「木俣冬の続・朝ドライフ」連載一覧はこちら
2023年4月3日より放送スタートしたNHK連続テレビ小説「らんまん」。
「日本の植物学の父」と呼ばれる高知県出身の植物学者・牧野富太郎の人生をモデルにオリジナルストーリーで描く本作。激動の時代の中、植物を愛して夢に突き進む主人公・槙野万太郎を神木隆之介、その妻・寿恵子を浜辺美波が演じる。
ライター・木俣冬が送る「続・朝ドライフ」。今回は、第76回を紐解いていく。
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うさぎが三匹に
三連休の最終日、月曜日から、ずいぶんと辛気臭い話からはじまったものです。藤丸(前原瑞樹)の「こんなに執念深い人たちが世界中にひしめいてて」という言葉に胸がしめつけられました。
第16週「コオロギラン」(演出:津田順子)は、万太郎(神木隆之介)と大窪(今野浩喜)が日本ではじめて植物に学名をつけた喜びと、田邊(要潤)が悲願のトガクシソウの発表を伊藤孝光(落合モトキ)に先んじられた悲しみからはじまります。
「伊藤家の執念だな」と徳永(田中哲司)は冷静です。
「これが学者の世界だ 新種の発表は一刻を争う」とも。だからこそ、万太郎たちのヤマトグサは快挙なのです。
「教授には運がなかった」と言うのは波多野(前原滉)で、万太郎たちは運が良かったということ。それを聞いた藤丸が「やだなあ」とぼやきます。この「やだなあ」の響きが最高。
「こんなに執念深い人たちが世界中にひしめいてて 運が悪かったで済まされて 研究って それに立ち向かうことですか?」
(藤丸)
それに「やられたらやり返すしかねえだろ」と大窪はいいとこのお坊ちゃんに見えないやけにガラの悪い口調で反論。
「ひとりひとりが自分と戦う戦さ場なんだ」
(徳永)
と徳永も言います。
藤丸って弱くてやさしい人。でも、世界と戦う最前線ではその弱さややさしさは邪魔になります。だから彼が研究室にいる以上、変わらなくてはいけない、強くならないといけない。でもーー。
プレッシャーに耐えかねた藤丸は、うさぎを愛でて心を癒やしています。とはいえ、たいていの人が、そんなに躍起に世界を目指してはいないので、藤丸のような考え方が一般的でしょう。万太郎たちのような高みを目指している人たちは一握りです。世の天才たちは、執念深く、自分と戦って、まだ誰も見たことないものを獲得するのです。
すばらしい仕事には「執念深さ」がつきまとう。自分との戦いで、コツコツやる分にはその執念深さはいい方向に発揮されますが、場合によると、他者をだしぬき蹴落とすことに発揮されるのです。
ただ、ひたむきにやることをやっていれば報われるのではない。でも、そんな世界に耐えられない人も、藤丸のようにいるのです。あー、生きるのってしんどい。
「誰が発見したって花は花じゃないですか」という藤丸のセリフは真意です。
人は、なぜ、奪い合うのでしょうか。
これ、花に限ったことじゃ全然ない話ですよ。
植物学研究室が戦場に見えてきて。まっしろで大きなうさぎがいなかったら、辛すぎた。
うさぎ、いつの間にか、3匹に増えていました。
(文:木俣冬)
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–{「らんまん」第16週あらすじ}–
「らんまん」第16週「コオロギラン」あらすじ
万太郎(神木隆之介)は大窪と共に新種ヤマトグサを発表。そして図鑑を発刊したことで植物学者として世に認められ、まさに順風満帆の日々を送っていた。一方の田邊(要潤)は、新種として発表しようとしていた植物が、イギリス留学中の日本人学者に先を越されて発表されてしまい、失意のどん底に…。そんなある日、長屋に藤丸(前原瑞樹)がやってくる。新種発表をめぐって学者同士が激しく競い合う状況に気を病んだ藤丸は、大学を辞めると言い出す。
–{「らんまん」作品情報}–
「らんまん」作品情報
放送予定
2023年4月3日(月)より放送開始
作
長田育恵
音楽
阿部海太郎
主題歌
あいみょん「愛の花」
語り
宮﨑あおい
出演
神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、笠松将、中村里帆、島崎和歌子、寺脇康文、広末涼子、松坂慶子、牧瀬里穂、宮澤エマ、池内万作、大東駿介、成海璃子、池田鉄洋、安藤玉恵、山谷花純、中村蒼、田辺誠一、いとうせいこう ほか
植物監修
田中伸幸
制作統括
松川博敬
プロデューサー
板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出
渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか