【対談】Aマッソ『滑稽』演出 大森時生×YouTube『フェイクドキュメンタリー「Q」』 皆口大地│「VHSってつくづくホラーのためのメディア」

映像作家クロストーク

映画、ドラマ、CM、MV、YouTubeなど、さまざまな映像メディアの第一線で活躍する”映像作家”にフォーカスをあてる特集「映像作家のクロストーク」。第三回目は、TVとYouTubeという異なるメディアを主戦場にする新世代のホラーの作り手に集まってもらった。

登場するのは、テレビ東京のプロデューサーとして『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』や『このテープもってないですか?』など、お茶の間を凍りつかせる番組を制作する大森時生。そして、心霊スポットに突撃するYouTubeチャンネル『ゾゾゾ』や出どころが不確かな恐怖映像を配信する『フェイクドキュメンタリー「Q」』を手掛ける皆口大地。

今回が初対面となる二人。まずはお互いの作品の感想や、大森がテレビを飛び出して演出を手掛けたAマッソのお笑いライブ『滑稽』の話から対談はスタート。後半ではVHSの“怖さ”の秘密も語り合う。

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不気味な“信頼できない”語り手

写真左が皆口大地、右が大森時生

ーーお二人は今回お会いするのがはじめてということですが、まずはお互いの作品の印象から聞かせていただけますか。

大森時生(以下、大森):皆口さんが手掛けられている『ゾゾゾ』はもちろんなのですが、ちょうど『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』を作っている時に『フェイクドキュメンタリー「Q」』を観て、おこがましいんですが「僕もこういう作品を作りたかったな」と思っちゃったんです。『奥様ッソ!』と『Q』はタイプは違うんですけど、『Q』の再生数だったり世間での受け入れられ方を見て、勝手に勇気をもらったところはあるんです。

皆口が寺内康太郎監督とタッグを組み2021年8月よりスタートさせたYouTube番組『フェイクドキュメンタリー「Q」』。不可解なものが映ったVHS、ドキュメンタリー映像などさまざまな手法を使った短編を配信。全12話のシーズン1とシーズン2がある

皆口大地(以下、皆口):ありがとうございます。そう言っていただけると本当に光栄です。

大森:それと、『フェイクドキュメンタリー「Q」』ってタイトル、相当な発明ですよね。おしゃれすぎます。「フェイクドキュメンタリー」とつけることで「逆に本物が紛れ込んでるのでは?」と思えてくるし、「信頼できない語り手」っぽさも出てますよね。個人的に「信頼できない語り手」というものが不気味に感じるし好みなんです。しみじみ良いタイトルだと思いましたね。


動画は『フェイクドキュメンタリー「Q」』のシーズン2『Q1「ノーフィクション」』より。精神疾患を抱えた女性を追ったドキュメンタリーのようなテイをしているが…….

皆口:自分は心霊ドキュメンタリーをよく観るんですけど、「本当にあった」とか「実録」みたいな言葉がつくタイトルが多いんですよね。でも観てみると実際出ている人が何だか演技くさいな、とか幽霊がCGっぽいな、とか偽物感が際立つ。逆に「これは偽物です」という前提で出されたものって、ちょっと本物っぽいところが混ざってると、全然リアクションというか、見え方が違ってくるんですね。『Q』はそこをついていきたいんです。なんなら本物も混じっているかもしれないという。

大森:『フェイクドキュメンタリー「Q」』というタイトルから着想を得て、『このテープもってないですか?』では、フェイクの映像の中にしれっと本物の映像を混ぜたりしましたね。

皆口:そうだったんですね。あと「フェイクドキュメンタリー」と言っておけば、なにか問題が起きても「フェイク」って言ってるから、言い訳が立つというのもあります(笑)。

ーー皆口さんは大森さんの作品をご覧になっていかがでしたか?

