シリーズ最高傑作の 『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』!

映画コラム

■「キネマニア共和国」

トム・クルーズが毎度身体を張ってのアクションのみならず、スパイ映画としての醍醐味を堪能させる人気シリーズ第5作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』がいよいよ8月7日より日本公開。これで今年の夏休み映画の大作洋画はほぼ出揃った感じではありますが、アメリカ本国では7月31日に公開されるや3日間で5600万ドル(およそ69億円)の興行収入を上げ、全米を含む世界34カ国でオープニング№1を記録、しかも多くの国ではシリーズ最大、さらにはトム・クルーズ主演映画史上№1の大ヒット・オープニングとなりました。こうなると、日本はどうなるのか興味津々ではあります。
というわけで……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.4》

では、『ミッション:インポッシブル』シリーズを改めてチェックしていきたいと思います。

TVシリーズから手探りの映画リメイクへ

そもそも映画『ミッション:インポッシブル』シリーズとは、66年から73年まで全米で放映された大ヒットTVドラマ『スパイ大作戦』(原題“MISSION:IMPOSSIBLE”/実行不可能の意味)を原作としています。内容は、アメリカ政府が正面から手を下せない極秘任務を遂行するスパイ組織IMF“IMPOSSIBLE MISSION FORCE”のメンバーの活躍を描くもので、毎回顔を見せることのない司令からメンバーに対してオープンリール型のテープレコーダーなどを用いてミッションが下り、最後に「なお、このテープは自動的に消滅する」と告げられると、テープが自然発火して消滅するといったシーンはあまりにも有名です。今もDVDなどで見ることが出来ますが、時代をしのばせるメカや風景などもお楽しみです。

トム・クルーズは、プロデューサーとして初の映画に、このTVシリーズのリメイク『ミッション:インポッシブル』(96)に挑戦するとともに主演。監督には『殺しのドレス』(80)や『アンタッチャブル』(87)などのブライアン・デ・パルマを起用。ラロ・シフリンによるTVシリーズの主題曲を映画版でもメインテーマに用いるあたり、このシリーズに寄せる彼の気質が大いに感じられますが、主人公イーサン・ハントは映画オリジナルのキャラクター。またTVシリーズ第2期からIMFリーダーを務めたジム・フェルプスをジョン・ヴォイトが演じていますが、TV版のフェルプス(ピーター・グレイブス)とは全くの別人とみなしておいたほうが賢明です(実際、この部分がTVシリーズの出演者やファンの間で当時激しく非難されたものでした)。

ストーリーは、CIA工作員リスト漏洩事件を調べていたIMFメンバーが次々と殺され、イーサン・ハントが内通者として疑いをかけられるという、かなりシビアな内容で、一方ではクライマックスに列車を用いたド派手なアクションなども用意されていますが、その中でデ・パルマ監督ならではのトリッキーな映像センスがところどころ露見される印象に残る出来ではありましたが、やはりどこか手探りなイメージも残ってしまいました。

第2作『M:i-Ⅱ』(00)は、感染したら20時間で死亡してしまうウィルスを強奪した元IMFメンバーをイーサン・ハントらが追うというものですが、ここでは香港アクション映画の雄ジョン・ウー監督を起用し、スパイ色よりもスタイリッシュなアクション色を際立たせた作りになっており、スローモーションに二挺拳銃などなどウー監督の美学炸裂。もはやTVシリーズのライトユーザーにさえも「これは『スパイ大作戦』か?」と思わせるものもありましたが、結果としてはここでTV『スパイ大作戦』と映画『ミッション:インポッシブル』シリーズは別物にしたいという、トム・クルーズの宣言にもなりえていたような気もします。

第3作から再始動されていくシリーズ独自の魅力

第1&2作と手探りだったシリーズが新たに再生するのは、第3作『M:i‐Ⅲ』(06)からかもしれません。監督にTVシリーズ『エイリアス』(01~06)や『LOST』(04~10)などで製作総指揮&脚本&監督&音楽を手がける多彩ぶりで注目されていた若手J・J・エイブラムスを迎え、現場を退いて教官になっていたイーサン・ハントが、かつての教え子が捕らえられたことから現場復帰し、真相を究明していくまでを描いていきます。
全体のテイストとしては再びクールなスパイ・アクションに戻りつつ、IMFメンバーのチーム・プレイの妙までうかがえる辺り、シリーズの新基軸にもなっているようにも思えます。J・J監督はこれが出世作となり、09年には『スター・トレック』を、そしてついに今年は『スター・ウォーズ フォースの覚醒』(15)を監督するに至るのでした(このあと、第4、5作と、本シリーズの共同製作総指揮も)。

