塚本監督:人間はむしろちっぽけな存在―『野火』終戦記念日トークショーレポ

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現在公開中の塚本晋也監督最新作・映画『野火』の終戦記念日トークショーが、昨日2015年8月15日に東京・渋谷のユーロスペースにて行われた。

極限状態に陥った人間の心の葛藤を描いた作品『野火』

野火

本作は、『鉄男』『悪夢探偵』などで知られる塚本晋也監督が、大岡昇平氏が1951年に発表した同名小説を映画化、第2次世界大戦中のフィリピンを舞台に、極限状態に陥った人間の心の葛藤を描いた作品。

第2次世界大戦末期のフィリピン・レイテ島に取り残された日本軍の戦いと、肺病のため部隊を追われた1人の兵士の姿を追う。塚本晋也監督自らが、監督と主演、脚本、編集、撮影、製作の6役を務めた意欲作。

野火 塚本晋也監督 森優作

終戦記念日に行われたトークショーでは、塚本晋也監督と、本作で永松役を演じた森優作さんが登壇し、本作にかける思いや撮影秘話などを語った。

野火 塚本晋也監督

冒頭「映画を見終わったばかりの人たちの前に、うっとうしい僕が出てきたら悪いな…」とコメントした塚本晋也監督は「この映画は何十年も前から撮ろうと思っていたんですが、ずっと終戦記念の日に上映できるように思っていたものです。思っていた期間がすごく長かったので、本当にその日が来てしまったのが少し信じられないような考えでございます」と感慨深げに語った。

続けて、森優作さんへはどんなアドバイスをしたのかと聞かれ「森くんにはアドバイスは無かった」とコメント。「ただ、痩せてくださいというのと、日焼けしてくださいというのと、髭を伸ばしてくださいといったんですが、これをやるのが大変なんですね。ダイエットって非常に大変なんで、精神も鋭敏になっていって、兵隊さんの状態にだいぶ近くなっていくんです」と、撮影前に役者陣やスタッフに同様の指示を出したことを語られました。

–{人間はちっぽけな存在}–

野火 森優作

本作で描かれたリアルな当時の時代背景について聞かれた森優作さんは「戦争といっても、日本映画の戦争が自分の中でスタンダードだったので『野火』は自分にとって衝撃的だった。実際にこういうことがあったんだという事実を知れただけでも、自分の中で考え方が変わったので、すごい経験になった」とコメント。

大自然のものすごい美しさと、人間だけが泥んこになっていく

野火 塚本晋也監督

また、塚本晋也監督も「森くんが実感がないという以前に、30歳上の僕の世代でも、僕が生まれた時は高度成長の真っ只中で、戦争の面影はまったくなかったんで、僕も全く戦争のことよくわかりませんでした。『野火』を作るって思ってからもよほど意識的に勉強しないと戦争が実際にどういう時系列でどうなったかというのは全然わかんない」と戦争について語られました。

本作で監督でありながら主演をつとめたことに関して「実は自分が演じるというのは最後の手段だったんで、これは自分が出ないで作りたかったんですけど、何十年も考えていた企画だったんで、一心同体みたいになっていた。意識の底にある『野火』への想いが、作り手と演じ手として一心同体にした」と、演じる上では無意識な状態で演じていたと、観客からの質問に対して答えた。

野火 塚本晋也監督

市川崑監督作の『野火』を意識したかとの質問には「市川崑監督は大尊敬して、監督作の『野火』も観ているんですが、あくまでも原作の影響が強かった」と語り「ひたすら原作に近寄りたいと思っただけだった。大自然のものすごい美しさと、人間だけが泥んこになっていく、自分は人間はむしろちっぽけな存在として、自然との対比を描きたいと思った」と語られました。

その後も時間いっぱいまで観客からの質問に答え、拍手の中トークショーが終了となりました。

映画『野火』は渋谷・ユーロスペース、立川シネマシティほか全国順次公開。

(C)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

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