編集部公式ライターの大場ミミコです。さて、皆さんは『彰義隊』をご存知でしょうか?
彰義隊は、最後の将軍・徳川慶喜の警護と、江戸の治安を目的に結成された武力隊です。幕末に名を馳せた『新撰組』や『白虎隊』と同様、激動の時代に翻弄され、新政府軍による銃弾の前に散る運命を辿ります。新政府軍と彰義隊の戦いは「上野戦争」と呼ばれ、上野の山一帯が戦場と化しました。特に激戦となったのは、上野寛永寺の旧本坊表門(通称;黒門)付近と言われています。
その彰義隊に参加し、波乱の運命を辿る3人の若者を描いた映画『合葬』が、2015年9月26日、いよいよ劇場公開となります。そして先日(9月15日)、彰義隊ゆかりの地・上野寛永寺で映画『合葬』の大ヒット祈願&彰義隊御供養イベントが行われました。
黒門の前で、撮影で使われた衣装を身に纏う岡山天音さん、瀬戸康史さん、柳楽優弥さん、門脇麦さん(右から)。そして袴姿も凛々しい小林達夫監督の5人が登壇されました。
しめやかに執り行われた御供養から、黒門前での会見まで、その一部始終をシネマズby松竹では“ほぼ再現”レポートさせていただきますので、ぜひ最後までお楽しみ下さい。
澄んだ秋空に響く読経に、思わず背筋が伸びる面々
朝の10時。まずは、動乱の時代を駆け抜けた彰義隊の英霊を供養する「彰義隊忌」の法要からスタートです。杉谷義純導師をはじめ、寛永寺の僧侶の方々のお導きにより、粛々と御供養の儀が執り行われます。キャストの方々&監督は、緊張の面持ちで1人ずつ抹香をあげられました。
ひととおり終えると、読経の調子が少し変わったのを合図に、映画『合葬』の大ヒット祈願の儀へと引き続きました。こちらはお経というより、意味がはっきりと解る言葉で、ヒットを願う文言を歌うように読み上げている感じでした。その旋律を神妙に聞き入るキャストの方々&監督。切なる願いが、少し離れたところに居た筆者にも伝わりました。
歴史の爪痕残る黒門で、平成の志士達が揃い踏み
御供養と祈願のあとは、小林監督とキャストたちの挨拶&記者会見ということで、取材陣一同、旧本坊表門(黒門)に場所を移しました。するとMCが「今、皆さんのちょうど正面にございます黒門に、大小さまざまな穴が空いているのが分かりますか?」と仰られました。ふと見ると、あらゆるところに穴が開いてます。
これ、当時の弾痕と言うのだから驚きです。青く囲った箇所が穴ですが、パッと見ただけでこれだけの穴があいているということは、相当激しい戦であったことは想像に難くありません。
そして、MCの挨拶を合図に黒門の扉が開き、4人の若きキャストと小林監督が現れ、ゆっくりと歩みを進めてきました。
–{登壇者から一言ずつご挨拶}–
登壇者から一言ずつご挨拶
ここから先は、登壇者のご挨拶や映画についてのトークが行われましたので、なるべくそのままに近い状態で、お話された内容を掲載したいと思います。
まずは、無骨で一本気な主人公・秋津極を演じた、柳楽優弥さんの挨拶から。
柳楽さん「柳楽優弥です。本日はありがとうございます。僕にとって初めての時代劇で、色々なチャレンジが出来た作品でした」
続いて、極の勧めで何となく彰義隊に入隊した吉森柾之助を演じた瀬戸康史さんの挨拶です。
瀬戸さん「皆さま、本日はどうもありがとうございます。吉森柾之助を演じた瀬戸康史です。今ここに立ってみると、当時の彰義隊の方の声が聞こえてきそう感じがします。今回の『合葬』という作品に参加して、すごく“今”というものを感じる作品だと思いました」
また、演じた柾之助という人物を通して、作品の世界観をこのように語りました。
瀬戸さん「柾之助は、志がハッキリせず、物凄く迷っていて、悩み続ける役です。今を生きる僕達にすごく近いと思いましたし、今の日本、そして世界で、若者・子供が犠牲になっている現状というものも、映画『合葬』を通して感じました。なので、現代を生きる僕らにもメッセージが届けられる作品になったと思っています」