皆口:まず『Q』を一緒に作っている寺内康太郎監督から「大森っていうすごい人がいるよ」と聞いていて、Tverで『奥様ッソ!』を観たのが最初なんです。テレビでこういうことをやる人がいるのが新鮮で、その後の『このテープ』はリアルタイムで観たんですよ。

大森:え! リアルタイムですか? それはおそらく日本に50人ぐらいしかいないので嬉しいです(笑)。


大森がプロデューサーを務めた『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』(2021年年末にBSテレ東で放送)は人気お笑いコンビ「Aマッソ」の二人がMCを担当。世の悩める奥様がたのお宅におせっかい奥様が訪問するロケ番組だが……


続いて大森が手掛けた『このテープもってないですか?』(2022年年末にBSテレ東で放送)は今や保存されていない貴重な番組録画テープを視聴者から募集・発掘する番組。そこに投稿された80年代の番組『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』のVHSには不可解なものが映り込み、その恐怖は徐々に過去の番組から放送する現世へと侵食していく

皆口:我々『Q』の制作チームでは大森さんを勝手に注目しているんです。とくに『このテープ』を観たときは、正直「ずるいな!」と思いまして(笑)。我々と近いアイデアだけど、バラエティのセットを組まれていたじゃないですか。我々には単純に資金面で真似できないことだったので本当に嫉妬しました(笑)。それと同時にホラー好きとして、久しぶりにゾワッっとくるものがありましたし、それをTVで観れたことにワクワクしたんですよね。最終話が特に良くて、最初にあった番組の形がどんどん崩壊していってVフリさえなくなっていくじゃないですか。「これ、ワザとやってるんだ。これ作った人恐ろしいな……」と思って観てましたね(笑)。

『このテープもってないですか?』で投稿された「坂谷一郎のミッドナイトパラダイス」の映像より

恐怖と笑いのバランスって?


お笑いコンビ「Aマッソ」の単独公演『滑稽』構成・演出を大森が担当。その内容がAマッソの「笑い」や会場全体の「笑う」という行為自体にも影響を及ぼしていく

ーーお互いが様々な角度から嫉妬されていたんですね。皆口さんは、大森さんが手がけたAマッソの公演『滑稽』はいかがでしたか?

皆口:外側も中身も、すべてがカルトで凄かったですね(笑)。自分が『ゾゾゾ』や『Q』を作るときに、常々意識していることが笑いと恐怖のバランスなんです。表裏一体のものをどう配分するかという。そこで『滑稽』は、恐怖と笑いの境界線を薄めたというか、間にあるダムを一旦取っ払って同じ水位の笑いと恐怖が混ざり合う感覚ですよね。それによって観る側の情緒を揺さぶってくる。

大森:情緒を揺さぶるものを作りたかったので嬉しいです。

皆口:大森さんが手掛けるものには、最初にあった前提がどんどん崩されていく恐怖というのが根底にありますよね。

大森:そうですね。フェチみたいなものかもしれないんですけど、僕自身は、確固たるものだと思っていたものが徐々に何か別のものに侵食されて融解していく様にもっとも恐怖=面白さを感じるんです。例えばですけど、僕が一番怖いと思うことが「親が何かのきっかけで、ある日を境に陰謀論にハマってしまうこと」なんですよ。自分の中の信頼できると思っていたものが崩れていく感覚というか……。

皆口:『奥様ッソ!』はまだ一応最初から最後までバラエティの体裁を保っていましたけど、『このテープ』は最後のほうは完全に崩壊しちゃって最初の楽しいバラエティ番組の雰囲気が見る影も無くなってましたもんね。

大森:『奥様ッソ!』の頃は、最後まで体裁を崩さない方がゾッとするかもと思っていたんです。でも、不気味なものを作るときは、その空間でこそ生きる笑いを入れたいと思っていて、『このテープ』では崩壊させました。それこそ『Q』の4話目『祓 -はらえ-』の「あかん!失敗や!」はめちゃめちゃ笑っちゃったんですよ。


