Bonjour!まだまだフランスかぶれが抜けない、編集部公式ライターの大場ミミコです。
いや〜、フランス映画って素晴らしいですよね!!
さてさて、2015年6月26日に開幕したフランス映画祭。筆者はその日、最初に主催者のイザベル・ジョルダーノさんの取材をさせていただき、その直後に開会セレモニーに出席し、そしてオープニング作品『エール!』を鑑賞するというハードなスケジュールをこなしていました。
これまでのレポートはコチラ(↓)。
『フランス映画祭2015』オープニングセレモニー再現レポート
そして、フランスに旋風を巻き起こした感動作『エール!』を拝見させていただいたのですが、これがもう、素晴らしいのなんのって!!
書きたいことは山ほどありますが、感想などは後日たっぷり書かせていただくとして、今回は上映後に行われたトークショーの模様についてレポートさせていただきますね。
その前にまず、映画『エール!』について、軽く内容をお話しておきましょう。
映画『エール!』のあらすじ公開
《あらすじ》
フランスの郊外のとある村で、家族と仲良く暮らす女子高生・ポーラ。威勢の良いパパと、女子力高めのママと、お調子者でオタク気質な弟…どこにでもある、イマドキ風なポーラの家族ですが、普通の家族とは決定的に違う事がありました。それは、ポーラ以外全員、耳が聴こえないというハンディキャップを背負っていること…。
ある日ポーラは、学校の先生に歌の才能を見出されます。「パリで勉強して、才能を開花させるべきだ!」。しかし、耳の聞こえない家族は、ポーラの才能を信じることができません。
自分を犠牲にして家族の為に尽くしてきたポーラは、初めて自分の才能に気づき、自立を考えます。しかし、自分が旅立った後のことを思うと、夢を持つことにも罪悪感を感じてしまいます。果たしてポーラはパリで羽ばたくのか?それとも家族との幸せな生活を維持するのか?
・・・以上が、大まかなあらすじです。
彼女や家族の葛藤と成長を描くと同時に、障害者への特別意識をフラットにするような提案と仕掛けが盛り込まれた、斬新かつ感動のストーリーとなっております。
–{トークショー開始!}–
難しい…しかし、やり甲斐のあるテーマ
トークショーに登壇したのは、『エール!』でメガホンを取ったエリック・ラルティゴ監督と、主演女優のルアンヌ・エメラさん。
まずはじめに、司会者からこのような質問が投げかけられました。
質問:手話が中心に成り立つ家族の物語を、どのように思いついたのですか?
質問に対し、エリック監督は優しい笑みを浮かべながら、次のように語りました。
エリック監督「この話には、そもそもヴィクトリア・ドゥヴォスのシナリオがありました。彼女はフランスでは有名なコメディエンヌです。彼女の父親のアシスタントが、今回上映された『エール!』の主人公・ポーラ同様、家族で1人だけ健常者だったそうです。その話をヴィクトリアがシナリオにし、それを僕が10ヶ月かけて脚色しました。そして『エール!』という映画が誕生しました。」
質問:そのような背景のシナリオを読んで、難しそうだから止めておこうとは思いませんでしたか? それとも、チャレンジし甲斐のある内容だと思ったのでしょうか?
エリック「もちろん難しいと思いました。現実的に映画化するとなると、さまざまな問題があります。例えば手話であったり、手話をしながら歌を歌ったりすることです。しかも撮影当時のルアンヌは、まだ若い思春期の子供で、集中力もありませんでした。でも私は、映画を撮ることでドッキリするのが好きなんです。今回も例外にもれず、ルアンヌからドキドキさせられたので良かったです。」
歌手&女優のシンデレラガール・ルアンヌ・エメラ
質問:ルアンヌさんが、この映画に出演したきっかけは?
ルアンヌ「フランスでThe Voiceという音楽オーディション番組があるのですが、私はその番組に出場していました。…で、それを見たエリック監督が採用してくれたんです。最初にスクリーンテストを受けに行ったのですが、それが本当に最低で…。なぜ私が採用され、今ここに座っているのか分かりません。それくらい奇跡的な出来でした。」
質問:彼女を気に入って呼んでみたものの、スクリーンテストでNGを出したのですか?
エリック「確かにスクリーンテストの結果は全て悪く、今思うと『なぜ彼女を採用したのだろう?』と不思議でなりません。しかし1つの錬金術というか、化学反応が起こったのでしょうか。無意識に『彼女しかいない』と思ったんです。
彼女は瑞々しさ、自然さ、自発さを併せ持つ、類まれなる歌手です。演技では、テスト中で3秒ぐらい素晴らしい瞬間があったのですが、一本の映画を作る際には、その素晴らしい瞬間を1時間半続けなければなりません。きっと私は、それに成功したのかもしれませんね(笑)。」
–{「好きな事を極めるのは苦にならない」}–
「好きな事を極めるのは苦にならない」とルアンヌ
質問:言葉のセリフと手話のセリフ、どちらが難しかったですか?また、手話のセリフを理解するために何か準備をしましたか?
ルアンヌ「私はこの映画のために4ヶ月間、手話を覚えるのに1日4時間ほどレッスンを受けました。確かに手話を覚えるのには時間がかかりました。ただ元々私は言語を覚えることは得意だったので、その辺りは有利でした。
かと言って、決して簡単ではありませんでした。しかしながら難しくもありませんでした。自分のやりたい事、好きな事をやるのは、それほど苦にならないものだと思います。」
質問:ルアンヌさんが撮影中に一番難しかったことは何ですか?
