ネズミ版『七人の侍』としての 3DCGアニメ映画『GAMBA ガンバと仲間たち』

アニメ

■「キネマニア共和国」

“ガンバ”と聞くと、1970年代に少年少女だった世代は、出﨑統監督の傑作TVアニメ・シリーズ『ガンバの冒険』(75/全26話)を思い起こすことでしょうが、これは斎藤惇夫が72年に記した児童小説『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』を原作としたものでした……。

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.39》

今度は同じ小説を原作に、3DCGアニメ『GAMBA ガンバと仲間たち』として映画化されました!

GAMBA ガンバと仲間たち ポスター

原作、TVアニメ、そして3DCG映画版へ

小説『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』も、TVアニメ『ガンバの冒険』も、そして今回の映画『GAMBA ガンバと仲間たち』も、そして76年に『冒険者たち ガンバとその仲間』として初演、その後『ガンバの大冒険』と改題して全国で上演され続けたミュージカルも、基本ストーリーは同じです。

街ネズミのガンバのもとに、ある日島ネズミの忠太が現れ、イタチによって全滅寸前の島ネズミたちを救うべく、ガンバは仲間のネズミたちと島へ赴き、白く凶暴なイタチのボス・ノロイらと戦うことになるのです。

ただし、原作はタイトル通りガンバと15匹の仲間が登場するのに対し、アニメ版と映画版はガンバを含めて7匹、そしてアニメ版はシジン、映画版はマンプクと、それぞれキャラクターが1匹だけ異なっています。

今回の脚本は『ALWAYS 三丁目の夕日』(05)の古沢良太。
ここで彼はTVアニメ版を意識するのではなく、むしろ原作の精神に立ち返って、あくまでも3DCGアニメ映画としての『GAMBA』の構築に腐心しています。

シジンとマンプク(原作には両方出てきます)、登場するキャラの相違が、そのままTVアニメ版と3DCGアニメ映画版との違いを象徴しているといってもいいでしょう。

そもそも本作は『ALWAYS』や『STAND BY ME ドラえもん』(14)で知られる映像制作会社・白組が、構想15年、製作期間10年、総製作費20億円をかけて取り組んだビッグ・プロジェクトであり、エグゼクティヴ・プロデューサーに『アイアンマン』(08)などのアヴィ・ブラッド、音楽にもベンジャミン・ウォルフィッシュといった海外スタッフを招き、また日本が誇るアートディレクター森本千絵をコミュニケーション・ディレクターとして宣伝ヴィジュアルのディレクションやエンドロールの演出などを任せています。

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–{ベテラン声優・野沢雅子の起用}–

快挙ともいえるベテラン声優・野沢雅子の起用

もっとも、いざ作品に接してみてユニークに思えるのは、ガンバたちがいわば傭兵として島へ赴き、ノロイらと戦うというストーリー展開が、黒澤明監督の『七人の侍』(54)の韻を踏んでいることで、そういえばガンバら仲間の数は、助けを求めに来た忠太を含めるとちょうど7人なのでした。

GAMBA ガンバと仲間たち

つまり、本作はネズミ版『七人の侍』なのです。

これは1940年に生まれ、戦後の混乱から60年安保、高度経済成長期などとともに多感な思春期をくぐり抜けてきた原作者・斎藤惇夫の志向性とも即しているような気がしてなりません。

一方でこの視点は、TVアニメ版には意外に希薄な要素であったようにも思われますが、それはTVアニメ版のほうが冒険色が強く打ち出されていたからではないでしょうか。

対する本作のほうは、およそ90分といった尺も考慮しながら、全体的に闘いに重きを置いた映画としてタイトに構成されている感もあります。

特に後半からクライマックスにかけての闘いは、白組ならではのダイナミックな3DCG映像が効果を発して圧巻。

環境とお財布の中身にゆとりのあるかたは、ぜひ立体視(3D)で鑑賞することをお勧めします。

キャラクターではノロイの声を演じた野村萬斎が適役ですが、それ以上に今回嬉しかったのは、TVアニメ版でガンバの声を務めていたベテラン野沢雅子が、ガンバたちを助けるオオミズナギドリのリーダー、ツブリを演じていることです。

GAMBA ガンバと仲間たち

TVアニメ版と3DCG版とではガンバをはじめキャラクター造型は漫画チックか否かを問う以前に、平面と立体の大きな違いがあり、その意味でも今回のガンバは若手声優の梶裕貴で大正解だったと思いますが、それでも70年代ファンとしては野沢雅子の声も聞きたい。
そんな願いにこたえてくれていることで、本作はTVアニメ版にもリスペクトを捧げた作品になり得ています。

またTVアニメ版のツブリはオス(声は嶋俊介)だったのですが、今回はメスになっています。
かつては少年役を得意としていた大ベテランの名声優・野沢雅子ですが、ここにきて女性の声を担う機会も増えているようで、その意味でも今回、彼女がメスのツブリ役で登場し、後進を頼もしくバックアップしているのが感無量なのでした。

正直、同世代の友人などから「TVアニメとイメージが違いそうだしなあ」といった、未見の段階で既に否定気味な意見もよく聞くのですが、既に見ることができたこちらとしては「イメージが違っているからこそ面白いし、でも“何か”が同じだよ」と言い返すことにしています。

それが『GAMBA ガンバと仲間たち』の本質です。

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(文:増當竜也)

『GAMBA ガンバと仲間たち』は2015年10月10日(土)全国ロードショー!
公式サイト http://www.gamba-movie.com/


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