Q4「祓 -はらえ-」より。霊媒師が宣伝用に撮影した映像で、ある霊障に悩まされている人の家にお払いに行く、が……

皆口:特に反響が多かったシーンの一つで。自分はあのシーン、とても怖いなと思っているんです。ただ、大森さんみたいにあのシーンを笑いに捉えられる方もとても多くて。自分としてはそういった反応に嬉しさ半分、びっくり半分みたいな感じです(笑)。

大森:ああいう不気味さの中に急に現れる笑っちゃうような瞬間に魅力を感じるんですね。白石晃士監督(*1)の作品にも見られることですけど、行きすぎたところにある笑いは作っていきたいと思っているんです。

*1…….フェイクドキュメンタリー形式の映画『ノロイ』(2005)や『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズなどを手掛ける映画監督。2016年にはその制作方法を記した『フェイクドキュメンタリーの教科書』 (誠文堂新光社)も出版。

–{「わからなさ」の難しさ}–

「わからなさ」の難しさ

ーーフェイクニュースや陰謀論なんかが溢れかえる現代でフェイクドキュメンタリー的手法を使っているお二人は、どのぐらい観客のリテラシーやモラルを意識していますか? 例えば、悪意を持って作品を切り取り、本当にあった「事実」として世間に出回る可能性もありますよね。

皆口:それはそれでアリかなと思っているんです。例えば『Q』が10年後に「これが呪われた動画だ!」と都市伝説になってコンビニの実話誌とかに勝手に載っていたりすれば作った甲斐があったなと(笑)。

『フェイクドキュメンタリー「Q」』の場面写真より

大森:僕もそうですね。『奥様ッソ!』はまさにTikTokで切り取りがバズっていたりしていたんですが、勝手に切り取られて僕の知らないところで良い意味でも悪い意味でも都市伝説化されていたら、それが理想みたいなところはあります。

ーーお二人の作品は熱狂的な考察を生むところも共通していますが、SNSなどでのリアクションも含めてご覧になっているんですか?

大森:そうですね。僕の作ったものに、人生の時間を割いていただいていて……もう本当にありがたい限りだなと思います。ただ僕としては、ある程度理屈がついてしまうと、その瞬間に恐怖や不気味さ、ワクワク感が消える感覚があるんです。例えば心霊モノだと、「こういう事件が起きて、こういう霊がいて、こういう悪さをして」っていうのが数式的に答えが見えた瞬間ですね。「わかる」っていうこと自体が不気味さを妨げるものという感覚はやっぱりありますね。でも、もちろん自分が作る上では、設定はしっかり考えているんですけど、部分的に開示したり間引いたりしているんです。それ故にその間引いた部分を埋めようとして、考察が生まれてるのかなとは思いますね。 

皆口:それは自分の作り方と近いですね。自分が恐怖を感じるポイントが「わからない」なんです。よくわからない虫も怖いですし、心霊スポットに行って、遠くに灯りが点いている、その灯りの元がなんなのかわからないだけでもう怖い。『Q』でも、そんな「わからない」不気味さにフォーカスをあてた作品を作ったりするんですけど、でもそれはキチンと正体がないとダメで。ただ単に「わからない」ものは誠実さに欠けるといいますか。「わからない」ものを作る難しさや楽しさってありますよね。

大森:皆口さんは視聴者のリアクションは見ているんですか?

皆口:見ますね。でも、ちょっと角が立っちゃう言い方ですけど、視聴者には何も求めてないというか。ただぼーっと観て頂けるだけで嬉しいんです。視聴者に求めすぎるのは作り手のエゴだし、「考察してね」みたいな作りは逆に冷めるというか。 

大森:わかります。僕も考察ありきのコンテンツ、考察前提のコンテンツは作りたくないと思っているところがあって、その瞬間、瞬間で面白く見てもらえるほうが価値が高いと思っています。だから、フェイクドキュメンタリー的なものを作るにしても、最終的には整合性より瞬間としてのエンタメ的面白さを取っちゃうところがありますね。『滑稽』で流れる映像も、カルト団体「Affirmation」が作ったビデオというテイなので、少しでも教団が不気味に描かれているのはおかしいんですよね。でもそこは意図的に、早めに諦めてます。フェイクドキュメンタリーを愛好する方の中には、整合性を一番大事にしてるって層もかなりいると思うので、そういう方は気になるところもあると思うんですけどね。

