映画、ドラマ、CM、MV、YouTubeなど、さまざまな映像メディアの第一線で活躍する”映像作家”にフォーカスをあてる特集「映像作家クロストーク」。今回は若手クリエイターで映像にとどまらずさまざまな領域で活躍する二人の話をお届けします。
映像ディレクターとしてKIRINJIや羊文学などのMVを監督する一方で、ポカリスエットやHonda、森ビルなど大手企業の広告コミュニケーションを手がける鈴木健太さん。そして、アートディレクター・グラフィックデザイナーとして、細野晴臣やフジファブリック、Nikeなどのアートワークを手がけながら、フォトグラファーやトラックメイカーとしても活動、最近では小林私や浦上想起などのMVディレクションも行う岡本太玖斗さん。
二人は様々な仕事をともにして、最近ではラフォーレ原宿のビジュアルも担当。若手クリエイターたちがどこで出会い、どうやって仕事をしているのか。本音で語り合ってもらった。
卒業制作のテーマに衝撃を受けた
左が鈴木健太さん、右が岡本太玖斗さん
──今回は「映像作家クロストーク」で鈴木健太さんにお声がけしたところ、岡本太玖斗さんと話したいと要望があり、この対談をセッティングしました。
岡本太玖斗(以下、岡本):声をかけてもらえて嬉しいです。
鈴木健太(以下、鈴木):岡本くんは普段、グラフィックデザインやアートディレクション、音楽制作など幅広く活動しているクリエイターです。世代も近くてよく一緒に仕事しているんですけど、最近MVを監督したり映像の仕事も本格的にはじめたので、そのあたりの話もできればと思ってます。
岡本:名刺の肩書も多くなってしまいました。
鈴木:めっちゃ多いよね(笑)。
岡本さんの名刺
──そもそもの出会いから教えてもらえますか?
岡本:もともと大学時代からスズケンさんがプランナーやディレクターとして関わっていたアバンティーズの映像や微電影レーベル「37.1」、Maison book girlのMVなどを観ていました。この監督、誰だろうって調べたら「鈴木健太」って名前に出会い、しかも年齢が2つしか違わなくて。そんなに年が変わらないのに凄いなと思ってSNSをフォローしたんです。
音楽と映画の祭典「MOOSIC LAB」。当時19歳の鈴木さんがポスターなどメインビジュアルや、オープニング映像の監修した
YouTubeクリエイター「アバンティーズ」の一枚のサムネイル画像から動画の企画構成まで監修し、YouTubeチャンネルのなかでも早くからアートディレクションの概念を取り入れた
鈴木:それで僕も気になってフォローバックしたら、ある時、岡本くんが大学の卒業制作を投稿したのを見かけて。日本の省庁のロゴをアートディレクションする作品で、規模が大きいなと思いつつ、めっちゃ格好良くて。
岡本:13ある省庁のロゴマークを自分でデザインし直すという作品でした。日本の省庁にはそれぞれのマークがあるのですが、場当たり的なデザインで統一感がないし、全体で見たときに全然美しくないんです。海外では行政にまつわるデザインにデザイナーが計画的に介入する例があったりするのですが、日本ではあまり見られない。そういった部分を美しく設計することの価値が、そもそも社会に認められていない感じがして。そういう問題意識のもと制作しました。
岡本さんの卒業制作《グラフィズム》(2020年)
鈴木:この作品が気になってDMを送ったのが始まりかな。ちょうどその頃、僕が「POLARIS」(2021)という、マーダーミステリーを軸にした新しいボードゲームを考えていたところ、アートディレクターを探していたんです。それで「これ、もしかしたら岡本くんかも」と思い声をかけて、一緒に仕事をしてみたのが最初です。世代も近くて、好きなデザインやカルチャーについても話しやすいし、すごく楽しかった。
ボードゲーム「POLARIS」のパッケージ
