このところ他の邦画会社に先んじて数々の名作映画をリーズナブルな価格でリリースし続けている松竹のブルーレイ(BD)ですが、その中に驚くべきタイトルを発見……!
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街 vol.32》
“永遠の美魔女”由美かおる、若き日の主演映画が2本も!
『同棲時代―今日子と次郎―』に始まる山根成之監督の異色アイドル映画路線
由美かおるといえば、何といってもTV『水戸黄門』シリーズのかげろうお銀役でお茶の間に知られるところで、特に毎回欠かせない入浴シーンは、世の男性たちをほんわかさせてくれるものがあったわけですが、もともと彼女は1967年に歌手デビューして人気を博し、73年『同棲時代―今日子と次郎―』で映画初主演を果たしました。
これが現在BDで発売中なのです。
監督は山根成之。68年に貞永方久と共同で『復讐の歌が聞こえる』を監督した彼は、5年後の73年に本作で単独監督デビューを果たし、以後数多くの青春映画を発表し、注目を集めていきます。
特に郷ひろみ主演の『さらば夏の光よ』(76)はキネマ旬報ベスト・テン第9位にランクインし、その後も『おとうと』(76)『突然嵐のように』(77)『ダブルクラッチ』(78)など郷ひろみ主演映画を連打し、彼を俳優として大きく飛躍させました。
もっとも山根監督は自分のことを「お子様ランチ監督」と自嘲気味に発言することが多かったようです。
それは郷ひろみをはじめ、浅田美代子『あした輝く』(74)、西城秀樹『愛と誠』(75)、桜田淳子『愛情の設計』(77)などなど、当時の人気アイドルを主演に据えた作品を撮ることが多かったからで、確かに当時そういった映画はマスコミや洋画ファンなどから見下される傾向がありました。
しかし発言とは裏腹に、山根監督のアイドル映画は着実に“映画”として評価され、ひいては80年代アイドル映画ブームのクオリティの高さの元祖として再評価されるべきものが多々あります。
また、山根監督は77年から80年にかけて松竹が提供する文化放送の深夜ラジオ番組『オレンジ通りの映画館』でパーソナリティを務めていました。
映画監督がDJを手掛ける先駆け的存在でもありましたが、中身も松竹の新作映画を紹介しつつ、映画界の裏話なども語り、日本映画そのものを応援していくという姿勢の内容で、当時の映画ファンにとって貴重な情報源にもなっていました。
もはやカミングアウトするまでもなく、私のコーナー・タイトルが、この山根監督の番組からもじったものであることをおわかりいただけたかと思います。
(ちなみに『キネマニア共和国』のほうは、当時同じく文化放送で『シネマニア共和国』という深夜洋画ラジオ番組からいただいたものです)
–{さらにフルヌードを披露}–
1970年代というカオスの時代を象徴する作品群
話がずれましたが、ただしそんな山根作品は演出法が非常に独特で、赤などの原色を画面いっぱいに用いた今でいうサイケな映像技法が特徴的で、『同棲時代』もそういった仕掛けが多々用意されています。
正直なところ、今の目でそれらの技法を見て古めかしく思われるかたも多いかもしれません。
ただし、それも映画の表現が自由かつアナーキーになり始めていた70年代日本映画界の一つの模索として、歴史的に微笑ましく受け止めてもらえたら嬉しく思います。
『同棲時代』はまた、男女の関係性においても、特に現代の若い女性たちからすると噴飯ものの描写が多く感じられることでしょう。
特に妊娠したヒロインに対する男の態度など、同じ男のこちらが見ていてもぶん殴りたくなるほどです。
しかし、これもまた男女の関係性が従来の保守的なものから徐々に変わり始めていく70年代の流れの中で、まだまだ未成熟な部分を露呈させていたと捉えていただきたい。
ひねくれながらも甘えん坊の男をペシミスティックに描きたがる傾向も、学生運動やヴェトナム戦争反戦活動など世界が大きく変動していった当時はあったのかもしれません。
本作のヒロインは同棲という形態に踏み切るあたり、当時としては新しかったかもしれませんが、実際はまだまだ受け身的な存在であり、その一方でウーマン・リブなど女性たちの運動が始まり始めた時期でもあったことを踏んだ上で、見ていただけたらと思います。
また、ここで由美かおるはラブシーンも含む美しいヌードを披露しています。
ここにもエロとグロとヤクザによって生き永らえた70年代の日本のみならず世界的な映画界のありようが浮かび上がってくるわけですが、このあと彼女は同じ上村一夫原作の『しなの川』(73)ではフルヌードを披露。
この2作が続けてBD化されたことは、山根&野村監督のファンとしても、日ごろ語られることの少ない作品なだけに嬉しい限りではあるのです。
ちなみに由美かおるはその後も『ノストラダムスの大予言』(74)『エスパイ』(74)『超高層ホテル殺人事件』(76)『火の鳥』(78)などに出演するとともに、その美しい裸体を披露し続け、セクシャルな女優としても評判になっていくわけですが、意外にも彼女は当時から男性のみならず女性ファンの支持も得ていました。
それは彼女が、同性から後ろ指をさされることのないほどに自分の美を保つための努力を怠ることなく、ある意味ストイックにセクシャルな魅力を発散させていたからで、まただからこそ後の『水戸黄門』シリーズでも、入浴シーンを見ながらデレデレしている亭主に突っ込みを入れつつ、奥様方も意外と寛容に見ていられるお茶の間の空気を作り上げることができたのだと思います。
またそうでなくては、あの国民的番組に彼女が長年出演し続けることなどできなかったことでしょう。
私などは彼女に『ルパン三世』の峰不二子とも共通した魅惑的な色気や佇まいを感じることがあります。
たとえば当時の彼女を起用して、実写版『ルパン三世』が作られていたら、どうなっていたことでしょう?
(そういえば、彼女が出演していた『ノストラダムスの大予言』の同時上映は、実写『ルパン三世 念力珍作戦』でした)
いや、今でも峰不二子の母親みたいな役で出演したりして、そこで不二子ちゃんもびっくりの美魔女ぶりを披露してくれたりしたら、それはそれで面白いかも⁉
……などなど、やはり1970年代というのは、サイケでキテレツで、しかしどこかとんがっていて、何もかもカオスとして取り込んでしまうような、そんな興味深い時代でもあったことを、『同棲時代』『しなの川』の由美かおるは教えてくれているようにも思えます。
みなさんも、この2作を通して、迷宮の70年代カオスの入り口に立ってみてはいかがでしょうか?
(文:増當竜也)