ーー映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』に代表される「ファウンド・フッテージ」もので、誰がなぜカメラを回しているの? とか、効果音や音楽は誰がつけてるの? とかですよね。

大森:『呪詛』(*2)なんかはそれを全部無視したうえで、様々な恐怖要素をメガ盛りにしているのが面白かったですね。


*2…….昨年Netflixで配信されて大ヒットした台湾のホラー映画。

ーーSNSでの反響や考察が作品作りに影響することはありますか?

皆口:自分はないですね。特に『Q』は全12話の連番で作っているので途中でブレちゃうのが一番良くないので、むしろ影響されないように気をつけてます。いち視聴者としても、クリエイターには観客の感想に影響を受けてほしくないと思っていて、視聴者とクリエイターの距離感は保っていてほしいんです。

大森:僕も同じような考えで、影響されないように気をつけています。ただ、『奥様ッソ!』は僕が初めて演出する作品だったってこともあって、何がなんでも視聴者に見つかろうっていう気持ちで作った部分もあったんですね。俗な考えですけど「絶対に話題になりたい」っていう感覚が正直ありました。だから僕自身の好みというか趣味、趣向より外れて、かなりわかりやすくしたんですけど、SNS等で見る感想には「わかりやす過ぎる」っていう声があったんですよね。それで、次からは自分の好みの雰囲気をもうちょっと押し出してもいいのかもな、と背中を押されたというか。これも影響といえば影響だとは思うんですけどね。

『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』のお宅ロケシーンより抜粋

–{VHSはやっぱり怖い}–

VHSはやっぱり怖い

ーー大森さんはテレビを飛び出して『滑稽』で舞台を手がけられましたけど、皆口さんはYouTubeという場所を飛び出して、例えばテレビの世界で番組を作るなら……とか考えたりしますか?

大森:それはお聞きしたいです。ぜひテレビで一緒になにか作れれば嬉しいですね。

皆口:テレビで……(笑)。でも、テレビの深夜帯とかって、独特の雰囲気ですもんね。テキトーにザッピングしてたら、事故のように急にわけがわからない番組がやってたりするロマンはYouTubeには真似できないですよね。どこかそこに憧れてるのはあります。それこそテレ東さんの『蓋』(*3)とかすごく良かったですよね。

大森:『蓋』すごく良いですよね。昨年に退社された上出(遼平)さんが手がけていたんですけど、「蓋」のような未明にたまたま「目撃」したという感覚にはすごい憧れがあります


*3…….テレビ東京で2021年9月未明、「停波帯」と呼ばれる時間に不定期で放送。人気番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を手掛けた上出遼平とヒップホップユニット・Dos Monosのコラボ番組で、渋谷川の奥に潜む地底人を探すモキュメンタリー。

皆口:ああいう番組に偶然出会ってしまった時の「キュン」っていうものに憧れてるところはすごくあるんです。もし自分がテレビで何かできることがあるなら、そういう憧れを形にできたらいいかなと思いますね。

大森:今のテレビの唯一の強みが、勝手にこっちから視聴者に届けられるっていうところだと思うんですよね。こういう言い方をすると、テロリストみたいですけど、勝手にメディア側から生活に侵入していける魅力を感じています。

ーーそれぞれお二人にお聞きしたいのが、今の作風に至るテレビ体験や映画体験をお聞きしたいです。これまで観てきた作品で、頭の片隅にずっと残っているものはありますか?