次に、極の許嫁・砂世の兄でもあり、2人が彰義隊に入隊することに意義を唱える福原悌二郎を演じた岡山天音さんのコメントへと続きます。
岡山さん「福原悌二郎役を演じさせていただきました、岡山天音です。今日は朝早くからありがとうございます。合葬はこの時代の日本に、凄く存在意義のある作品だと思います。なので宣伝の方、ひとつ宜しくお願いいたします(笑)」
これには会場がドッと湧き、終始どことなく漂っていた緊迫感が、一瞬にして緩んだようにも感じました。
キャストのラストを飾るのは、悌二郎の妹で極に婚約を破談される砂世を演じた、門脇麦さんです。
門脇さん「本日はお集まりいただきありがとうございます。砂世役を演じました門脇麦です。当時を生きた彰義隊の青年たちの中で、『(砂世は)どう居るべきか』『(砂世を)どう演じるか』を常に考えた非常に難しい作品でした。今の若者が観るべき映画になっていると思います」
そして挨拶のトリを飾るのは、劇場映画初挑戦の若き巨匠・小林達夫監督です。
小林監督「本日はありがとうございます。監督の小林達夫です。今、あらためてここに立ってみると、こんなに日常的に訪れられる場所で、150年あまり前に凄惨な事があった事がとても不思議に感じられます。この場所から映画の公開を始めていけることを、非常に清々しく思っています。どうそ宜しくお願いいたします」
感謝の気持ち&ストーカー…柳楽優弥の発言に釘付け!
キャスト達のご挨拶の次は、作品や役柄についてのQ&Aコーナーになりました。
まずは柳楽さんへの質問が、MCの方から投げかけられました。
MC「こうして今、当時の弾痕も残った黒門…そして彰義隊ゆかりの地に立った気持ちをお聞かせ下さい」
柳楽さん「一年くらい前、撮影の始まる少し前ですかね。彰義隊の隊員を演らせていただく報告をするため、寛永寺にお邪魔させていただきました。ということで、ちょうど一年振りにここに立ってるのですが、撮影する前とした後とでは感じが違います。不思議と『ありがとうございます』という気持ちになりますね」
MC「公開を目の前に控えて、皆さんにお伝えしたいことはありますか?」
柳楽さん「今回、瀬戸さんとW主演という形で演らせていただいた作品が、大きな映画祭(モントリオール世界映画祭)にも出品できて本当に嬉しいです。『時代劇』という部分と、『青春』という部分がより強く描かれた作品です。新しい事へのチャレンジがとても多い作品だったので、たくさんの方に観てもらいたいですね」
柳楽さんの次は、門脇麦さんに質問が向けられました。
MC「砂世を演じる上で考える部分もあったというお話でしたが、時代の流れに翻弄される砂世の役どころは、現代の女性である門脇さんの目にはどのように映りましたか?」
門脇さん「今こうして生きている私の感覚では、図り得ない部分が多すぎて…。しかも砂世は16歳です。その年齢を経験している1人の女性として、同じ人間として、絶対に共通している部分もあると思います。シーン数が本当に少なかったのですが、自分の中で本質をより感じる部分をたぐり寄せ、集約させて撮影に臨みました」
MC「そんな中での柳楽さんとのシーンでしたが、演じてみていかがでしたか?」
門脇さん「柳楽さんとのお芝居は、実はワンシーンだけでしたよ…ね?」
そこで門脇さん、確認するように隣の柳楽さんを向くと、柳楽さんも頷きながら照れくさそうな笑みを浮かべてマイクを握り直しました。
柳楽さん「前回、ストーカーしてるんですよ」
・・・え???・・・
一瞬、会場に大きな「?」マークが浮かびましたが、柳楽さんのお話は淡々と続きます。
柳楽さん「いや、別の映画の話なんですけどね(笑)。今回は先入観を持たれないよう言っておきますけど、もうしてませんから!」
この発言には、一同大爆笑!!
