2023年3月31日より上映中の映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』を、なんとなく「よくある粗製濫造されているB級映画でしょ?」などと軽んじられている方はいないだろうか。
だが、ちょっと待っていただきたい。結論から申し上げるが、実際の本編は掛け値なしに想像の100倍面白い、「超A級」と断言できる内容だったのだから。大人も子どもも分け隔てなく楽しめる、純然たる娯楽の「面白さ」を捉えれば、2023年ベスト候補の大傑作だったのだ!
- 公式「意外と面白いと評判」「騙されたと思って」→もっと自信を持って!
- 予備知識ゼロで楽しめるテンポの良さ、そして奇抜なアイデアと驚きのギミック満載!
- ミシェル・ロドリゲスが「あっ好き大好き」&偉そうなところがまったくない作風
- もういいから、超面白いんだから、観てください
- 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』的な負け犬たちの物語!
- 血のつながらない家族の尊さでおかわりが無限にできる
- 『ハムナプトラ2』的なアクションのつるべうち!「短距離のどこでもドア」が面白すぎる!
- 笑いと悲しみが表裏一体!だからこそ感動がある!
- 「ファンタジー映画あるある」をイジった上に一種の「マクガフィン論」にもなっている!
- 超ハイクオリティの吹き替え&豪華声優陣の無駄使い(褒めてる)
- 『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』作品情報
公式「意外と面白いと評判」「騙されたと思って」→もっと自信を持って!
その面白さははっきりと証明されている。米映画批評サービスRottenTomatoesでは批評家支持率90%、オーディエンス支持率に至っては94%という、圧倒的な高評価を記録。もちろん、日本の試写会で観た人からも賞賛の声が続々と届いているのだ。
だが、それでも面白くなさそうだと本編を観ていない方が勝手に思い込んでいる(由々しき事態)ためか、世間の注目度が低くそうなことも送り手が察したのか、公式Twitterからは「意外と面白いと評判」「騙されたと思って」などと、やけにへりくだった文言が出ていたりもする。
そうなんです!
この映画、全世界で高評価!
意外と面白いと評判です。騙されたと思って仲間や家族みんなで観てみてください?#意外と高いなーって思いましたよね??#映画ダンジョンズアンドドラゴンズ pic.twitter.com/D2V5FNXOAj
— 映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』公式 (@DnD_MovieJP) March 28, 2023
いやいや、もっと自信を持ってくださいよ!実際の試写会で「意外と面白かった」という体温が平熱気味の声があったからなのだろうけど、中には「めちゃくちゃ面白かった!」と絶賛している方(例:筆者)もいるんだから!
予備知識ゼロで楽しめるテンポの良さ、そして奇抜なアイデアと驚きのギミック満載!
詳しい本編の魅力については後述するが、取り急ぎテンポが抜群に良いことを訴えておく。2時間15分というこの手の映画にしてはやや長めな上映時間ながら、まったく飽きさせない奇抜なアイデア&驚きのギミックが盛りだくさん。ずっと「ワクワクもんだぁ!」がぶっ続いたからこそ、最初から最後まで面白かったのだ。
原作は有名なテーブルトークロールプレイングゲーム(略してTRPG)で、映画『E.T.』やNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』の劇中にも登場していた。そのため、「存在は知っているけど遊んだことはない」という方もいるだろう。
だが、この映画はゲームをまったく知らなくても、予備知識ゼロでも問題なく楽しめることも断言しておこう。ゲームをプレイしているとニヤニヤできる小ネタも満載でありながら、その小ネタ自体が誰が観ても面白いギミックとなっているのだから。
というか、タイトル通りダンジョンズもドラゴンズもアウトローたちの誇りも全部入っている盛り盛り具合がわかりやすく最高なのである。
ミシェル・ロドリゲスが「あっ好き大好き」&偉そうなところがまったくない作風
豪華キャスト演じる個性豊かなキャラクターがみんな魅力的なのだが、中でも映画のカッコいいお姉さんの代名詞であるミシェル・ロドリゲスが過去最高に超カッコいい。彼女に惚れて妄想を展開する夢女子(男子)が大量発生すること間違いなし。もはや全人類が「あっ好き大好き」と夢中になる勢いだったことも告げておこう。
ここまでの超絶的な面白さがある=ファンタジーアドベンチャー映画の歴史を塗り替えた!とも断言できるのだが、それでいてまったく偉そうなところがないというのも本作の美点だ。
ダークなファンタジーも壮大なアドベンチャーも、アカデミー賞を取りそうな格式高い映画ももちろん良いのだが、後述するようにコメディテイスト強めで、とことん観客を楽しませる方向に振り切った本作はむしろ貴重な存在だ。
しかも、毒にも薬にもならなそうな単純明快な娯楽作のようでいて、実は現実での希望になる優しく感動的なメッセージも備えていることが本当に素晴らしい。
もういいから、超面白いんだから、観てください
なんでこんなに面白いんだ!?と逆に疑問に思うくらいなのだが、それもそのはず、本作で監督を務めたジョナサン・ゴールドスタインとジョン・フランシス・デイリーは、あの『スパイダーマン ホームカミング』でも共同脚本と原案にクレジットされている他、『お!バカんす家族』などで称賛を浴びた名コンビ。そのコメディ成分いっぱいの作風が大作娯楽映画にバッチリとハマったと言えるだろう。
そんなわけで、「めちゃくちゃ面白い!」とだけ知っておけばいいので、いいから今すぐ劇場情報を調べて予約してください。仲のよい友達とでも、デートでも、もちろんひとりでも、そして家族で観るのにも最高の映画ですから!
