生きろ!と伝えたい―映画『ソロモンの偽証』シネマズ独占インタビュー

映画コラム

本日2015年3月7日より『前編・事件』が公開となる映画『ソロモンの偽証』

先日2月15日に開催された、ぴあカード&衛星劇場&シネマズ合同主催の『ソロモンの偽証 前篇・事件』ティーチイン試写会&懇親会の終了後に、成島出監督と秋田周平プロデューサーに特別にお時間をいただきシネマズ独占インタビューをさせていただきました。

次々と起こる衝撃的なシーンや時間の経過とともに子供たち心が変化する様子を撮影するにあたって、どのようなこだわりや苦労があったのでしょうか。

どこかで本物を見せて、作り物を混ぜる

――桜や雪などの描写がはっきりしていて時間の経過がわかる作品だと感じたのですが、あの冒頭の桜のシーンはどういった想いがあったのでしょうか。

成島出監督(以降、成島監督)
この作品を撮った藤沢順一カメラマンは『櫻の園』でカメラをまわした、桜を撮る名人なんですよ。僕はその作品が好きで、あんな風な桜を取り入れたかったんですよね。

主人公の藤野涼子が大人になってちょうど春に学校へ赴任するシーンだったので、作り物の桜ではなく実際に4月に桜を撮ろうということにしました。校長室の奥で舞っているのは僕らの用意した紙の桜ですが、冒頭、尾野真千子さんが演じる大人の藤野涼子が登場するシーンの桜は本物です。

どこかで本物を見せて、作り物を混ぜるというのが僕のやり方。2月の雪のシーンから4月の桜まで、撮影班は大変だったと思います。

成島出監督 ソロモンの偽証 独占インタビュー

――偽物か本物かなんてまったく見分けがつきませんでした。

成島監督
雪も本物と偽物を半々で撮ったものです。街中で雪が降っている序盤のシーンは、丁度1年前(2014年)の2月に、本物の雪が積もっている中で撮ったものです。

冬にリアルの雪を撮っておくと、CGを入れた時に、CGもそれに準じようとなるわけです。本当に降った雪が周りにあり、例えば雪かきをしている人も、当日本当に実際に雪かきしてもらった。そういうところが僕のこだわりで、お客さんへの伝わり方が違うはずだと思います。

だけど、撮影日の夜は雪でみんな帰れなくて大変でした。雪が降るまでずっと待っていたのですが、雪が降ってから急遽撮影に挑んだわけで、日程が決まっていたわけじゃないから周りのホテルは全部埋まっちゃって。仕方なく男ばかりでラブホテルに泊まりましたよ(笑)

――雪の撮影で他に苦労した点はありますか。

秋田周平プロデューサー ソロモンの偽証

秋田周平プロデューサー(以降、秋田P)
本物の雪も大変でしたが、作り物の雪に関してすごく試行錯誤しました。いろんなものを試して、カメラテストもして、結果的に塩と発泡スチロールを使うことになりました

成島監督
オムツにも使われている、水を入れると固まる素材を雪の代わりに採用しようと試してみたんですけど、実際に足で踏んだりしていると雪らしさが出ずにダメでした。結局は昔ながらの方法で、塩と発泡スチロールに落ち着きました。

――雪の予算が数千万かかったとお聞きましたが?

成島監督
学校の裏庭すべてと屋上や校舎にも塩をまいて、ワンカット撮るだけでもすごい量を使いました。映画っていうのは本当に贅沢ですよ。雪だけでなく、セットもそうなんですよ。体育館もまるごと本物を作って、撮影後取り壊しました

秋田P
体育館については、前篇は本物の体育館で、後篇は一部だけが本物であとはセットになっています。作品を観て本物とセットの違いに気付かれなかったら美術スタッフがすごく喜びます(笑)

助けたいと思っても人間はなかなか行動できない

――前篇だけでもさまざまな事件や事故のシーンがありました。そういったシーンは原作の中からどのようにして選んだのかを教えて下さい。

ソロモンの偽証 成島出監督 インタビュー

成島監督
今回は『藤野涼子』を主人公にすることにしました。原作では藤野涼子に準じた主役と言える役もあったのですが、今回は藤野涼子を主人公として、それぞれの事件の色合いとかではなく、藤野涼子の感情、心を揺さぶる事件を選びました。

――実際に見て思ったのは「見て見ぬふりをして何もできなかった」というメッセージを感じました

成島監督
助けたいと思っても人間はなかなか行動できるものじゃない。数分、数秒の間に起こったことを見過ごしてしまったために永遠に悔いが残る。僕の過去の経験でもそうだったし、それは誰にでもあると経験だと思います。

前篇で助けられなかった事実を後篇の裁判でさらけ出し、そして、救われる。といった作品の流れのなかで、このメッセージ性は非常に大事なポイントになっています。

ソロモンの偽証 成島出監督 板垣瑞樹

※インタビュー時にご挨拶に来てくれた神原和彦役・板垣瑞生さん(写真・左)

–{後篇では開放されて…}–

藤野涼子たちが映画の中で生きているのを見せるため

――撮影手法に関してお伺いしたいのですが、冒頭の雪のシーンで、特殊な機材で撮影をしたとお伺いしたのですが?

