『育休刑事』のパパ刑事役は新境地!?キャリア10年目を迎える金子大地が見据える、次なる地平とは

インタビュー

元々、芝居の振り幅の広さには定評があった。

誰あろう、作品と役によってテンションや温度の高低差を見事に演じ分ける金子大地にほかならない。彼は今、俳優として新たな景色を目にしているようだ。

NHK総合/BS4Kで毎週火曜夜10時から好評放送中のドラマ『育休刑事』で、文字通り子育てに奮闘する育児休業中の主人公・秋月春風(あきづき はると)を絶妙な塩梅で演じているが、ここまで素直でクセのない人物は意外にも初だったとか。

一方、同世代の作り手や俳優たちと4年前に撮影を行ったリアルな青春群像映画『モダンかアナーキー』が、7月1日からイメージフォーラム(東京・渋谷)にて2週間限定で上映されるが、こちらでは打って変わって極めてナチュラルな“役を演じない芝居”を体現。

10月にはキャリアが10年目となる金子の現在地と、次の節目に向けて見据えている地平について、腰を据えて話を聞く。

“蓮くん”が大きくなったら「また一緒にお芝居をしたい」

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──いきなりの自分語りで恐縮ですが、『育休刑事』を観ているとウチの子が乳児だった頃を思い出すんですよ。

金子大地(以下、金子):僕も今回の作品で感じたんですけど、赤ちゃんの時期って本当に成長が早いですよね。

──そうなんですよ、月齢で全然違ってくるという。それにしても、4話以降、息子の蓮くん役を演じている赤ちゃんの表情が素晴らしいですよね。

金子:本当におっしゃる通りで、あの子は天才なんですよ。現場の大人たちが「今この顔がほしいなぁ」という表情を、絶妙なタイミングでしてくれるんです。最初の蓮くん(役の赤ちゃん=名和咲陽)は、それこそ月齢もあって泣いちゃうのが当たり前なので、泣かせないように気をつけていたんですけど、(4話以降の蓮くん役=甲賀)羽仁衣くんは逆に「泣いちゃうシーン、どうします?」ってスタッフさんたちが相談するくらいで(笑)。

なので、羽仁衣くんの場合は「そろそろ、お腹が空くころかな?」と頃合いを見て、泣くシーンの準備をするという──。何にしても、赤ちゃんファーストで撮影が進んでいく現場でしたが、彼らのかわいさにはすごく癒やされていました。

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──子ども、ほしくなっちゃいました?

金子:そうですね、よその家の子でこれだけ好きになっちゃうんだから、もし自分の子どもが生まれたら……愛情がどうなっちゃうのか、逆に不安になったりもして(笑)。

でも、『育休刑事』で春風(はると)という役を演じたことで、子育てをされている方々に対する尊敬の気持ちが増しました。お父さんもそうですけど、(北乃きい演じる春風の妻・)沙樹さんのように、お仕事をされているお母さんのたくましさをすごく感じていて。

一口に子育てと言っても本当に大変で、特に赤ちゃんのときは「こんなに目が離せないものなのか……!?」って、お芝居のなかではありながらも実感しましたし、自分もそうやって目をかけてもらいながら育ててもらったんだなって、親のありがたみを改めて感じるきっかけにもなりました。

──自分が親の目線を持つことで、初めて分かることが多々あるんですよね。それで言うと、蓮くんの行動や成長を見る目線によって事件解決の糸口を春風が毎回つかむというのも、気づきに富んでいるなと思っていて。

金子:子育てをしなかったら分からなかったことによって、事件への目の向け方も少しずつ変わっているんですよね。でも、それが押しつけがましくないというか……見やすくて楽しめるドラマになっているのが素敵だな、と思っていて。赤ちゃんのかわいらしさや愛らしさだけでも画がつくれるという意味では、すごく助けられていますし、僕自身もついついデレちゃいますね(笑)。

でも、これからどんどん成長していくわけじゃないですか。次に羽仁衣くんと会うときは、きっと僕のことなんか忘れちゃっているんだろうなって思うと寂しくなっちゃうので、ずっと成長を見ていたいという気持ちになります。欲を言えば、彼がもう少し大きくなってから、また一緒にお芝居をしたいですね。

