<おむすび>第10週~12週の解説/考察/感想まとめ【※ネタバレあり】

続・朝ドライフ

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2024年9月30日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「おむすび」。

平成“ど真ん中”の、2004年(平成16年)。ヒロイン・米田結(よねだ・ゆい)は、福岡・糸島で両親や祖父母と共に暮らしていた。「何事もない平和な日々こそ一番」と思って生きてきた結。しかし、地元で伝説と化した姉の存在や、謎のギャル軍団、甲子園を目指す野球青年など、個性的な面々にほん弄されていく。そんな仲間との濃密な時間の中、次第に結は気づいていく。「人生を思いきり楽しんでいいんだ」ということを――。
青春時代を謳歌した自然豊かな糸島、そして阪神・淡路大震災で被災するまでの幼少期を過ごした神戸。ふたつの土地での経験を通じて、食と栄養に関心を持った結は、あることをきっかけに“人のために役立つ喜び”に目覚める。そして目指したのは“栄養士”だった。
「人は食で作られる。食で未来を変えてゆく。」 はじめは、愛する家族や仲間という身近な存在のために。そして、仕事で巡りあった人たちのために。さらには、全国に住む私たちの幸せへと、その活動の範囲を広げていく。

CINEMAS+ではライター・木俣冬による連載「続・朝ドライフ」で毎回感想を記しているが、本記事では『おむすび』第10週~の記事を集約。
1記事で感想を読むことができる。

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もくじ

第46回のレビュー

第10週「人それぞれでよか」(演出:小野見知)では、商店街が参加する子ども防災訓練の準備にあたり、栄養学校に通っている結(橋本環奈)が「炊き出し隊長」に任命されました。

「あんたが隊長」→「あんたが大将♪」と盛り上がる商店街の人々。「あんたが大将」は武田鉄矢さんが所属する海援隊の70年代後半のヒット曲で、商店街の大人たちの世代には当たり前に知ってるヒット曲でありましょう。ただ、このドラマ、若い層にアプローチしたいという狙いも感じさせるので、このシニア層しかわからないネタがふさわしいのかわかりません。いや、もちろん、幅広い層にアプローチしたいのだとは思いますが。

結は学校で、まず、桜庭先生(相武紗季)に相談します。すると、先生が大量調理(炊き出し)の実習をすることにします。2年でやるカリキュラムでしたが、桜庭先生は臨機応変です。
アスリートのメニューに関しては同級生に気楽に相談して問題が勃発したので、今回は、先生に相談するという成長が見えます。誰かに、震災でつらかった同士、仲間!メニュー一緒に考えて!みたいに馴れ馴れしくしたらそれこそやばいでしょう。

結たちJ班は炊き出しのメニューを相談しながら、あの当時、どうしていたかをそれぞれ話します。サブタイトルのように体験も記憶も「人それぞれ」です。
結は震災で家も店も全壊したと明かします。ふだん明るいギャルな彼女にそんな過去があったとは、とみんな顔を曇らせます。
でも結は、当時のことをはっきり覚えていません。え、そうなん???

豚汁は毎年の訓練の定番になっているので、何か新機軸がないだろうかと考えたところ、当時を知る人の話を聞くのが有効であろうという結論に達し、結は商店街のみんなに話を聞きます。

「あの経験を次の世代に伝えるのが使命や」と考えているのは美佐江(キムラ緑子)
あのとき、みんな、近くの学校に避難していました。最初の日に食べたのは、親切な人が届けてくれたおむすび。みんなの話で、結は自分が「チンして」と言ってしまったことを思い出します。分別のつく大人になった結には、その記憶が蘇ったとき、なんでそんなこと言ってしまったのかとショックだったのではないでしょうか。

避難の日々が続き、食事も水も不足して、みんないらいらしていったとき、不公平感のないように、ルールや責任者を決めることにして、仕分け隊長は聖人(北村有起哉)が任命されました。

ずるしない誠実な人として信頼されていると言えば聞こえはいいですが、アーケードの担当のときもそうですが、お人好しなので面倒なことを乗せられて押し付けられているだけの気がします。ほかの人だってずるはしないでしょう。するという自覚があるのかな。人間だものそういうこともあるでしょう。
いやいや、みんな、いい人で、神戸出身でない聖人、神戸に戻ってきた結をリーダーにして疎外感のないようにしてくれているのだと思います。
つまり米田家は父子2代にわたって、商店街の人たちに盛り上げてもらっているのです。これぞ「支えあい」であります。

避難生活で体調が悪くなる人も現れます。美佐江の娘・なっちゃんが急に倒れたのは、便秘によるものでした。水も野菜も十分に摂れないため、お腹の調子が悪くなってしまったのです。
娘を心配して感情的になる美佐江でしたが、渡辺(緒形直人)が家にあった買い置きの乾燥わかめ等を持ってきました。涙ながらに感謝する美佐江。

渡辺は決して、単なる気難しい人ではなく、本当は優しい人なのでしょう。でも、愛娘が亡くなって自暴自棄になっているだけ。いやでもアーケードを猛反対したの理由がわかりません。結局は、自分の意に沿わないことには聞く耳を持たない頑固な人なのでしょう。

今週こそ、渡辺の心が溶けるでしょうか。そして、子ども防災訓練のメニューは何になるでしょうか。見守っていきましょう。

※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第47回のレビュー}–

第47回のレビュー

1995年の回想。
地震から5日め。皆、それぞれいったん家に戻り、道具などを避難所へ持ちよって、炊き出しを行いました。大豆と野菜のお味噌汁。わかめの入ったおむすびをみんなでぱくつきます。
結は美味しいと食べながら「でもごはんかたっ」とまた余計な一言を。
愛子(麻生久美子)の良さは決して怒らないことです。「チンして」のときも「かたっ」のときも、ともすれば「そんなこと言うもんじゃありません!」と叱るお母さんはいると思います。街中で幼児を叱ってるお母さんを眼にするので。

結の言動は、当時、おむすびが冷たかったこと固かったことなど、事情を伝える役割もしているのです。
このドラマは、95年の震災の記憶を後世に伝えることも目的になっているので、結は主人公の責任として、視聴者から悪く思われる可能性もあるネガティブ面を請け負っているということでしょう。

もうひとり、ネガティブ要素を請け負っているのが、渡辺(緒形直人)です。
震災前から商店街のチームワークを乱すタイプで、アーケード建設に反対してみんなを困らせていましたが、震災で娘を亡くしてますます偏屈になっています。

2007年現在。聖人(北村有起哉)が渡辺に靴の修理を頼み、拒みながらも渡辺が修理してくれました。その出来はじつにすばらしく、感心した歩(仲里依紗)は、古い靴のカスタムを頼みます。歩は父の行動に倣い、自分もまた、渡辺にやり甲斐を感じてもらうアプローチに作戦変更したのかなと想像できます。

ただ、聖人、歩、結(橋本環奈)と続々渡辺を訪ねてくるのはちょっとうざいかも……。靴のデザイン画は愛子のもので。米田家そろって渡辺に迫ってくる。多勢に無勢。善意の分量が多すぎます。

本日は、靴修理の達人・渡辺さんを演じている緒形直人さんのコメントをお届けします。
チームの中で異端児でありたいので、オフの時間も独りでいるようにしていたそうですよ。だからこその漂う強い孤独感。すばらしいですね。

しっかりと悲しむ、しっかり辛い顔をした演技を朝から届けていきたい
緒形直人

Q1 出演が決まったときの気持ちは?

『ファイト』以来、19 年ぶりの朝ドラ出演になります。社会派ドラマや若者のドラマが多いなかで、こうした日常を丁寧に描く井戸端会議のような物語は、朝ドラならではと感じているので、お声をかけていただき嬉しく思っています。BK での撮影は雰囲気が良いですね。心地が良いです。

Q2 撮影ための準備や役作りについて

関西弁で演技するのがこれまであまりなかったんですよ。なので、何度も音源を聞いて練習していたら、先日、別のナレーションの仕事で、初めてイントネーションを指摘されるという、自分にとってショックな出来事がありました。関西弁に引っ張られてしまいました(笑)。
あとは、なるべく孝雄に近づけるように、撮影中もそうでないときも独りでいるようにしています。台本もあえて孝雄に関係する部分以外は、流し読み程度にしているんです。余計な情報を入れて、孝雄の演技に影響を出したくないから。それだけ孝雄の世界は閉じているんだと思うし。食事のお誘いもいただくのですが、チームの中で異端児でありたいのであえてお断りして、オフの時間も独りでいるようにしていました。

