8月13日、新宿ピカデリーにて『日本のいちばん長い日』の大ヒット御礼舞台挨拶が開催されました。
『日本のいちばん長い日』は同名のノンフィクション小説を原作に、陸軍大臣・阿南惟幾をはじめとする、太平洋戦争の裏側で終戦の為に身を尽くした実在の人物を描いた作品です。
今作は25万人以上を動員、興行収入3億円を超えるヒット作となっており、15日(土)には上映劇場も全国で45スクリーン追加され、計256スクリーンでの拡大公開となります。
大ヒットを記念し行われた今回の舞台挨拶では、役所広司さん、本木雅弘さん、松坂桃李さん、原田眞人監督が登壇しました。
陸軍大臣・阿南惟幾を演じた役所さんは「お客さんが入って映画が完成すると思っております」と大ヒットの喜びを語っていました。
一方、昭和天皇役の本木さんは「映画が公開されてから、映画関係者の方や同級生などから反響が届いてホッとしています」と胸の内を明かします。
以前の舞台挨拶での「2度、3度見るとより深く楽しめる」という本木さんの発言を受けて、MCが客席に2回以上見た人を尋ねると多くの手が挙がり、キャスト陣も「おぉ!」と声を上げていました。
畑中健二少佐を演じた松坂桃李さんは「2回目以降のお客様もいると聞いて、本当にうれしく思っております。ぜひ3回目もよろしくお願いします」とアピール。
また、原田監督は、今作の上映館が約210館なのと、現在公開中の『ジュラシック・ワールド』の上映館が約800館ということを比較して「800頭の恐竜と竹槍をもって210人が戦っている感じなんですけど、これが結構いい勝負になっています。これからもよろしくお願いします!」と意気込みを見せていました。
公開後、周りの反響は?
公開から一週間経っての舞台挨拶ということで、話題は周囲の反響に。
役所さんは「水野晴雄さんに似ていると言われてちょっとショックでした」と笑いを誘うと、MCが「多くの女性から、阿南大臣の夫として、父としての顔が見れたので、作品にも入り込みやすかったという声がたくさん届いています」とコメント。「僕の友達からはそういう感想はなかったです」と役所さんは少し照れた表情を浮かべていました。
それに対して、本木さんは「同級生も初日に行ってくれた方もいて、“一見何もなんでもないようだけれども人物をちゃんと讃えている役所さんの滋味深い演技に、思わず抱いてくれと思った”というメールもありました(笑)」と話していました。
また、「初日には息子さんもご覧になられたそうですが」というMCからの質問には「私が想像していた以上に息子は全体を理解していて、細かいことは抜きにしても、感情を追って見ていけたようです」と答え、「なぜもっと早く終戦にこぎ着けなかったのか、というジレンマを彼なりに感じていたようです」と話すと、「メールを僕のところに送ってください。全部お答えします(笑)」と原田監督。
松坂さんは、今回劇場に足を運んでいる同世代も多いということで「同じ世代として必要なことだと、とても感じています。僕はこの作品をきっかけに、70年前に起きたことを見つめ直して今を考えて、これから先の人たちに伝えていこうという意識がすごく高まったし、そういったことを僕らの世代がこれから担っていかなきゃいけないと非常に思いました。なので、同世代の人に劇場に足を運んでもらえるのは嬉しいし、もっともっと若い世代の人たちに観てほしいと思います」とメッセージを送りました。
大ヒット御礼の舞台挨拶とあって、公開直後の緊張感ある初日舞台挨拶とはまた違った、和やかな雰囲気のトークセッションとなっていました。
–{平和への思いを表す一文字}–
平和への思いを表す一文字
登壇者がそれぞれ考える、”平和への思い・願いを表す一文字”を書いた紙を貼った提灯を灯す企画も行われました。
役所さんは「知」。
「戦争だけでなくて、いろんな国やその歴史を知るということ。やはり、世界のいろんな国の人を知ることが平和につながると思って、この字にしました」
本木さんは「祈」。
「国を思い、世界の平和を願っていた昭和天皇を演じさせていただきましたが、願うという字よりも祈るという字から感じるものはより慎ましく、厳かな感じがあるのでこちらにしました。祈念、祈祷などそういった響きは日本のみならず、世界に通じる言葉だと思います。自分でも、平和を祈るという思いを忘れないように過ごしたいという思いです」
松坂さんは「人」。
「平和を壊すのも、作るのも、守るのも、これから先、平和な時代を築き上げていくのも、僕たち”人”だと思ったので、その祈りを込めてこの字を選びました」
原田監督は「命」。
「”命”というのは、映画のセリフの中にも入れようと思っていたんですが、平和を考えるとき、奪われた命だけでなく、奪った命のことも両方考えなくてはいけないと思うんですね。そういう意味で”命”を選びました。文字がにじんで見えるのは、失敗して何回も書いたので、それを重ねて貼っています。いくつもの命というつもりです」
四者四様に選び、書かれた一文字には、登壇者それぞれの思いが込められていました。
どこから来て、どこへ行くのか
「ああいう提灯を作ったりして、宣伝部も必死です(笑)」と客席の笑いを誘った役所さん。
「8月15日に向かって、テレビ、新聞でいろいろな特集が組まれて、身につまされることが多々あります。戦争について表現するということは、デリケートで難しいことがたくさんあると思いますが、この映画のバックグラウンドには戦争や飢えに苦しんでいる人たちがたくさんいるということをあらためて感じることができました。この映画を観て、そういうところまで感じていただけると、この映画が豊かな映画になると思います。今後ともこの映画をかわいがってください」と、作品への愛情を感じさせる挨拶となっていました。
原田監督は、言葉足らずで1967年に岡本喜八監督が作った『日本のいちばん長い日』をけなしているように受け取られたところもあるかもしれないと話しつつ、岡本監督が“やりたいけど当時出来なかったこと”を受け継いで作っていきたいと考えていたことを明かします。
さらに、今作の段階では語れなかった昭和天皇を囲む状況も描く、もうひとつの『日本のいちばん長い日』が10~15年後頃に登場するであろうということをふまえ、「この作品についてだけでも、どこから来て、どこへ行くのかをみんなで考えて伝えていかなくてはいけない。また、今の日本映画で描けない部分について、いろんな形で議論できる社会になってほしいですね。軍を無くして国を残すという決断をした、この意識だけは全うしつつ、この映画がひとつの指針となって、次の『日本のいちばん長い日』が作られる時代が来るように祈っています」と今作に続く作品に期待を込め、挨拶を締めくくりました。
『日本のいちばん長い日』は現在全国ロードショー中です。
また、今回の舞台挨拶の会場にもなった新宿ピカデリーでは、作品をより深く理解できるパネルも展示されていますので、ぜひ足を運んでみてください。
(文・写真:大谷和美)
https://www.youtube.com/watch?t=66&v=LxEWiHiiCkk
(C)2015「日本のいちばん長い日」製作委員会
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