第4作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11)は、クレムリン爆破テロ犯人の汚名を着せられたIMFメンバーが、核兵器戦略家の恐ろしき陰謀と対峙していく姿を描くもので、イーサンがドバイのブルジュ・ハリファをよじ登るシーンなど高所恐怖症はまともに見ていられないほどのものがありますが、このあたりからトム・クルーズのスタント熱(?)にも磨きがかかってきたようです。
ここでユニークなのは、監督に何と『Mr.インクレディブル』(04)『レミーのおいしいレストラン』(07)などアニメ畑で高い評価を得てきたブラッド・バードを起用したことでしょう。もっとも彼としては、初の実写演出に何の戸惑いもなく、得意のCGも存分に駆使しながら作品のダイナミズムを増幅させることに成功。ここでの実写体験にはまってしまったようで、続けて実写第2作『トゥモローランド』(15)を演出しています。
なおサブ・タイトルの「ゴースト(幽霊/即ち実在しない)プロトコル(取り決め)」これはアメリカ政府が一切関与もしなければ弁護もしないIMFの立場を指すもので、それに応じてIMFメンバーのチームワークもいちだんと強く描出されるようになっていきました。

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–{最新作『ローグ・ネイション』に登場する峰不二子!?}–

最新作『ローグ・ネイション』に登場する峰不二子!?

そして最新第5弾『ミッション・インポッシブル/ローグ・ネイション』は、既にトム・クルーズのスタントなしの空飛ぶ飛行機しがみつきアクションが話題となっていますが、実はこれって文字通りの序の口でしかなく、劇中は空だけでなく水中、地上と、ありとあらゆるところでのとてつもなくスリリングなアクションがテンポよく堪能できるとともに、CIAの思惑でIMFが解散されて以降のメンバーが、水面下に隠れて活動する謎のテロ組織“シンジケート”(実は第4作目のラストに、この組織に対するミッションが出ていた!)を追い詰めていくストーリーとが巧みに融合。さらには『ルパン三世』の峰不二子もかくやの謎の美女スパイ(レベッカ・ファーガソン)の登場によって、特に日本の映画ファンには親しみやすい(?)テイストが全編を貫いています。
第1作から登場のルーサー(ヴィング・レイムス)、第3作からのベンジー(サイモン・ベック)、第4作からのブラント(ジェレミー・レマー)と、IMFメンバーも続々レギュラー化していくことも、シリーズとしての楽しさを増しています。特に今回はベンジーが大活躍! 一方で周りの女性たちからは、『アベンジャーズ』シリーズのホークアイとは異なるジェレミー・レマーのアダルトな魅力にぞっこんとの声も聞きました。
監督は『ユージュアル・サスペクツ』(95)でアカデミー賞脚本賞を受賞し、2000年に『誘拐犯』で監督デビューを果たしたクリストファー・マッカリー。彼は『ワルキューレ』(08)『アウトロー』(12/監督も)『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)とトム・クルーズ主演映画脚本を手がけており、勝手知ったる仲間ということでも実にツボを押さえた演出でトムだけでなくキャスト全般の魅力を引き出しつつ、ダイナミックなシーンの数々をバランスよく披露しています。
サブタイトルの“ROGUE NATION”は“ならずもの組織”といった意味ですが、それは本作におけるシンジケートであり、同時にイギリスやアメリカを指しているのかもしれません。

これまでは第4作『ゴースト・プロトコル』をシリーズ最高傑作と讃える声が多かったのですが、私自身は本作がそれ以上の出来であると思いました。同時に、イベント的にも突出した超大作揃いのこの夏休みにおいて、“映画”としての醍醐味を堪能したければ、洋画メジャーでは個人的に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)と本作を強く推します。

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(文:増當竜也)

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