Q3 演じる役・渡辺孝雄について

不幸な役どころですね。神戸の靴店店主・渡辺孝雄は、母子家庭で育ち、弟のために学校を辞め、家庭を支えていた苦労人という設定です。苦労しましたが結婚し、子供が生まれようやく幸せというものを感じていたところ、母を亡くし、妻を亡くし、男手ひとつで懸命に一人娘を育ててきた。そうした状況で阪神・淡路大震災に被災し、すべてを失って 12 年間、まだ一歩も前に進めていない男です。でもこういう人は、地震大国である日本にはおそらくたくさんいるのでしょう。僕自身だったとしても塞ぎ込んでいたと思います。
物語が進むにつれて、自分の不幸にとらわれていた孝雄が少しずつ前を向く様子が描かれていきます。聖人が靴の修理を頼むのもきっかけのひとつ。修理したいと靴職人の本能が芽生えたのでしょう。それでもまた悲しみの殻に閉じこもる。何年も一歩も前に進めなかった男が一歩片足を出そうとしても出せない。そんな簡単なものではないですよね。その葛藤や苦しさを丁寧に演じていけたらと思っています。

Q4 視聴者へのメッセージと見どころ

今回、堀内正美さんともご一緒しますが、彼から「親を亡くすことは過去を失くすこと。恋人や妻を亡くすことは今を失くすこと。子を亡くすことは明日を失くすこと」と教えていただきました。心の復興は人それぞれ違います。阪神・淡路大震災だけでなく地震大国である日本で、こうした人が現実にいることを絶対に忘れないでほしい。そういった意味でもしっかりと悲しむ、しっかり辛い顔をした演技を朝から届けていきたいですね。

※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第48回のレビュー}–

第48回のレビュー

結(橋本環奈)たちJ班は子ども防災訓練の炊き出しメニューを考えるにあたり、当時の話しを商店街の人々に聞くことにしました。

当時、永吉(松平健)がトラックに乗って食材を持ってきたことは、大変ありがたい記憶のはずが、聖人(北村有起哉)はちょっと苦い顔をしています。父に助けてもらうのがいやなのでしょう。

永吉は、お菓子なども積んできたものの、途中で配ってしまい、結たちを見つけたときには物資は少なくなっていました。永吉の人の良さを感じさせるお話です。
お味噌汁には永吉が遠方からもらってきた豆腐が入って、充実したものになったのです。
豆腐は高齢者にも食べやすい。確かに。

永吉が被災地から遠い人たちが、心配だけど行ったら迷惑なのではないかと気にしていることを伝え、そこから、助け合いがはじまっていきます。
何か言いたかったり行動したかったりするけれど、動けない人はいるもので。その人たちに手を差し伸べるのが永吉であり、米田家なのです。

この回では、歩(仲里依紗)が、古靴のカスタムを渡辺(緒形直人)に頼む気まんまんで、大量に古靴を集めていました。なにかに熱中していると少しは気が紛れることを歩も経験していました。

豆腐は「栄養パンパン」という永吉。ずっと気になっているのですが、「おむすび」では「栄養パンパン」という言葉が時々出てきます。
「栄養たっぷり」とはよく言いますが「パンパン」って言います? はち切れそうに栄養が詰まっているという意味は伝わってくるのですが、なんか慣れないのは筆者だけでしょうか。

それにしてもすっかりチームワークの良いJ班。
仲良くなるといろいろわかってくるもので、沙智(山本舞香)の秘密がまたひとつ明かされます。それは
「若い男子という生き物」が苦手であること。近くにいるのが中年男性のモリモリ(小手伸也)で良かった。栄養学校には男子はまったくいないのか。陸上競技の場には同世代の男子は全然いない、わけないと思いますが……。
まあ、沙智の弱いところが出てそれは可愛げということでしょうかね。

沙智の弱点が現れたきっかけは四ツ木(佐野勇斗)。結に相談ごとがあって学校に来たのです。スランプに陥って、球の速度が出ない四ツ木に、結は速くないといけないのかと別の角度から考えることを示唆します。球が速くないなら速くないなりの良さを見つければいいと。

「他人の眼は気にしない」「翔也は翔也らしく」。この考えはギャルの掟であり、先日終了した連続ドラマ「無能の鷹」(テレビ朝日)の内容のようでもあります。「無能の鷹」は会社で何もできない主人公を、まわりがサポートして、彼女の個性を活かしていくお話で、ひじょうに勇気というか救いを感じるドラマでありました。

結のこの寛大な発想は、引いては震災経験者にはじつにいろいろな人がいるということにつながっています。どういうことかというと、震災で受けた衝撃から早く立ち直った人もいれば、なかなか立ち直れない人もいる。すぐにパワフルに動ける人もいれば、どうしても動けない人もいる。それを一定の基準で良い悪いと判断することはできないのです。

ところが美佐江(キムラ緑子)は、渡辺がいつまでも何もしないで塞いでいることを良く思っていません。彼女も震災で身内を亡くしているけれど、無理に明るく振る舞っているから歯がゆいようです。やっぱり、彼女がいつも妙に空元気ぽいように感じたのはそのせいだったのかもしれません。ただ、そのやり方を他者に求めるのは筋違いなのです。

かように、このドラマを見ていて、例えば「栄養パンパン」という言葉がしっくりこなくても、そういう言葉を使う人たちがいることを受け入れたいし、米田家の人たちが苦手と思っても、こういう人たちもいると受け入れたいし、渡辺も渡辺だし、美佐江もいくらなんでもキツイだろうと思っても、受け入れたい。「若い男子という生き物」も受け入れたい。「若い男子という生き物」が苦手な人も受け入れたい。「おむすび」は異なる価値観を受け入れるという、人類最大の問題に挑んでいるのです。

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–{第49回のレビュー}–

第49回のレビュー

同じ商店街の住人なのに、美佐江(キムラ緑子)渡辺(緒形直人)を極端に嫌っています。結(橋本環奈)は仲良くなってほしいと願うのですが……。
商店街の人たちはもう長いこと諦めて放っているのでしょうが、戻ってきた結だから、この膠着した問題にうっかり口が出せるのでしょう。

美佐江が渡辺を毛嫌いするのは、阪神・淡路大震災で兄夫婦を亡くしながら、それでも前を向いて生きていこうとしている自分と比べて、いつまでも立ち止まっている渡辺が不甲斐ないと感じるようです。
聞けば、震災当時も美佐江は周囲に心配かけまいと、兄夫婦の死を黙っていたとか。がんばり屋さんなんですね。でもそのがんばりを他人にまで求めるのはちょっと違う。体力の違う人に、なんで山に登れないんだと言えないのと同じです。

だからこそ、その人にだからできることに気づいて、提案する。それが聖人(北村有起哉)の渡辺への靴修理の依頼です。さらに、歩(仲里依紗)の靴のカスタム依頼。
渡辺は相変わらず、酒に溺れ、ぐだぐだしていたら、亡くなった真紀が出てきて思わず手を握ると、そこにいたのは歩でした。弱いところを見られてきまずそう。

渡辺がアーケードに賛成したのは、真紀が賛成していたから、彼女の思いを叶えようとしたことがわかりました。真紀は亡き母(渡辺にとっては妻)も賛成しただろうと思っての賛成でした。
複雑な思いが絡み合って、なかなか解決しません。

結は結で、当時、冷たいおむすび「チンして」とわがままを悪気なく言ってしまったことを思い出して、後悔しており、防災訓練の炊き出しでは、ほかほかおむすびを出すことにこだわります。
あのとき、おばちゃんも「ほかほかを食べてもらいたかったと思う」と結は想像します。そう言われると、何度も出てきた回想がちょっと違って見えませんか。
どういうことかというと、最初は、おばちゃんが震災がつらくて泣いてしまったように思えたのが、結の解釈を聞くと、おばちゃんには料理をする人のプライドがあったと想像できるのです。
せっかく作ったのだから美味しいものを食べてほしい。レストランなどで、あたたかいうちに食べてほしいと思われるのと同じでしょう。
聖人の「職人として」と渡辺に言う言葉も同じ。
被害にあった人の可哀想さにフォーカスするのではなく、その人の誇りが災害で損なわれたことに着目する。でもその誇りは決して損なわれるべきではないし、それは取り戻すことができるのです。

ということで、今回は、懸命に前向きに生きている美佐江さんを演じたキムラ緑子さんのコメントをお届けします。
「すごく愛があるんだと思います。愛が無いと他人に対して怒らないじゃないですか」と美佐江を解釈しています。

愛が無いと他人に対して怒らないじゃないですか
キムラ緑子

Q1 出演が決まったときの気持ちは?

