宮﨑駿監督作『君たちはどう生きるか』確定している「10」の事実と「4つ」の噂

映画コラム
(C)2023 Studio Ghibli

宮﨑駿監督の10年ぶりの新作となるアニメ映画『君たちはどう生きるか』の2023年7月14日の公開まで、1週間を切った。

関連記事:【最速レビュー】『君たちはどう生きるか』史上もっとも難解な、宮﨑駿監督の集大成

1枚のポスター以外、「なしなし」尽くしの宣伝手法

本作は「予告編なし」「テレビスポットなし」「新聞広告なし」という、本編の映像は1秒たりとも事前に見られない、「宣伝をしない宣伝」をすることが、鈴木敏夫プロデューサーから明かされている。

事前に公式からはっきりと打ち出されているのは、劇場でも掲げられている1枚のポスターのみ。それがアオサギ(?)か何かの鳥の姿に見える、それがまるで被り物のようにもう1つの目がある(?)ことも含め、謎が多い。なお、鈴木敏夫によると、このポスターを宮﨑駿は「鈴木さん、これはすごい。今まで(のポスター)でいちばんいい」と絶賛しているらしい。

さらには、あらすじすら公開されていないし、声の出演者の情報も明かされていないスタジオジブリ内のページ東宝によるシアターリストのページはオープンされているものの、公式サイトもない。劇場に置かれるチラシもない。前売り券の販売もない

展覧会「金曜ロードショーとジブリ展」の開会セレモニーでは、宮﨑駿から「宣伝なくて大丈夫かな」と心配する声があがっていることも、鈴木敏夫は打ち明けている(ただ、後のNHKのインタビュー記事によると、宮﨑駿は「鈴木さんの丁半博打に俺も乗る!」と乗り気になってきたらしい)。

不安があることは映画館側も同様で、立川シネマシティの7月のラインアップのページでは「期待しかないのだが、映画館スタッフとしては心配で仕方ないという二律背反」という正直な気持ちが吐露されている。

また、今回は複数の出資者による「製作委員会」方式ではない。スタジオジブリ1社のみの単独出資であり、つまりは「とことん思った通りに作品を完成させ、その責任を全て負う覚悟がある」からこそできた宣伝手法なのだが、いざ公開されて、どのような興行収入記録になるか、現時点ではまったく読めない。

ここでは、そのように極めて情報が少ない中から、確定している『君たちはどう生きるか』の情報、ささやかれている噂をまとめて紹介していこう。

確定している”10”の情報

1:タイトルは同名の小説から取られている

宮﨑駿監督作『君たちはどう生きるか』は、吉野源三郎による1937年刊行の超ロングセラー小説からタイトルが取られている。2017年刊行の漫画版が200万部超えのベストセラーになっており、ある程度の知名度があるタイトルと言える。

▶「漫画 君たちはどう生きるか」をAmazonでチェックする

2:内容はオリジナルだが、主人公がタイトルになった小説を読んでいる

書籍「スタジオジブリ物語」にて、前述した吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』を子どものころに読んだ宮﨑駿は大変な感銘を受け、今回の映画のタイトルに借用したと書かれている。だが、映画の主人公がこの小説を読んでいるという設定はあるものの、映画の中身はまったく小説とは無関係であるとも明言されている。

▶「スタジオジブリ物語」をAmazonでチェックする

3:舞台は日本

詳しくは後述するが、宮﨑駿は吉野源三郎の同名小説をタイトルに借用しただけでなく、「アイルランド人の作家による児童文学にも刺激を受けた」ことを語っている。そのうえで、そちらも原作にはせず、やはりオリジナルで作ること、そして舞台は日本にすると明言している。

4:ジャンルは冒険活劇ファンタジー

「野中くん発 ジブリだより」のページにて、作品のジャンルは(鈴木敏夫プロデューサーの書いた文章から引用すると)冒険活劇ファンタジーであることが確定している。

5:上映時間は124分

TOHOシネマズのページにて上映時間は124分であることが確定。宮﨑駿監督作では『天空の城ラピュタ』と『千と千尋の神隠し』と同じ上映時間となる。

6:レーティングはG指定

映倫の公式Twitterより、レーディングがG(全年齢)指定になったことも明らかに。

7:IMAX上映が公開日と同日にスタート

スタジオジブリ作品初となるIMAX上映が、公開日である7月14日よりスタートする。スタジオジブリ公式TwitterがIMAXの劇場内と思われる写真を投稿していたこともあり、予想していた人が多かったようだ。

8:ドルビーシネマやドルビーアトモス上映も実施

東宝のシアターリストのページにて、ドルビーシネマとドルビーアトモスの上映があることも確定。さらに、バリアフリー上映がされること、一部の上映劇場およびごく限られた期間で日本語字幕付き上映もされる。

【関連記事】ドルビーシネマ(Dolby Cinema™)|対応している劇場一覧

9:音楽担当は久石譲

8月9日に発売予定のサウンドトラックの情報が公開されており、主題歌含む37曲が収録されること、そして音楽を久石譲が担当していることも明らかとなった。久石譲は『風の谷のナウシカ』から今回の『君たちはどう生きるか』に至るまで、全ての宮﨑駿監督の長編アニメ映画の音楽を手がけたことになる。

▶「君たちはどう生きるか サウンドトラック」をAmazonでチェックする

10:スタッフは本田雄、武重洋二、井上俊之

公式に宮﨑駿監督(原作と脚本も担当)以外のスタッフ情報はほとんど明かされていないが、「野中くん発 ジブリだより」のページで作画監督が『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズや『電脳コイル』や『千年女優』などに携わってきた本田雄であることが確定した。