鈴木:僕らの共通する原体験に00年代周辺のデザインや音楽があるんです。例えばCorneliusの辻川幸一郎さんのMVとか、KIRINJIや□□□とかネオ渋谷系のアーティストや、あの当時のSMAPのアートワークとか。今流行ってるY2Kともまた違う感じの質感で。打ち合わせしていても、好きなデザインが一緒だから盛り上がりましたね。
岡本:たしかに。groovisionsとかラーメンズとか、関口現さん(*1)とかね。
グラフィックデザイナーで映像作家の辻川幸一郎はCorneliusのMVを現在に至るまで数多く手掛けている。また最近では無印良品の「くらしのかたすみDAY7 – かたすみの、(2023)」などを制作
写真左から二人が好きな00年代周辺の音楽アートワークで、□□□『ファンファーレ』(2005年)、Chappie『Welcoming Morning』(1999年)、SMAP『SMAP 015 / Drink! Smap!』 (2002年)
*1…….groovisionsはグラフィック、ムービー、プロダクトなどを手掛けるデザイン集団。90年代はピチカート・ファイヴのステージビジュアルやキャラクター「Chappie(チャッピー)」などで話題になり、現在に至るまでデザインの最前線を走っている。ラーメンズは小林賢太郎 と片桐仁によるお笑いユニット。それぞれにアートや劇作家としても活躍しており2020年に解散。関口現はCMディレクターで映画監督。長編映画『SURVIVE STYLE5+』(2004年)、CM作品に『DoCoMo2.0』(2007年)などがある。
–{二人が手がけた「Laforet Grand Bazar」の広告}–
二人が手がけた「Laforet Grand Bazar」の広告
鈴木さんがクリエイティブディレクターを、岡本さんがアートディレクターを担当した2023年のラフォーレ原宿「LAFORET GRAND BAZAR 2023」。館内全体のグラフィックと告知の映像を手掛けた
──お二人の最近の仕事にラフォーレ原宿「Laforet Grand Bazar 2023」のアートワークがあります。この仕事がどんなふうにコンセプトからデザインまで進んでいったのか教えてもらえますか?
鈴木:ラフォーレ原宿のグランバザールって、まさに自分にとってやりたかった仕事どまんなかで。本当にワクワクしました。原宿って現在進行形で小さなカルチャーが生まれて、そのカオスの中心にラフォーレがあるんじゃないかと。過去の文献なども漁っていると、ラフォーレ原宿って「インキュベーション」の意識がものすごく強い。つまり、街とともに、自らが才能を見つける場を提供し、カルチャーを育てつづける循環装置であるということ。この強烈な事実を、チャーミングなコンセプトで描けないかと思い、「メルティング・ポット」(渦中)というコンセプトを立てました。これは1920年代のアメリカで色々な人種が混ざった場所を指す言葉。原宿という場所で、クリエイター同士が影響を受け合ったり、サンプリングして新しいカルチャーを作ったり。その「溶け合い」をビジュアルにしようと話し合っていたとき、アーティストの陳文亮さんが「地球アイス」のアイデアをすぐに形にしてくれました。ふつうだったら思いつかない圧倒的なビジュアル、溶け合うということをこんな軽快な気分でアウトプットできるんだと感動し、すぐにこれでいきましょうとなりました。
岡本:ラフォーレ原宿の広告ってこれまで錚々たるアートディレクター(*2)の方々が携わられてきた仕事なので、ある意味ひとつの目標でした。どうしようと考えているときに、アーティストの陳文亮さんが浮かびました。陳さんの作るビジュアルは、すごく奇妙な感じもあるし、だけどポップにまとまっていて、変わったバランス感覚があります。都会の真ん中で、広告の歴史においても真ん中にある建物に少しズレを含んだ異質なビジュアルをインストールすることが、ちょうど今マッチしそうだなと。
*2……これまでに大貫卓也、吉田ユニ、長嶋りかこなど名だたるアートディレクターが担当しており、広告史の観点でも重要な場所である。
ラフォーレ外観
告知用のビジュアル
