松竹120周年を機に、お台場へとその場所を移転し大きく生まれ変わった『松竹映像センター』
前回は最大の売りであるDubbing Stageを中心にお話してきましたが、今回は残りの設備などについて紹介したいと思います。
アフレコも実は世界標準の言葉ではない
前回はDubbing Stageを紹介しましたが、実は前回紹介しきれなかったのが、Dubbing Stage内にある声の収録『アフレコ』を行う場所。
映画では、撮影現場ではどうしても雑音などが入ってしまい、音が使えないこともしばしばあります。そうした場合、後から声だけを収録し直す、通称『アフレコ』と呼ばれる声の録音を行います。『アフレコ』とは”After Recording”の略で、まさしく後から録音するという意味。ところが、この“アフレコ”という言葉は、世界的には使われていない言わば和製英語のような言葉。世界的には『ADR』という言葉使われています。
ADRは、『Automated Dialogue Replacement』の略で、意味としてはアフレコと同じ。洋画などのクレジットでは『ADR MIX』などの表記を見かけたことがある人もいるかもしれません。こうしたADRを行う場所も、Dubbing Stageにはあります。
松竹映像センターのADRの部屋は、その広さがポイントのひとつ。マイクを10本以上並べることも出来るので、例えばアニメや洋画の吹き替えなどでは、声優さんが同じ場所に同時に集まって録音をするのですが、その際でも広々とした部屋でゆとりある収録が行えるのです。これだけの天井高と広さは、ADRを行う場所の中でもかなり大きい部類に入るそう。音声収録される声優・俳優さんにとっても高環境なのは、強みです。
生音の効果音は”フォーリー”と呼ぶ
また、こちらのADRの部屋では『フォーリー』と呼ばれる生音の効果音を録ることも出来るようにもなっています。
足音や衣擦れ、ドアの音などの生音の効果音のことを『フォーリー』と言います。フォーリーは英語で書くと『foley』。こちらも映画の最後に流れるクレジットなどでは『Foley men』や『Foley Mixer』などの専門の方の名前が出てきます。
このフォーリーは通常、専門の方がいて、音響のミックスをする人が効果音の入った素材集から使うのではなく、作品のために独自に録るそうなのです。
フォーリー自体は、フォーリースタジオという専門のスタジオを使うそうですが、最終工程であるDubbing Stageでどうしても最後に少し追加したいなどが起きるそうです。その場合でも、ADRの部屋の足元にあるマットを剥がすとコンクリートになっていて、フォーリーの収録が出来るようになっているのです。この辺まで対応しているのも、松竹映像センターならではです。
–{全てつながっている…}–
センターサーバーでどこにいても同じデータが扱える
松竹映像センターでは、AVID社製サーバーISIS5500を導入したセンターサーバーで全ての部屋につながっていることで、作業効率が格段に上がったのも売りポイント。
どの部屋にいても、同じデータがセンターサーバーを介して使うことができるのです。そのため、同じ作品をメインの編集さんと、助手の人とが同時に同じ素材を使うなんていうことも出来ます。以前なら物理的なHDDなどを使っていたため、どうしても大きな容量となる動画ファイルを扱うには、片方が待たないといけないため、その分時間的にも効率が悪かったとのこと。このシステムの導入が、さらなる効率化につながっているので、作品作りをする人にとってはより便利になりました。
ダビングルームなみの音響設計されたサウンドデザイン
Dubbing Stageに行く前に音声処理を行うサウンドデザインの部屋は、Pro ToolsとNuendoの両方に対応していて、さらに5.1chシアターの再生環境まで整えている最新鋭の設備となっています。そしてここもセンターサーバーにつながっているため、スムーズに他の部屋と連携がとれることが効率化となっています。
リニアとノンリニアのハイブリッドな編集ルーム
編集ルームがリニアとノンリニアの両方に対応しているのも、松竹映像センターの売り。現在の主流はノンリニア方式となっていますが、ノンリニアはレンダリングという作業が伴います。現在でもテレビなどの映像配信現場は、テープ納品が主流。テープtoテープならではのリニア方式の方が作業スピードが速く、現在でもバラエティなどの現場ではリニア方式の編集システムを使っているほど。そうした全てに対応できるように、リニアとノンリニアの両方のいいとこ取りをしたのがこちらの編集ルーム。
また、こちらは1日作業で多くの人が集まる本編集の際にも、ゆとりをもってよりクリエティブな作業に支障が出ないようにと、部屋も通常の編集室より広すぎるくらいの広々設計になっています。
さらに、5.1chの再生環境も整えているため、ここでシネマ歌舞伎やメトロポリタン・オペラなどの本編集も行うことが出来るそうです。
クリエイティブな環境がよりよい作品を生む
全3回でお送りした、松竹映像センターの紹介。一番の売りである都内からのアクセスの良さと、そして広々とした設備に洗練されたデザイン。こうしたゆとりある環境は、「クリエティブな現場だからこそ、最大限にそのクリエティテビティを引き出せるように」と、伝統ある松竹ならではな思いで生み出された施設です。低予算の映画から、大作まで全てに対応できる環境の中、お台場の素敵な景色に包まれながら制作を行うのも良いのではないでしょうか。
新たなクリエティブが生まれる、その場所。新しく生まれ変わった『松竹映像センター』は、驚きの高環境と快適な空間でした。制作関係者の方は是非お問い合わせされて、一度見学に行かれてみてください。
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