–{金子大地が現在地から見る“強み”とは?}–

金子大地が現在地から見る“強み”

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──作品が映像として残るから、金子さんのことも間接的な記憶として刻まれるんじゃないかなと思います。

金子:何らかのカタチで認識してくれていたら、うれしいですけど……。自分のことで言うと、小学校2年生以前の記憶って断片的な光景しか残っていなくて。幼稚園のころの具体的なエピソードとか思い出せないんですよ。好きだった子のことは覚えているんですけど、年々思い出が上書きされていくので、高校の同級生の名前をうっかり忘れちゃったりもして──。顔はさすがに覚えているんですけど、「え〜っと……何ていう名前だったっけ?」って、内心焦るという(笑)。

──しかも、同級生の方々は高校時代のみならず、今の金子さんの活躍も知っているわけですから……その辺り、人前で仕事をするって不思議な感覚があるのではないか、と。人からどう見られているか、意識することってあります?

金子:う〜ん……「この役の印象で自分は見られるのかな、あの役はどう思われているのかな?」といったことを考えたりもしますけど、まだそこまで自分に確固たる色があるとも思っていないんですよね。それは、ありがたいことにいろいろと幅広く役をいただいているということでもあるので、しばらくはこのスタンスでお芝居をやっていきたいです。

──裏を返せば、特定の色に染まっていないのが強みとも言えそうですよね。

金子:見渡せばすごい役者さんばかりなので、そこを強みにしていくしかないなと思います。というのも、お芝居が好きで役者の仕事をしてきて、これまでは勢いとか気概みたいなところで突き進んできた感がありますけど、少しずつ冷静に自分や物事を見られるようになってきたようにも感じていて。ちょっとしたことで「何やってんだ、俺……」って落ち込むときもありますし、演じている役が明るければ自分も明るくなったり、暗い作品だと実生活でもドンヨリしてしまったりもするんですけど、一生懸命にやっていれば何かいいことがあるんじゃないかと信じて、1つひとつ地道に取り組んでいくしかないなと考えているんです。

それに、結果というのは出そうと思って出せるものではないので、まずは自分という存在を多くの人に知っていただくことも、大事な仕事の1つとして捉えていて。どれだけ思いを込めても届かなかったら自分は存在していないも同然なので、やり続けるしかないんですよね。そうやって続けていくうち、同じ熱量を持った人とカチッとはまったときに何かが起こるだろう──と期待して、どん欲に行こうと思っているんです。

新作映画は「このときにしかできないお芝居」を残せた

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──それで言いますと、7月1日からイメージフォーラムにて2週間限定で上映される映画『モダンかアナーキー』は、それこそ熱量の高い1作のように感じました。

金子:撮影は4年前で、『サマーフィルムにのって』(21年)よりも少し前なんですけど、このときにしかできないお芝居が──自分に限らずそれぞれの役者にあって、それを切りとって作品として残せたというのが自分のなかでは大きくて。上映期間も場所も限られているんですけど、より多くの人に観ていただけたらうれしいですね……。

──金子さんはもちろん、4年前の村上虹郎さんや河合優実さんも、ちょっとあどけない印象を受けました。

金子:優実ちゃんとは『サマーフィルムにのって』でもご一緒したんですけど、『モダンかアナーキー』では別軸のストーリーだったので、ほぼ会っていなくて。しかも、彼女は確かまだ大学に入ったばかりのころで、役者としてスタートを切ったばかりだったんですよね。今はめざましい活躍ですけど、初々しい時期の優実ちゃんの芝居をこのタイミングで見られるという意味でも、貴重なのかなと思います。

──スケートボードに興じる若者たちがモチーフの1つでもあるビターな青春群像というところで、“練馬版『mid90s ミッドナインティーズ』”的な見方もできるのかな、なんて……。

金子:『mid90s ミッドナインティーズ』を引きあいに出していいのかな、という気持ちもありつつ……若さ特有の不安定さや暴発してしまう感じをリアルに切りとっているので、映画としては粗削りでもあるんですけど、エネルギーに満ちあふれた作品になっているんじゃないかなと思います。その危なっかしさも含めて、どう響くのかが楽しみだったりもするんですよね。

──金子さん自身のお芝居も、『育休刑事』で見せているプライム帯ドラマのたたずまいとは正反対のアプローチをしている印象を受けました。ほぼ芝居をしていないようにも映ります。

