年からやっています。まだ雑誌時代だったのですが、当時の編集部スタッフの話によると「評論家ではなく、一般の方が直接観た後に声を拾って、生の声でランキングをつくり、それを読者の方がどんな作品を観るかの参考にしてもらおう」という意図で始めました。
2011年7月に発刊された雑誌「ぴあ」の最終号
―映画のランキングといえば、興行収入や動員数などのランキングがある中で『ぴあ映画初日満足度調査』は他と少し結果に差があったりしますよね?
藤原
そうですね。それもあって、例えば『ぴあ映画初日満足度調査』で1位を獲ったミニシアターの作品が、ロングランした時は嬉しかったりします。ぴあが後押ししたということではないでしょうが、その評判の一端になれたと思うと嬉しいです。
―そういう作品こそお客様の“生の声”の熱量が違いますか?
藤原
回答してくださっている時の熱量に違いを感じます。逆に前評判が高い作品で、実際に行くとお客様の熱がそうでもないなんてこともありますよ。
原宿から渋谷へダッシュしたこともある
―調査隊の方へのアンケートでは、天候面で苦労するなどのお話が出てきていましたが、現場のリーダーとして藤原さんが大変だと感じるところはありますか?
藤原
終演時間がかぶったりするんですよね。調査のやり方としては、終演後のお客様にアンケートを行うわけなので、走ってすぐに次の映画館に行かないといけないなんてことがあります。そこは少し大変ですね。
–{選んだらダメ}–
―人数自体は固定ですか?
阿草
固定です。人海戦術で何百人っていれば、そんな苦労はないのですが、それは現実的じゃないので。基本的には調査隊はアルバイトなんですが、“誰でも出来る楽な仕事”ということはなく、さらに限られた人数で“土曜日の初日限定”で回っているので、人手という点では確かに苦労していますね。
調査隊の現場リーダーをつとめる藤原さん
―他にはどういった苦労がありますか?
藤原
例えば想定していたよりも観客が入っていないなんてことがあると、急遽次の回もそこに人を割いて継続してアンケートを行わないといけないなんてこともあります。最初に決めていた通りのスケジュールが常にできるわけではないので、その場で配置する人員を調整したりするところは苦労する点かもしれないですね。
―その場の状況に応じて、調査隊の人員配置が変わるんですね!
藤原
あとは、電車が止まってしまって、予定していた移動ルートが使えない時などは、他の手段切り替えるなどしています。最悪は走って移動したりとかもありますよ。
―走る!それは本当に体力勝負ですね。
藤原
渋谷の映画館に行く時に、原宿あたりで止まった時は、間に合わないから原宿で降りて渋谷へダッシュしました。土曜日に全部聞き取りしないといけないので、そこは必死です。
―事前準備としては、どういったことをされていますか?
藤原
ひたすら終演時間を調べて並べて、どう回るのが一番効率いいのかを考えています。
―状況によっても行き方を変えるってさっき仰ってたことからすると、映画館への効率よい移動方法は全部頭に入っているってことですよね?
藤原
そこは自信ありますね。こっちの道が空いているとかわかりますよ。
選んだらダメ「常に全員に行くように」
―調査隊として現場に出られていると、毎週必ず会う人なんていますか?
藤原
顔見知りになって挨拶したりなんてこともあります。あの方はドキュメンタリーを好んで観ている人だとか、あの2人は常に夫婦で来る人たちだとか、そういった方は調査隊をやっていると、徐々に増えてきますね。
―しかし、顔見知りになった人は別として、通常はアンケートってなかなか答えてもらえないものじゃないですか?どの人が答えてくれそうとかっていうのはどうやって選んでいるんですか?
藤原
それではダメなんですよ。
―ダメといいますと?
藤原
選んだらダメなんですよね。調査隊をはじめたばかりの人にも「常に全員に行くように」と言っています。観客のみなさんって終わったらパッと出ていっちゃうので、選んでいたら調査の数が全然集まらなくなってしまうんですよね。
–{はじめに遊びがあった}–
これまでも、これからも「ありがとうございます」
―調査隊って、ぴあの中でも特に読者に近い存在ですよね。
阿草
そうなんですよね。顔が見えて、直接声も聴けるので、文章だけでみていると「面白かった」と書かれても、どう面白かったのかの熱量が伝わらない場合もあるんです。現場の調査隊しか分からないというのはありますが、編集にとっても、実際のユーザーの感情が調査隊から感じ取ることが出来るというのは、続けているポイントではあるかもしれませんね。
―ぴあ映画生活のサイト全体にも、その声が活かされているということですね。
阿草
私たちのような会社にいると思うことですが、映画業界って“業界”を意識しがちだなってところがあるんです。けれど、映画ってお金を払ってみるお客様のものだと思うんです。つまり「お客様こそが主役」だと。だから、お客様の視点を常々持っていかないといけないなと感じています。熱量が伝わる“生の声”を聴ける満足度調査の活動は意義があると思っています。
―最後に調査隊として、アンケート協力してくれるみなさんへ一言お願いします。
藤原
観た余韻に浸っている中で、突然アンケートを求めるのは大変心苦しく「お邪魔して申し訳ありません…」と思いながらお声がけをしています。それでもこころよく答えてくださっている方がいることで、映画ファンの生の声を届けることができています。これまでも、そしてこれからも「本当にありがとうございます」それにつきます。
「はじめに遊びがあった」に込められた読者目線の存在
東京都内にある下宿の一室で、創業者である矢内廣社長たちが仲間たちと考え、産みだした「ぴあ」という存在。
「はじめに遊びがあった」という同社の企業理念を原点に、映画好きな人間が「遊び」を楽しむためにはどんな情報が必要なのか?それを常に考え、サービスの開発、向上をはかっている。今回のインタビューを通して、それを直に感じることができた。
ぴあの創刊号の編集後記に綴られた「私たちは見たいものは見たいのです。聞きたいものは聞きたいのです」という言葉は、今も脈々と受け継がれている。
取材協力:ぴあ株式会社
(取材・文/黒宮丈治)
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