告知用のティザー動画。音楽をhirihiri 、Kabanagu 、phritz 、quoree 、ウ山あまね 、yuigotのそれぞれソロでも活動する6人が集まったユニット・PAS TASTAが担当
鈴木:ラフォーレってたぶん、完成することのない建物ですよね。それはカルチャーと一緒で、街とともにそのときどきで形作られていく。だから、本当に現在進行形で生きているひとたちを起用したいと思ったんです。今回の音楽を作ってくださったPAS TASTAもまさにそんな存在でした。
岡本:若いチームでラフォーレの仕事ができて、すごく嬉しかったですね。
鈴木:広告のクリエイティブって、強いタレントや人気のある人を起用することが多いんです、どうしても。けど、僕はブランドの力を信じてこれからの人を押し上げていくことがもっとないとだめだなって思ってます。広告がそういうステージになることが、永続的な文化として広告を育てていくために必要不可欠。今回のラフォーレはまさにボトムアップなディレクション。ブランドが未来のクリエイターの跳び箱になり、それがブランドのオーセンティックな価値の証明にもなる。
岡本:今回のPAS TASTAもそうですけど、ポカリスエットのCM「羽はいらない」篇(2022年)のPUNPEE、imase、Toby Foxとか、スズケンさんの音楽のディレクションは痺れるものがあります。
鈴木:広告のキャスティングってどんどん似通っていくんです。広告クリエイターには人気タレントリストの紙が渡されて、今回はこの中から選んでください、とか。でもそれって考えてなさすぎだと思うんです。必然性のある人をちゃんと選ばなきゃいけないと思います。車のCMだったら、本当にその車やブランドが好きな人を。未来にとって意味がないものは生みださない。それが作り手の責任だと思います。
2022年のポカリスエットのCM「羽はいらない」篇(2022年)のプランナーを鈴木さんが担当、柳沢翔が監督。音楽を人気アーティストのPUNPEE、インディーゲームデザイナー/作曲家のToby Fox、当時TikTokで楽曲を発表したばかりのimaseの3人が制作
–{「映像」だけじゃなくていい。「デザイン」だけじゃなくていい。}–
「映像」だけじゃなくていい。「デザイン」だけじゃなくていい。
──それぞれのキャリアについてもお聞きできればと思います。映像を撮り始めたきっかけを教えてください。
鈴木:小学生の頃から家にあるデジカメを使って人形とかをコマ撮りしてストップモーションアニメを作っていました。ただ、すごい動きのアニメーションを作りたいというよりは、物語とか会話が面白い作品を目指してましたね。
岡本:実は僕もコマ撮りをやっていました。みかんの皮が剥けていくのとか。あと、家にミニDVテープのカメラがあって、それを使って弟とコントとか映画を撮ってましたね。当時は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』やラーメンズが大好きで、小林賢太郎さんと小島淳二さんのユニット・NAMIKIBASHIにも影響を受けてました。
当時、ラーメンズとして活動していた小林賢太郎と、teevee graphicsの映像作家の小島淳二による映像制作ユニット
──お二人とも、現在に至るまでいろいろな経験を経ている印象があります。鈴木さんは多摩美術大学時代にDOMMUNE(*3)で働いて、その後中退してフリーランスの映像作家として活動、現在は電通に所属しながら映像ディレクターとしても活躍されています。
*3……DOMMUNEは映像作家、グラフィックデザイナー、VJ、文筆家、キュレーターなど多岐にわたる活動を展開するアーティスト・宇川直宏が主催するライヴストリーミングスタジオ。毎晩のようにさまざまなカルチャーにまつわるトークイベントと世界的なDJを呼んだプレイを配信。