金子:杉本大地監督が「誰かに見せるための芝居じゃなくて、そこにいる芝居」を求めていたので、敢えて言うなら、“芝居をしない”という芝居をしていたのかもしれないですね。ふだんの僕はわりとハッキリしゃべるので、“金子大地の自然な感じで”と言われたら、声が通るような話し方になってしまうんです。

でも、『モダンかアナーキー』で演じた主人公のコウはボソボソとしゃべるタイプだったから、演技に見えない低い温度感で芝居をするのが、逆にすごく難しくて。ただ、仮にセリフが聞きとれなかったとしても、映画を観終わったときに何かを感じてもらえているのなら、それだけでも伝わったことになるのかな──と僕は解釈してもいて。

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──車の中でのコウとお姉さんの会話とか、本当に家族同士の日常会話みたいな空気ですよね。遠慮なく「え?」って何度も聞き直したりして。

金子:2人のセリフがかぶったり、同じセリフを反復したりするのはテレビドラマではまずリテイクになりますけど、リアリティーを大事にしていた杉本監督的にはOKなんです。そこも面白かったですね。

──そういった意欲的なチャレンジができるというのも、俳優としてのモチベーションになるのかなと想像します。

金子:本当にそう思います。こういったチャンスをいただけることがありがたいですし、「こういう映画をつくりたくて、俺たちがんばってるんだよ」という同世代の熱量が、粗削りだけど目一杯つまっている作品だったので、参加できてすごくうれしかったです。

──ちなみに、大地という同じ名前の杉本監督とは、どういったつながりだったんでしょう?

金子:友達が杉本監督と知り合いで、「ぜひ大地に会ってほしい」と紹介されて。で、会ってみたらめちゃめちゃ個性的な人だったんですけど(笑)、話していてすごく熱量を感じたし、撮りたいものへのこだわりもはっきりしていたので、一緒に何か面白いことができるんじゃないかなっていう直感が働いたんです。キャストも全員10代後半から20代前半と若くて、お互いに意識していたと思うし……それもまた相乗効果になっていたのかなって。

──コウが所属する高校のバスケ部のコーチがまた、本当におっかない感じが伝わってきて。

金子:あのコーチ役の方、実は衣装さん(渡辺慎也)なんです。キャスティングが決まらなかったので、内トラ(身内のエキストラ)的な感じで急きょ演じてもらって。でも、あの部活でのピリッとした空気が出せたのも、芝居慣れしていなかったからこそのリアルだと思うんですよ。ああいった温度感の芝居を『育休刑事』でやったとしたら、作品の世界観自体を覆すことになってしまうので。

–{「『育休刑事』でのお芝居はある種のトライ」}–

「『育休刑事』でのお芝居はある種のトライ」

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──確かに。でも、その両方の表現を皮膚感覚で知っているというのも、金子さんの強みだと思うんですよね。話題の配信ドラマ『サンクチュアリ ー聖域ー』(Netflix)にも出ていらっしゃいますし。

金子:出番はそんなに多くないんですけど、『サンクチュアリ〜』では『育休〜』の春風とは正反対なクズ野郎の役をいただいて。今まで数々のクズを演じてきましたが、ぶっちぎりのクズをやっています(笑)。一ノ瀬ワタルさんが演じていらっしゃる猿桜=小瀬清のタニマチ(・村田拓真)役なんですけど、清々しいくらいの憎まれ役なので、こちらも観ていただけたらうれしいですね。

でも、『鎌倉殿の13人』(NHK総合ほか/22年)の(源)頼家のように感情を爆発させる人物だったり、あるいは繊細で壊れやすいような人だったり、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系/18年)のモンスター新入社員だったり、特徴的なキャラクターを演じることが多かったので、『育休刑事』みたいにフラットな作品でのお芝居はある種トライでもあったなと思っていて。何にしても春風のように素直な役を演じられたことは、自分にとってすごく良い経験になりました。

──『先生、私の隣に座っていただけませんか?』(21年)の自動車教習所教官・新谷歩役のように、さわやか系の役も演じていらっしゃいますよね。

金子:でも、あの役も黒木(華演じる早川佐和子)さんと社会的に許されない恋をしちゃいますし(笑)。ただ、(堀江貴大)監督からは「マンガから飛び出してきた雰囲気で演じてください」と言われたので、さわやか系に入るのかな……? それで言うと『サマーフィルムにのって』の凛太郎も好青年でしたけど、まだまだ、もっといろいろな役を演じてみたいです。

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──キャラクターもさることながら、さまざまな職業の役がこれから増えてくるかもしれないですね。

金子:何度かご一緒した作り手の方からすると、「大地はこういう役、得意だよね?」って把握してくださっていると思いますし、自分でもその辺の自覚はあるんです。繊細な役だったり、鼻持ちならない若者の役だったり。

だから、そうじゃない役を今後は演じていくためにも、準備をしていかなければいけないなと思っていて。少しずつ見えてきた30代へ向けて、もうワンステップ大人になった役を演じられるかどうか──というところが、僕の課題なのかなと。クズ役は『サンクチュアリ〜』でやりきった感もあるので(笑)、そうじゃないところで幅を広げていきたいですね。

そういえば(村上)虹郎と会ったときに、「大地はアミューズの若手の中でも一番泥水をすすっている俳優だよね」と言われたんですけど、「そうか、周りにはそういう風に見えていたりもするんだなぁ。でも、確かにアミューズの若い俳優は華やかというイメージがあるかもしれないからなぁ」って、何か妙に納得してしまって(笑)。

──すすった泥水は、いつかきれいな水へと浄化されて放出される、という捉え方もできますよね。でも、どんなにクズの役で共感ができなくても、演じる以上は理解しようと努めるのだろうなと想像しているんですが、金子さんの場合はいかがですか?

金子:そうですね……人間誰しもウラとオモテがありますし、多かれ少なかれ悪意を持っていたりもするじゃないですか。それを隠しながら生きているわけですけど、芝居の世界は唯一、そういった自分の恥ずかしい部分だったり、隠しておきたい部分だったりを見せられる場でもあるんですよね。役者はそれを見せる勇気があるかないかだと、僕は思っていて。

自分としては何も恥ずかしいものはないですし、それをさらけ出したときにどう見えるかに本質があるんじゃないかなって。だから、どこまでさらけ出せるか、そしてどこまで思いやりを持てるかということをずっと考え続けなきゃいけない仕事なんじゃないかな、と捉えています。

ただ、単にさらけ出すだけなら自分のやりやすい環境に芝居を持っていくこともできるんですよ。でも、それだと面白くないし、自分だけが気持ちよくなっているお芝居ほど、客観的に見てつまらないものもないんです。そうじゃなくて、いかに自分を不安定にするか──みたいな作業が最近は面白いなと感じているんですけど、お芝居そのものは難しくなっていくばかりですね。何が正解なのかはずっと分からないままです。

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──それはいわゆる、見ている側に考えさせる、あるいは想像させるお芝居をしたいということでしょうか?

金子:ちょっとした余白を残しておきたいんです。お芝居に役者の自我が出ちゃうと、見ていて「ウッ」と胸焼けしちゃうと思うので。と言いつつ、『サンクチュアリ〜』の村田はウザさ100%の役なので、むしろ自我を出しまくっていて(笑)。とにかく観ている人をムカつかせたいと思っていたので、余白ゼロ・ウザさMAXで演じました。でも、少しずつでも余白のある素敵な俳優になっていけたら──と思っています。

──期待しております。で。これが締めの質問になりますが……金子さんがオーディションを受けて合格してから、今年の秋でちょうど10年目の節目に入ります。

金子:えっ、もう……!? この10年で何か残せたのかな──? 

──ご自身としては、まだまだ達成感も充実感も得られていない、と?

金子:いえ、素晴らしい作品と素敵な人たちと出会うことができた10年だったので、そこに対する感謝の思いは常に忘れないようにしていて。それもこれもご縁とタイミングなので、これからも焦らずにがんばろうと思います。ただ、「焦らずがんばる」って言っているときが、実は一番焦っていたりするんですよね(笑)。何にしても、これまでにご一緒した方々とは再びのご縁を、まだご一緒していない方々とは新しく素敵なご縁をいただけるように、ひたむきにお芝居と向き合っていく心づもりでいます。

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(撮影=Marco Perboni/取材・文=平田真人)