ソロモンの偽証 独占インタビュー

成島監督
通常の撮影用クレーンだと屋上までの高さが足りなかったんです。そこでチームが相談して高層ビルの建設に使う工業用クレーンを大林組さんに協力してもらって使うことにしたんです。

でも、そのままだと風で揺れちゃって自分が描いている通りのまっすぐに上がっていく画が撮れない。そこで、モーターで揺れを制御する”ジャイロ”システムを使いました

あのメインタイトルのカットにはすごいこだわりを持っていましたから、どうしてもやりたいと思った。ジャイロ付きの工業用クレーンを映画で使った例はないんじゃないかな?特許取っておけばよかったかな(笑)

ソロモンの偽証 撮影風景

※ジャイロ付き工業用クレーンでの撮影の模様

――ほかにも技術的に工夫や苦労をされた点はありますか。

成島監督
すごく専門的な話になりますが『アナモフィックレンズ』を使ったことで被写界深度(ピントの合う範囲)が非常に浅いこととの戦いはずっとありました。

ピントが合っているときにそこから被写体が動くとボケてしまう。光を足すか、カットを変えないといけない。今の映画はデジタルで撮るから被写界深度が深くて、大きく動いてもパンフォーカスできるんだけど、今回はパンフォーカスできなくてもいいからアナモフィックレンズを使った撮影を選択しました。

普通は35mmで撮って上下切ればシネスコ(シネマスコープサイズ)になる。でも、わざわざ圧縮して伸ばしてできる微妙なゆがみこそが、アナモ独特の画作りなんです。

――アナモだからこその画にこだわったのですね。

成島監督
実はそれは黒澤組のころからずっとやってることなんです。ただし、今やろうとすると照明もカメラもレンズも高くてお金がかかっちゃう。デジタルの方がはるかに安い。けれどやっぱり、主人公の藤野涼子たちが映画の中で生きているというのを見せるために、どうしてもアナモでやりたかったんです。

今回は画作りで、特に後篇の裁判のシーンでは光で勝負しました。もちろん予算の関係もあるけど、本当に我々が持っている技術をぜんぶ出し切って、ものすごく贅沢をして作った映画です。逆に、最近やらないようなアナログに戻って撮った感はありますね。

後篇では開放されてハッピーエンドで終わる

――後篇では問題が晴れてハッピーエンドになり”U2″の曲で終わるそうですが?

成島監督
前篇のエンディングのアダージョからじゃ全然想像できないでしょ?(笑)後篇では、みんなが抱えている問題が解決し、全部が見えて解放され、そしてスッキリする。この作品を観てくれる人の中に、作品の中で亡くなってしまう”彼ら”がいると思うんです。彼らに観せたいんです。U2の曲で終わり、そして「生きろ!」と伝えたいんです

――U2の『With or Without You』を選ばれた理由は。

成島監督
最後は僕の趣味かな(笑)あの行進曲風でワンフレーズが繰り返されるっていうのがとても力強い。だから選びました。あの曲は好きでずっと聞いていましたから、あのラストにピッタリだと思いました。

――最後に『後篇・裁判』の公開を待つみなさんへメッセージをお願いします。

成島出監督 ソロモンの偽証 独占インタビュー

成島監督
後篇では彼女たちが解放されてハッピーエンドで終わります。前篇では残酷なこと辛いこと苦しいことがある。しかし、最後に彼女たち自身の手で裁判をやり切ることにより、謎が解けていき、そして人の魂が救われる。魂が救われるっていうのが、原作者の宮部みゆきさんの独特な世界観。

柏木卓也は殉教者のようだったと言ってくれる方がいましたが、後篇についてはまさしく救いがあるということを芯に撮りました。前篇の暗いアダージョから後篇のU2で終わる心地良さを一番感じてもらいたいので、ぜひ楽しんで観てほしいと思います。

――どうもありがとうございました。

独占インタビューを終えて

インタビューを通じ、彼女たちのさまざまな心境がどう変わっていくかが非常に楽しみに感じました。ボリュームのある原作を前篇・後篇にわけて主人公の藤野涼子たちの心境をたっぷり描いた本作。成島監督がおっしゃっていた今作に対するこだわりの画作りも楽しみにして、ぜひ御覧ください。

ソロモンの偽証 独占インタビュー

映画『ソロモンの偽証』は、『前篇・事件』が本日2015年3月7日(土)より公開、『後篇・裁判』が2015年4月11日(土)より公開です。

(取材・アスカ)

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