成田凌主演、小芝風花がヒロインをつとめる“月10”ドラマ転職の魔王様」が2023年7月17日放送スタート。成田凌が毒舌転職エージェント・来栖嵐を、小芝風花が3年で広告代理店を辞めた新卒社員・未谷千晴を演じる。人生のステージを変える「転職」をテーマに、異色のタッグが繰り広げる爽快エンターテイメントドラマ。
CINEMAS+では毎話公式ライターが感想を記しているが、本記事ではそれらの記事を集約。1記事で全話の感想を読むことができる。
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もくじ
※話数は随時更新します。
第1話ストーリー&レビュー
第1話のストーリー
新卒で入社した大手広告代理店をパワハラが原因で3年たらずで辞め、途方に暮れていた未谷千晴(小芝風花)は、ある晩、中年の男がナイフを手に、足が悪く杖をついたスーツ姿の男・来栖嵐(成田凌)を襲撃する現場に出くわす。どうやら2人は顔見知りのようだったが、来栖が表情ひとつ変えず冷静に男を取り押さえたことで、事態は事なきを得る。ところが、一部始終を目撃して心配する千晴に、「人の心配より、ご自分の心配をしたらどうですか?未谷千晴さん」と、来栖はなぜか初対面の千晴の名前を知っている様子。
翌日、千晴は、叔母の落合洋子(石田ゆり子)が社長を務める転職エージェント『シェパードキャリア』を訪ねる。洋子は1日も早く再就職したい姪っ子のために“転職の魔王様”の異名を持つ優秀なキャリアアドバイザーを担当につけたというが、そこに現れたのは、前夜に出会った謎の男・来栖だった――!
早速、面談することになった千晴は、転職活動をするにあたり、職種は問わず、未経験の仕事でも構わないと話す。すると来栖は、「とにかく履歴書の空白期間を埋めたい」と焦る千晴の気持ちを見抜き、言葉遣いこそ丁寧だが、心をえぐるような辛辣な言葉を次々に投げつけ、ついには「社長の姪だからって、忖度してもらえると思いましたか?」と冷淡な口調で千晴を突き放す。その言葉にすっかり心が折れた千晴は――。
第1話のレビュー
「パワハラ経験者は視聴注意!」そんなエマージェンシーコールを出したいほどに、パワハラ描写がリアルだった。本作のヒロイン・未谷千晴(小芝風花)は、前職の大手広告代理店を3年足らずで退職。原因は上司によるパワハラだった。
このドラマは、そんな千晴が転職のために世話になる毒舌エージェント・来栖嵐(成田凌)と、ひょんなことからタッグを組むことになる物語。
毒舌エージェント・来栖の毒舌っぷりは、すごい。なんていったって、担当する求職者から恨みを買って刺されそうになるレベルである。千晴自身も、退職した代理店に無理やり連れて行かれ、トラウマを刺激された。今ならあなたを刺そうとした人の気持ちがわかる、と言っていたくらいである。
そんな彼は、千晴に繰り返し問いかける。「それがあなたの本音ですか?」と。
千晴は真面目だ。叔母であり、来栖が勤める会社・シェパードキャリアの社長でもある落合洋子(石田ゆり子)も、小さい頃から良い子で真面目、と評す。
自分自身にとくにやりたいことがないからこそ、周りの期待に応えたい一心で頑張りすぎた。前職で、パワハラによるストレス・過労で倒れ、味覚障害が残っても両親に相談できなかったほど。来栖からパワハラを指摘されても「私が悪かったんです」と譲らない。
ある意味、頑なな千晴に、来栖が繰り返し問う。「それがあなたの本音ですか?」……その言葉はそのまま、画面を通り抜けて視聴者への問いかけになっている。
「自分の価値ぐらい自分で決めたらどうですか?」と、来栖は重ねる。しかし、夢や目標なんて「持て」と言われてもそう簡単には持てないし、だったらせめて周囲のために働きたいと思い頑張り続けてきた千晴にとって、自分の価値は自分で決められるものではなかった。
むしろ、自分で決めてはいけない、他人からの評価を待たなければいけない、と無自覚に枷をつけてきたのだろう。
来栖との出会いによって、千晴はある意味「ぶっ壊された」し、これから「ぶっ壊される」。常識に縛られていた自分を。人のためだけに働くことが善だと決めてきた自分を。
そして、自分の価値を自分で決められるように、変化していく。
来栖は足を悪くしている。1話では「事故で」としか明かされなかった。しかし、この「事故」にこそ、来栖がこの仕事をしている意味が込められているのだろう。
来栖が転職エージェントをしている理由と、千晴の自己改革。あまりにも合わなさすぎる二人だが、働く意味を、そして生きる意味を考えるきっかけを与えてくれる……そんな月曜22時を提供してくれそうだ。
※この記事は「転職の魔王様」の各話を1つにまとめたものです。
–{第2話ストーリー&レビュー}–
第2話ストーリー&レビュー
第2話のストーリー
転職活動を休み、叔母の洋子(石田ゆり子)が社長を務める転職エージェントで、キャリアアドバイザーの見習いとして働くことになった千晴(小芝風花)。
指導係である“魔王様”こと来栖(成田凌)とともに臨んだ最初の面談相手は、大学を卒業して10年間、派遣社員として働いてきた宇佐美由夏(早見あかり)。次の契約終了を機に転職を考えているというが、由夏はどこか自信なさげで、転職の動機や希望の職種、年収についても主張が少ない。
案の定、来栖は由夏に厳しい口調で毒づき、さらに、そのやり方に異を唱えた千晴に、由夏の担当を任せると言い出す。
その晩、由夏は恋人の渋井克行(味方良介)となじみのレストランで食事を楽しんでいた。実は、由夏が転職の条件に強いこだわりを持っていなかったのも、近い将来、克行と結婚すると踏んでのことだった。
ところが、克行は自分がフリーランスで働いているがゆえに、非正規雇用の相手との結婚は考えられないといい、あっけなく別れを告げられた由夏は、克行をつなぎとめるために一刻も早く正社員になりたいと千晴に頼み込む。
由夏の思いになんとか応えたい千晴は、持ち前の社畜体質を発揮して徹夜で作業を進め、翌朝、広沢(山口紗弥加)や山口(おいでやす小田)が見守るなか、来栖に由夏の転職先を提案するが…。
第2話のレビュー
