1993年から1996年にかけて映画3部作を公開、2002年には全12回のテレビドラマが放送された『私立探偵 濱マイク』。
横浜の下町に点在する同作のロケ地を巡り、撮影当時のことを知る人物に話を聞いてみた。
面影のみが残る横浜日劇周辺
ロケ地巡りのスタートは、京浜急行電鉄本線の日ノ出町駅。
駅前に流れる大岡川には、同作に度々登場する旭橋・黄金橋・末吉橋という3本の橋がかかっている。ロケ地巡り当日は、花見客で賑わっていた。
主人公の濱マイク(永瀬正敏)が事務所を構える横浜日劇は2005年に閉館、2007年に取り壊され、現在はマンションが建っている。
「洋画は 邦画は 日劇 名画座」の文字はなくなってしまったものの、横浜日劇のアーチはまだ残っていた。
横浜日劇跡地の向かいにある映画館『シネマ・ジャック&ベティ』。
2013年に開催された『私立探偵 濱マイク 大回顧展』で、映画3部作とテレビドラマ全12回が上映された会場だ。
テレビドラマ版・第5話『花』で濱マイクがアルバイトをしたストリップ劇場、黄金劇場は旧劇場という名のクリエイタースタジオに姿を変えていた。近隣の店舗に聞いてみたが、「いつなくなったかわからないですね…」とのこと。
–{今も変わらないサヨコママの喫茶店}–
いまも変わらないサヨコママの喫茶店
大岡川沿いから横浜橋商店街に移動し『コーヒーマツモト』にやってきた。
サヨコママ(松田美由紀)のお店として、テレビドラマファンにはお馴染みの場所だろう。変わらぬ姿で営業している。
店内には、レトロなメニューと『私立探偵 濱マイク 大回顧展』のポスターが。
マスターの松本さんに撮影当時のことを聞いてみた。
「スタッフの方から撮影で使わせてほしいって連絡をもらったんですけど、2回お断りして。でも、3回目に永瀬さんがここにきて『セットじゃこの雰囲気はだせない。ここでやりたい』って言うんですよ。本人に頼まれたら断れませんよ(笑)」
今でも毎週末全国から濱マイクファンが訪れ、その数はこの13年間で軽く1,000人は超えるという。
『私立探偵 濱マイク 大回顧展』でトークショーに出演した永瀬正敏さん。出番前にお忍びで遊びにきてくれたそうだ。
「夕方のトークショー前に、突然きてくれたんですよ。しかも、濱マイクの格好で。『マスターしばらく!』って言いながらハグしてくれて、永瀬さんがくるだろうと思って待っていたファンも喜んじゃって」
店内に20人、外に60人ほどファンがいたが、永瀬正敏さんは全員と2ショット写真を撮り、サインをしたという。
「女の子のファンが私もハグしてって言うんですけど、永瀬さんは『ハグはマスターだけ。女の子は握手ね』なんて言うんですよ。それがまたかっこよくて」
カウンターには、永瀬さんと松本さんの2ショット写真が飾られていた。
「グループできいてるファンでもちゃんと一人ひとり写真を撮るんです。撮影のときは毎回関係者全員に挨拶をしていたし、永瀬さんほど礼儀正しい人を私は知りません」
濱マイクの指定席で、濱マイクが愛した『カフェ・オレ』(メニュー名はミルクコーヒー)を飲んでみた。うまい。
–{ごっつうまいやきそば・磯村屋}–
磯村屋でごっつうまいやきそばを食べる
横浜橋商店街を抜け、三吉橋商店街の奥に向かうと、テレビドラマ版・第2話『歌姫』に登場したお店が見えてくる。
ナオミ(UA)が濱マイクに「ごっつうまいで」と勧める『やきそば磯村屋』だ。
作中に食べるシーンはないが『三色やきそば(大)』を注文してみた。
カウンターでやきそばを作る女将の磯村さん。女性に年齢を聞くのは失礼だと思ったが、大正14年生まれで今年90歳になるという。この日も途切れることなく訪れるお客さんに、やきそばを作っていた。
400円でこのボリューム。たしかに、ごっつうまい。
–{スナック幸子がある都橋商店街}–
最後に紹介するのは『都橋商店街』だ。磯村屋から少し距離はあるが、徒歩で移動すれば昔ながらの横浜の風景が残る、伊勢佐木町を眺めることができる。
濱マイクの母、濱リリー(鰐淵晴子)が働くお店スナック幸子がある都橋商店街。映画のロケ地としては、現存する貴重な場所だ。会員制のお店もあるが、ここ数年で一見さんでも入りやすいお店が増えている。夕方以降であれば、ロケ地巡りの後、一杯飲んでもいいだろう。
少しでも長く『私立探偵 濱マイク』の風景を
残念ながら、横浜日劇と黄金劇場は姿を消してしまった。お店の事情や建物の老朽化など、さまざまな問題はあるが、なくなってしまうのはやはり寂しい。少しでも長い時間『私立探偵 濱マイク』の風景が残ることを願う。
コーヒーマツモト
住所:神奈川県横浜市南区真金町2-12
営業時間:7:00~19:00
定休日:不定休磯村屋
住所:神奈川県横浜市南区八幡町4
営業時間:10:00~17:30
定休日:水曜・木曜
(文・取材:大川竜弥/撮影:安藤きをく)