「余計なこと言っちゃいましたね」と、頭を掻いた柳楽さん。こんな調子で、時おり小林監督や門脇さんの様子を伺いながらも、場を盛り上げてくれました。劇中で、主人公の極が憑依したかのような迫真の演技を見せていた柳楽さんですが、お茶目でサービス精神旺盛な一面を見せていただき、そのギャップに体温が2度上がった筆者でした。
–{京都やモントリオールでの秘話も飛び出し、盛り上がりはピークに}–
京都やモントリオールでの秘話も飛び出し、盛り上がりはピークに
その後、MCの質問は岡山さんに向けられますが、そのやりとりでも柳楽さんの意外な一面が露わになります。
MC「彰義隊のメンバーは、柳楽さん、瀬戸さんなど同世代の俳優さんが多く、“仲間”的な印象を受けました。お2人と一緒にお仕事してみて意外な一面はありましたか?」
岡山さん「この仕事を始める前から、柳楽くんはクールな人だと思っていたので、彼との共演はドキドキでもありました。京都で撮影開始だったのですが、その前日に3人でホテルにチェックインしたんですけど、まだそんな喋ったこともない柳楽くんが、すっごい嬉しそうに僕のところに来て『やったー!角部屋だー!』ってはしゃいでて。それまでのイメージとはだいぶ違うなって思いました」
柳楽さん「いいエピソードじゃない!」
岡山さん「いいエピソード(笑)…はい、そうですね。幼なじみの空気っていうのを作ってくれてました」
柳楽さん「そういう意味では、3人の中では瀬戸さんが一番年上だったので、一番相談しましたよね。瀬戸さんに」
岡山さん「そうですね、黙々と聞いてもらいました。京都の街を3人で散歩したりしてね。青春の瞬間って感じが良かったですよね」
柳楽さん「甚平みたいなのを着てね〜」
このイケメン3人が甚平姿で京都の街を闊歩しただなんて、凄すぎるシチュエーションです!それにしても、物語のように3人で友情を育んでいたとは、微笑ましい限りですね。
そして、質問は瀬戸康史さんへと続きます。瀬戸さんは、今年度のモントリオール世界映画祭の公式上映に小林監督と参加されました。質問はおのずと映画祭の話となり、現地での反応を瀬戸さんはこのように答えていました。
瀬戸さん「フランス語でスピーチをさせていただいたのですが、そこで皆さんが聞いてくれる態勢になっていただけたので、すごく嬉しかったです。お客様と一緒に『合葬』を見終わってから、監督と一緒にロビーに出た時に『すごく斬新だった』『とても良かったよ』と色んな方々が直接言葉をかけてくれたことに感動しました」
また、着物姿で会見に臨んだことに対しては
瀬戸さん「女性の方は割と着物で映画祭に行かれたことがあるらしいのですが、男性ではあまりないみたいで。最初、不思議な感じで見られましたけど、すごく似合ってると言われて嬉しかったですね」と答えてらっしゃいました。
瀬戸さん、フランス語でスピーチの動画
個性と若さ…キャスト各々の才能を小林監督が絶賛
最後は、若い才能を一手に束ねた小林達夫監督が「監督から見た、キャスト達のそれぞれの印象をお聞かせ下さい」という質問に答えられました。
小林監督「まず柳楽さんですが、画面の中での小さな動きや、ちょっとした目の動きひとつひとつに存在感が溢れていました。
瀬戸さんは、すごく丁寧に芝居をされる方だなと。撮影を終わった後、編集などで大きなスクリーンで見るのですが、彼の演技には色んなものが映っているのが印象的でした。
岡山さんの役は、猪突猛進というか、勢いのある役なんですけど、いわゆる時代劇の根幹みたいなものを体現してくれたんじゃないかなと思っています。
門脇さんの役は、(彰義隊および上野戦争という)男たちが中心の物語の中で、その男たちの姿をどういう風に女性が観てたのか、どのように次の時代につなげていくのかという難しい役回りだったのですが、見事に演じきってくれたと思います」
映画『合葬』は、9月26日にいよいよ全国公開!
歴史が大きく動いた江戸末期。彼の地・上野で青春を生き急いだ若者たちは、約150年後に自分たちを題材にした映画が作られ、幕府軍の象徴であった“黒門”で映画の記者会見が行われるとは、夢にも思わなかったことでしょう。
そんな彼らの儚い人生を切り取り、幻想とリアルの狭間を見事に表現した傑作『合葬』は、2015年9月26日より全国の劇場にて一斉公開となります。剛毅な極、実直な悌二郎、柔和な柾之助・・・それらのキャラクターを演じる柳楽優弥、岡山天音、瀬戸康史が織りなすアンサンブルを、ぜひスクリーンでお楽しみ下さい。
(取材/大場ミミコ)
(C)2015 杉浦日向子・MS.HS/「合葬」製作委員会