「自分がフリーランスだから、非正規雇用の彼女と結婚するのが不安」みたいな理由で彼氏(味方良介)にフラれる宇佐美由夏(早見あかり)が、不憫でならない。同僚に「せめて転職だけは上手くいってほしい」と噂される状況もイヤすぎるし、結局、彼氏にフラれたのも他の女性と二股をかけられた末のこと。悪酔いするくらい許してほしい、と思ってしまう。
転職をするため、来栖(成田凌)や千晴(小芝風花)がいる転職エージェント・シェパードキャリアにやってくる宇佐美。途中から目的が変わり、正社員になるため=元カレと復縁するために転職先を探した末、無事に内定をとるが……。
よくよく考えると、こっそり二股していた挙句に天秤にかけるようなパートナーに「正社員になった?じゃあ安心だね!ヨリを戻して結婚しよう!」なんて言われても、嬉しくないのでは? これを機に悪縁を断ち切れてよかったんじゃないだろうか。
今回の来栖も切れ味が抜群だったし、荒療治だった。将来を不安がり、「このままだと人並みの幸せに手が届きません」「何が正解かわかるなら苦労しません」と、自分で考えようともせず正解だけを求める宇佐美に対し「誰かに決められた正解は、あなたの正解じゃない。自分の意思で決めてください」とバッサリ切る。
正解を求めたくなる気持ちはわかる。自分では決められないし、誰かの意見を参考にしたいし、成功している人と同じ選択をして安心したい。「これさえやっておけば大丈夫」と言われることだけをして、無駄な時間は過ごさず、年齢を重ねてから「やっぱりこれでよかった」と胸を撫で下ろしたい。失敗も後悔もしたくない。
来栖の言葉は正論で、だからこそ鋭利だ。痛いところにグサグサと突き刺さってくる。「あなたの本当の幸せはなんですか?」の問いに、ぐっと考え込んでしまう。
自分の幸せさえも、自分で見当をつけられない。それほど宇佐美は、追い込まれていたのだろう。いきなり自分を振ってきた元カレが、別の女と“思い出のクワトロフォルマッジ”を食べている現場を見せつけられるのは、荒療治以外の何物でもないが……。
これを機に、宇佐美は自分自身の幸せとは何か、正面から向き合うことができた。
シェパートキャリアの社長・落合洋子(石田ゆり子)も言っていたように、女性のキャリアは難しい。これからどうとでも進路変更できるタイミングで、いきなり別の選択肢を取らざるを得なくなったら……。反対に、慌てふためいてしまうだろう。
結局のところ、頼もしい社長に、怖いけれど的確な物言いで、なんだかんだ自分のことをしっかり見てくれているキャリアアドバイザーがいる会社「シェパードキャリア」に就職すれば、全員幸せになれるんじゃないだろうか。そんなことを考えてしまう。
※この記事は「転職の魔王様」の各話を1つにまとめたものです。
–{第3話ストーリー&レビュー}–
第3話ストーリー&レビュー
第3話のストーリー
大手食品会社に勤める笹川直哉(渡邊圭祐)は、大学のサッカー部で培った体育会系のノリの良さを生かし、健康食品部門の営業として働く入社4年目。上司のむちゃな要求に応え、取引先との接待では若手として気を配り、場を盛り上げるために身を削ることも少なくないが、それでも、自らの仕事にやりがいを感じ、会社の利益につながる働きをしていると自負していた。しかし、会社はそんな自分の仕事ぶりを正当に評価してくれず、次第に不満を感じるようになった笹川は転職を考える。
来栖(成田凌)とともに笹川と面談した千晴(小芝風花)は、営業の鏡ともいえるほどに明るく前向きな笹川に好印象を抱き、企業がほしがる人材だと確信する。しかし、来栖には一つ気になることが――。
「その仮面、いつまでつけ続けるおつもりですか?」
来栖によると、笹川は上司にウケのいい人間を演じており、そのクセが染みついているという。意外にも、笹川を「厄介かもしれない」と懸念する来栖の言葉に対し、その意味が分からない千晴は…。
しばらくして、笹川の再面談が行われる。あらかじめ送った求人票に目を通した笹川は、千晴たちが提案した企業に対し、「転職サイトの口コミで、あまりいい評価がなかった」とこぼす。すると来栖は、持ち前の鋭い視点と核心をついた言葉で、笹川にある疑問を投げかける!
第3話のレビュー
新卒で入った会社はとりあえず3年勤めるのが正解、ブラック体質な会社でどれだけ長く耐えられるかに自己犠牲の価値を見出し、「部署がキツすぎて同期はみんな辞めた、続いているのは自分しかいない」とマウントを張る典型的な営業マン・笹川直哉(渡邊圭祐)が、今回の来栖(成田凌)のターゲット(?)。
食品会社でバリバリ営業をやるも、4年目にして完全なる“接待の盛り上げ役”に終始しており、不完全燃焼な様子の笹川。上司に自分の仕事を認めてもらえている気がせず、もっとしっかり自分のことを評価してくれる会社に行きたい、と転職を希望する。
営業をやっているからか、上司受けの良い言動が癖になっている笹川。それをいつもの毒舌で「その仮面、いつまでつけ続けるおつもりですか?」と喝破する来栖は、やっぱり来栖だ。「ご自身のどこを評価してほしいんですか?」「ご自身にどこか評価すべきところがあるんですよね?」と続ける様を見ていると、当事者ではないのにすみませんでした……と頭を下げたくなってしまう。
今回の来栖も潔いほどに荒療治だった。笹川の“仮面”をひっぺがすために、かつて彼と一緒に働いていた同期社員たちと引き合わせた。辞めていった彼らの現状を突きつけるためである。
一人はアプリ会社を立ち上げ、一人はeスポーツで生計を立て、もう一人は二度転職した後プロジェクトリーダーを任されるまでになっていた。
片や、同じ時間を過ごしたはずの笹川の主な仕事は“接待の盛り上げ”。その後、来栖が「とりあえず3年はもはや死語です」「その間に培った実績や強みがなければ、時間を無駄にしたも同然」とバッサリやる。笹川が気の毒で仕方がないが、一理ある。
来栖の荒療治は功を奏す。笹川自身、ひたすら上司の顔色を読んで太鼓持ちをする現実に、いいかげん嫌気がさしていたのだろう。さっぱりした顔で、上司に退職願を出した。仮面をつけず、そのままの自分で働ける会社は、絶対にあるはずだ。
笹川のように、自分自身や、自分がやってきた仕事に対し“評価”を求める姿勢は、甘えなどではない。来栖の言うとおり、仕事は人と人との繋がりで成り立つもの。感情を伴わずとも完遂できる仕事は、今後どんどんAIに任せていこう。人じゃないとできない仕事、人だからこそより良くできる仕事に、私たちは時間を割いたほうがいい。
