大ヒット御礼企画☆『トイレのピエタ』のあのシーンを松永監督が大暴露〜真衣(杉咲花)編

映画コラム

編集部公式ライターの大場ミミコです。
2015年6月6日から絶賛上映中の『トイレのピエタ』。その監督をされた松永大司監督と、奇跡的にお茶をさせていただいたこと…そして、作品のクライマックスでもある“森のシーン”について前回の記事でご紹介しました。

大ヒット御礼企画☆『トイレのピエタ』のあのシーンを松永監督が大暴露?宏(野田洋次郎)編

今回の記事ではもう一人の主役、杉咲花さん演じる真衣について色々とお話を伺ってきましたので、ぜひお楽しみくださいませ!!

「あ~俺、真衣好きだなぁ」と松永監督

―— 宏のシーンの話ばかりしてきましたが、実は真衣にも好きなシーンが2つあるんです。
宏を小馬鹿にした美術誌のライターさんに「その服、わざとダサいの着てるんですか?」って、真衣がかなり挑戦的にイヤミをいう場面なんですけど…。

松永監督「あー、『敢えての敢えてで…』ってトコ。僕も大好きなシーンです。先日、韓国の全州(チョンジュ)国際映画祭に招かれて、洋次郎と2人で映画を鑑賞したんです。実は半年近くぶりにスクリーンで観たんですけど、改めてあのシーンを観て『あ〜俺、真衣好きだなあ』って思いました。」

―— 宏に対して、真衣はずっと厳しい言動で接してきたじゃないですか。そんな真衣が、宏を見下した美術ライターに対して牙を剥いたわけですから、宏はギャップ萌えしちゃいますよね。まるで自分を庇ってくれたというか、自分を貶めた敵に対して仇を取ってくれたというか…そういう態度に愛を感じちゃいますよね。

松永監督「いや、僕の視点はそうじゃないんですよ。あのシーンで、美術ライターは宏に対し『君みたいな奴の居場所はない』的なことを言い放つんですが、そこに真衣は反応したんです。だって真衣も居場所がない人間なので。」

―— なるほど〜。私が男だったら「こいつ、もしかして俺のために戦ってくれてる?」って自惚れちゃいそうです(笑)。

松永監督「真衣はきっと、そう簡単には変わりませんね(笑)。変わらなけど、宏とは向いている方向が一緒なんです。だから惹かれ合うし、お互い必要な存在になった。」

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–{「愛しているから怒鳴れない」}–

感情を殺してニッコリ笑う、杉咲花の演技力

―— もう1つ、真衣のシーンで好きなのは、おばあちゃんをお風呂に入れる場面です。真衣のおばあちゃんは認知症で、お風呂が嫌いなんですよね。あの手この手を使って、真衣が風呂に誘導しますが、なかなか入ろうとしない。そのうち、真衣の顔はイライラに支配され「あ、怒鳴る?殴る?」となった瞬間、何と真衣はニッコリ笑うんです。多くの人は、真衣が怒鳴り散らすシーンを予想しましたが、気持ち良く裏切られました。

松永監督「怒鳴れたら、もっと楽だと思います。」

―— 感情を押し殺した作り笑顔が、恐ろしくリアルでした。あのシーンが生まれた経緯をお聞かせ下さい。

松永監督「実は2~3年前、介護の映画を撮りたいと思っていて、1ヶ月ほどデイサービスの施設で介護のバイトをしました。多くの利用者(老人の方)はお風呂に入りたがらないんです。でも、スタッフの方はみんな笑顔で、一生懸命にお風呂にいれるために格闘する。そういう実体験が反映されています。」

―— 介護する側にも、される側にも、様々な事情があるんですよね。特に真衣はおばあちゃん子で、沢山の愛を注いでもらった設定ですから、その表現も一筋縄ではいかなかったのではないでしょうか?

松永監督「17歳という遊びたい盛りに、好き勝手できない不自由さというか…あんな小さな女の子が、ある意味自分の人生を犠牲にしている。その苦しさが真衣にはあると思うんです。しかも真衣は、本当におばあちゃんのことが大好きなんです。だから絶対怒れない。その辺りの背景は、小説には詳しく書いてあります(笑)。」

―— あのシーン自体は説明ゼリフもなかったし、余計なものを削ぎ落とした演技と表情がメインのシーンでしたよね。シンプルゆえに「愛しているから怒鳴れない」という真衣の葛藤が痛いほど伝わる名シーンでした。