大森:リアルタイムで観たものではないんですけど、高校生か大学生ぐらいの頃に観た『バミリオン・プレジャー・ナイト』(2000年/*4)ですね。正直、本当によくわからない番組で、面白いかどうか怖いかどうかもよくわからなかったんです。ルールも規則性もメッセージ性もないような気がして、テレビっていう媒体でこんなにもわからないことをやって、でもそれがすごく新鮮で、なんとなくずっと心に残っていますね。また、強く影響を受けているのが『ワラッテイイトモ、』です。

*4……2000年にテレビ東京で放送されたコントやアニメ、歌をテーマにしたバラエティ番組。難解な映像が多く、中でも有名な作品は『フーコン・ファミリー』(後の『オー!マイキー』)。

ーーK.K.という方が作ってキリンアートアワード2003を受賞した映像作品で、『笑っていいとも!』をサンプリングした、もはや都市伝説のような存在ですよね。

大森:大学生の頃に見て、既存のバラエティ番組を切り張りして異物を作り上げるという手法に衝撃を受けましたね……。個人的に音楽はVaporwave(*5)がすごく好きで、謎のサンプリングとか無秩序な切り張りっていう概念がそもそも好きで、それによって不気味なものが出来あがることに面白みを感じるんです。だから、わかりやすく怖い番組やホラー映画って、人並みには観てきていますけどそこまで通ってきていないんですよね。ジャンプスケアがあるホラー映画に至っては苦手すぎて、いつジャンプスケアがあるか調べてから観るほどで(笑)。ホラー映画好きにはブチギレられてしまうと思うんですけど……。

*5……2010年にインターネット上のコミュニティから生まれた音楽のジャンル。80年代から90年代初頭の大衆音楽をサンプリングして作られる。アートワークもVHSや初期のWindowsの画面などが多用される。

皆口:そうだったんですね(笑)。自分が影響を受けたのは間違いなく、堂本剛さんが出演していた『金田一少年の事件簿』(1995〜97年)と、『ほんとにあった!呪いのビデオ』(*6)シリーズですね。まだ小さい頃、『金田一少年の事件簿』を観たときに眠れなくなるほど怖くて「もうホラーっぽいものを観るのは辞めよう」と思うほどトラウマで。そこから5〜6年経って、そろそろ大丈夫かな? と思って『ほんとにあった!呪いのビデオ』を観たらまた眠れなくなって、おまけにその時味わった恐怖心を3日間ぐらい引きずったんですよ(笑)。

*6……1999年にリリースし現在まで続く人気シリーズ。一般から投稿されてきた心霊現象が記録されているVHSを検証していく。『Q』にも参加している寺内康太郎監督も2004年の作品に参加している。また、Base Ball Bearの小出祐介が熱狂的なファンであることでも有名。

大森:『ほんとにあった!呪いのビデオ』は本当に引きずりますよね(笑)。

皆口:引きずりましたね……。それで、もうちょっと優しいのだったら自分にも観れるかもしれないと思って、他のホラー映画を観るようになっていって。本質的にホラーが好きだったんでしょうけど、とにかく耐性がなかったんです。だから、今でも「あの頃に観た眠れなくなるような作品がどこかにあるはず」っていう怖い物観たさがホラー作品をずっと観ている原動力みたいなところがありますね。

ーーいま「引きずる」という言葉が出ましたけど、お二人の作品も観た後、頭の片隅に染みができるというか、残るものが多いと思うんです。そのあたりは意識して作られていますか?

大森:そうですね。観終わった後の感覚は大事にしたいな、とはいつも思っています。それでいうと黒沢清監督の『CURE』(*7)が現体験としてあるかもしれないですね。最後のレストランのシーンの不気味さが忘れられなくて、いつまでも思い出せますけどたまに見返したりしていますね。具体的に画作りなどの参考にしているというより、感情として大事にしたい映画というか。

皆口:『CURE』なんですね。なんかちょっと意外ですね。

*7……1997年公開作品。役所広司が演じる猟奇的殺人事件の犯人を追う刑事の姿を描いたサイコ・サスペンス。

大森:そうですよね。なんといいますか、僕はフェイクドキュメンタリーを作ってるっていう感覚があんまりなくて、自分の中ではあくまでフィクションを作ってるっていう感覚なんです。