ひとまず全管理職のデスク前に「部下を褒めない上司など上司に値しません」と書いた紙を貼り出してほしい。他者や自分自身に向き合い、“良いところ”を知り、認め、伝え合うことが良い仕事を生む。そんなふうに信じる姿勢が“甘え”と一刀両断される社会は、願い下げである。
※この記事は「転職の魔王様」の各話を1つにまとめたものです。
–{第4話ストーリー&レビュー}–
第4話ストーリー&レビュー
第4話のストーリー
来栖(成田凌)の元恋人・剣崎莉子(岡崎紗絵)が、突然「シェパードキャリア」にやって来る。どうやら転職の相談ではなく、別れた後、どうしているか気になっていた来栖を偶然SNSで見つけて、会いにきたらしい。しかし、かつて恋人同士だった2人は久しぶりの再会を懐かしむどころか、互いにトゲのある言葉を連発し、一触即発のムードに。同席を余儀なくされた千晴(小芝風花)にも、緊張が走る。
ところが翌日、莉子から正式に面談の申し込みが入る。莉子が勤める会社は、オンラインの教育系コンテンツを制作・配信し、その分野ではパイオニアとして知られているが、この一年、業績が悪化していた。一方、プライベートでは漫画家の恋人・綾野周介(曽田陵介)と同居中の莉子。才能はあるが、なかなか芽の出ない周介が漫画に集中できるよう、自分が好条件の会社に転職して支えたいという。
だが、今の会社で誇りと愛情を持って仕事をしていた莉子を知る来栖は、その転職理由がどうもふに落ちない。そのうえ、「いつまでも夢ばかり追ってても仕方ない」と、まるで自分に言い聞かせるように投げやりな言葉を口にし始めた莉子に、静かな怒りを覚えた来栖は、キャリアアドバイザーとして痛烈な一言を浴びせる。すると、莉子は「昔とは別人みたい」と、来栖が席を立った後、千晴に事故に遭う前の来栖のことを話し始めて…。
第4話のレビュー
思っていたよりも、来栖(成田凌)が抱える過去は闇深かった。海外エネルギー事業の会社に勤めていたが、26歳の頃に事故に遭い、左足を引きずる後遺症に。そのせいで会社では総務部へ異動の辞令を出され、結果、辞めることになった。性格もずいぶん変わってしまった事実を、彼の元恋人・剣崎莉子(岡崎紗絵)がシェパードキャリアに訪れたことによって知る千晴(小芝風花)。
リハビリに疲弊し、会社も辞めることになり、自分の存在そのものが恋人の負担になっているかもしれない……。そう考えたら、性格が真逆になってしまってもおかしくはない。莉子が大学の元同期と仲良さげに話しているのを見かけたことで、来栖の心はささくれ立った。些細なことで喧嘩をしてしまったのが、二人の別れの理由だった。
来栖は、どうして転職エージェントになったのだろう。
もともとは、アフリカに支社も持つ海外エネルギー事業会社で営業をやっていた来栖。怪我をきっかけに夢や目標を断たれたことで、働くとは何か、仕事とは何か、それがどのように人生を形成するのかを考えたのかもしれない。
その証拠に、来栖は千晴や求職者に繰り返し聞いている。「それがあなたの本音ですか?」と。本心でそう思っているのか、本当にやりたいと思っている仕事なのかを問うことで、周囲の人間や環境に押し付けられたのではなく、自分で考え決めた選択だと覚悟を決めてもらう。
仕事=人生だと突きつける来栖の“サービス”は、荒いが、どこまでも本音だ。
莉子は、新しい恋人・周介(曽田陵介)と同居していた。連載の仕事を得るために日々、漫画を描き続ける周介を経済的にも支えるため、今よりも年収が二倍のライバル企業へ転職を検討する莉子。
しかし、いつだって「その人が考え抜いた最善の選択をしてほしい」と考える来栖は、元恋人の“転職支援”にも手を抜かない。本人にとって、その転職が良い結果にならないと思えば、考え直すように促す。「あなたの人生、このままでいいんですか?」と。
来栖のやり方はいつだって荒っぽいが、今回ばかりは彼に軍配が上がる。いくら周介が売れない漫画家だからって、話し合わないままに勝手に転職を決められたら、良い気はしないだろう。それが、自分を経済的に支えるためだと知ったら、なおさらだ。
“本音”で向き合った莉子と周介は、二人で協力し合い、窮地を乗り越えることを決めた。「二人なら、なんとかなると思う」と取り合った手は、きっともう、些細なことでは離れない。本音で話すことの大切さを知った彼らなら、結婚しても、次から次へとやってくる波を上手く乗りこなしていけるだろう。
次回、来栖のもう一段階深い闇に触れることになる。
どうやら例の事故によって、加害者は亡くなっていたようだ。その関係者が転職のためシェパードキャリアにやってくるようだが、どんな一波乱の種をまきにくるのやら。
※この記事は「転職の魔王様」の各話を1つにまとめたものです。
–{第5話ストーリー&レビュー}–
第5話ストーリー&レビュー
第5話のストーリー
もうすぐ“見習いキャリアドバイザー”として試用期間が終わる千晴(小芝風花)は、洋子(石田ゆり子)から戸松卓郎(葉山奨之)という求職者を一人で担当するよう言われる。戸松は28歳の若さにして、すでに3つの会社を退職。来栖(成田凌)のサポートがないことに不安を覚えながらも、千晴は早速面談に臨むが、戸松はどこか投げやりで、度重なる転職が自身のキャリアにとってマイナスになることも自覚していた。それでも、戸松の退職理由を聞いた千晴は、そこに一縷の望みを見出そうと必死でフォローするが、当の本人は転職の経験をポジティブな要素として捉えるどころか、「仕事に変な夢とか持ってない」と冷めた様子。困った千晴は思い切って来栖に相談するが、来栖は「手を貸すことはできない」と珍しく感情的な態度を見せ、千晴や広沢(山口紗弥加)を驚かせる。
後日、戸松は千晴が紹介した会社の面接を受ける。しかし、ネガティブな言動と自己肯定感の低さが目立ち、不採用に。千晴は、戸松が自ら成功や幸せから遠ざかろうとしているように感じ、理由を教えてほしいと頼むが、その声は戸松の心に届かない…。するとそこへ偶然来栖が通りかかり、その姿を見た戸松が「どうして、あんたがここにいるんだ」と動揺。実は、2人は顔見知りで、何やらワケありだった!?
第5話のレビュー
「俺は、俺の短所を長所にできるとは思いません」……そろそろ試用期間が終わりかけている千晴(小芝風花)が、初めて来栖(成田凌)のサポートなしに一人で担当した求職者が、戸松卓郎(葉山奨之)だ。彼が千晴に対し言い放った言葉は、少なくとも、前向きに転職を検討している人間のものとは思えない。
それもそのはず。タイムカードの打刻をごまかし、内緒で残業をさせるような会社に異議を唱えたことで、結果的に退職を迫られた戸松。そんな経験が20代のうちに立て続けば、間違ったことは許せず、正義感のある性格だって、ポジティブには捉えられなくなるだろう。
千晴の言うように、戸松は、わざと自分の人生を悪い方向へ向かわせようとしているように見える。なぜ彼は、仕事に夢を見出せなくなったのか。それには、ほかにも理由がある。
彼は間接的に来栖と繋がりがあった。来栖が足を引きずって歩くようになった原因の交通事故、その加害者が、戸松の婚約者だったのだ。
彼らは、ともに励まし合いながら、過酷な労働環境を乗り切っていた。つらいことも、同じような状況にいる仲間が身近にいると、頑張れる。それは、言葉にすれば美談だが、逆に言えば、仲間を失った瞬間に”自分を支える杖もなくす”ということだ。
例の事故により、戸松の婚約者は命を落としていた。形の上では加害者となる彼女の葬式に、なぜ、被害者である来栖が参列したのか。それは、しばらく明かされていない謎だった。
連日の労働による寝不足で、彼女は居眠り運転をしかけていた。ハッと目が覚めた瞬間には、もう遅い。「逃げて!」と繰り返しながら必死でハンドルをまわす。ぶつかってしまうギリギリまで、なんとか事故を回避しようとしていたのだ。
来栖が葬式に参列したのは、その事実を伝えるためだった。
いくら加害者といえど、命を落とした側の、しかも婚約者の立場からすれば来栖の行動は不可解だ。恨み言を言うためにわざわざやってきたか、嫌がらせとしか思えないだろう。まさに因縁の再会となってしまった来栖と戸松は、長年の鬱屈と、密かにしまっていた思いをぶつけ合う。
「仕事に夢を見ないのはご自由です」
「でもあなたは、自分の未来にすら希望を持っていないじゃないですか。あなたの人生、このままでいいんですか?」
来栖の口から、事故の瞬間、婚約者がどんな様子だったかを直接聞くことで、頑なだった戸松の心は柔らかにほぐれた。事故によって大切な人を亡くした喪失感と痛みからは、そうそう逃れられるものではない。
逃げたいと思ってもいけない、もしかしたらそんな呪いが、彼を縛っていたのかもしれない。
好きなことを仕事にしよう、“得意”を仕事に活かそう……来栖は、そんなアドバイスはしない。しかし、自身の経験も踏まえながら、淡々と助言する。「人は、合わない仕事をしていると肉体的にも精神的にも殺されるんです」「自分の人生を諦めないでください」と。
どれだけ大袈裟と思われようと、人生はほとんどが仕事でできている。楽しさ、嬉しさ、やりがい、そんなポジティブな感情で100%埋められないのなら、せめて、“合う”仕事を探したい。肉体的にも精神的にも、健やかに生きるために。自分の人生を、諦めないために。
今回で、来栖の過去にまつわる最大の謎も解き明かされた。ドラマの折り返し地点、次回以降はどのような展開で最終回までの道を示してくれるのだろうか。
※この記事は「転職の魔王様」の各話を1つにまとめたものです。
–{第6話ストーリー&レビュー}–
第6話ストーリー&レビュー
第6話のストーリー
来栖(成田凌)のもとで見習いとして働くうちに、キャリアアドバイザーの仕事にやりがいを感じ、働くことに意味を見出した千晴(小芝風花)は、晴れて『シェパードキャリア』の社員になる。するとその直後、これまで6回の転職を経験している“転職王子”こと八王子道正(宮野真守)から、面談の申し込みが入る。過去に彼を担当した広沢(山口紗弥加)は何やら苦い経験があるようで、今回の担当を辞退。そこで、来栖と千晴のコンビに白羽の矢が立つ。
不動産会社でマンション販売を担当する39歳の八王子は、幾度となく売り上げトップで表彰され、自他ともに認めるトップセールスマン。17年目となる不動産営業の仕事は天職だが、一つの会社に留まることが性に合わず、現在の会社も勤務3年目にして飽きてしまったという。「まるで戦場を渡り歩く傭兵ですね」――来栖は、この先も転職を繰り返すつもりでいる八王子に皮肉めいた一言を放つが、自分の実績と能力に絶対の自信を持つ八王子は、怒るどころか意に介する様子もなく、千晴はそんな八王子の強靭なメンタルにがく然とする。
その日の帰り道、千晴はひょんなことから天間聖司(白洲迅)という謎の男と知り合う。天間は、千晴が見習いから正社員になったばかりだと知ると「お祝いさせてほしい」と言い出し、千晴はなぜか初対面の天間にアイスクリームをごちそうしてもらうことに…
数日後、早速、不動産販売会社の面接を受けた八王子は、自分よりキャリアが浅く、実績も乏しいライバルを横目に、自信満々で自己アピールする。面接官の反応に手ごたえを感じた八王子は、採用を確信するが…。
第6話のレビュー
これまで幾度もの転職を繰り返してきた39歳の転職王子・八王子(宮野真守)と、彼が勤める不動産会社の営業マン・小池(西垣匠)。そして千晴(小芝風花)が偶然出会う謎の男性・天間聖司(白洲迅)と、6話の折り返し地点にて新キャラが続出した。
八王子と小池は6話限りのゲストキャラだろうが、天間は今後も物語に絡んできそうだ。
39歳の転職王子・八王子が転職を繰り返す理由は、「出世したくないから」。今回のテーマは、出世=キャリアアップは幸福に繋がるのか? である。
