9月26日(土)、TOHOシネマズ日本橋にてノイタミナムービー『屍者の帝国』の完成披露試写会が行われ、鷲崎健さんの軽快なMCで始まった舞台挨拶には、ジョン・ワトソン役の細谷佳正さん、フライデー役の村瀬歩さん、ハダリー・リリス役の花澤香菜さん、牧原亮太郎監督が登壇しました。
34歳で夭折した小説家・伊藤計劃(いとう・けいかく)が残したプロットを元に、芥川賞作家の円城塔が書き継いだ同名小説を劇場アニメ化した今作。
死者蘇生技術が発達し、屍者を労働力として活用している19世紀末のロンドンが舞台。医学生ジョン・H・ワトソンは親友フライデーとの生前の約束で、違法に彼の屍者化を試みたことをきっかけに、100年前に最初の屍者を生み出した技術が記載されているというヴィクターの手記の捜索という任務を受けることに。魂の再生は可能なのかをテーマに、各国を巡る彼らの壮大な旅を描いた作品です。
アニメ作品ならではのテープオーディション
登壇者の自己紹介の後、MCによるQ&Aが行われました。
まずは、“自分の役が決まった時の気持ち”について。
細谷「原稿を読んで録音したものを提出するテープオーディションがありまして、役が決まったときは原作の存在知らなかったので、もらった原稿を読み込んでイメージ作りをたくさんしました。以前『ハル』という作品でご一緒した牧原監督とまたお仕事ができるのもうれしかったですね」
村瀬「フライデーはきーきーした感じの声を出すのが大変で、画がなかったので、シーンをどう作っていくかイメージが沸きづらくて難しかったです。テープオーディションの時はきちんとしゃべっているセリフだったんですけど、自分なりに考えて役作りをしたので、決まったときはすごくうれしかったというのが大きいです。きーきーしている時と普通の声の変化をふまえて決めてくださってありがたいです」
花澤「原作を読みながらテープオーディションのレコーディングをしたんですが、“このセクシーお姉さん、私にできるのだろうか”って思いながら楽しく録らせていただきました(笑)。オーディションの前に、Project-Itohのナレーションをやらせていただいていたので、この作品にも関われたらうれしいなと思いました」
–{苦しかった胸の内を吐露}–
監督が苦しかった胸の内を吐露
続いて“改めて映画を見て、どうでしたか?”という質問。
細谷「伊藤計劃先生と円城塔先生にワトソンとフライデーの関係性を重ねて観たというか、円城先生の個人的な思いや気持ちが反映されているのかなと感じました。そう思うとキャラクターのセリフもより突き刺さってくる。1回じゃ足りない、何度も観たい作品だと思います」
村瀬「収録しているときから音声の技術が本当にすごいと思っていて。普通だと入らないような微かな息づかいを録音した時に、ちゃんと録れているのかなと思っていたんですけど、モニタールームで確認させていただいたらリアルに音が録れていて。CDなどの2次元的な音と違って、立体的な音が感じられるので劇場で観ることに意味があると思いました」
花澤「SFものって普段あまり読まないので、行ったり来たりしながら原作を読んでいたんですが、そんなにも濃い物語をこの時間にまとめたというのがすごいと思いました。ナレーションで世界感がすぐわかるし、わかりやくまとまっていて、とにかくすごいなって。そういうのは、監督は最初の段階から立ち会って一緒にやっているんですよね?」
と、ここで花澤さんから逆に質問が飛び出しました。
牧原監督は「脚本は2年くらいかけてやったんですが、テキストが多いので全部入らないんですね。だから脚本化というのは、何が一番大事なのかを突き詰めるための作業ですね。最初に伊藤さんの残された序文みたいなものが60ページくらいあって、伊藤さんの言葉なので最初は絶対必要だと思っていたんですけど、そこは使ってないんですよ。伊藤さんと円城さんの関係性とか言葉を引き継ぐことが一番大事だと考えたときに、そこを外したんです。それはすごく怖かったです。作っているときはフライデーの言葉を信じて行動するワトソンのような気持ちでした。それが正しいかどうか返事をもらえないので、ひたすら辛い。誰か助けてという感じだった」と回答。
それに対して花澤さんは「お客さんの反応を見てちょっと安心されたんじゃないですか?」と返します。
「そうですね。本当にお客さんのところにたどり着くまでが長かった」と、牧原監督は作品が公開になるまでの苦悩を告白していました。
キャストから監督に質問攻め!