鈴木:もともとはテクノやハウスがすごく好きで、その世界に飛び込みたくて大学時代はDOMMUNEでバイトをしていたんです。音楽はもちろん、毎日のように面白い人がいっぱい来て、いろいろな話を聞けて、大学より学べるじゃんって(笑)。その当時からMVを作っていたこともあり、勢いで大学をやめてしまいました。ちょうどその前後で、tofubeatsが好きでMaltine Recordsの「東京」というイベントに友達と遊びに行ったら、マルチネの主宰・tomadoと知り合ったんです。それから数年後、ひょんなことから一緒に住むことになって……。イベントの手伝いとか映像を撮ったり、デザイナーのスケブリさんとマルチネ主催のイベント「大都会」「砂丘」のビジュアルをつくったり、とにかくいろいろやってましたね。
ネットレーベル「Maltine Records」のいくつかのプロジェクトの企画・デザインを手がけた。「大都会と砂丘」は渋谷WWWXのオープニングパーティとして開催
岡本:当時のマルチネのイベントビジュアルは僕も傍目にかっこいいなと思ってました。
鈴木:そんなフラフラした生活をしていたら、たまたまリオ五輪の閉会式を観て。かっけーー!と思い調べたら、当時電通にいた菅野薫さんが手がけられていることを知り、「会いたい」一心でDentsu Lab Tokyoでインターンを始めました。そこで、電通のいろんな方の仕事に参加したら、思っていた50倍くらい面白くて。フリーランスって一匹狼で視界が狭くなったりすることもあるんですけど、ここは一つ屋根の下に数百人っていうクリエイティブ部隊がいて、並走するかたちで営業やPRとか沢山の人が動きながら刺激しあっている。しかも各部門には超一流の人が集まっていて、世の中に伝えることを真剣に考えていて。これは勉強になるし、逆にこれまでのインディペンデントな自分の感性が活きるだろうなと思って入社したんです。
鈴木さんが手掛けた今年の甲子園のCM
──岡本さんはどうでしょうか?
岡本:僕は大学を卒業したのが2021年の3月で、そこから就職活動をしたけど全然楽しくないし上手くいかなくて。そのタイミングで、学生時代にお世話になったクリエイティブカンパニーから誘っていただいたのですが、そこが社員をほとんど持たずに個人の編集者やデザイナーと一緒に仕事をするところで、業務委託という形でフリーランスとして仕事をし始めました。それから1年くらいの間に個人の仕事が会社の仕事量を超えたこともあって、去年の2月からはそこを離れて1人で仕事をしています。思い返すと、受験でも就活でも、ことごとく行きたいと思っていたところにいけなくて、その度にふと目の前に現れた選択肢に行き着いてきた感じです。運と縁だけで生きている気がしています。
岡本さんがデザインを担当した細野晴臣『恋は桃色』50周年の7インチアナログ
岡本さんが友人と立ち上げ、企画やデザインで参加するアートプロジェクト「平砂アートムーヴメント」のアーカイブブック
岡本さんがデザインしたLAUSBUBのアートワーク
岡本さんが手掛けたmayuのMV
鈴木:すごく貪欲ですよね。グラフィックデザイナーやアートディレクターとしての素質を映像にまで活かしはじめていて怖いですよ(笑)。自分も映像ディレクターをやりながら、会社員として企画をやったりクリエイティブディレクターの仕事もしている2足のわらじ感が岡本くんとも近いなって。でも、岡本くんの映像はちゃんと自身のグラフィックデザインの法則の中に存在していて、誰にも真似できないものがすでに生まれまくってる。
岡本:(しみじみと)嬉しいです。映像は、今年の初めに浦上想起さんのMVを作らせてもらって、そこから依頼が来始めました。でも、実は映像も写真も音楽も、制作している時はグラフィックデザインの思考で作っているところがあって。平面に配置するような感覚とか、全体のバランスの取り方とか。あとは僕の中では自分がやばい、面白いと思えるものにしないと作る意味がないっていうところで全部がつながっています。
鈴木:わかる。
岡本さんが今年制作した浦上想起 「遠ざかる犬」のMV
–{グラフィックデザイナーの思考と映像}–
グラフィックデザイナーの思考と映像
──鈴木さんが特に好きな岡本さんの作品はなんですか?
