編集部公式ライターの大場ミミコです。
北海道・美瑛の四季折々の絶景をバックに、夫婦の絆と人間愛を綴った映画『愛を積むひと』。2015年6月20日の公開を前に、シネマズby松竹では、監督・脚本を手掛けた朝原雄三監督のロングインタビューを敢行しました。
ゆるやかに流れる大自然のパノラマ・笑いと涙で彩られた珠玉のストーリーが話題の作品ですが、実は大変な手間と労力、そして多くの方々の心意気があって出来上がった映画だということが良く分かりました。また、撮影中の面白エピソードや、朝原監督のプライベート秘話なども飛び出し、終始笑いが絶えない楽しいインタビューとなりました。
ぜひ、皆さんもご一緒にお楽しみ下さい。
–{男性は『母親』を求める…}–
覚悟した女性ほど強いものはない
― 佐藤浩市さん演じる篤史は、家のことはもちろん、経営する工場の実務も奥さんの良子(樋口可南子さん)に任せっきりです。そして、良子は居てくれて当然、やってくれて当然と、甘えているようにも見えました。つい、そのようなスタンスになってしまう男性が多いのではないかと個人的に思うのですが、朝原監督としては、そういった現象をどのように思われますか?
朝原監督「実際、奥さんが亡くなって元気がなくなる男性は多いでしょうね。逆に女の人は、パートナーを失うと元気になるらしいですが(笑)。基本的に、日本人の男性は奥さんに対し『母親』を求めているんじゃないかな。そして、甘えこそしますが、自立はできていなかったりします。」
― そういう話は良く聞きますね。
朝原監督「主人公の篤史は、仕事に失敗したり、大好きな娘と揉めたり、現実が上手く行かずに内向的になってしまう役どころです。しかし唯一、妻である良子には心を開いているんですね。で、その奥さんが亡くなった時に、非常に閉じてしまうわけです。僕だって、もし仕事を失ったとして、じゃあ家族以外に自分をオープンに晒せる場所があるかと言うと、非常に心もとないんですよ。でも、そんな時に内向きになってしまったら、本人のためにも良くないし、大人の世代というのは次世代に対しての責任があると、最近は思うようになったんです。」
― そう言えば、劇中にも「友達をたくさん作ってください。若い人と交わってください」という台詞がありました。
朝原監督「そうそう。自分の周りに対して心を開いてみたほうがいいんじゃないかという、メッセージを込めたつもりです。まぁ、実際には難しいんですけどね(笑)」
― 男性はつい、母親像をパートナーに求める傾向があるというお話でしたが、朝原監督の作品には、芯の強い女性が多く出てきますよね。『釣りバカ日誌』の主人公・ハマちゃんの奥様である“みち子”や、『武士の献立』で上戸彩さんが演じる“春”などは、その典型だと思われますが、いかがでしょうか?
朝原監督「みち子と伝助は、原作があるので僕が作ったキャラではありませんが、映画の世界観を重ねていくうちに自然とそうなっていきました。そういえば『武士の献立』で、高良健吾くんが演じた主役・安信は落ち着きのない男でしたが、上戸さん演じる年上女房・春は、すごく覚悟を決めた女性でしたね。今回の作品『愛を積むひと』でも、良子が自らの死期を悟った時にどれだけ強くなれるか…そういう“女の覚悟”みたいなものを描きたかったんです。」
― 良子もそうですが、杉咲花さん演じる紗英も、肝の据わった女性でしたよね。一方、紗英の彼氏である徹は、突然の大きな出来事を前に揺れ動いてしまうあたり、男女のあり方を象徴しているように思えました。
朝原監督「僕の話になりますが、子供が出来たと妻から報告された時に、びっくりするぐらい挙動不審だったらしいんですよ。男ってそういうトコあるんです。例えばバブル時代、学生が海外旅行に行くのがブームだったんですが、女子は突然、留学しちゃったりするんです。英語も話せないし、勉強も好きじゃないのに。」
― 分かります。一方、男の人は迂闊に(海外に)飛ばないイメージがありますね。
朝原監督「昔から『女は三界に家なし』と言いますけど、女の人には、他人の家に嫁いで暮らせるDNAみたいなものがあって、男と比べてどこか腹が据わっているのだと思います。基本、男のほうがオドオドしてますから、潜在的に優しい奥さんを求めているのかもしれません。その実感と願望が、良子のように“優しくて芯の強い”奥さん像に反映されているんでしょうね。」
― それは、どなたの実感と願望ですか?
朝原監督「もちろん僕のですが(笑)、日本人男性の集合意識的なところもあるでしょう。」
–{海外小説を映画化する苦労と醍醐味}–
海外小説を映画化する苦労と醍醐味
― 映画『愛を積むひと』は、エドワード・ムーニーJr.さんが書かれたロングセラー小説を原作にしていますが、小説…しかも海外のものを映画化するご苦労はありましたか?