花澤さんからの質問の流れで、トークはキャストから監督への質問大会に。
「山澤さんの眉毛はなんであんなに太いんですか(笑)?」と花澤さんが質問すると、「日本男児たるものこうあるべきですよね。モデルがいるわけではなくて僕が好きな眉毛なんです(笑)。存在感を出したかった」と牧原監督は答えていました。
村瀬さんからも「監督が映像化において一番大切にしたものはなんですか?」と質問が。
「伊藤さんの残した言葉に円城さん自身も縛られて、それによって円城さんも変化していって救われるところもあってこの原作ができたと思うんです。それで、目に見えない言葉や存在しないものが自分をしばるというか、自分を変えるというのがすごく不思議だな、と。そこが核なのかなと思ってやっていました」という回答に「それを聞いて納得したんですけど、監督も細谷さんもワトソンなんだなって思います」と村瀬さん。
細谷さんも自身の演じたワトソンの言動についてある質問をしますが、監督の答えを聞いて、「“これは何の意味があるんだろう?”っていう疑問の答えになる選択肢がたくさんあるので、ぜひ皆さんにもまた劇場に足を運んでいただき、何度も観てほしいです。それが言いたかった!!」と言い切り、観るごとにいろんな解釈が生まれる今作の魅力をアピールしていました。
–{泣いてしまうかも…}–
「劇場でも泣いてしまうかも…」
続いて、オフィシャル用のフォトセッションに移りましたが、監督がムービーで会場の様子を撮ったり、アーティスト活動もしているMCの鷲崎さんがアルバムの告知をしたりと、撮影中にはなかなかない自由な空気を客席も楽しんでいるようでした。
そして、登壇者からの挨拶で舞台挨拶が締めくくられます。
細谷「何回も観ることで、また違った感想や感動が生まれる作品だと思います。そして確信に触れずに(笑)、面白い作品だよ、と拡散していただけるとうれしいです」
村瀬「アニメーションに注目がいっているこんな時代ですが、こんなにも挑戦している作品はないと思います。あと、EGOISTさんの主題歌もいいですね! 普段あまり泣かないんですが、試写で泣いちゃいました。作り手の愛情が詰まった作品です。劇場でも泣いてしまうかもしれないですが、僕を見つけてもそっとしておいてください(笑)」
花澤「この作品から私が感じたテーマは“魂ってなんだろう?”ということです。でも、普段からいろんなものに魂があると思って生活すると、心がクリーンなるような気がしていて。それぞれの感想もあると思いますので、いろんな人と感想を語り合うのもいいと思います」
監督「この映画を作っている佳境の時に、僕は伊藤さんが亡くなったのと同じ34歳で、伊藤さんの言葉や偉大さに問いを突きつけられながら作っていたような感じがしていて。その問いに自分なりに答えを出して2時間の映画にできたと思います。なので、まずは伊藤さんに観ていただいて、その上でこうしてお客さんに映画を届けられて、今自分は幸せです」
【Project Itoh】3部作の第1部『屍者の帝国』はTOHOシネマズ新宿ほか全国劇場にて現在公開中。
また、第2部『虐殺器官』は11月13日(金)、第3部『ハーモニー』は12月4日(金)より公開です。
(文:大谷和美)
【Project Itoh】公式サイト http://project-itoh.com/
https://www.youtube.com/watch?t=3&v=T_kEd-bi3L0