関西出身ですし、大阪でお仕事をさせてもらうことも多いので、朝ドラの撮影を大阪でできることは、ほっとしますね。BK(NHK 大阪放送局)はアットホームな雰囲気なので、関西弁でお芝居ができることをうれしく思っています。

Q2 演じる役・佐久間美佐江について

さくら通り商店街でパン屋を営む美佐江は、明るくて元気で人を幸せにしようとする女性です。30 年前の阪神・淡路大震災で被災していますが、震災という壮絶な体験をもつ人は本当に強くて優しいのです。一方で、被災した体験を演じることの難しさを感じています。実際に被災したことがないので、それは絶対に無理なんです。でも無理だと思い続けても、それでも起こったことを何とか想像して演じることが大事だと思っています。

食べ物がない、水がない、何日も着替えもできないという避難所の設定であっても、実際の避難所の撮影では、その日に現場に入ってその時だけの撮影です。もうずっとここで寝泊まりして撮影できたらいいのにと、もどかしさを感じていました。

Q3 商店街のメンバーについて

神戸の商店街の面々は全員が知り合いで、一緒に商売して助け合って一体感があります。ヘアサロンヨネダにしょっちゅう集まって居心地が良い家族のようなんです。テーラー店の高橋役を演じる内場勝則さんはお笑いのプロなので、こちらがどんな演技をしても、きっちり受け止めて返してくれるので安心感があります。ほかの商店街の面々も和む人ばかりなので雰囲気の良さが画面を通して伝わるといいですね。

緒形さんが演じている渡辺孝雄とも、きっと仲が良かった時代があったんだと思います。震災で娘さんを亡くした辛さから抜けられずにいる孝雄を、なんとかそこから抜け出させてあげたくて美佐江はジリジリしている。そのジリジリが怒りになっているんです。憎しみではないんですよね、すごく愛があるんだと思います。愛が無いと他人に対して怒らないじゃないですか。関わりが深い人だからなんとかしてあげたいし、だからこそ「バカヤロー!」とも思ってしまう。関係性が濃いんですよね。その人の関わりの深さも商店街ならではだと思います。

Q4 視聴者へのメッセージと見どころ

震災の問題が奥底にあって震災の PTSD も描かれますが、物語としてはずっと明るいです。神戸の商店街の面々のにぎやかさもそうですし。ギャルの子たちも個性的でかっこいいですよ。そこも楽しみにご覧になっていただきたいです。

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–{第50回のレビュー}–

第50回のレビュー

防災訓練の準備が進むなか、糸島からアスパラガスが届きます。アスパラガスが育つには時間がかかるそうで、今年はうまくいったようです。
タイトルバックの最後にもアスパラガスが出てきますので、重要なアイテムであることがわかります。タイトルバックに出ているアイテムが物語に関わってくることは以前から話題になっていました。

結(橋本環奈)聖人(北村有起哉)と共に防災訓練の打ち合わせに参加、当日の手が足りないので誰かいないかという話しで渡辺(緒形直人)の名前があがります。が、美佐江(キムラ緑子)があからさまに嫌悪感を示します。
哀しいのは彼だけではないのに、ひとりだけいつまでもグズグズと前を向かないことを真っ向否定するのですが、聖人がかばいます。平行線なところ、ここでアスパラガスです。
うまく育つのに時間がかかるアスパラガス。野菜はそれぞれ個性があって育つ時間が違うと結が言い、商店街の大人たちは納得しました。
ここは、 年齢の低い、お子様にもわかりやすい表現ですね。

そしていよいよ子ども防災訓練の当日です。
わかめおむすびツナ缶とサバ缶のけんちん汁を結たちは振る舞います。

役所の職員である若林(新納慎也)は95年1月17日にあった阪神・淡路大震災のことを紙芝居仕立てで子どもたちに語り聞かせます。当時を知る大人たちもしんみり聞いています。

防災訓練がいい感じに進行しているなか、渡辺がやってきます。なんだかんだ言いながら美佐江が声をかけたのです。アスパラの話しが効いたのかも。

結が手渡したおむすびを渡辺が食べます。
この週の演出を担当した小野見知さんに取材したとき、「生きていくということを、おむすびと共に、彼自身が飲み込む瞬間の演技には鳥肌が立ちました」とおっしゃっていて、この場面が単に、渡辺がようやく気持ちを変えたということではないのだと感じました。

彼はまだ、生きる気力を取り戻してはいないけれど、生きていかないといけないのだと、苦い薬を飲むように食べ物を口にしたのでしょう。

これでまず、美佐江の渡辺への無理解とか反発とかが解消されました。それは結の力。
歩(仲里依紗)は、結は人と人を「結ぶ」と言います。
結のその役割は、栄養学校でもすでに発揮されていました。ぎすぎすする沙智(山本舞香)佳純(平祐奈)を結びつけていました。

歩の話しを聞いていた愛子(麻生久美子)が、歩は「わが道を歩む」だと笑います。
名前は人柄を表す。愛子は愛の人で、聖人は学識が高く人徳のある人、ということでしょう。愛と聖って
かなり最強ではないでしょうか。

これらの漢字のネーミングがヤンキーが好みそうなイメージ(偏見)。

こうして防災訓練がうまくいったわけですが、気になったのが季節。夏の防災訓練に、ほかほかのおむすびっていうのがよくわからずで。

震災は真冬で寒かったから、あたたかいものが恋しかったと思うのですが……。
できたてのあたたかいものを食べる喜びと、放置されて冷え切ったものを食べる残念さは、似て非なるもののような気がします。

震災当時は深夜で冷え切ったおむすびは、単なる冷えたごはんとは違う、極端に冷え切っていたと想像できます。でも、ご飯って冷やご飯でも美味しいもの(おにぎりがそう)と、冷えるとたちまち不味くなるものがあって。冷えても美味しいように上手に炊くことが重要な気がしますので、その共通認識をまず前提にしないと、いろいろな意見がまとまらなくなる気がします。

今週は「人それぞれでよか」がテーマですが、それぞれを結びつけるための共通言語や認識、目的みたいなものが必要なのではないでしょうか。
今回の場合、震災のときーー寒いか暑いかどういう状況か、でどんな料理が最適かという目的が提示されてほしかった。アスリートの献立と同じですよね。アスリートの体型とどうなりたいかの目標によって計算が変わってくる。

渡辺さんの場合はどうなのか。渡辺さんはどうしたいのか。立ち直りたいのか、立ち直りたくないのか。周囲は、彼にただ生きていてほしいのか。商店街の人間関係を円滑にしたいからはみ出すことをやめてほしいだけなのか。
迂闊に手を出すには難しい題材だと思います。

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–{第51回のレビュー}–

第51回のレビュー

子ども防災訓練での炊き出しが成功し、ヘアサロンヨネダでささやかな打ち上げをしていると、佐々木佑馬(一ノ瀬ワタル)が飛び込んできました。
第11週「就職って何なん?」(演出:大野陽平)は新たなターンへ。
佑馬は、歩(仲里依紗)をロサンゼルスにすぐに一緒に行ってほしいと言います。彼女じゃないとビジネスが成り立たないらしい。
明日すぐ発とうと準備をはじめる歩に結(橋本環奈)渡辺(緒形直人)の靴のカスタムを頼んだのはどうするのかと問います。が、歩はすっかりその件に関しては諦め気味で。
心配した結は夜分に渡辺を訪ねます。夜分って何時なんだ? そしてなんでほとんど仕事してないのに渡辺は店舗にいるんだ?
結は真紀が「うちのお父ちゃんは日本一の靴職人」と言っていたと伝えます。
歩が靴の修理を頼んだのは、真紀の自慢だったお父さんに戻ってほしいという気持ちだったのです。何かに集中していればつらいことが忘れられる、みたいなことを言ってましたが、いきなり職人の話しを出すと、展開がうまくいかないからでしょう。
第45回と49回で聖人役の北村有起哉さんが「職人として」というセリフを足したそうなのですが、北村さんは真紀のエピソードをあらかじめ知っていて、「職人」を足したのかもしれません。聖人はたぶん、真紀の言ったことを聞いていないと思いますが、真紀も聖人も、みんな渡辺の職人としての腕前に一目置いていたということが、あらかじめ布石として置かれていれば、唐突感もないです。北村有起哉さんのアシストがすばらしい。今回の「ルー大柴か」は台本にあったものだと思いたい。

結の話しを聞いた渡辺はついに心を動かし、出かける前に墓参りに来ていた歩に、試しにカスタムした靴を見せます。畑違いのギャル靴ですがみごとに作った渡辺に歩は感嘆の声をあげました。
そして、渡辺も「ギャル」だと讃えます。
歩は心を軽くしてロスに向かうことができました。めでたし、めでたし。
昔ながらの靴職人が、靴をデコることに最初は抵抗があって、でも、次第に彼女たちのこだわりにも興味を持って……という話しにはならなくて、ひじょうにすんなり、ギャルファッションを受け入れられる渡辺さんはやっぱり潜在的にギャル魂を持っていたのでしょうね。

