今年は女優・夏目雅子の没後30周年にあたり、数々の催しやソフトや出版物の発売などが行われます。
もっとも今の若い世代の中には、彼女がどのような女優であったか、あまりよく知らないかたも多いのではないでしょうか。
というわけで……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街~Vol.14》
伝説の女優・夏目雅子の魅力を再確認したいと思います。
お嬢様的イメージから女優への麗しき飛躍
夏目雅子は1957年12月17日生まれ、神奈川県出身。子どものころにヴィットリオ・デ・シーカ監督の名作『ひまわり』を見て女優に憧れたとのことで、76年にテレビ『愛が見えますか』オーディションに受かって、本名で女優デビュー。
翌77年、カネボウ化粧品「クッキーフェイス」CMキャンペーンガールに選ばれ、そのくっきり日焼けした健康美が話題となり、これを機に夏目雅子と芸名を改め、78年には『トラック野郎 男一匹桃次郎』のマドンナに抜擢されました。
同時にテレビ『西遊記』で何と三蔵法師に扮し、性別を超えた美しくも気品ある僧侶の佇まいもお茶の間で人気を博しました。
80年にはドラマ『虹子の冒険』で初主演。またNHK『ザ・商社』では、それまでの明るくさわやかなお嬢様的イメージを払拭する女の業を体現。
さらには舛田利雄監督の戦争映画『二百三高地』で愛する者を戦地に送り出す悲しみを見事に描出し得たヒロイン像は、超大作の看板に堂々対峙する貫録を示し、女優として大きく飛躍しました。
「なめたらいかんぜよ!」のインパクト
(c)東映
そして82年、五社英雄監督の大ヒット作『鬼龍院花子の生涯』で土佐の侠客の養女に扮し、一族内外の壮絶なる抗争を見届けていく彼女の熱演は大いに注目され、「なめたらいかんぜよ!」の名セリフとともに一大ブームを巻き起こし、映画女優として確固たる地位を築き上げます。その直後には舛田監督の『大日本帝国』でも日本とアジア、二役の女性を見事に演じきりました。秋には第3次世界大戦の危機を描いた問題作『FUTURE WAR 198X年』で初のアニメ声優にも挑戦しています。
83年は『小説吉田学校』で政権の座にしがみつく父・吉田茂首相を悲しみの眼で見据える愛娘や、森崎東監督『時代屋の女房』では「何も言わず、何も聞かずが都会の流儀」とうそぶく謎のヒロインなどを好演。
(c)1983 松竹株式会社
そして相米慎二監督の『魚影の群れ』では、海に魅せられ、海に散っていく漁師の過酷な世界を舞台に、父親役の緒形拳を相手に堂々ぶつかりあう娘を熱演し、さらに一皮むけた大女優としての萌芽をここに示しました。
(c)1983 松竹株式会社
84年は篠田正浩監督『瀬戸内少年野球団』で戦後を生き抜くヒロインを好演、またこの年は結婚も果たしますが、そんな幸せ絶頂のさなか、翌85年2月に彼女は急性骨髄性白血病で突然の入院を余儀なくされ、そのまま同年9月11日、帰らぬ人となってしまいました。
–{30年経っても消えない人気の秘密}–
30年経っても消えない人気の秘密
一見はかないお嬢様風ではあれ、一方では「クッキーフェイス」CMでの健康的な初期のイメージや、いざとなったら芯のある強い女性としての存在感を、作品のキャリアが増えていくたびに示し続けてきた夏目雅子の死は、まだ27歳という若さもあって、当時、日本中に衝撃を与えました。
しかし、それから30年経った今もなお語り草になるほどの伝説として彼女の存在は輝き続けています。
それはやはり類まれなる美貌はもとより、女優としての憂いと存在感を見事に銀幕などに焼き付け得た、今の日本の若い俳優たちに欠けているオーラを兼ね備えていたこと、しかもそれを開花させる直前に逝ってしまった悲しみもまた伝説を大きく牽引する要因になっているのでしょう。
また、今こうして振り返ってみると、実に涙が似合う女優であったことにも気づかされますが、彼女の死の前後から涙を拒否した快楽的バブルの時代が到来したことも象徴的な気がしてなりません。
もし生きていれば、今頃は日本どころかアジアを代表する貫録の名優として、国際的にも羽ばたいていたことと思われます。
本当に惜しいとしか言いようのない、そんな夏目雅子の没後30年として、まず9月2日に松竹から『魚影の群れ』『時代屋の女房』ブルーレイ(各3300円+税)が、9日には東映ビデオから『鬼龍院花子の生涯』ブルーレイ(4700円+税)が発売されます。
また東京の名画座・早稲田松竹にて夏目雅子の出演映画を2本立て上映。銀幕で彼女の魅力を再確認する上でまたとない機会です。
●9月5日~7日
『鬼龍院花子の生涯』『時代屋の女房』
●9月8日~11日
『魚影の群れ』『瀬戸内少年野球団』
※命日の11日にはトークイベントも予定
(料金:一般1300円 学生1100円 シニア・小学生900円/すべて2本立て料金)
9月4日にはキネマ旬報社からムック『女優夏目雅子』が発売(1800円+税)。彼女の出演映画解説や監督や共演者などのインタビューも掲載されています。
個人的には『魚影の群れ』『時代屋の女房』のブルーレイ化および上映が嬉しいところですが、これを機会に今回披露されない映画やテレビドラマなどにもスポットが当たるようになればいいなとも思います。
最後に、夏目雅子の遺志を継いで設立された「一般財団法人夏目雅子ひまわり基金」もご紹介しておきます。
これは平成5年に母:小達スエが代表になり設立。
骨髄移植の啓発やドナー登録の呼びかけ、また治療の副作用や脱毛に悩む方へのカツラの無償貸与なども行っています。
これらの活動資金の賛助会員の申し込みやお問い合わせは下記まで。
〒110-0005
東京都台東区上野1-3-7亀甲ビル3F
Tel:03-3836-2550
(10:00~18:00/土日祝は除く)
E-mail: natsume-masako@himawari-kikin.com
HP: www.himawari-kikin.com
(文:増當竜也)