出世して管理職になったら、みんな数字やノルマに追われて、幸せそうな人なんていなかった……。八王子の言葉に、それぞれの過去や現状を省みる視聴者も多かったのではないか。現場でバリバリ仕事をし、結果を残して評価されることにやりがいを見出すタイプもいれば、ガンガン出世してマネジメント側に移りたい人間もいるだろう。
しかし、出世をすればするほどついてまわるのは、責任だ。自分のミスや至らなさだけを背負うならまだしも、上に立つ者として部下の管理も必要となる。八王子のように、現場での仕事に生きがいを見出すタイプはとくに、出世が幸福に繋がるとは限らない。
来栖(成田凌)は言う。「あなたはどんな上司になりたいんですか?」「夢は何ですか?」と。地位が上がれば上がるほど、数字やノルマなど現実的な指標ばかりが際立って見える。夢なんて煌びやかな言葉は、いち早く忘れてしまうものかもしれない。
しかし、来栖が重ねて言った「せっかく出世して部下を持っても、夢の一つも語れない。あなたの人生、このままでいいんですか?」に、八王子は覚悟を決めた。
彼が彼のまま、変わらないままで楽しく仕事ができる社会。実際のところ、その実現は難しい。仕事ができる人間ほど出世を打診され、それを断ったまま同じ会社で働き続けることは、不自然とされる……それが現実だ。
しかし、八王子は独立することを決めた。変な悪習のない、自分らしく不動産営業ができる会社を作る。新しい夢を持った彼は、転職ではない道を選んだのだ。
果たして、キャリアアップは自分の人生において、必要なことなのか。仕事をしていると、より良いキャリアアップや人生設計が必須だ、と思い込んでしまう。
しかし、きっと、そうとは限らない。世間一般に流布した基準ではなく、まず「自分がどうしたいか」を考え、それがわかったら、はっきりと覚悟を決めること。
振り返れば、来栖はずっと同じことを伝えてくれている。自分の心の声を聞くことが、何よりも重要だと。
※この記事は「転職の魔王様」の各話を1つにまとめたものです。
–{第7話ストーリー&レビュー}–
第7話ストーリー&レビュー
第7話のストーリー
家の事情でしばらく残業ができない広沢(山口紗弥加)をフォローするため、来栖(成田凌)とのコンビを一時的に解消し、広沢と組むことになった千晴(小芝風花)。2人は早速、8年間勤めた製薬会社を退職したばかりの皆川晶穂(黒川智花)を面談することになる。
転職にあたって晶穂が希望する条件は、同じ業界内で、十分な人員が確保された会社であること。聞けば、以前勤めていた会社は人数が少なかったため個人の仕事の負担が大きく、激務が当たり前だったという。面談を終えた千晴は、求職者に寄り添い丁寧にアドバイスする、来栖とは180度違う広沢のやり方に感激。“姉御”と呼ぶにふさわしい先輩アドバイザーの手腕を絶賛するが、後日、晶穂は突然、広沢を担当から外してほしいと申し出る。
当然、心当たりのない広沢はショックを受け、千晴はそんな先輩のために自分ができることを模索する。見かねた来栖から、必ず何か原因があるはずだと言われ、面談中の様子を思い返した千晴は、広沢に子供がいると知ったとき、晶穂の態度が少しおかしかったことを思い出す。
子育て中の女性に何か特別な思いがあるのかもしれない――。翌日、来栖に付き添われ、千晴が晶穂の自宅を訪ねると、そこには同居中の恋人・戸田優吾(入江甚儀)の姿が。千晴は、広沢の分も自分が全力でサポートすると宣言するが、その言葉こそが、晶穂の心を乱すスイッチで…。
第7話のレビュー
どうして、自分だけがこんな目に遭うのか。
どうして、自分だけが損をしなければいけないのか。
仕事をしていると、割りに合わない理不尽な思いをすることが、多々ある。自分のせいではないのに責任を負わされたり、上手に仕事をサボる同僚のおかげで負担が増えたり、育児休暇に入るスタッフのサポートをすることになったり。
来栖(成田凌)や千晴(小芝風花)が働くシェパードキャリアに転職相談にやってきた皆川晶穂(黒川智花)も、育児休暇に入る先輩のサポートにまわったことで仕事量が増え、激務に耐えきれず退職した経験があった。
彼女は繰り返し言う。その先輩・日下部(村川絵梨)が悪いわけではない、それはわかっている、と。ただ「頑張らなきゃって思ってるんだけど、“なんで私だけ?”って思っちゃうときがある」「我慢の限界」「この会社は私に負担を強いて、なんとも思ってない」と重ねる。
このドラマの特色でもあるが、今回も、転職者側(7話でいえば晶穂)の心情を中心に物語が進む。
結婚間近の恋人はいるがまだ独身で、子どももいない晶穂からすれば、妊娠または子育て中のスタッフをサポートしながら働くのは、一方的に負担を強いられるだけの構図だ。ドラマの描き方によっては、育児休暇を取り、周囲のサポートを受けた働き方をしている側が“悪”として受け取られかねない。
しかし、激務に耐えられず退職した晶穂が何度も「先輩のせいじゃないことはわかっている」と口にしたこと、シェパードキャリア所長の落合洋子(石田ゆり子)が「全員が働きやすい環境を整えるのが経営者の仕事」と言及したこと、来栖が「あなたが変われば、あなたがいる環境そのものが変わるかもしれない」と晶穂に伝えたことで、単純な良し悪しの問題ではないことが視聴者に伝わる。
そう、人は悪くない。会社が、もっと言えば“会社の仕組み”が悪いのだ。
晶穂が退職したことで、元いた会社はようやく、慢性的な人員不足を解決するために動き出した。その立役者となったのが、晶穂の先輩である日下部。「会社全体が変わるように働きかけてる」「今すぐには無理かもしれないけど、ちゃんと変わるから」と晶穂の目を見て訴える日下部の姿勢は、真摯だった。