そして、1年が過ぎます。結は就職活動をはじめることになります。
一方、四ツ木(佐野勇斗)は変化球を身に着けて活躍。順調にプロ選手の道を邁進しています。
第11週のサブタイトルのように、結の就職、四ツ木のプロの道と、大人の階段を1段階上がる週のようであります。
深刻な話しを入れながらも、佑馬の登場などで軽快に見せ、時間もビュンっと飛ばしていきます。
理屈抜きの部分は手慣れているのが根本ノンジ脚本。過去、いろんな作品で鍛えられたのでしょう。
ただ、打ち上げで、炊き出し200食作るのはむずかったと、佳純(平祐奈)などに言わせるのを見てると、栄養学校で炊き出しの献立づくりを急遽課題にして生徒たちを巻き込んでおきながら、結果、J
班だけしか防災訓練に参加しない不自然さも否めません。なんで課題で結の手伝いをしないといけないのかと反発する生徒がいてもおかしくなさそうなものにもかかわらず、そういう学校ドラマのようなものは描かない選択も興味深いです。商店街の人たちのメンツもほんとうにかなり少なくて、街の団結がまったく伝わってこない。ただ、この、とても小さなコミュニティのお話しであることが重要なのでしょう。小さな小さなコミュニティ、そして、ふだん注目されないような個人にフォーカスを当てることが重要なのだと思います。

余談ですが、渡辺家のお墓に刻まれた文字を見て、真紀が15歳、その前の早苗さんが36歳(たぶん、これが孝雄さんの妻でしょう)、その前の和子さん(たぶんお母さん)が57歳と渡辺家、短命です。渡辺孝雄さんが天涯孤独なのがわかります。孝雄さんのお父さんの名はこの面の向こう側に刻まれているのでしょうか。

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–{第52回のレビュー}–

第52回のレビュー

就職活動のシーズン。J班はそれぞれ進路を考えます。
佳純(平祐奈)結(橋本環奈)は就職しなくても彼(四ツ木)と結婚すればいいのではと問われます。結は彼を支えるために栄養士を目指したのですから、確かに永久就職という方法もアリのはず。
ですが、結は学校での様々な出会いによってもっと経験を積まなくてはと考えるようになっていました。
向学心が芽生えたようです。

黒髪に戻して就職活動開始しますが、前途多難。見た目は黒髪、リクルートスーツで真面目になっても、内面は急に変われません。
大事な面接で、ふだんの口調が出てしまい、ちゃんとした発言ができません。
「うち」と言ってはいけないと聖人(北村有起哉)に注意されたにもかかわらず、言ってしまうというベタすぎる間違い。面接の結のうまくできなさは、ベタすぎる展開でした。
ほかの志望者たちは、管理栄養士の資格があったり、空手をやっていたり、自己アピールに優れているのに、結はパラパラを踊って面接官をドン引きさせてしまいます。

勝ち目なしと、家に戻って落ち込んでいると、野球好きの若林(新納慎也)が新聞に四ツ木(佐野勇斗)が載っていると大騒ぎ。
四ツ木は魔球ヨン・シームによって変化球投手に切り替えて、活躍していました。結が直球にこだわらなくていいのでは、とアドバイスしたおかげですね。落ちるボールって、豪速球投げるパワーがないから途中で力つきて落ちるの?と筆者はいつも思うのですが、すみません野球をわかってなくて。

四ツ木の好調と裏腹に、結はまったく内定がとれません。佳純と沙智(山本舞香)は内定がとれます。沙智はスポーツに力を入れている大企業・まんぷく食品から内々定をもらえました。

朝ドラ辞典 「まんぷく食品」まんぷく・しょくひん
「まんぷく」(2018年度後期)の朝ドラで、主人公・福子(安藤サクラ)の夫・萬平(長谷川博己)が作った会社。モデルは日清食品。「おむすび」で沙智が内定をとった。

結は一向に内定がとれないまま日々が過ぎていきます。わりと難関な会社を狙っているからというのも
あるようですが、面接のできなさを見ていると難関だからということではないような……。でも面接って
うまくできないものですよね。企業が求める理想的な言動をするのが最適解であって、自分らしさを封印するのがいわゆる就職試験ですから、ギャル精神とは相性がよくないのだと思います。
面接のときの、結の様々な表情の変化が、じつに鮮やかでした。橋本環奈さんは瞬間の顔芸に優れています。たぶん、福田雄一さん作品で磨き上げてきたのでしょう。

ところで、時代的には、2008年になっているかと思うのですが、リーマンショックの影響はないのでしょうか。「舞いあがれ!」では主人公がリーマン・ショックに翻弄されていた頃です。
経済的な題材までやっていると、話しが進まないので、さておいているのかもしれません。

就職試験の合間、四ツ木の会社・星河電器が準優勝し、太極軒でお祝いの食事をしているとき、唐突に四ツ木が「結婚」を口にします。このときの結のいぶかしげな表情も見事でした。
こうなったらこのまま永久就職でもいいのでは……。

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–{第53回のレビュー}–

第53回のレビュー

太極軒で食事している最中に、四ツ木(佐野勇斗)に「結婚すっぺ」とかなり軽く持ちかけられた結(橋本環奈)。「こんな雰囲気ゼロのお店で」と不満気味。このシークエンスを見て、既視感を覚えた視聴者もいたのではないでしょうか。根本ノンジさんが脚本を手掛けた月9「監察医 朝顔」です。このドラマでも主人公(上野樹里)恋人(風間俊介)とのいきつけのもんじゃ屋さんでプロポーズされ不満を漏らしました。このエピソードはその後、いい話しに展開したので、「おむすび」でも単なる自己模倣ではく、いい流れにつながることを期待します。
ただ、結は、不満を言いながらも、内心、プロポーズにはときめいているのです。

筆者的に期待ハズレであったのは、聖人(北村有起哉)愛子(麻生久美子)の馴れ初めです。愛子が十代で歩を妊娠して結婚したというので、もしかして人のいい聖人がシンママになった愛子を助けたくて結婚し聖人の実の子ではない歩のこともとても可愛がっていて……というドラマのひとつのパターンを筆者は妄想していたのですが、「おむすび」では、そこはハードな話しにはなりませんでした。震災という題材があるので、それ以上、重い話しは不要でしょう。

ふつーに、聖人が理容師見習いの時代、家出してきた愛子と知り合って、思いが募ってプロポーズしたようです。朝ドラで、十代のデキ婚を描くのは珍しい気がします。連れ子はいなかったけれど、家出している愛子を聖人が助けたいと思ったのは事実でありましょう。

なぜか、聖人と四ツ木の結婚の流れが、男性主体で描かれています。仕事で自信がついてきたところで結婚しようと考えるのです。自分が彼女を養えるという自信と責任感です。最近は、経済的な不安から結婚できない人が増えていると言われていますが、聖人と四ツ木は、経済的にもなんとかなると踏んでの求婚でしょう。そこには、少し、働く自分を支える人が欲しい。愛を伴いながら妻を雇うというような考え方があったように思います。そんな感じだから、女性が期待するロマンティックなプロポーズなど想像もしない、照れもあるのか、いつもの店でさりげなく持ちかけるのです。

佳純(平祐奈)は旧時代の感覚の人で、結は四ツ木を支えたいと思って栄養士になろうとしたのだから、就職が決まらないのなら、このまま結婚して彼を支えたらいいと言います。一方、沙智(山本舞香)は男性に依存して、裏切られたらどうするのかと、女性の自立を語るのです。

愛子のほうは、結に、聖人をずっと支えてきたと言われ、支えてきた自覚はなく、好きだからやっていたとけろっとしています。愛子の流され感は、朝ドラにはあまり見ないタイプのキャラクターです。朝ドラヒロインにありがちな、絶対的な価値観(しかも社会正義的な)を貫くのではなく、なんとなく流されているのだけれど、やりたくないことはたぶんやっていない。そのとき、そのときで、やってもいいかなと思った本能にまかせて、生きている(だからいまはブログをやっている)。ある種の自然体というのかもしれません。

結は最初、四ツ木ファーストで、流されているところがありましたが、栄養学校に入り、世間にさらされた結果、少しだけ、自立心が芽生えはじめているようで、栄養士としても、人としても、学ぶべきことがあるのではないかと考えるのです。このようにだんだんと気づいていく人は現実にいます。
社会でこういうものだと決めつけられていたことになんとなく従っていたけれど、少し勉強すると、違う角度が見えてくる。いまの時代に必要なのは、結のように最初はゼロベースだけれど、ちょっとずつ学んで変化していくことなのかもしれません。

※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。

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–{第54回のレビュー}–

第54回のレビュー

内定がちっとももらえず、結(橋本環奈)が困っていると、四ツ木(佐野勇斗)が所属する星河電器で、栄養士を雇う案が浮上し、結に白羽の矢が立ちます。

きっかけは、星河電器のエース・澤田(関口メンディー)の発案。当初は予算がないからと却下されたのですが、彼がドラフトで巨人1位入団が決まり発言権が強くなり、再び浮上してきました。

野球部で雇用はできないが、社員食堂で雇用することになり、でも予算がないのでキャリアのある人は無理ということで、新卒の結。一応、結が四ツ木のために作った献立がよくできていたからという理由もあるとはいえ、明らかにご都合主義ではあります。でも結自身がこれは「なんかずるくない?」と気にし、展開のご都合感をぼかします。

朝ドラヒロインはたいてい、この「ずる」な感じをものともせず、むしろ、当たり前に享受していくのですが、ここはヒロインが謙虚であるスタイルです。

ブレているようでブレていないのは、おむすびをチンしてとワガママに思えるようなことをその場の空気を読まずに言ったり(幼かったので仕方ない)、栄養士の学校でギャルファッションをしたり、自分のやりたいことはよくわからないが彼氏を支えたいと考えたり、昔、ほかほかおむすび食べたかったら、防災訓練が夏でもほかほかを出そうとしたり、独自の道を進むけれど、決して、ずるはしないということなのでしょう。

そこは確かにブレてはいません。その場その場で思ったことを素直にやってるだけで悪気はいっさいないとは思います。

四ツ木は四ツ木で、そもそも栄養士の話しが出たとき、結はどうかと澤田に言っていて、結と職場が同じになることがまんざらではないようです。この人も、悪気はいっさいないのですが、視野は広くないようで、ただただ目先の欲望に素直に生きている感じです。眼の前の人参を追いかけている感じ?

