映画ファンの間では長らく「潜水艦映画に外れなし」といったジンクスがありました。残念ながら、最近はこの言葉を裏切る作品もないわけではありませんが(あえて作品名は挙げませんが!?)、それでもおおかたの潜水艦映画は、映画的昂揚をもって見る者を堪能させてくれます。
というわけで
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.6》
潜水艦映画の最新作『ブラック・シー』をご紹介。
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戦争&軍隊映画としての側面を裏切る新手の冒険映画
潜水艦映画といえば、真っ先に思い浮かぶのがアメリカ軍駆逐艦とドイツ軍Uボートのスリリングな戦いをスポーティかつダイナミックに描いた『眼下の敵』(57)や、海中の地獄を冷徹に描いた、そのものずばり『U・ボート』(81)、日本映画にも和平交渉の密使を乗せた潜水艦乗組員たちの忸怩たる想いを描いた『潜水艦イ‐57降伏せず』(59)といった名作がありますが、これらはみな第2次世界大戦を舞台とした戦争映画です。
その他、核ミサイルの使用をめぐる米原子力潜水艦内の確執と反乱をダイナミックに描いた『クリムゾン・タイド』(95)や、また最近作『ファントム/開戦前夜』(13)のように米ソ冷戦時代の秘話を描いたものも多くありますが、総じて潜水艦映画は軍隊映画として機能するものが大半で、軍事メカとしての側面が強い潜水艦ゆえ、当然といえば当然でしょう。
しかし、この『ブラック・シー』は軍隊映画ではなく、黒海の海底に沈んだUボートの中に眠る金塊を探す男たちの姿を描いた冒険映画です。
主人公は元海軍のイギリス人で、サルベージ会社をクビになって途方にくれていたところ、仲間から金塊の話を聞きつけ、スポンサーを探してロシアの旧式ディーゼルオンボロ潜水艦をゲットし、イギリス&ロシア混合の乗組員12名で黒海へ潜っていくのです。
–{極限状況の中、欲望に狂わされていく男たち}–
極限状況の中、欲望に狂わされていく男たち
潜水艦とは海に閉ざされた密室空間であり、ふとした事故で命を奪われる危険な場所でもあります。当然、乗組員の精神状態は緊迫し、そのストレスがスリリングなドラマを生む。これが潜水艦映画の醍醐味のひとつでもありますが、本作も国を違える者たちの、時に言葉が通じないことでのイライラも含めたストレスなどが閉塞空間とともに高まって、やがて大きな確執へと発展していきます。
ネタバレは避けたいので、これ以上は劇場でじかに確認していただきたいところですが、あらくれ男たちのプライドやエゴ、そして欲望が狂おしく交錯していく艦内のおぞましくも赤裸々な様子は実にリアルで、早くこの場から脱出したくなるほどの臨場感を伴っています。
堕ちた男の野心をリアルを体現するジュード・ロー
監督はドキュメンタリー映画出身で、ウガンダ大統領アミンの狂気を描いた初の劇映画『ラストキング・オブ・スコットランド』(06)で主演のフォレスト・ウィテカーにアカデミー賞主演男優賞をもたらしたケヴィン・マクドナルド。本作の男たちの赤裸々な描写もまた、この鬼才ならではのものでしょう。
主演はイギリスの人気スター、ジュード・ロウ。ここでは落ちぶれた男の悲哀と、名誉回復に焦る野心の両面を見事に体現していますが、もともと二枚目ながら最近は中年の熟した男ならではの危険な香りなど、先輩でもあるマイケル・ケインに似てきたなと思わされるものもあります。
この夏、ハリウッド超大作や日本のアニメ映画などで盛り上がる映画界ではありますが、こういった一見地味ながらも映画通を唸らせる秀作・佳作・快作もたくさん公開されています。情報をキャッチして、ぜひあなただけの新たな名作を見つけてみてください。
(文:増當竜也)
提供:カルチュア・パブリッシャーズ 配給:プレシディオ
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