鈴木:WOLVEs GROOVY『BUG』のMVとか好きですよ。映像の文字にインパクトがあって、MVの表現ってもっと自由でいいんだよなっていうことを体現しているなと感じて。MVはコストが潤沢でないことが多いんですけど、そういう中でどうやって工夫するかが大切なんです。
2023年3月に結成した3人組バンド・WOLVEs GROOVY。岡本さんがMVを制作
岡本:まず音楽を聴いたときに曲のリズム感とグルーヴが格好いいなと思って、身体性を感じる映像を撮りたいなと思いました。尚且つ、バンドメンバーの3人のキャラが際立っているので可愛く映したいなと。それで、街中でアドリブ的に歌ったり動いたりする3人を撮影しました。身体性という意味で引きよりも寄りにしたくて、マイクにカメラを装着することで異常に近い視点にしてみようと思ったんです。手作りでガムテープでカメラを固定したんですけど、こういう工夫の工程が楽しかったです。レンズを魚眼にしたり、そのコミカルな感じもハマって格好良さと可愛さのギャップが生まれたかなと。
鈴木:かせいきさだぁのMVとかを手掛けられていたタケイグッドマンさんの映像の感じが僕はすごく好きなんですけど、遊びながら画面を構成していく感じが近いなと思いました。それがグラフィックデザイナーの思考とも共通するのかな。
岡本:それはあるかもしれない。タケイさんも好きですし、山岸聖太さんや児玉裕一さん(*4)にも多大な影響を受けていますね。
*4……山岸聖太は数多くのミュージシャンのMVを手掛ける映像作家。旧知の仲で星野源とデザイナーの大原大次郎と共に、映像制作ユニット「山田一郎」としても活躍。児玉裕一はPerfume、椎名林檎、東京事変、宇多田ヒカル、宮本浩次などのMVを制作する映像作家。
タケイグッドマンが手掛けたMV
──逆に岡本さんが好きな鈴木さんの映像作品を教えてください。
岡本:最近のポカリスエットやHondaのCMとかスズケンさんがプランナーやクリエイティブディレクターとして参加している映像も観ていますが、個人的には映像作家としての仕事が好きですね。どことなく映像全体に大きな一枚の絵を見せてくる感じがします。だから、映像を一本観た後、すごく均一というか、アイコンが入ってくるような印象。これは一緒に仕事していても感じるんですけど、スズケンさんは1つの大きな塊を提示してくるんです。
鈴木:どういうことですか(笑)。
岡本:ラフォーレのコンセプトの話もそうですけど、なにかシンプルで削ぎ落とした大きな塊を考えてくる。それが決まると、全体が不思議とまとまっていく瞬間が結構あるんです。それが映像にも表れていて、とにかく1テーマで突き通す感じ。例えば羊文学『人間だった』だと服を脱ぎながら走るダンサーを横からスローで映してるだけなんですけど、それでも成立しているというか。
鈴木さんが手掛けた羊文学『人間だった』
鈴木:なるほどね。MVを作るときに思うんですけど、曲がすべての答えを出しているから極論、MVっていらないんじゃないかって(笑)。新曲があったとしても、曲を聴くとどんどんイメージが膨らんでいくんですけど、映像があることで規定されてしまう。個人的にはあんまり想像力を規定したくないっていう矛盾を抱えながらMVを作っていて。聴いた人にできるだけ何もない状態で渡したいのでシンプルにしている。「ミュージックビデオはスクリーンセーバーでいい」って言ってる人がいて、すごくわかる。その結果アイコン性が高いのかも。
岡本:面白い。僕はMVを観て好きになった音楽もあるから、音楽と映像は等しく消費するものという感覚があって、映像に対してエゴイスティックな部分があるのかもしれない。だから自分の中でイメージするアーティスト像を外に提示したい気持ちがあります。
鈴木さんが手掛けたKroi「Fire Brain」のMV。頭が燃えながら歌うボーカルと、バンドの演奏というシンプルな構成
鈴木:岡本くんの言ってることも、もちろん分かるし。きっといい意味で自信があるんだと思う。それは一緒に仕事をしていても感じることで、お願いしたデザインと真逆のことをやってくることがあるんですよ(笑)。
岡本:天邪鬼なので真逆のことをやりたくなるんです。こまかい部分まで捻りたくなるタイプなんですけど、スズケンさんは削ぎ落としてくる。でも、結果的にシンプルにしたほうが人に届くこともありますよね。
鈴木:でも、それが岡本くんのいいところで、もらったデザインから気づく事が多くて。自分にないものがある人と一緒にやった方が圧倒的に面白い。だから一緒に仕事しているんだと思います。やりとりしている時はバチバチですが(笑)。
–{下北沢でショートフィルム専門店(?)}–
下北沢でショートフィルム専門店(?)