スタミナ不足だから熱心に走る、結が好きだから彼女の弁当や献立は無条件で受け入れる等……。それでいまのところうまく行っていて、来年のドラフトは間違いないと目されているから立ち止まって考えることもないのでしょう。

このまま、結と同じ職場で、さらに結婚してバカップルになるのでしょうか。そんな会社、筆者だったらいやだけれどなあ。

聖人(北村有起哉)は、結が星河電器に入ることに賛成ではなく「甘い」と言います。でも愛子はいいんじゃないかと思っています。

ここで愛子(麻生久美子)は、聖人の結が「甘い」と感じることに、自分が、聖人のやることに従って床屋をやったり農業をやったりも「甘い」のか?と物申します、一見自分の意思がないようでいて、彼女としてはそんなことはないようなのです。

筆者としてはてっきり、気づけば、妻として夫について生きて、やりたいことをやれない20何年だったので、最近子育ても終わりかけてきて、好きな絵を描いてブログをはじめ、自分を見つめ直しているのかと思って見ていたのですが、愛子の反応を見るに、そういう意識でもないような……。

人間、そんなに明確に意思を認識していなくて、誰もが、自分ってなんだろうとか、何をすべきかとか、考えているのでしょう。だからこそ、ドラマで、登場人物が明確な意思を持っているものに励まされる。でも、しっかりしている人を見ていると疲れてしまうこともあって。自分のことをよくわかっていないような登場人物のほうが共感できるというのもあると思います。おそらく「おむすび」は後者のドラマのようですね。

第54回は、久々にハギャレン集合。みんなが神戸に遊びに来て、カラオケでおしゃべり。彼女たちにも社員食堂で働くのはずるくない? 甘えてないかと相談すると「甘えてよくない?」とあっさり。
あゆを合唱して気が晴れた様子。実はそれを仕掛けたのは愛子でありましたというオチ。

通常の朝ドラだったら、ここでほのぼのして終わる気がしますが、そこで終わらないのが「おむすび」。
ハギャレン集合からの帰り、結はモリモリ(小手伸也)のあやしいところを目撃して……。彼もまた就職決まってないようですが、やってんだ?という感じであります。

ところで第53回で、学食でプロポーズされたとJ班のみんなに話したとき、ほかの生徒たちが一瞬結たちのほうを見たタイミングが良かったです。

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–{第55回のレビュー}–

第55回のレビュー

モリモリ(小手伸也)が夜の街で女性と親密そうにしているのを目撃した結(橋本環奈)
不倫? とさっそく学校で佳純(平祐奈)沙智(山本舞香)に報告します。
そこへ、モリモリが来て、真相が判明しました。
「結婚!?」と3人が大声をあげて、主題歌へーー。この流れはひじょうにいい感じと思って脚本を書いている気がします。

実は、モリモリ、バツイチで、娘は元妻と暮らしているそうです。モリモリは調理師の女性と再婚し、お弁当屋さんを開業するそうです。
46歳ですから、人生もいろいろとは思いますが、やたらと話し好きな感じのモリモリが2年間、バツイチであったことを言わないのも不自然な気がしますが……。

ただ、いっつも一緒につるんできた結たちが、彼のプライベートには興味ないのは、まあそういうものかなという気もします。それと、昨今は個人情報の扱いがデリケートになっているので、プライベートのことを聞かないのもヘンではないかも。いや、むしろホッとします。4人が、お互いの余計なことは聞かずに、お互いを信頼して仲良くできたのはとてもいい。まあ結だけは余計なことを聞いてましたし、自分の話し(野球選手である彼氏を支えたい)を聞かれもしないのにじゃんじゃんしてましたが。

再婚とお弁当屋開店計画について語らずにいたなのは、結が就職が決まらず悩んでいるときに言えなかったという気遣いでした。こんなふうに、気遣ってくれる人がいるのに、結はデリカシーなく他者に踏み込んでいっていたんですね。

モリモリに励まされ、結は星河電器の面接を、ものすごく優秀な回答でクリアします。これまでの反省を活かして、急成長です。

みごとに就職が決まり、二十歳の誕生日を迎え、家族でのお祝いの席に四ツ木(佐野勇斗)も参加します。
四ツ木から結婚生活がうまくいくコツを聞かれた聖人は、「ひたすら我慢」「すばやい謝罪」と秘訣を語ります。すっかり仲良くなっている四ツ木と聖人なのでありました。

そして、卒業式。結、佳純、沙智は、袴姿で、モリモリも一緒にプリクラ撮影。
3人の袴姿は艶やかで素敵でした。

朝ドラあるあるに「写真」があります。たいてい家族写真を大切に家に飾っているのですが、平成ではプリクラで友人たちの集合写真を大切にするのです。時代の変化が見てとれて面白いです。

こうしてあっという間に栄養学校編は終わり、いよいよ社会人。結の栄養士としての日々がはじまります。

ここで栄養士編の良かったところをあげてみましょう。モリモリのような46歳のおじさんが、若い人たちに混ざって学校に通い、第二の人生を切り開く物語は高齢の視聴者への目配りでしょうか。彼が娘のような十代の女子3人が仲良くできたことは多様性の理想のようです。

思えば、「おむすび」はエイジレスな感じがします。愛子(麻生久美子)もものすごく若く年齢不詳です。しかも十代で出産しています。世間的にちょっと早いんじゃないかという年齢で出産していることもあまり問題視されていません。永吉(松平健)も従来のおじいちゃんらしくなく、若く見えるし、無分別な感じです。歩(仲里依紗)も年齢不詳。世の中、ジェンダーレスのことばかり盛んに推し進めていますが、エイジレスももっと推し進めてほしいもので、その点においては「おむすび」は評価できます。

エイジレスといえば、橋本環奈さん。この回で結は二十歳になって家族でお祝いにビールを美味しそうに飲みます。演じている橋本さんは、結が高校生の頃からビールのCMに出ていて、朝ドラを見ていると違和感がありました。演じている御本人は成人ですが、高校生を演じている間は、ビールのCMを流すのはしばし待って、結が二十歳になった時点でビールのCMがはじまったら面白さが増した気がするのですが、メーカー側は待ってはくれなかったようです。

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–{第56回のレビュー}–

第56回のレビュー

第12週「働くって何なん?」(演出:盆子原誠)は新章のはじまり。

結が星河電器の社食に就職しました。

出勤初日。翔也(佐野勇斗)につれてきてもらったときと立川(三宅弘城)は別人のように不機嫌。

「このひと、あんなにニコニコしていたのに」と結はショック。

確かにノリツッコミしていて、「おもろい?」「おもろい?」と繰り返していて

おもしろい大阪のおじさんかと思ったら、じつは頑固そう。

こういう人、います。触れてはいけないところに触れてしまうと急変する人。

でもそれはその人のとても大事にしている部分なのです。

立川に関しては、調理場が彼の聖域であり、簡単に若い栄養士にいじられてたまるかということでしょう。結婚して嫁がお姑さんの台所に入るときみたいな感じと似ていると思います。

さらに、彼は澤田(関口メンディー)の推薦と聞いて、へそを曲げています。なぜなら澤田は関西の球団でなく巨人にいったからです。

面倒くさそうな立川。結に仕事を振ってくれません。見かねた若い調理師の原口(萩原利久)が仕事を振ってくれ、そうこうしているうちにランチの時間。

目まぐるしいランチタイムに振り回されてぐったり。

栄養士らしい仕事はできず、ただただ雑用。まあそれはそんなものだとは思いますが。ところで、栄養士らしい仕事ってなんでしょう。「栄養士らしさって何なん?」です。

夜9時まで働き詰めで、社食のお仕事がいかに大変かはわかります。でもそこは翔也と同じ会社。待ち合わせて初日の不安を話して、励ましてもらって、そのあと、たこ焼きを食べに出かけます。幸せな結。たぶん、翔也がいるから、やっていけます。