さらに、「スタジオジブリ物語」では美術監督が『千と千尋の神隠し』や『風立ちぬ』の武重洋二であることが明かされている。

また、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」2021年3月30日放送の「エヴァ」シリーズの“作画”を総括してみる!特集にて、『AKIRA』『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『魔女の宅急便』などで作品の顔となるカットを手がけてきた井上俊之が『君たちはどう生きるか』に参加していることも明らかに。ラジオ内で井上俊之は作画監督の本田雄を称賛している。

さらに『電脳コイル』のインタビュー記事では、井上俊之は原画を担当していることも明言している。

さて、ここからはささやかれている噂についてまとめていこう。いずれも推測の域を出ない、確定的な情報ではないのでご注意いただきたい。公式からの情報の開示や、なるべく予備知識のないまま本編を楽しみたい方は、この先は読まない選択をしても良いだろう。

–{主題歌と声の出演の噂は…!?}–

ささやかれている”4つ”の噂

1:主題歌or声の出演は米津玄師と菅田将暉か?

菅田将暉、米津玄師によるそれぞれのライブ会場にて、宮﨑駿と鈴木敏夫からのお祝いのフラワースタンドが届いているという報告が相次いでいる

このため、菅田将暉が映画のキャラクターの声を担当しているのではないか、はたまた米津玄師が主題歌を担当しているのではないか、という噂が広がっている。この両者が声の出演、または主題歌の両方を担当する可能性もある。

他にも、共同通信配信の人気連載を書籍化した、7月8日発売の『歳月』に名前を連ねているあいみょんが主題歌を担当する説もある。さらに、声優に木村拓哉の噂もささやかれているが、果たして……?

▶「歳月」をAmazonでチェックする

2:刺激を受けた児童文学があるが、そのタイトルは?

書籍「スタジオジブリ物語」にて、宮﨑駿は2016年の暑い初夏の頃にアイルランド人が書いた児童文学、その後の梅雨の頃に別の外国人が書いた児童文学をそれぞれ鈴木敏夫に読ませて「どちらをやる(映画にする)べきか」と聞き、鈴木敏夫が迷いなく「(いまこの時代に長編映画にするに相応しい内容だと判断したこともあり)もちろん、最初の本でしょう」と答えたという一幕がある。

しかし、宮﨑駿には「どういう内容にするかが難しい。原作のままでは映画にならない」という考えもあったそうで、その上で「この本には刺激を受けたけど原作にはしない。オリジナルで作る」と明言しているのだ。

この2つの児童文学のタイトルは明かされていない。だが、まさにアイルランド出身の作家ジョン・コナリーによる『失われたものたちの本』に刺激を受けた可能性は高い。同作の文庫版の帯には「ぼくをしあわせにくれた本です。出会えてほんとうに良かったですと思ってます」という宮﨑駿からの推薦コメントが寄せられていたりもするからだ。

▶「失われたものたちの本」をAmazonでチェックする

また、「別の外国人が書いた児童文学」は、オトフリート・プロイスラーによるドイツ児童文学の『クラバート』なのかもしれない。こちらも宮﨑駿が本の帯に「いい本です。自信をもっておすすめできます」と推薦コメントを寄せている。ただ、こちらはすでに『千と千尋の神隠し』に影響を与えているし、改めて鈴木敏夫に読ませるということも考えづらいので、今回は参照している可能性は低いのかもしれない。

▶「クラバート」をAmazonでチェックする

3:序盤のイメージボードが楽曲集のジャケットとして公開されていた?

ジブリ映画楽曲集「ジョバンニ・ミラバッシ『MITAKA CALLING 三鷹の呼聲』」のジャケットに宮﨑駿がイラストを提供している。

気になるのは、このジャケットのイラストの上部に「STUDIO GHIBLI」「S.」「C.」「TIME」の文字が見えること。これは以下のスタジオジブリの公式Twitterが投稿したレイアウト用紙と一致している、つまりは『君たちはどう生きるか』の彩色されたイメージボードという見方が強い。



また、同ジャケットの「C.」の右に「20」という書き文字が見えることから、これが20番目のカット、つまり序盤のシーンでもある可能性も。太平洋戦争中の空襲の光景にも思えるが、果たして……?

4:高畑勲をモデルにしたキャラクターも登場?

「ジブリの教科書19 かぐや姫の物語」を元にした週刊文春オンラインの記事(記事公開時では非公開)にて、鈴木敏夫は「『君たちはどう生きるか』の中に、高畑勲と思しき人が登場します。この人物を宮さんがどう扱うのか、興味深い」と答えていたことがあった。

しかも、2018年4月5日に高畑勲が亡くなったあと、順調だった絵コンテが2カ月余りストップしていたこともあったそう。実際の本編で、高畑勲をモデルにした(かもしれない)キャラクターは、どのような活躍をするのか……?

これらの噂のすべては、公開されれば明らかになることだろう。

「情報も映像も公開しないこと」が2度とない体験に

鈴木敏夫は冒頭の動画内で「今は情報過多で(内容がほとんどわかってしまうような予告編は)お客さんから本当に面白いところを奪っている」「今までやってきた大宣伝をやめてみる。それがお客さんへのサービスになる」などと、この宣伝なしの宣伝の意図を語っている。

確かに、宮﨑駿の新作を、あらすじも知らず、映像を事前にまったく観ることもないままスクリーンで目の当たりにすることは、2度とはない体験になることは間違いない

さらに鈴木敏夫は「よくあんなものを作るなと思いました」などと、クオリテイの高さがうかがえる発言もしている。しかも、ジブリ作品における一番のお気に入りキャラが『君たちはどう生きるか』に出てくるようだ。いったいどんなものが観られるのか、公開日を心待ちにしたい。



(文:ヒナタカ)

U-NEXT