晶穂自身、その会社での仕事は好きで、やりがいを感じていた。ただ、増え続ける仕事量に理不尽さを感じ、潰れてしまっただけなのだ。「仕事の負担が一人に集まるようなことがなければ、辞めようとは思わなかった」はず。もう一度、尊敬する先輩である日下部を信じようと決めた晶穂は、元の会社に戻ることになった。
今回、一時的に千晴は広沢(山口紗弥加)のアシスタントについていたが、ことあるごとに来栖が支援にまわっていた。難しい案件に悩む千晴のことを気に掛け、口を出す様からは“魔王様感”が薄くなっている。しまいには「(千晴に)幸せになってもらいたいだけです」と耳を疑うようなセリフまで飛び出し、恋(?)のライバル的存在・天間(白洲迅)まで登場。お仕事ドラマに恋愛要素が滲み出している。
それにしても、天間は千晴の目の前に現れすぎである。千晴が通りかかる曜日と時間を克明にリサーチしていないと、こんな頻度では遭遇できないはず。まだ“謎の男”としかクレジットされていない彼の目的は、千晴なのか、それとも……。
※この記事は「転職の魔王様」の各話を1つにまとめたものです。
–{第8話ストーリー&レビュー}–
第8話ストーリー&レビュー
第8話のストーリー
「あなたに、お会いしてみたいと思ってました」――天間(白洲迅)が初対面の来栖(成田凌)に意味深な言葉を投げかけてから、しばらくたったある日、来栖と千晴(小芝風花)は新規登録者でフリーライターの石岡遥太(飯島寛騎)の面談を行うため、カフェに呼び出される。ところが石岡は、手間を省くために別の大手転職エージェントの担当者も同じ席に呼んだといい、まるで2社が対決するような状況に千晴が戸惑っていると、そこへ、同業者であることを千晴に隠していた天間が現れる。
28歳の石岡は、大学卒業後からフリーライターとして活動。有名メディアへの掲載実績もあることから自己評価が高く、正社員になるのは自らの市場価値をさらに高めるためだと豪語する。しかし来栖は、ある理由から、実績に自信がある石岡を「“正社員になりたいフリーター”として選考される」と未経験者扱いし、怒らせてしまう。
一方の天間は、来栖の意見に一定の理解を示しつつも、石岡の考えを尊重し、プライドを傷つけない巧みな話術で希望条件を広げていく。来栖とは真逆な“優しく親身に”をモットーとした天間のやり方に心酔した千晴は、早速、広沢(山口紗弥加)たちに天間の有能っぷりを熱弁。しかし、横山(前田公輝)は天間の名前に何かひっかかる様子で…。
数日後、再び集まった来栖と千晴、天間が、それぞれが石岡に合った企業を紹介すると、石岡は天間が提案した、とある知名度の高い会社に食いつき、上機嫌。するとその申し出に、天間は驚くべきことを言い出して…。
第8話のレビュー
今回の求職者は、フリーライターの石岡遥太(飯島寛騎)。まともな記事を書いたのは3〜4年前で、取材記事にも関わらず無記名、ここ最近はアルバイトで食い繋いでいるといった状態は、フリーライターというよりフリーターだ。しかし、同じくフリーライターである筆者から言わせても、両者は似たようなものである。
来栖(成田凌)や千晴(小芝風花)をはじめ、同業の転職エージェントだと判明した天間(白洲迅)の双方から転職先を斡旋してもらう石岡。正社員としての経験も積むことでセルフブランディングになる、インプットが進んで仕事の幅も広がる、ビジョンをアップデートだの云々と、覚えたての横文字を羅列するような石岡の話しぶりには、少々辟易してしまう。
しかし、天間が紹介した転職先「ほっとニュース」にて内定となった石岡。思う存分、これまでの経験を生かせるかと思いきや……入社して2週間で退職届を出し、早々に辞めてしまった。
原因を一言で表すなら「プレッシャーに負けた」から。石岡のため、転職エージェント自ら会社見学までした、天間の真摯な姿勢が仇となった。「ここまでやってくれるなんて、相当な力のある人材に違いない」と入社前から期待が右肩上がり状態に。執筆にブランクのある石岡にとって、その圧に耐えられるほどの“自信”はなかったのだ。
「あんな環境で結果を出し続けるなんて、無理に決まってるでしょ」と責任転嫁する石岡の姿は、他責思考の例として教科書に載せても、なんら違和感がない。やっとのところでバランスを保っていた、崩れかけのジェンガのような石岡のメンタルは、またもや来栖の正論で薙ぎ倒される。
「会社員だって、敷かれたレールの上に乗ってるだけじゃダメなんですよ」と諭す言葉に、石岡とともに痛くなる耳を抱えてうずくまってしまう。会社員だのフリーランスだの、働き方はさほど問題にはならない。やはり、どんな立場であっても、自ら仕事をつくってこなす人間が強い。
最終的には天間の後押しで、あらためて元の会社を辞めずにやり直す道を選んだ石岡。「求められることより、やりたいことをやるべき」「入りたいと思った会社で、勝負するんです」と鼓舞する言葉は心地いいかもしれない。
しかし、石岡が一度辞めようと思った会社には、公の場で他者をこき下ろす人間が複数いる。果たして、そんな会社でもう一度頑張りたいと思うだろうか。“同業者”として、石岡には、他にもっと良い道があるような気がしてならない。
※この記事は「転職の魔王様」の各話を1つにまとめたものです。
–{第9話ストーリー&レビュー}–
第9話ストーリー&レビュー
第9話のストーリー