後述するように吹き替えも素晴らしいクオリティであるし、特に子どもが観れば「なんて映画って面白いんだ!」と感動しますから!あと基本的にカラッと明るくてニコニコできる「あー楽しかったー!」な内容であり、ハードルを上げすぎないようにしてこそ「想像の100倍面白い!」おトク感も味わえますよ!以上!
▶『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』劇場情報
……で終わりにしたいところだが、そういうわけにもいかないので、ここからは具体的な作品の魅力と特徴も記しておこう。あらすじも何もかも知らずに観たい方は、いいから、もう、先に映画館へ行ってください。お願いします。
–{これは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』×『ハムナプトラ2』だ!}–
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』的な負け犬たちの物語!
本作の大きな特徴として、まず主人公チームのメンバーが「泥棒」か「クセが強いか」の2択またはその両方ということがある。
何しろ、吟遊詩人にして盗賊の主人公と、その相棒の屈強な女戦士の初登場シーンは思い切り牢屋の中。しかも罪状は思いの外ちゃんと窃盗である。
他のメンバーも、しょぼいショーしかできない上にその場で窃盗を企む魔法使いの少年とか、可憐な見た目ながらさまざまな姿に変身できる自然の化身の少女とか、高潔でマジメすぎて逆にめっちゃめんどくさい聖騎士とか、それぞれが世間からのはみ出しものなのである。
だが、そのクセが強いを通り越してダメダメ、もっと言えば負け犬チームが奮闘することこそが本作の最大の魅力でもある。
そして、彼らは旅の中で成長し、なんだかんだと言いながらも、お互いを信頼していく。これこそ、アメコミヒーロー映画の中でも特に支持を得た『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』に通ずる要素であるし、そちらが好きな人にも大プッシュでおすすめできるのだ。
つまり、彼らは初めこそ世界を救うヒーローなどではまったくなかったのだが、それでも「しょうがねぇな〜」となりながら勇気を見せるのが燃える!ていうか、この世のありとあらゆる「しょうがねぇな〜」な動機で世界を救おうとするヒーローの最高峰が見られることも断言しよう。ここで筆者はこう思ったのだ。「お前ら最高だ!」と。
血のつながらない家族の尊さでおかわりが無限にできる
その負け犬チームの共闘と成長だけでどんぶりで飯が何杯も食べられる大好きな関係性なのに、さらには旅の仲間を超えた血のつながらない家族の尊さも示されるのでおかわりが無限にできる(何度でもまたこいつらに会いたいから映画を観る)。
具体的には、盗賊の主人公は幼い娘を溺愛しており、屈強な女戦士(※重要:恋人でも結婚相手でもない)はなんだかんだで一緒にその子の面倒をみているのだ。つまりは、男女が恋愛関係にならないけど、きょうだいのように仲が良く、子育てまでしているという関係性である。
だ……大好物です!その家族の在り方も、多様性が求められる現代らしいアプローチではないですか!しかもそれぞれを演じるのがクリス・パイン(超カッコいい)とミシェル・ロドリゲス(超カッコいい)ですよ!永遠に観ていたい!
『ハムナプトラ2』的なアクションのつるべうち!「短距離のどこでもドア」が面白すぎる!