朝原監督「(小説の)完全映画化なんて言われていますが、『愛を積むひと』は、実は原作と全然違う話に仕上がっています。妻からの手紙が残されている事、主人公が石を積む事、人間としてのあり方を問いかけるテーマ性の3点は、原作からしっかり引き継いだつもりですが、それ以外はほとんどオリジナルと言ってもいいくらいです。原作のストーリーも自分の感覚にフィットしなかったし、日本を舞台に日本の俳優で撮るのはムリだと思いました。ということで、古い松竹の映画で育った僕がしっくりする設定に変えたんです。」
― 原作では、主人公と息子の折り合いが悪い設定ですが、映画『愛を積むひと』では、娘との間に壁がある設定になっていますね。
朝原監督「そうですね。家族関係はもちろん、脇を固めるキャラクターも味付けし直したり、新たに作ったりしました。脚色という点では、時間もかかったし悩むことも多かったです。そもそも石塀を作るという文化が日本にないので、そこを違和感なく魅せるよう工夫と苦労をたくさん重ねました。」
― 逆に、そのような原作を映画化するメリットがあったら教えて下さい。
朝原監督「ベストセラーの映画化は、原作者や出版社の方から原作のイメージを変えないように言われる事も多々あります。そして、どこまで原作のイメージをなぞれたかが評価の基準になったりします。ただ、この小説の作者であるエドワード・ムーニーJr.さんが外国の人だったこと、そして当作品のプロデューサーが彼と知り合いだったことが、映画化に際してラッキーに作用しました。このように大胆な改変を許して下さった原作者には感謝しかありません。おかげさまで、原作をそのまま映画に置き換えるだけではない、創作する楽しみを味わうことができました。」
–{共同体の中で擬似家族化していく}–
まるで大家族!アットホームな撮影現場
― 映画『愛を積むひと』は、家族の絆・夫婦の絆を切り口に、『再生』や『赦(ゆる)し』、『丁寧に生きる』などのテーマが盛り込まれた映画だと思いました。主人公の小林夫婦、近所で牧場を営む紗英の家族、そして家族のいない孤独な徹…。撮影現場では、各々の家族設定は影響していましたか?
朝原監督「基本、家族の話ではありますが、今回は家族が死んでしまう、どこかに行ってしまう話でもあります。例えば、妻に先立たれた篤史が、隣近所や地域などの共同体の中で擬似家族化していくみたいな…。もはや、家族だけの繋がりでは生きていけないという時代の空気もありますし、撮影隊そのものが“家族”だったようにも思います。」
―アットホームな現場だったのですね。
朝原監督「僕の場合『釣りバカ日誌』の監督を7年務めたのですが、その時のメンバーが ほぼそのまま今回も来てくれたんです。7年も一緒にいると、本当の家族みたいになりますね。スケジュール的にハードな撮影でしたが、始終ゲラゲラ笑いながら過ごすことが出来ました。篤史を演じた佐藤浩市さんも、この現場だと怒ったりヘソ曲げたりしづらかったんじゃないかな?」
― なんてったって『釣りバカ…』製作チームですものね。
朝原監督「そうそう。お父さん(三國連太郎さん)のこともスタッフが熟知してますから(笑)。そういった意味でも、家族的な繋がりだったな〜と思います。」
― 篤史を演じた佐藤浩市さんと、娘の聡子役の北川景子さんの関係はいかがでしたか?劇中では、お互い好きなのに分かり合えない、許したいけど許せないといった葛藤を抱える親子をリアルに演じていましたが、現場ではどんな感じだったのでしょうか?
朝原監督「北川さんのシーンはしんどい状況ばかりだったので、結構辛かったんじゃないでしょうか。しかし2人はプロですから、現場でもなあなあではなく、緊張感を持って演技に臨んでいたと思いますよ。」
(後編に続く)
…いかがでしたでしょうか?
前編は、主要キャラクターの設定や現場の様子、原作を映像化する際の裏話などをお聞かせいただきました。
後編では、柄本明さんの役回り&圧巻のセットについて監督に語っていただきます。
インタビューが進むにつれ、更にトークが盛り上がっていきますので、ぜひ楽しみにしていて下さいね。
後編はこちら→森を開墾?電気や道路もゼロから引いた『愛を積むひと』朝原監督ロングインタビュー・後編
映画『愛を積むひと』は2015年6月20日から全国公開です。
ぜひ劇場に足をお運び下さい。
(取材:大場ミミコ)
(C)映画「愛を積むひと」製作委員会
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