ルアンヌ「演技を覚えるのが一番大変でした。私にとって『エール!』は、初めての映画経験なんです。ですから一番難しかったのは演技をすることです。でも、エリックが随分助けてくれました。」
会話に手話をつけるルアンヌ・エメラさん
脇を固める大物との共演について
質問:フランスを代表する大女優カリン・ヴィアールさんと、いまフランスで最も勢いのある俳優フランソワ・ダミアンさんとの共演についてはいかがでしたか?
ルアンヌ:「感動もしていましたし、ドキドキもしていました。しかし彼らは、すぐに助言をしてくれました。」
質問:母親役のカリン、父親役のフランソワの2人こそ、すべてを手話で演じるわけですが、エリック監督はどのような点に注意しましたか。?
エリック「手話というのは、ある意味ダンスの振付のようでもあり、見ていてとても動きの多いものです。まず私は、手話のリズムを覚えました。手話というのは、それを見て実際に聴覚障害者が理解できないといけない。撮影をしている中で、画面に手元が映らないと意味を成さないんです。常に画面のフレームの中に演者が入るように意識していました。」
質問:ルアンヌさんは初の演技ということですが、次回はまた歌う役をやりたいですか?それともまったく違う役をやりたいですか?
そしてもう1つ、エリック監督への質問です。最後のデュエットのシーンでミュートになる箇所がありましたが、どのような意図がありましたか?
司会:まず1つ目の質問を、ルアンヌさんがお答え下さい。
ルアンヌ「今のところは解りませんが、次回の作品では歌わなくても良いと思っています。」
エリック「では、泳ぐ役なんてどう?」
ルアンヌ「ハハハ…じゃあ、泳ぐ役柄で脚本を書いて下さい(笑)。とにかく、いろいろな役にチャレンジしてみたいですね。」
エリック「そうそう。音を消したシーンですよね。あれは、観客に音の聞こえない聴覚障害者の気持ちになって欲しかったからです。
もちろん私たちは聴覚障害者のような感覚を得ることはできませんが、想像はできるはずです。あのシーンで音を消すことによって、健常者が彼らのように耳の聞こえない感覚を味わうのです。数分という短い間ですが、そういうのを感じ取って欲しかった。」
司会:音を消すことに、周りからの反対はなかったのでしょうか?
エリック「もちろん。プロデューサーはとても反対しました。あのシーンはルアンヌの歌が見せ場で、歌声が聞こえないと意味が無いと言いました。でも、仕上がった作品を見て、プロデューサーも納得してくれました。あそこで音を聴かせないことによって、(少し前に出てきた)父親がルアンヌの喉に手を当てて歌を聞くシーンがより生きるんだと言ってくれました。」
–{手話は万国共通の素晴らしい言語}–
手話は万国共通の素晴らしい言語
質疑応答も佳境に入ったところで、エリック監督から会場に質問が投げかけられました。
エリック「ところで、この会場に聴覚障害の方はいらっしゃいますか?」
会場にいらっしゃった、聴覚障害をお持ちの方が手を挙げられました。
ルアンヌ「実は『エール!』には2バージョンあるんです。1つは健常者用ですが、もう1つは聴覚障害者用になっています。こちらは字幕も出ますが、色を変えて『ここでドアが閉まった』とか『音楽が流れた』いう説明も書かれているんです。
そこで私から質問なのですが、フランス手話は日本手話と大きく違いますか?日本人である貴方は、映画の中で行われている(フランスの)手話を理解出来ましたか?」
観客「素晴らしくて泣きました。ブラボーです。すべて理解出来ました。ですから日本手話とフランス手話の意味は同じだと思います!」
この言葉に、会場から大きな拍手が巻き起こりました。
エリック「聴覚障害を持つ方のコミュニティは、とても素晴らしいのです。フランスの聴覚障害者たちは次のような言葉で我々を日本に送り出しました。『(フランス手話と日本手話で)若干の違いはあれども、おそらく日本でもこの映画の内容は理解される』と。」
エリックに呼ばれたお客様が、登壇者と熱いハグを交わしました。
エリック「私たち健常者は、日本の言語を覚えるのに最低でも15年ほどかかってしまいます。けれど聴覚障害者は“手話”というツールを使って、外国に行っても1~2日でコミュニケーションを取ってしまいます。これはとても素晴らしいことだと私は考えます。」
10月末に公開!映画『エール!』をぜひお見逃しなく
司会:楽しい時間も残り少なくなりました。最後にエリック監督から一言お願いします。
エリック「(日本語で)アリガトー!!」
(トークイベント終了)
皆さん、いかがでしたか? 主演のルアンヌと聴覚障害を持つお客様が、手話で嬉しそうに話す姿…そして、エリック監督とルアンヌさんとハグをする様子に、ホール中が感動に包まれました。
エリック監督のフラットで気取らないお人柄と、ルワンヌさんの知性と表現力が、映画『エール!』を大ヒットに導いたのだと筆者は思いました。幸せで温かい時間を、本当にありがとうございました。
そんな奇跡の映画『エール!』は、10月31日から新宿バルト9をはじめ、全国の映画館で上映されます。ルアンヌ・エメラさんの演技、そしてエリック・ラルティゴ監督の紡ぎ出す世界観をぜひお楽しみくださいね。
(取材・文/大場ミミコ)