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とある人物から電話を受けた洋子(石田ゆり子)が、突然、青ざめた表情でオフィスを飛び出していく。向かった先は、洋子が唯一担当している求職者・五十嵐君雄(金子ノブアキ)の自宅。部屋に閉じこもった息子が命を絶つかもしれないという両親からのSOSだったが、洋子がドア越しに声をかけると幸いにも君雄は無事。しかし、洋子に対しては「帰ってくれ」の一点張りで…。
『シェパードキャリア』では、ただならぬ様子を心配した来栖(成田凌)と千晴(小芝風花)が、洋子の帰りを待っていた。以前から、転職活動をした記録がない五十嵐君雄の存在が気になっていたという来栖に、戻ってきた洋子は君雄と恋人だった過去を打ち明ける。
13年前、旅行代理店に勤めていた洋子は、小学校教諭だった君雄と知り合い、恋人関係に。二人は結婚も考えていたが、ある日突然、君雄が辞職。その理由は明かさないまま、君雄は洋子に別れを告げ、以来10年もの間、自室に引きこもっているという。洋子は、恋人の異変に気づけなかった自分を責め、いつか君雄の社会復帰の足がかりになればと、『シェパードキャリア』を立ち上げたのだ。
話を聞いた千晴は、洋子が人知れず背負っていた過去に衝撃を受け、自分に何かできることはないかと考え始める。すると、その思いは来栖も同じだったようで…。
第9話のレビュー
正直に申し上げて、「生産性」という言葉を「人」に当てがうようになってから、世界に対して少しずつ嫌な予感がしていた。「コストパフォーマンス(=コスパ)」「タイムパフォーマンス(=タイパ)」なんて言葉もどんどん一般的になってきている。
もしも第三者から「タイパの悪い生き方をしている!」「あなたには生産性がない!」なんて言われたら、生きるうえでの解釈違いがひどすぎて、目眩で倒れてもおかしくない。
洋子(石田ゆり子)の恋人でもあった五十嵐君雄(金子ノブアキ)は、10年前にとつぜん教師の職を辞し、部屋に引きこもるようになってしまった。心配した千晴(小芝風花)や来栖(成田凌)は、協力し合って君雄が心を病んだ原因を探す。
その結果、当時の教え子だった藤川孝介(野村康太)が、イジメに遭った末に引きこもりになってしまった過去を突き止めた。学校に行けなくなった理由は「先生が余計なことをしたからだ!」。孝介を助けようと手を差し伸べた君雄の行動は逆効果だったようで、それが深い心の傷になってしまった。
良かれと思い、救おうと思ってとった行動が、さらに他者を深い闇に落とすことになった。自分のしたことが許せない、取り返しがつかない……そんな思いは、どんどん自罰的な思考を加速させる。君雄は十年、部屋から出ることができずにいた。
彼を引き上げたのは、諦めずに彼の元へ通い続けた洋子の存在、そして、22歳になった藤川の“本当の思い”だった。
5年間、部屋から出られなかった彼は、17歳になったときに「このままじゃいけない」と一念発起。フリースクールに通い始め、社会復帰を目指したという。支えになった言葉は、君雄からの「どんな形でもいいから、人と繋がることを諦めないでほしい」だった。
君雄の言葉は、長い時間を耐え抜いて、教え子を救った。そして巡り巡って、君雄自身の心も救う。
来栖が言う。「引きこもりに生産性がないなんて、誰が決めたんですか」。そもそも「生産性」なんて、命あるものにあてがう言葉ではないことは大前提のうえで、そんなものはあろうがなかろうがどちらでもいい。
人の命に価値なんてものさしはないけれど、もし無理やりに測ろうとしたところで、「生産性」なんて言葉が浮遊している場所とはもっとも遠いところでしか測れないはずだ。命なのだから。
仕事をしていなければ、他人に認められなければ、社会で自立していなければ、自分を自分として誇りに思えないかもしれない。それでもこのドラマは、人としての尊厳は人の数だけあり、軽率に他者に侵害させてはならないことを教えてくれる。
物語は最終章へ。千晴、来栖、そして天間(白洲迅)をめぐる恋愛要素も顔を出す。彼らの歩む道は、どこへ向かっていくのだろうか。
※この記事は「転職の魔王様」の各話を1つにまとめたものです。
–{第10話ストーリー&レビュー}–
第10話ストーリー&レビュー
第10話のストーリー
『シェパードキャリア』の大阪支社設立が決まり、洋子(石田ゆり子)は、その立ち上げを来栖(成田凌)に任せると宣言。早速、来栖は下見のため出張することになり、千晴(小芝風花)はこれを機にひとり立ちすることに。
来栖の不在に不安を感じていたものの、「お守りから解放されて、晴れ晴れ、爽快です」という嫌みでがぜん、やる気に火がついた千晴。来栖を見返したい一心で、天間(白洲迅)のサポートのもと面談に臨んだのは、大手レストランチェーンに勤務するシステムエンジニアの矢吹健一(高橋光臣)。健一は、妻と2人の娘との将来を考え、給料を今の2倍にしたいという。難しい条件に驚きつつも、家族思いの健一の言葉にすっかりほだされた千晴は、魔王さながらのむちゃぶりで横山(前田公輝)を巻き込み、あるスキルに長けている健一に、異業種への挑戦を提案する。
千晴に背中を押された健一は、早速面接を受けたいと意気込むが、実は、転職の話は妻の江美里(大西礼芳)に内緒。転職先が正式に決まってから伝えて喜ばせたいというが、後にそれが家族間に大きなひずみを生むことに…。
一方、千晴のもとには、大阪にいる来栖から電話が。引き継ぎの名目だったが、内心では千晴のことが心配だった来栖。千晴もまた、そんなツンデレな魔王様の気持ちがうれしく、健一の一件が順調に進んでいることを得意げに報告する。すると、そんな楽しそうな千晴の様子を離れた場所から天間が見ていて!?
さらに第1話から注目を集めてきた、嵐と千晴の知られざる過去のつながりが明らかになる!