皆口:なるほど。自分自身、作り手としての意識が薄いというか、いまだにいちホラーファン、いち視聴者という感覚がありますね。大森さんの中での『CURE』が、僕でいうところの『リング』(*8)かもしれません。貞子がブラウン管から出てくる、あの瞬間の恐怖度ってものすごいボルテージだと思うんです。あれを超えるとしたら、どういうアイデアだろう? とかは、ふと考えちゃったりしますね。

*8……1998年に公開されたホラー映画。監督は中田秀夫。観たら1週間後に死ぬという呪いのビデオを取り巻く物語で、公開後に社会現象になるほどヒット。この作品以降「呪いのビデオ」をテーマにした作品が多く生まれた。

大森:『リング』でいうと、VHSを超えるメディアってまだ出てきていないですよね?

皆口:それは本当にそう思いますね。

大森:『このテープ』もVHSに頼りっきりだったんですけど、あの画質感も含めて潜在的に恐怖感のあるVHSって強すぎますよね。誰が見ても無気味に感じちゃうVHSを超える何かがないのかなとはよく考えたりするんです。最近、NewJeansの『Ditto’』という曲のMVでガラケーが出てきていたんですけど、僕はVHSをあまり通ってない世代なので、逆に初期のガラケーの画質はいま怖さを感じるかもなって思ったりしたんですけどね。


韓国の人気グループ・NewJeansが昨年公開したMVで、90年代のハンディカムやVHSなどを駆使した映像が話題となった

皆口:自分はレンタルビデオ屋の棚がVHSから徐々にDVDへと染まってゆくのを見ていた世代なんですけど、VHSで映画を観ていた当時からVHS特有の不気味さは感じていたんですね。でも、徐々にDVDになり、VHSの怖さってなくなっちゃうのかなって思っていたら、全然消滅はしていないですよね。どっかに仕舞われたまま埋もれて埃をかぶって、現役じゃなくなることによって、むしろあの頃より怖い存在になっていってる。

大森:まだまだずっと怖いですよね。VHSが孤高の存在になってる要因のひとつとして、デジタルでVHS風の画質に加工をするのがけっこう難しいというのもあるかもしれませんね。『このテープ』は、撮影した映像をVHSに一回落として、何度もダビングしたりしてあの画質感を出してるんですよ。それと、VHSの上書きできるっていうギミックがやっぱり面白さと怖さを生んでる気がしますね。それこそ『Q』でもそのギミックを使った作品(『Q1「フェイクドキュメンタリー」』)がありますもんね。


Q1「フェイクドキュメンタリー」より。テレビ制作会社に保管されていたあるVHSを検証してく

皆口:そうですね。VHSってつくづくホラーのためにあるようなメディアですよね。『Q』はいつかVHSで発売したら面白いと思うんですけどね。

大森:それは欲しいですね!

皆口:チャンネル登録者数100万人とかいった際には、記念品に(笑)。

Profile

皆口大地(写真左)
1987年生まれ。WEBデザイン会社でデザイナーとして勤務しながら、2018年にディレクターとして心霊スポットに突撃するエンタテインメントYouTube番組『ゾゾゾ』を立ち上げる。その後、2021年8月より『フェイクドキュメンタリー「Q」』をYouTubeで配信スタート。全12話でシーズン1は終了し、シーズン2も配信している。

大森時生(写真右)
1995年生まれ。2019年にテレビ東京入社。2021年12月末に放送された『Aマッソのがんばれ奥様ッソ』ではプロデューサーを担当。その後、制作した『Raiken Nippon Hair』で『テレビ東京若手映像グランプリ』優勝。他担当は番組は『島崎和歌子の悩みにカンパイ』(2022)、『このテープもってないですか?』(2022)など。Aマッソの単独公演『滑稽』では演出を担当。

(撮影=前田立/取材・文=市川夕太郎)

Aマッソお笑いライブ『滑稽』配信チケット販売中 

大森時生が演出を担当したAマッソのお笑いライブ『滑稽』の配信チケットが以下のリンクにて発売中。
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