2006年にシングル「シンクロ」でメジャーデビューを果たし、リスナーのみならず、多くのアーティストから高い支持を得ているシンガーソングライターの秦基博さん。力強く、繊細で伸びやかな歌声は、「鋼と硝子でできた声」と称されている。
同氏の下積み時代を知る人物を訪ね、出会いから現在に至るまでの思い出話を聞き、「Q&A」に答えてもらった。
初ライブの地「F.A.D YOKOHAMA」
秦基博さんがはじめてライブハウスのステージに立ったのは、1999年のこと。友人のパンクバンドの紹介がきっかけだという。
横浜は音楽の街で、JR関内駅とJR石川町駅周辺には、多くのライブハウスが点在している。今回の目的地は、横浜の老舗ライブハウスだ。
最寄り駅はJR石川町駅だが、ひとつ隣のJR関内駅から出発した理由は、横浜らしい風景を眺めることができるから。
駅前にある横浜スタジアムを横目に進むと、横浜中華街が見えてくる。
横浜中華街を抜けると、秦基博さんが1999年から2006年のメジャーデビューまで定期的に出演していたライブハウス「F.A.D YOKOHAMA」がある。
キャパシティは、スタンディングで380人。メージャーアーティスト、インディーズアーティストが出演するライブハウスでは、横浜で最も大きい店舗のひとつだ。
「F.A.D YOKOHAMA」のオープンは、1996年。まもなく20週年を迎える店内には、過去の歴史が刻まれている。
–{君の声に匹敵する人はいない}–
「君の声に匹敵する人はいない」
秦基博さんの下積み時代を知る、「F.A.D YOKOHAMA」の橋本社長に話を聞いた。
橋本社長は「F.A.D YOKOHAMA」のオープンから、数えきれないほどのアーティストを見ている。
その中でも秦基博さんの初ライブの印象は鮮明で、「とにかく声の質に驚いた。低音・中音・高音のバランスが良く、こんなヴォーカリストは見たことがない」と語る。ただし、ライブ活動をはじめた当初は決して自信にあふれていたというわけではなく、プロを目指していると公言はしていなかったらしい。
以来、橋本社長が「君の声に匹敵する人はいない」と応援し続け、今でも月に一度は会う関係だという。
「F.A.D YOKOHAMA」の楽屋。壁中に、過去出演したアーティストのスタッフパスが貼られている。
当時の秦基博さんが聴く音楽は、邦楽が中心。橋本社長が「洋楽も聴いたほうがいい」と、
さまざまなジャンルの音楽を勧めたそうだ。
音楽以外には映画、小説、マンガも。理由を聞くと、「音楽だけ聴いていると、視野がせまくなるから。俺が勧めた作品が、少しは基博の曲に影響を与えているかもしれない(笑)」と少し照れくさそうに教えてくれた。
秦基博さんが何度も通った、楽屋からステージへの入口。
初ライブのお客さんは、この広いフロアに5人前後。現在の活躍からは考えられないが、1999年から2005年までの6年間、フロアが満員になることはなかったという。
メジャーデビュー後の2007年に凱旋ライブを行い、フロアを大いに沸かせた。
19歳からライブ活動をはじめ、大学卒業を控えた秦基博さんから「プロを目指してもいいですか?」と相談を受けた橋本社長は「君の人生だから君が決めればいいけれど、デビューが成功ではない。デビューして第一線で活躍し続けることが成功だ」と言い、メジャーデビュー以降、時間をかけてファンを増やし、成功を形にしている。
最後に、9月9日に発売された新曲「Q&A」にちなんで、橋本社長から秦基博さんへの質問を聞いてみた。
「長い付き合いの中で、俺と基博はライブハウスの社長から、親戚のおじさんみたいな関係になった。家族ぐるみの付き合いもあるしね。だから、自分の将来、この先の未来をどう考えているの? と聞いてみたいかな」
「F.A.D YOKOHAMA」の近くにある、橋本社長と秦基博さんが打ち合わせで頻繁に利用していたファミリーレストランは、コンビニエンスストアに形を変えていた。
–{映画『天空の蜂』}–
映画『天空の蜂』は9月12日より全国ロードショー
映画『天空の蜂』は、東野圭吾さんが1995年に発表した小説を実写化した作品。長年”映像化は絶対に不可能”と言われていたが、『20世紀少年』『SPEC』シリーズの堤幸彦監督が見事形にした。
ヘリ設計士役の江口洋介さん、原発設計士役の本木雅弘さんをはじめ、多数の豪華キャストが出演していることでも、注目を集めている。
主題歌を制作したのは、秦基博さん。映画『天空の蜂』を鑑賞後、自分自身が感じた気持ちを楽曲に詰め込んだ書き下ろし作品だ。タイトルは、「Q&A」。
最新鋭の超巨大ヘリ《ビッグB》が、突然動き出し、小学生の高彦を乗せたまま、福井県にある原子力発電所「新陽」の真上に静止した!遠隔操作によるハイジャックという驚愕の手口を使った犯人は〈天空の蜂〉と名乗り、”日本全土の原発破棄”を要求。従わなければ、大量の爆発物を搭載したヘリを原子炉に墜落させると宣言する。
映画『天空の蜂』公式サイト http://tenkunohachi.jp/
取材協力:F.A.D YOKOHAMA http://www.fad-music.com/
(企画・構成・文:大川竜弥/写真:すしぱく)
(C)2015「天空の蜂」製作委員会