松永監督「映画の方は、台詞や音楽を最小限にしたい。削ぎ落とすことで露わになる心の機微があると思ってますので。その代わり小説は、細かい描写を盛り込んで書きました。」

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–{『トイレのピエタ』小説版について}–

小説と映画…双方向エンタテイメント

―— そうそう。監督は『トイレのピエタ』小説版も執筆されましたよね。そのお話もお聞かせ下さい。

松永監督「撮影が始まる前から、原作本を出す事は決まっていました。撮影中は忙しくて書けなかったので、撮影が終わってから書き始めました。作家と監督が別人の場合、原作と映画は違った仕上がりになりますが、『トイレのピエタ』は作家も監督も僕なので、根っこは一緒なんです。でも、根源は一緒でも、別の作品になったと思っています。そして映像表現と文字表現…それぞれの面白さと苦悩がありました。」

―— 例えば?

松永監督「小説を書いてみて、改めて僕は映像の人だと実感しました。イメージは頭にしっかり浮かんでいるのに、言語だと完璧には表現できない。自分の言葉で表現することの限界を感じてしまう。やっぱり僕は、言葉より映像で説明する方が向いてるみたいですね。」

―— 確かに、映画監督ですからね(笑)。

松永監督「ただ、映像で伝えきれない事は多々あるし、お客さんが分かりにくい点もあるはずなので、そういうところを小説で表現できたら良いなと思ってます。『こういうことだったんだ〜』って発見があるといいなと。」

―— 文章と映像、双方向で楽しめるみたいな。

松永監督「理想としては、映画を観て→小説を読んで→また映画…という流れでしょうか。まずは眼や耳で映画の世界を感じた上で、それから本を読んでもらいたい。もちろん感じ方は人それぞれですが、必ず別の感覚が入ってくるんです。その後にもう一度映画を見ると、また違った世界に出会える。」

―— そうですね。映像だけでは伝わらない思いや設定もあるし、文字だけの場合、表現が狭まってしまう可能性もありますしね。

松永監督「本を読むことで、映画だけ観た時に比べて理解や面白さが増すと思います。先ほど『死ぬ気になれば』という話をしましたが、小説ではその事が、宏の言葉として書いてあります。より宏という人物がむき出しになっていて、映画とは別の臨場感があると思っています。ぜひ小説も一緒に楽しんでみてもらいたいです。」


トイレのピエタ(小説版)

–{「不惑」の今だからこそ・・・}–

「不惑」の今だからこそ到達できた境地

―— 映画と小説…2015年は、監督が思い描いてきた世界が一気に顕実化した記念すべき年になりましたね。構想から10年、全国ロードショーとなった現在の心境をお聞かせ下さい。

松永監督「僕は今年41歳になるんですが、多分すごく恵まれた経緯で、長編劇映画のデビューを果たしたと思っています。でも『トイレのピエタ』という手塚治虫さんの遺したアイデアに出会ってから10年経った事を考えると、決して簡単ではありませんでした。かと言って、今の状況を25歳で経験することは出来なかったでしょう。きっと、このようなものは撮れませんでしたからね。」

―— 早からず遅からず、まさに『今』のタイミングだったんですね。

松永監督「ええ。沢山の経験を重ね、色んな思いをした40歳の今だから、ここに到達できたのだと思います。今まで僕が生きてきた時間、そして多くの人の支えのお陰で、ここに来られたんだと、感謝の気持ちでいっぱいです。そういった想いが『トイレのピエタ』という作品には詰め込まれています。」

―— 松永監督の魂が、余すところなく注ぎ込まれた作品だからこそ、多くの人の心を揺さぶるんですよね。本当に、この感動を1人でも多くの人に味わってほしいと願っています。

松永監督「ありがとうございます。映画は“観てもらって初めて完成する作品”だから、観てくれた人の心の中で『トイレのピエタ』が育ってくれたらいいなぁと思っています。」

―— よーし、帰りは本屋に寄って、『トイレのピエタ』の小説買うぞ〜!

松永監督「ぜひぜひ。小説の感想も聞かせて下さい。」

(トーク終了)

追伸;松永大司監督

そんなわけで・・・

syosetsu01

小説買っちゃいました〜ヽ(=´▽`=)ノ
松永監督、文章もめっちゃ上手なんですね!!今度お会いした時は、小説の感想もお伝え出来たらと思います。貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。

映画『トイレのピエタ』は全国の映画館で絶賛上映中です。またご覧になられていない方は、ぜひ劇場に足をお運び下さいね!

(取材・文・イラスト/大場ミミコ)

(C) 2015「トイレのピエタ」製作委員会

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