NIRVANAファンよ祈れ!カート・コバーンの等身大に魂が震えるドキュメンタリー『COBAIN』

映画コラム
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死して20年以上たった今なお、世界中から偶像視される伝説のロックスター/カート・コバーンの生涯を追ったドキュメンタリー『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』を見てきました。

27年という短い生涯を、閃光のように駆け抜けた世代のスターの、まさに「すべて」がリアルに詰まっている作品です。

–{カート・コバーンにも様々な顔がある}–

純粋すぎた男

誰もがそうであるように、カート・コバーンにも様々な顔があります。

両親の愛を強く求める小さな子どもの顔、愛されない苦しみをコントロールできずに爆発させてしまうティーンの顔、愛する人を見つめるやさしい顔、いきなり時代のスターにかつがれてとまどう顔、自分を傷つける人たちに向ける狂気の顔。

彼のそんなリアルな顔がまっすぐ眼前に突きつけられてくると、だんだん息苦しくなってきます。

彼の苦しみとすこしの喜びが、自分のことのように感じられて、見る者の心をぎゅっと締めつけます。

やがて皆の憧れだったロックスターは、自分と同じ等身大の人間として、純粋すぎる故に苦しみぬいた一人の男として、生々しい「痛み」を見せるでしょう。

今までなかった「リアル」が詰まったドキュメンタリー

本作は、関係者の証言を集めたよくあるドキュメンタリーとはすこし違います。

カートが子どもの頃からノートに記していた膨大なメモやイラスト、ホームビデオの映像を中心に、絵画調のアニメーションなどの斬新な手法を使うことによって、彼の人生の「はじまりから終わりまで」を、くまなくリアルに描き出すことに成功しています。

裕福な時代のアメリカの家庭ですから、幼少期のビデオ映像はたくさん残っています。
そこに映る幼い頃の彼は、よく笑い、誰よりも活発で、みんなに愛され、まるで天使のようでした。

その直後に両親が離婚し、親戚中をたらい回しにされていく中で、いつしか彼は愛情を強く求め、愛を与えてくれない世の中を呪いはじめます。

その頃から書かれた彼の詩やイラストには、彼の一瞬一瞬の感情や痛みが凝縮されています。

やがて大人になってロックスターになると、愛する妻・コートニー・ラブと撮影したビデオ映像の中に、奔放な若者のリアルな日常を見ることができます。

カートは絵を描くのが大好きで、音楽以外にもたくさんのアートを遺していますが、それらに触れられるのもこの作品ならではでしょう。

–{ロックスターではない、1人の繊細な若者の物語}–

ロックスターではない、1人の繊細な若者の物語

ちょうどストライクなNIRVANA世代だった筆者にとっては、カート・コバーンというのは、眩しすぎるほどの<偶像(アイドル)>でした。

ヘヴィメタなどの技巧派ロックミュージックが中心だったシーンに、唐突に現れた彼は、テクニックなどおかまいなしにギターをかき鳴らし、叫び、カメラに唾を吐き、ギターを床に叩きつけました。

その姿は、筆者を含めた世界中の血気盛んなティーンエイジャーを惹きつけ、衝撃を与えます。

世界をぶっ壊そうとしているかのような彼の破壊的な言葉や行動、そして音楽に憧れを抱き、その眩しさと記憶は、今なお薄れることはありません。

しかし、カートがシアトルの自宅で自ら命を絶ってから20年がたち、この作品を見ることで、筆者はようやく<偶像>ではない、本物のカート・コバーンに触れることができたような気がします。

いつの間にか自分より年下になってしまった、ロックスターなんかじゃない、1人の繊細な若者。

そんな彼の安らかな眠りを、あらためて願い、世界中の子どもたちへの愛情を祈りたい気持ちでいっぱいです。

ステージやスピーカーの奥からでは伝わらない、カート・コバーンの「心の声」が、あなたにもきっと届くでしょう。

NIRVANAファンの方はもちろん、生きることに息苦しさを感じてしまう人にも、彼の痛みが、ある種の救いになるかも知れません。

『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』は、6月27日より1週間限定で全国ロードショー。

(文:りゅう)

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