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の他に、もうひとつ連想した映画がある。それは『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』。こちらも2時間超えの上映時間の中で、取っ替え引っ替えの見せ場が盛り込まれたハイテンションな娯楽作だったが、それに匹敵するサービス精神が満点、もはやアクションのつるべうちだったのだから。
バトルシーンでのミシェル・ロドリゲスがもう超強くて大好きだし、その他もしっかり己の個性を武器として戦うし、タイトル通りダンジョンがあってこそのアイデアとギミックもたまらないし、もちろんドラゴンだって大活躍する。あと、ちょっとだけ怖い「死体(ミイラ)」のネタがあるのも実に『ハムナプトラ』シリーズっぽい。
具体例をひとつ挙げるのであれば、さまざまな動物に変身できる少女が、命かながら逃げ惑うシーンの「長回し」のアクションが凄まじい。「どうやって撮ったんだ!?」とシンプルに驚くし、その躍動感と面白さは「ちょっ!お願い!もう一度観せて!すごすぎたから!(もう一度映画館に行きます)」となったのである。
さらにもうひとつ具体例を挙げると、ごく近い距離だけワープができる「ポータル」のギミックがめちゃくちゃ面白い。いわば「長距離移動ができないどこでもドア」なのだが、「そ、それをそういう風に使うのか!そしてそう“魅せる”のか!」というバラエティ豊かな驚きと楽しさもたっぷりとあったのだ。
–{「ファンタジー映画あるある」をイジったギャグもあった!}–
笑いと悲しみが表裏一体!だからこそ感動がある!
さらにはギャグが面白い。前述したように主人公チームのメンバーたちはそれぞれがダメダメで、だからこそボケボケなやり取りをするので笑ってしまう……のだが、同時にちょっと切なくもなるということが重要だ。中でも「高い知性を持つモンスターは頭の良い者を狙う」と説明されてからの、流れるようなオチは分かりやすく笑えて切ない。
その切なさの理由は、言うまでもなく彼らが世間からのはみ出しものだから。冒険の道中に笑いがあるというのは、彼らが背負った人生の悲しみを隠すための「せめてのも抵抗」のようにも思えてくる。笑いがあってこその切なさがあり、だからこその「負け犬たちがヒーローになる」物語の感動があることも、実に素晴らしいではないか!
これは「はみ出しものたちのファンタジーアドベンチャー」という、他にも大きな共通項のある『長ぐつをはいたネコと9つの命』にも通じているポイント。この手の映画の傑作が同時多発的に上映されていることにも、運命めいたものがものがある。
【関連記事】<過去最高の津田健次郎>『長ぐつをはいたネコと9つの命』攻めた「生と死」の哲学とは?
「ファンタジー映画あるある」をイジった上に一種の「マクガフィン論」にもなっている!
さらに本作には、「ファンタジーあるある」をいじったギャグもある。例えば、とある回想シーンが「さすがに巻き戻しすぎだからもういいよ」とか、とある過去の出来事に対して「歴史のお勉強か」とツッコミが入ったりする。
つまり、これは「ファンタジー映画での過去の物語を語るのって退屈だよね」ということを、半ばメタフィクション的なギャグにしているというわけだ。さらに、もうひとつ半ばメタ的と言えるのは、一種の「マクガフィン」に対してのくすぐりがあることである。
マクガフィンとは、劇中で登場人物が取り合ったりする重要アイテムなどで、「何にでも代用可能」な、それだけだと陳腐にも捉えかねないものだ。本作でもまさにマクガフィンを探しに行く、悪い言い方をすれば「お使い」的なミッションに挑む。ネタバレになるので明言は避けるが、そこにはマクガフィンを相対的に俯瞰して見たような、なかなかトリッキーな仕掛けおよびギャグが用意されているのだ。
そのため、本作はファンタジー映画を見慣れている人ほど面白い内容とも言える。「こういうのありがちだよね」と作り手がわかっているからこその、半ばメタ的なギャグかつ仕掛けがあるのだから。それもまた、「よくあるB級映画だよね?」と軽んじている人こそ、観てほしい理由なのである。
最後に、もうひとつ超絶面白いギャグは、最後の最後で「まさかの伏線回収」である。これはある種のひねった形での「天丼」なのだが、これほどの爆笑を届けてくれるとは思いもしなかったのだ!とにかく全編にギャグがてんこ盛りで、それぞれがスベり知らずなのもすごい!
超ハイクオリティの吹き替え&豪華声優陣の無駄使い(褒めてる)
すっかり長くなってしまったが、最後に吹き替え版が素晴らしいことも訴えさせてくれ(もう少しお付き合いください)!箇条書きにしたから!