一週間、冴えない日々でしたが、じょじょに冷静に社食事情を観察するようになり、利用者の意見――とくに女性のーーを聞いて、果敢に社食のメニューに関して立川に物申します。

結の指摘は、味が濃く、量が多すぎるというものでした。量が多いうえ、カラダによくないラードを使っているということ。メニューの見直しを提案すると、立川は「ほな俺辞めるわ」と激しく怒り出して……。

まず、賄いが美味しかったと言ってから本題に入ったのはよかったものの、そもそも話しかけるタイミングがよくなかった。阪神が負けてイライラしているときでしたから。

帰宅して父母にこの話しをすると、聖人(北村有起哉)は、一週間で意見を言うのは早すぎないかと言います。正論。聖人も職人ですから、そのへんわきまえがあるのでしょう。

たぶん、聖人も立川タイプ。ふだん、のほほんとしているけれど、自分の大事にしているものに関しては譲らず、頑固な人だと思います。

最近のドラマでは、こういういきなり他者に乱暴な口調で対応する人を、ハラスメントとみなして、描かない選択をするようになりましたが、「おむすび」はコンプライアンスが厳しくなる前の時代を描いているからか、乱暴な口調のおやじを堂々と出すのです。これはご立派。頭ごなしに何か言う人はいやなものではありますが、誰もがみんなものわかりがいいのもなんだかへんな気がしますから。でも、このままずーっと立川が面倒くさいままでもいやだし……。どう料理するかお手並み拝見であります。

パートの大堀さんと小堀さんって。メガネで少し大きなほうが大堀さんで、小柄な人が小堀さんでわかりやすい。

もう覚えました!脇役にこういう配慮があるのはいいですね。

星河電器の新たな有望選手・大河内勇樹(中山翔貴)も気になります。演じているかたの名前が翔也と同じ「翔」がついていてややこしい。この中山さんは野球経験者だそうですよ。

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–{第57回のレビュー}–

第57回のレビュー

入社1週間にして、社食の責任者・立川(三宅弘城)に献立を見直しませんかと意見した結(橋本環奈)でしたが、立川の機嫌を損なってしまいます。
翌朝、出勤すると、原口(萩原利久)が職場で寝ていて、昨晩、立川の気分転換のカラオケに朝までつきあったと言います。
立川はすぐカッとなりますが、カラオケで発散するとケロッとなるらしい。尾崎豊を歌うと機嫌が治った証拠で、それまでつきあわないとならないようです。

令和のいまではこういうことはハラスメントと捉えられ、避けられる傾向にありますが、平成時代はまだこういう理不尽な上下関係がまかり通っていたのです。
気分のアップダウンの激しい上司の機嫌をとらなくてはならないことって本当に不毛な時代でした。

原口も入社したばかりの頃、結のように立川に意見を言いましたが、同じようにけんもほろろな扱いを受け、以後は黙って従ってきました。
立川はレシピも残さず、原口に伝授することもしていません。
結は原口と組んで、立川の調理を記録してレシピを作ることにします。
こそこそとメモをとっていることに立川が気づきますが、指摘するのはメモではなく、結と原口がつきあっているんじゃないかということでした。
確かに、原口の姉もギャルで、結にギャルぽさを感じて、親しみを覚えたようではあります。

原口の姉もギャルとか、立川のやけに理不尽な振る舞いとか、なんだかその場しのぎの展開のような。この手の手強い脚本には、俳優全員・例えば古田新太さんクラスの手練れでなくては成立させることは困難かと思います。いま、嵐のなかで揺れる船状態ですが、名優・三宅弘城さんの登板によってなんとか支えている状態です。
朝、出勤してきた立川は、「もうええて」と昨日とは別人。朝までカラオケして、家に帰って家族の朝食を作って出勤。もうおじさんなのに、責任者だからとちゃんと朝出勤する生真面目さ。性格はあれだけど、仕事には熱心という、こういう人も世の中にはいる感じを三宅さんが見事に演じています。

結は職場で協力者ができて、疎外感はなくなったうえ、目的(打倒立川、レシピの調査)を見つけ、張り切っていますが、その話しを聞いた翔也(佐野勇斗)は面白くありません。結が同世代の男性と仲良くしていると聞けば心穏やかではないのです。しかも、自分の調子がよくないものだから余計です。
そんな翔也を、「かわいいやつだなあと思って」と結はすっかりお姉さん的な感じです。

昔の結は恋に疎く、大人しかったのに、いつの間にかものすごーく世間をわかった人になっています。悪くいうとスレた感じがするのです。芸能界にずっといるとたいていスれると思いますが、そう見せないのが朝ドラヒロインだったわけで、でも今回はスレた感じを堂々と出していくスタイルです。
序盤、制服を着崩そうとしてためらって控えめで健気に振る舞ってみたけれど、ほんとうはいまのようなサバサバした物怖じしないキャラなのだということでしょう。丁寧な下ごしらえしないで素材のままで勝負する料理のようなドラマなのです。

何も知らない呑気な結と比べ、視聴者は翔也の状況を逐一見ているので、彼に同情してしまいます。が、しかし、翔也も高校時代から、あまりいいことがなく、というか、いいことになりそうになるとうまくいかないとことの繰り返しで。悲劇の選手といえば聞こえがいいですが……。

翔也は本屋で自分の症状が悪いものだと知り、深刻。
結と太極軒でご飯を食べたあと、摩耶山の掬星台に行きたいと持ちかけます。
結は、以前、ここ太極軒でのプロポーズにダメ出ししたので、今度こそ、見晴らしのいい場所で?と浮かれます。
「タイミングとしては悪くない、むしろあり」と思っていると、そこへ、陽太(菅生新樹)がやってきてーーと、翔也にとってまったくタイミングが悪すぎます。
ただただ、翔也がかわいそうに描かれています。彼にもいいことがあることを願ってやみません。

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–{第58回のレビュー}–

第58回のレビュー

結(橋本環奈)翔也(佐野勇斗)のどちらにも試練が押し寄せています。
結は社食の責任者・立川(三宅弘城)が頑固で、栄養士を認めてもらえず、手こずっています。
翔也は、肩の調子が悪く、独自に調べるとどうやら容易に治りそうになく、不安を抱えています。

久しぶりのデートで、翔也は結におりいって話したいことがあり、結は勝手にプロポーズのやり直しではないかと、表面上はそっけなくしつつ、内心、うっきうきです。でも翔也のテンションとは明らかに温度差があり……。結は全然、翔也の様子がおかしいことに気づいていません。

体調が悪いときにプロポーズはしないと思いますが、翔也は何を結に言うつもりなのでしょう。気になるところへ陽太(菅生新樹)が神戸に出張でやって来て、翔也は帰ってしまいます。

社食の原口(萩原利久)と結が親しくしているのは面白くないと感じる翔也ですから、本当なら陽太と結がふたりきりになるのも、嬉しいわけはないと思います。でも、翔也はやせ我慢して、久しぶりだからつもる話しもあるだろうと言うのです。半分本音、半分は話したいことを話すことにもためらいがあり、ちょうど保留にできて良かったというのもあるのではないでしょうか。

こういう何かぐちゃぐちゃしたはっきりしない感情が根本ノンジ脚本には滲みます。聖人や渡辺(緒形直人)、立川、おじいちゃん永吉(松平健)などもそうです。これは従来の朝ドラ向けではないセンスで、どちらかといえばテレビ東京の深夜ドラマの感覚です。これを描く場合、主人公(ヒロイン)をしっかり描いたうえでやればどちらも生きるのですが、たぶん、ドラマとして、翔也の男の痩せ我慢みたいな部分を狙って物語にしているわけではなく、手癖に近い無意識で書いているのだと思います。だから男性キャラが一様にそういう感じになっている。そのため翔也のキャラもドラマのなかで生かされてなくて、とてももったいないと感じます。余計なお世話ですが。

良かったのは、結がちゃんと、自宅に陽太が泊まることになったことを翔也に報告することです。これ、他意はなくても結が黙っていたら、やばいですが、そこは結、ちゃんとしています。じつは何も考えてなかったりして。

陽太は糸島で家族ぐるみで仲良くしていたから、聖人(北村有起哉)愛子(麻生久美子)も大歓迎。とくに、愛子はちょうどお店のホームページを作りたいと思っていたので、IT 企業に勤務している陽太に頼ります。でも、聖人はホームページに反対なのでむくれてしまいます。
お客さんが減っているので、愛子なりに何か手を打ちたいと思ってのことですが、聖人はなぜか反対。この感覚、立川と似ている気がします。別に悪意で、相手の提案を否定しているわけではないけれど、自分が作ってきたパターンを壊されるのが面白くないのです。素直に、新しいことに目を向けることができません。そして愛子は苛立って家出してしまいました。いままで我慢していただけ立派だと思います。