──最後に今後お二人でやってみたいこととかあれば教えてください。
鈴木:実はいま二人で下北沢〈BONUS TRACK〉にお店を作っていまして(笑)。
──えっ、店ですか?
鈴木:僕がクリエイティブディクレション、岡本くんがアートディレクションを担当するVHS喫茶〈TAN PEN TON(たんぺんとん)〉というお店です。
岡本:ポップコーンとソーダとVHSをセットで頼んで、VHSに入ったショートフィルムをその場で観れるお店になります。
鈴木:映画のスタートアップ〈NOTHING NEW™〉を2022年から友人の林健太郎とやっていて、その最初のプロジェクトとしてスタートしました。若い監督がなかなか育ちにくい日本の映画業界で、ショートフィルムがもっとカジュアルなカルチャーになったり、ふらっと集まる場が生まれたら、未来の映画はもっと自由に楽しくなるのではと思い、作っちゃいました。ちょうど下北沢〈BONUS TRACK〉もテナントを募集していたので応募したら採用されたんです。
──すごく不思議な店名ですが由来は?
鈴木:みんなで名前を決めていたんですけど、なかなか決まらなくて、そろそろ締切もやばいとなっていたときに疲れ果てて「たんぺんたん」「たんぺんとん」「ぺたん」……みたいに書いてたんです。そしたら、岡本くんがそれをみて「たんぺんとん」いいじゃんって。自分は半信半疑だったんですが。それでみんなも、もう、これで行こう!って。で、いろいろあとから調べたら「とん」って「屯(たむろ)」という意味があって。短編の屯、はめちゃめちゃいいなと思い、確信につながっています(笑)。
岡本:耳残りがあるなと思ったんです。破裂音と言うか(笑)。
鈴木:でも、爆発するようなエネルギーを持ったカルチャーの発信地になればなって。本オープンに向けてクラウドファンディングもしています。ご支援いただけたら嬉しいです!
VHS喫茶〈TAN PEN TON〉をオープンさせるプロジェクト
下北沢BONUS TRACKから、ショートフィルムの発信拠点〈TAN PEN TON〉がスタートします。10月の本オープンに向けて準備中で、クラウドファンディングも開始している。詳細は以下のURLより。
https://motion-gallery.net/projects/TANPENTON
Profile
鈴木健太
クリエイティブ・ディレクター/映像監督
1996年東京生まれ。10代の頃から映像を作りはじめる。多摩美術大学中退後、電通入社。広告コミュニケーションやTVCMの企画から、KIRINJI、羊文学、imase、日向坂46などミュージックビデオの監督、「A_o」や「Mirage Collective」などアーティストの立ち上げ、コロナ禍のリモート演劇集団「劇団ノーミーツ」の企画プロデュースなど。カンヌライオンズ、D&AD YELLOW PENCIL、文化庁メディア芸術祭 優秀賞など国内外で受賞。ACCフィルム部門審査委員。
岡本太玖斗
グラフィックデザイナー/アートディレクター
1998年東京生まれ フリーランス グラフィックデザインを軸に、写真や映像、音楽など、多様な領域で活動する。 最近の仕事に、Laforet Grand Bazar 2023 Summer、細野晴臣『恋は桃色』EP、 小林私や浦上想起のMV、the peggiesやKroiのアートワークなどがある。屋号はシングス takuto-okamoto.com
(撮影=澤田詩園、取材・文=恩田栄佑)