第10話のレビュー
千晴(小芝風花)と来栖(成田凌)は、過去に面識があった。千晴は失念していたようだが、当時、事故に遭って塞ぎ込んでいた来栖にとっては“奇跡”とも形容できる思い出。「千回、晴れる」……千晴という名前の通り、土砂降りの空を見事に晴れさせたのだ。
新入社員だった千晴は、仕事に情熱を傾けていた。「自分にやれることがあるなら、精一杯頑張りたい」「明日は今日より役に立てるかもしれない、そう思うと、頑張ろうって思えるんです」……明るくハキハキと話す彼女がまさか、その数年後に目の光をなくし、パワハラによって体調を崩して倒れ、後遺症として味覚障害まで患うなんて、想像しにくいほど。
来栖が千晴に目をかけていた理由が、これで明らかになった。このとき「晴れ女ですから、晴れますよ」と言って、千晴は本当に雨をやませた。そんな小さな奇跡を見せてくれた彼女が、求めてくれるところならどこでもいい、なんて後ろ向きな理由で転職活動をしている。気にしないほうが無理だろう。
来栖の大阪出張を機に、独り立ちに向け求職者の面談に精を出す千晴。しかし、一人だとなかなか上手くいかず「人生の一大事に関わるような仕事、私にはできない、向いてません」と弱音をこぼす。そんな彼女に、来栖は言った。
「明日の晴れを信じないなんて、笑わせないでください。君にはまだ、できることがあるはずです」
独り立ちしなければ、と焦るあまり、千晴は「人に頼る」ことを避けてしまっていた。自分一人でなんでもできるようにならなければ、周りに迷惑をかけないようにしなければ……。そんな自立心は確かに立派ではある。
しかし、己だけで抱えきれない荷物は自然と両手からこぼれ落ち、結果的に、同僚やクライアントが進む道まで塞いでしまうかもしれない。来栖の言うように「困ったら頼ればいい」のだ。
転職活動にまつわる求職者の悩みや心の動き、そして、千晴や来栖などキャリアアドバイザー側の視点から「仕事とは?」「働くとは?」と考えるきっかけを与えてくれたこのドラマも、来週で最終回。
大阪への出張を終えた来栖が、次はキャリアアドバイザーを辞めてアフリカに行ってしまう展開になりそうだが……。
※この記事は「転職の魔王様」の各話を1つにまとめたものです。
–{最終話ストーリー&レビュー}–
最終話ストーリー&レビュー
最終話のストーリー
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来栖(成田凌)の商社マン時代の同期・児玉雄一郎(小関裕太)が、来栖を訪ねて『シェパードキャリア』へやって来る。エネルギー開発事業を専門に扱う商社に転職した児玉は、「俺と一緒にアフリカで働こう」と来栖をスカウト。会社は来栖のハンディキャップにも理解を示しているという。一度はあきらめた夢を再び追いかけられるチャンスに、来栖の心は揺れ動く。
そんななか、3年前に来栖が担当した滝藤航平(駿河太郎)が、37歳にして、学生時代からの夢である広告プランナーの職に就きたいと相談に来る。前回、広告代理店への転職がかなわなかった滝藤は、広告宣伝に力を入れる大手食品会社に入社するも、現在は販促イベントの雑務を担当しているという。「可能性がゼロではないなら、夢を追い続ければいい」――3年前の来栖の言葉が忘れられず、再び夢に挑戦しようとする滝藤に、来栖は思わず自分の姿を重ねてしまい…。
一方の千晴(小芝風花)は、いつもなら迷わず突っぱねるであろう、難易度の高い滝藤の転職を後押しした来栖に、違和感を覚えていた。するとそこへ再び児玉がやって来て、千晴は事故にあう前の来栖が夢を追いかけ、笑顔で働いていた話を聞く。児玉から来栖の説得を頼まれた千晴は…。
はたして、来栖はもう一度夢を追いかけるのか、それとも、キャリアアドバイザーとして求職者の転職をサポートする道を選ぶのか!? 魔王様が最後に出した答えは…!?
最終話のレビュー
人は、何のために転職をするのか。
厳しいこともオブラートに包まずハッキリと言う来栖(成田凌)と、悩みながらも求職者に寄り添った提案をしようと苦心する千晴(小芝風花)。正反対な二人のキャリアアドバイザーを見ながら、「もし自分が転職をするなら?」と、自然と考えてしまっていた。
転職の基準は、まさに人それぞれ。もっとやりたい仕事をしたい、給与を上げたい、時短やリモートワークで働きたい……。千晴が言っていたように、「笑顔で働ける仕事」をすることも、その一つだろう。
来栖の昔の同僚がやってきて、「夢なんて、簡単に捨てられるもんじゃないだろ?」と言いながら、アフリカ現地でのエネルギー開発事業に来栖をスカウトした。このままキャリアアドバイザーとして働くか、それとも、昔の夢を追うか……。来栖の心は、大いに揺れたはず。最終試験と称し、来栖の面談を担当することになった千晴は、こう告げる。
「私はやっぱり、好きだと思える仕事をすべきだと思います」
「来栖さんには、笑顔でいてほしいって思ってます」
千晴が笑顔にこだわる理由は、かつて自分自身が、とても笑顔でなんて働けない環境に身を置いていたからだろう。やりたい仕事のはずだった。目標だった大手の会社に入り、バリバリ仕事をするはずだった。それなのに、意志に反して身体には不調が出はじめ、やがて心も蝕んでいく。自分を幸せにしない、むしろどんどん不幸にしていく仕事を続ける理由は、どれくらいあるのだろう。
そのつらさを、苦しみを、嫌というほど染み込ませた経験があるからこそ、千晴は来栖の背中を押したのだ。
シェパードキャリアの社長・洋子(石田ゆり子)も言っていた。「人生には正解なんかなくて、答えを出したら、あとは残りの人生をかけてそれを正解にしていくしかないんじゃないか」と。
自分と向き合った来栖は、やがて、答えを出す。「夢の形が変わった」ことに気づいた彼は、引き続きキャリアアドバイザーとして、求職者に寄り添うことを決めた。それは、かつての夢に蓋をしたわけでも、諦めたわけでもない。新たな夢を追うことにした来栖の表情は、穏やかだ。
転職はもちろんのこと、人生には大なり小なり、選択を迫られる瞬間がある。その正解はいつだって、自分のなかにしか見つけられない。“主体的な人生”を生きることが、どういうことなのか。このドラマは、それを教えてくれた気がする。
それにしても、来栖を置いて大阪支社への転勤を決める千晴の行動力については、「そうくるか?」と思わせられてしまった。少し寂しそうにする来栖、千晴の言葉を「プロポーズですか?」と勘違いし、握手からの引き寄せハグをする来栖、一年半後に戻ってきた千晴を優しく(?)迎え入れる来栖。千晴との凸凹なやりとりが見られないと思うと、少しだけ、寂しい。
※この記事は「転職の魔王様」の各話を1つにまとめたものです。
–{「転職の魔王様」作品情報}–
「転職の魔王様」作品情報
放送日時
2023年7月17日(月)スタート。毎週(月)夜22:00〜 ※初回15分拡大
出演
成田凌/小芝風花/山口紗弥加/藤原大祐/おいでやす小田/前田公輝/井上翔太/井本彩花/石田ゆり子 他
原作
額賀 澪
「転職の魔王様」「転職の魔王様2.0」(PHP研究所)
脚本
泉澤陽子 小峯裕之
主題歌
milet 「Living My Life」
(SME Records)
オープニング曲
LIL LEAGUE from EXILE TRIBE
「Monster」
(rhythm zone)
音楽
横山 克 橋口佳奈
プロデューサー
萩原 崇 石田麻衣 櫻田惇平
演出
堀江貴大 丸谷俊平 保坂昭一
制作協力
ホリプロ
制作著作
カンテレ