・武内駿輔……めちゃくちゃやさぐれた盗賊かつツッコミ役を担いながらも、「しょうがねぇな〜」なヒーローになっていくコミカルな主人公にどんハマり!
・甲斐田裕子……ああっ…カッコいい…美しすぎます…!『ワイルド・スピード』シリーズと同じくミシェル・ロドリゲスに声を当ててくれてありがとうございます!
・木村昴……ジャイアン役でも有名だけど、今回はその真逆ののび太的な半人前の魔法使いにもピッタリという衝撃
・南沙良……他のベテラン声優陣に比べると少し慣れていない印象もあるけど、それが浮世離れしているキャラの印象とマッチしていて、何より声質は透き通るようで可愛い
・中村悠一……キャプテン・アメリカを超えて真面目すぎて逆にめんどくさいキャラ。それは合うと分かっていたけど、期待以上だったよ!
・逢田梨香子……主人公の娘さんがめちゃくちゃ可愛い。そりゃダメダメな負け犬チームも彼女のために命をかけるよ!
・森田順平……相手を小馬鹿にしたような、情けなくもムカつく演技(褒めてる)が最高
・沢城みゆき……『パワーレンジャー』の時以上に強大な力を持血ながらも艶かしさもある悪役にハマりまくりだ……!
それぞれが持てるポテンシャルを全て発揮&最高のキャスティングだと断言しよう。あとヒュー・グラントが『パディントン2』の時以上にめちゃくちゃ楽しそうにイヤなやつを演じていたのでホッコリと笑顔になったし、もちろん字幕版で観るのもいいだろう。
さて、そんな風にハイクオリティの吹き替えなのだが、道中で遭遇する「死体役」の良い意味で無駄な豪華な配役も見所である。
もちろん、その無駄遣いすぎる声優陣を知ってから観ても良いのだが、知らずに観るのもおすすめだ。何しろ、筆者は「なんかどこかで聴いたことのある良い声だなあ」と思ってたら、最後の最後の吹き替えキャストのクレジットで初めて知って「ブフッ」と笑い声が漏れたのだから。その体験も捨て難いものがあるので、声優ファンであればぜひ予備知識なく観て、「この無駄遣い、バカじゃないの(嬉しそうに)!」となってほしいのだ。
ところで、ここまで絶賛したわけだが、ここまで言って観てくれなかったらどうしたらいいんですか?と逆に聞きたい。だってコメディ成分多めのファンタジーアドベンチャー映画史上いちばん面白い(断言)んですよ?過去最高のミシェル・ロドリゲスなんですよ?他の負け犬メンバーを演じたキャスト陣も最高だし、吹き替えも超ハイクオリティなんですよ!
つねづね、「誰もが楽しめる娯楽作」というのは映画および創作物においていちばん難しいと思うのだが、『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』はその難しいハードルを飛び越えたどころか、そのジャンルの中で最高峰のものが生まれた、ものすごいことが起きているのだ。だからこそ、もう一度お願いしよう。観てください!
(文:ヒナタカ)
–{『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』作品情報}–
『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』作品情報
【予告編】
【あらすじ】
様々な種族やモンスターが生息する世界“フォーゴトン・レルム”。盗賊のエドガン(クリス・パイン)とその相棒の戦士ホルガ(ミシェル・ロドリゲス)は、闇の組織に仕える超ヴィランたちに殺されたエドガンの妻を生き返らせ、さらわれた娘を助けるため、旅に出る。やがて、彼らがその目的を遂げるには、特殊能力を持つ仲間と運命を握るアイテムが必要なことが明らかになる。そこで、二人は名家出身の魔法使いサイモン(ジャスティス・スミス)と自然の化身のドリック(ソフィア・リリス)、ある秘密を知る聖騎士のゼンク(レゲ=ジャン・ペイジ)とパーティを組むことに。全世界を脅かす超ヴィランの陰謀に対峙することになったアウトローたちの運命は……。
【基本情報】
出演:クリス・パイン/ミシェル・ロドリゲス/ジャスティス・スミス/ソフィア・リリス/レゲ=ジャン・ペイジ/ヒュー・グラント ほか
日本語吹き替え:武内駿輔/甲斐田裕子/木村昴/中村悠一/南沙良/逢田梨香子/森田順平/沢城みゆき/岩崎ひろし/神谷浩史/森川智之/津田健次郎/諏訪部順一 ほか
監督:ジョン・フランシス・デイリー/ジョナサン・ゴールドスタイン
配給:東和ピクチャーズ
映倫:G
ジャンル:アクション/ファンタジー
製作国:アメリカ