で、立川です。結と原口がこそこそ、レシピを作っていると、しつこくつきあっているんじゃないかと訊ねます。が、実は、それが立川の懸念事項ではなく、レシピを作っていることに気づいていました。いきなり、レシピを作っていると頭ごなしに叱るのではなく、さりげなく、原口と結が何か一緒に行っていることを咎めていたのです。ただの短絡的に怒る上司ではないことがわかります。

結のレシピノートを奪って読んだときの立川の表情が印象的。絶対、立川もすぐに結を認めるのだろうと想像に難くありません。

ところで、陽太は、いまどきの企業に努めているようで、ジョイン、プライオリティ、オーソライズと英語をやたらと使い、聖人たちはちんぷんかんぷん。これ根本ノンジさんが脚本を書いた「無能の鷹」でも同じネタがあって、営業相手がやたらと英語を使うのですが、むしろ中身がない感じがすることを揶揄していました。
最近の世の中、それ日本語でいいのでは?と思うことをなぜか英語にする傾向がありますが、誰もがうすうす英語にする必要なくない?と思っていることを表しているようで、愉快ではあります。きっとお気に入りのネタなのでしょう。確かにジョインとかローンチとかアサインとか日本語でもいいよねって思いますよね。

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–{第59回のレビュー}–

第59回のレビュー

肩に爆弾を抱え不安な翔也(佐野勇斗)が、大河内(中山翔貴)の挑発に乗ってヨンシームを投げ、ついに肩が爆発してしまいます。こんなになるまでひとりで抱えて、まわりもさほど重大事にしていなかったのは、ドラマだからとしか言えませんが。「おむすび」は、この「ドラマだから」でスルーされる展開が多すぎてもやもやします。

愛子(麻生久美子)がブチ切れて家出したため、ヘアサロンヨネダは聖人(北村有起哉)ひとりでは手が足りません。
今日の【…ん?】最近、客が少ないと言っていたのに、大繁盛です。愛子が貧乏神なのでは……。
いやいや、ふたりだとちゃっちゃっとできることが、ひとりでは難しいのでしょう。コーヒーいれたり、パーマの準備したり、さりげなく愛子がやってくれていたのでしょう。

聖人が「お母さん」と呼んでいるのが気になります。昭和世代だと「お父さん」「お母さん」と呼ぶのは当たり前な気もしますが、そういう属性を規定してしまうことを問題視されているいま、「お父さん」「お母さん」呼びを見ると、この夫婦のあり方はどこかやっぱり考え直す必要に来ていることを実感します。
少なくとも聖人は愛子を、家のことをやる人と思っています。愛子も「お父さん」と呼んでいるので、彼女も先進的に見えて保守的なのでしょうけれど。

でも実際、それを意識して脚本が書かれているのか、無意識なのかも気になるところです。百歩譲って意識しているとしても、それが「お父さん」「お母さん」呼びにすると社会問題と重ねる視聴者がいるかも的なフックに過ぎず、作家当人の問題意識ではなさそうです。でも作家に問題意識がないとだめということはなく、締め切りに合わせて最大限の成果を出せればそれでいいのです。根本さんは職人だと思います。

ただ、陽太(菅生新樹)の英語多用には、彼のコンプレックスや焦りがこもっていたのであろうことがわかりました。結(橋本環奈)が職場での失敗と、「働くことは稼ぐこと」であると立川(三宅弘城)に聞かされた話しを家ですると、陽太は自分が実は会社で落ちこぼれていることを明かします。少しでも社風に慣れようと、英語を懸命に使っていたのでしょう。やっぱり中身のない空虚なものだったのです。

さて、結は、立川から日替わりメニューを任され、はりきって、スコッチエッグを作ります。メニューの文字も書道部出身を生かして、達筆で、社員の目を引きます。ここで書道部回収されました。やってきたことは一見結びつかなくても、何かしら結びつくことがあるものだと思わされます。

スコッチエッグは女子社員にも好評で、注文が殺到します。そのせいで、ほかのメニューの準備が滞って、スコッチエッグも間に合わなくなり……。結局、スコッチエッグは採用されません。立川は厳しく、11人の人が食べられなかった。売上にならなかったと言います。
今日の【…ん?】2 社食って会社の福利厚生施設なのではないのでしょうか。そうではなく、数売って社食の売上を上げることが第一なのか。謎であります。

さて、今日は、ちょっとこわいけれど、ほんとは職人気質で、悪い人ではなさそうな立川を演じる三宅弘城さんのコメントをご紹介します。回答が生真面目で誠実で、芝居をコツコツやってきた人らしさが滲みます。尾崎豊の「十五の夜」はフルコーラス歌ったそうです。本編ではかなり短かったのでもったいない。
三宅さんはパンクコントバンド・グループ魂の一員(ドラム担当)ですから、音楽のプロでもあるのです。

Q1 出演が決まったときの気持ちは?
朝ドラは、2 回目の出演です。どちらも NHK 大阪放送局さんで、1 回目に出演した『あさが来た』の時の印象がすごくよかったんです。大阪が、大好きになりました。前回の朝ドラで、初めて NHK 大阪に行ったんですけれど、楽しい思い出しかなかったんですよね。あのときは、月曜日にリハで、金曜日まで撮影して、金曜日の夜に東京へ戻って、また月曜日に大阪に行くという生活をずっとしていました。月曜日に、地下鉄の駅から(BK の近くにある)谷町4丁目の交差点のあたりに出てくると、「あぁ、戻ってきた!」みたいな気持ちになって、すごくホーム感がありました。でも、よく考えたら、もう 8 年くらい前になるんですよね。今回、スタジオが何階にあるかも忘れていて、大阪放送局のエレベーターで行ったり来たりしていましたね。
あと、脚本家の根本ノンジさんとは、いろいろな作品でご一緒させていただいているんです。今回、根本さんが『おむすび』を書くということになって、「僕も出演できたらなぁ」と思っていたんですけれど、念願が叶いました。しかも、大好きな BK だったので、余計にうれしさ倍増でしたね。

Q2 演じる役・立川周作について
プライベートでもタイガースファンなので、すごく共感を持ちました。料理は食べるのも作るのも好きなので、きっと撮影現場でも炒めたりするんだろうなぁと楽しみになりました。料理自体は(料理指導の広里)先生が作っていらっしゃるので自分が調理するお芝居は軽くでしたが、社食なので作る量が多いんです。よくあるようなフライパンを軽く振るという感じではなく、普段扱わないようなすごく大きいものを混ぜたりしました。その中で難しかったのは、包丁を研ぐところですね。切ったり、煮たり、いためたりは、普段もしますけれど、ちゃんと包丁を砥石で研ぐというのは、あまりやったことがなかったので。難しかったし、勉強になりました。立川にとって包丁は、30 年来の相棒ですからね。立川は、職人だし、自分のやってきたことにすごく自信を持っているし、プライドもあると思うんです。あと、責任感もありますよね。「俺はここの責任者やぞ。朝一番に来て、最後に帰るんは、当然やろ」というセリフもありますが、すごく職場や自分の仕事にプライドを持っている人なのだと思っています。

Q3 立川の結への態度や、印象深いシーンについて
立川には、自分なりのやり方があったのだと思います。栄養士がどうかではなく、自分はそれでやってきたし、昭和の人間みたいな考え方を持っているんじゃないですかね。「いっぱい食べて、体をでかくしろ」とか、「筋肉を付けるなら、とにかくたんぱく質だ」とか、「飯は、大盛りで3杯食え」だとか、昭和って、そういう今ではナンセンスとされることをやっていたような気もするんですね。そのやり方でやってきたのに、「栄養士って…、何や!」ではないですけど、こっちにまで入ってくるな、みたいな思いが、立川にはあったんでしょうね。平成の時代には、まだそういう昭和の考え方をする人がいたと思うんです。立川は新たなことに拒否反応が出てしまっていたんじゃないですかね。
『十五の夜』を歌うシーンは、みんなのシーンが終わってから撮影しました。僕一人だけ残って、スナックのカラオケみたいなセットを簡易的に組んで、少し薄暗い中でミラーボールが回っていて・・・。ワンコーラスではなくて、1番をフルコーラスで歌ったんです。周りやスタッフから、「今日の最後のシーンは、『十五の夜』ですね、楽しみにしてますよ!」とか言われたりして、ものすごくプレッシャーでした。スタッフに囲まれながら一人で歌ったので、本当に恥ずかしくて(笑)。でも、ちゃんとやりましたからね!(笑)

Q4 視聴者へのメッセージと見どころ
星河電器は栄養士になった結ちゃんのスタート地点です。結ちゃんが、人に影響を及ぼしたりすることもあるし、結ちゃんだけではなく、四ツ木(翔也)君にもいろいろなことが起こります。結ちゃんの考え方や将来の進み方が変わっていくので、見逃せないと思います。今週、立川が結構大事なことを言うんです。「ふざけているようで意外とちゃんとしているんだな」と見えなければいけないと思ったので、真面目にやりました。「好きなことをすること」と「プロになること」の違いを説明しているというか、立川自身も経験してきたことなのかもしれません。

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–{第60回のレビュー}–

第60回のレビュー

大河内(中山翔貴)の挑発に乗った翔也(佐野勇斗)の肩の故障が心配な第59回。そこから続く第60回のアヴァンはーー場面変わって、結(橋本環奈)のプロポーズへの期待でした。

これまでの翔也の言動を回想し、結婚が近づいている気配に嬉し恥ずかしと、悶える結。第59回の翔也のテンションとはまるで違うのほほんとした感じで、あれれ? 肩透かしをくらわされたような感じです(翔也の肩と重ねてみました念のため)。

本来、プロポーズの局面での結のような嬉し恥ずかし感は、人生でそんなにない瞬間と感情であり(初恋の人に告白されるときと同じくらいの喜びでありましょう)、とても大事に描かれるのが理想であるところ、「おむすび」はなかなか意地が悪い。結のぬか喜びなのです。それも、単なる勘違いではなく、翔也に悲劇が見舞われていることを知らずに、浮かれているという、悲しくてやりきれません。

なんにも知らない結は、愛子(麻生久美子)が家出しているので、休日、ヘアサロンを手伝っています。
と、そこへ客が続々やって来ます。客たちは皆、ホームページを見たと言うのです。ホームページ? いつの間にか愛子が作っていたとは……。

お客さまがたくさん来て嬉しいけれど、愛子がいないと仕事がうまくまわりません。聖人(北村有起哉)が備品のしまってある場所を認識していないって、彼は髪を切ることのみに重きを置いているということなのでしょうか。職人ってそういうもの? 聖人の職人の矜持が謎めいてきました。

困っていると、愛子がしれっと帰ってきてきびきびと対応をはじめます。家出して温泉宿にこもってホームページを作っていたそうです。

閉店後、自宅で、うちでかみをきったひとがみんなにこにこ幸せな顔で帰っていく。そういう仕事が好きであるというようなことを言う愛子。それを聞いた陽太(菅生新樹)はその言葉に感化され、吹っ切れたように帰っていきます。第59回で、仕事に悩んでいた彼は、愛子の言葉で何か気づきを得たのでしょう。

愛子無双ななか、その晩、翔也からメールが届きます。
「キタコレ」
いよいよプロポーズ? とわっくわくの結、見事な顔芸を見せる橋本環奈さん。

翌日、結は翔也の野球場に案内され、キャッチボールをしようと言われます。
翔也のホームグラウンド(聖地・大事な場所)で、キャッチボールしながらプロポーズしてくれるのかなと妄想がとまりません。

途中でボールじゃなくて指輪を投げてくれるんじゃないかとか。
本来なら、最初、翔也がうっかりいきつけのカジュアルすぎる店で「結婚」を切り出した失敗を取り返すため、改めて、彼の未来を開く場所で、得意のキャッチボールをしながら、指輪を投げる展開は、エモさ炸裂のはずです。

ところが、とんでもない。翔也が結のとれるようなゆるい球しか投げないのは手加減ではなく、もう、これくらしか投げられなくなっていたことが明かされます。

ええええ。昨日の今日で、そんなことに?
あれから病院に行って、肩の状態がよくなくて「もう野球できないかもしれない」状態にまでなっていました。
大河内のせいじゃん。

泣きながらボールを投げ、「これがいまの全力だ」と吐露する翔也。
結には寝耳に水すぎる話しです。
ものすごーく引きで、ふたりが立ち尽くすショットで来週につづく。

ショックが大き過ぎのはずですが、翔也の件だけでなく、愛子とか陽太とかいろいろな出来事が起こっていて、分散されているので、そのショックが多少軽減されたような気がします。この件だけもっと集中して見たいと思うか、これくらいが程よいと思うか、皆様どちらでしょうか。

※この記事は「おむすび」の各話を1つにまとめたものです。

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–{作品情報}–

作品情報

放送予定
2024年9月30日(月)より放送開始

出演
米田結(よねだ・ゆい)/ 橋本環奈
『おむすび』の主人公。平成元年生まれ。 自然豊かな福岡県・糸島で、農業を営む家族と暮らしている。 あることがきっかけで、人々の健康を支える栄養士を志すようになる。

【結の家族・米田家の人々】

米田歩(よねだ・あゆみ)/ 仲里依紗
主人公・結の8つ年上の姉。
福岡で“伝説のギャル”として知られる。 奔放な振る舞いで米田家に波乱を巻き起こすが、ギャルになった裏にはある秘密が…。
主人公・結の父。 娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。

米田聖人(よねだ・まさと)/ 北村有起哉
主人公・結の父。
娘のことが心配でしょうがない、真面目な性格。 奔放な父の永吉とは言い争うこともしばしば。 元理容師。今は糸島で農業にいそしんでいる。

米田愛子(よねだ・あいこ)/ 麻生久美子
主人公・結の母。
結の祖母・佳代と家事をしながら、聖人の営む農業を支えている。 絵を描くのが得意。

米田永吉(よねだ・えいきち)/ 松平健
主人公・結の祖父。
野球のホークスファンで、自由奔放な“のぼせもん”。 困っている人がいたら放っておけない、情に厚い性格。

米田佳代(よねだ・かよ)/ 宮崎美子
主人公・結の祖母。
古くから伝わる先人たちの知恵に明るく、結が困った時の良きアドバイザーでもある。

【福岡・糸島の人々】

四ツ木翔也(よつぎ・しょうや)/ 佐野勇斗
福岡西高校に野球留学中の高校球児。
四ツ木という姓と眼鏡姿から「福西のヨン様」と呼ばれている。 糸島に練習場があり、結と時々出くわす。栃木県出身。

古賀陽太(こが・ようた)/ 菅生新樹
結の幼なじみで高校のクラスメイト。野球部員。
父は糸島の漁師だが家業を継ぐ気はなく、IT業界を目指している。 ある約束により、結のことを何かと気にかけている。

風見亮介(かざみ・りょうすけ)/ 松本怜生
書道部の先輩。
結にとって憧れの存在。 書道のイメージを一新するような書家を志している。

宮崎恵美(みやざき・えみ)/ 中村守里
結のクラスメイトであり、高校での最初の友達。
結を熱心に書道部へと誘う。 派手なギャルが苦手。

真島瑠梨(ましま・るり)<ルーリー>/ みりちゃむ
結の姉・歩が結成した「博多ギャル連合」(略してハギャレン)の、現在の総代表。
ハギャレンの復興を目指している。

佐藤珠子(さとう・たまこ)<タマッチ>/ 谷藤海咲
ハギャレンのメンバー。
子どものころからダンス好きで、ハギャレンではパラパラの振付を担当。 筋が通らないことを良しとしない、一本気タイプ。

田中鈴音(たなか・すずね)<スズリン>/ 岡本夏美
ハギャレンのメンバー。
結と同い年で、いつもスナック菓子を食べている。 手先が器用で、ネイルチップ作りが趣味。

柚木理沙(ゆずき・りさ)<リサポン>/ 田村芽実
結のクラスメイト。
学校では校則を守るおとなしい女子高生だが、実は隠れギャル&ハギャレンメンバーでもある。ギャルの歴史を本にすることが夢。

ひみこ / 池畑慎之介
糸島の「スナックひみこ」の店主。
年齢、性別、経歴、すべてが不詳の謎の人物。 糸島の住人一人一人の事情をなぜか把握している。

草野誠也(くさの・せいや)/ 原口あきまさ
糸島の商店街で陶器店を営んでいる。
ホークスの大ファン。

古賀武志(こが・たけし)/ ゴリけん
結の幼なじみ・陽太(ようた)の父親。
糸島で漁師をしている。

大村伸介(おおむら・しんすけ)/ 斉藤優(パラシュート部隊)
糸島の商店街で薬店を営んでいる。
ホークスの大ファン。

井出康平(いで・こうへい)/ 須田邦裕
結の父・聖人(まさと)の幼なじみ。
糸島の農業を何とかしたいと日々奮闘している。

佐々木佑馬(ささき・ゆうま)/ 一ノ瀬ワタル
結の姉・歩と行動を共にする“自称・米田歩のマネージャー”。

大河内明日香(おおこうち・あすか)/ 寺本莉緒
結の姉・歩と対立していた、元天神乙女会のギャル。

飯塚恭介(いいづか・きょうすけ)/ BUTCH
福岡県博多のカフェバー「HeavenGod」の店長。


根本ノンジ

音楽
堤博明

主題歌
B’z「イルミネーション」

ロゴデザイン
大島慶一郎

語り
リリー・フランキー

制作統括

宇佐川隆史、真鍋 斎

プロデューサー
管原 浩

公式サイト