映画、ドラマ、CM、MV、YouTubeなど、さまざまな映像メディアの第一線で活躍する”映像作家”にフォーカスをあてる特集「映像作家のクロストーク」。第二回目は、新世代の映画、映像監督が体験してきた現場。そして未来の監督たちへ、制作の手段や心意気、そして作家としての在り方について話を聞いた。
登場するのは、イギリスで映像制作を学び、バンド GRADESやChase & Statusなど海外のアーティストのMVを制作、近年ではadidasなどのCMも手掛ける一方、初の長編映画『AFTERGLOWS』を監督した木村太一。そして、クリエイティブレーベル「PERIMETRON」のメンバーで、King GnuをはじめとするアーティストのMVやライブ演出、CM、ファッションなど幅広い作品を手掛けるOSRIN。
二人はお互いの作品を意識しながら、SNSを通じて出会ったという。しかし、現在では「映画を撮っている間の太一さんは眩し過ぎて会いたくなかったけど、ようやく最近飲みにいきたいと思っていた」(OSRIN)とぶっちゃけるほど。心地よい距離を取りながらも、お互いの思いを率直にぶつけ合える先輩・後輩といった仲のようだ。
PERIMETRONで行われた会合「木村太一とはなんだ?」
写真左がOSRIN、右が木村太一
──木村監督はイギリス、OSRINさんは日本国内で活動されていていますが、お互いの作品は観ていたそうですね。
OSRIN:PERIMETRONを立ち上げる時に、指標を作ることになったんです。その最中、<vimeo>でMVやショートフィルムとかを見ながら「このレベルに何年後にいきたい」とか、そんなことをゲーム感覚的に話していた時に『Lost Youth』(2016年/*1)を観た。最初は海外の監督が撮ったものだろうと思い、「これは別格だね」なんて言っていたら、クレジットに太一さんの名前が出てきたんですよ。思わず「おい!」となって(笑)。PERIMETRONの指標に太一さんの名前が入り、以降はなるべく関わらないように、遠くからTwitterとか見て「ヤバい人だな」とか思っていました。
しかし、King Gnu「It’s a small world」(2019年)のMVを発表した時、太一さんがリアクションしてくれたんですよ。なんかファイヤーみたいな絵文字みたいなものを送ってくれるだけ。なにか話しかけてくれるのではなく(笑)。
木村太一(以下、木村):その時、まだOSRINのことは知らなかったんだけど、King Gnuは知っていて。どんどん変な作品を作っていく中で、「It’s a small world」を観て、すごくいいなと思った。その頃は、日本の映像作家と会いたいと思っていた時期で、いろいろな人へコンタクトしていて。そんな時にOSRINにも会うことができた。
OSRIN:せっかくの機会だから言いますけど、その頃に太一さんと会った(常田)大希や(佐々木)集などの仲間内で「木村太一とはなんだ?」という会合があったくらいなんですよ。
木村:マジで? なんかオレ、ポケモンみたいじゃん。
OSRIN:「精神と肉体のギャップを感じる」とか、いろいろなワードがありつつ。でも、それほど太一さんのことを知らない段階だと、身体はデカいし、言いたい放題というキャラクターに意識がいきがちだけど、作品を見れば攻撃的かつ繊細。みんなで「一体、どっちが実体なのか」という話になりましたね。でも、付き合い続けてみると、本当は繊細で優しい人が、大きな肉体のキャラクターを演じているという。すべては作品に内包されているんじゃないかと感じるようになった。だから、最初はマジで怖かったですよ。
木村:じゃあ、なんで今日来たんだよ(笑)。
OSRIN:年上の人には特有の「いつも観ています」や「おもしろかったです」とか、なんか一旦褒める空気。それは偽善だし、本当は大嫌いなんですよ。太一さんはSNSでも平然と人や作品についてボロカスに書いているけど、対等に接してくれるからいいんです(笑)。
木村:大人の付き合いというやつね。
OSRIN:しかし、オレは太一さんが「オレ、めっちゃ観ているからね」ということ言っていたのが、すごく印象的だった。その上で「あれはいい」、「これはよくない」とか言ってくる。それは本当のことだから。会う前はボロクソ言われそうで怖いけど、なんて言われるか想像するとワクワクしてくる。
木村:人に会う前、めちゃくちゃ観るから。その人の生い立ちとかまで(笑)。OSRINは、クリエイティブに対してまっすぐ過ぎて、オレなら絶対にやらないタイプのアーティストまで、パッションが合ったらやっちゃうのはすごいと思う。
OSRIN:褒めているけど、否定を含んでますよね?
木村:いや、そういう意味でもいいと思う。メジャーな感じのダークさがあって、スタイルも嫌いじゃない。オレはアンダーグラウンドで、ドラッギーだから、そもそも日本では受け入れられづらい。それから5分くらいのMVではストーリーものとかやらないんだけど、OSRINの物語調とか、ちょうどいい具合なんだよね。あと、最初に会った時からイケメン具合が鼻につくかな(笑)。最近の映像作家は顔が整っているから「実力で売れているワケがない、フェイクだ!」と思っていて。オレはカッコよくもないし、髭モジャだから、売れているのは実力に決まっているんだよ。
OSRIN:ヤバいですね(笑)。
–{映画を撮るなら好き勝手にやった方がいい}–
CMやMVの輝かしいキャリアも映画には関係ない
──ここで一旦、木村監督の初の長編映画『AFTERGLOWS』の概要ですが、2時間の全編モノクロ作品。東京でタクシー運転手として勤務する男が、亡き妻の幻影を見て、嘆き苦しみながら、それでも生きていくという物語ですね。
OSRIN:今日はようやく顔を見ながら感想を言おうかと。ストーリーや脚本がいいとか、トータルの映像がカッコいいとか、細かいところもあるんだけど、以前から太一さんの作品のファンだから、自分の予想を下回ることはないという気がしていて。それよりも実は、とても身近な人が撮った映画を観るのは、『AFTERGLOWS』が初めてだったんです。最初こそ太一さんの顔がチラチラ出てきましたが、途中で物語に没入し、飲み込まれていって、その時に「ヤバいかも」と思いました。エンディングに向かっている最中に、太一さんが聖母マリアのように、光の中から現れるんですよ。それが腹立つというか(笑)。すごく個人的ですが、映画を二重構造で楽しむことができて、凄く貴重な体験になりました。
映画『AFTERGLOWS』のシーンより
木村:そうなんだ、ありがとう。
OSRIN:今までも、いわゆる映画界の王道、自分のビジョンを持って常識をぶち壊しにいこうという監督はいましたが、オレはそれとは別の方法でやろうと思っていて。MVを撮っている太一さんがその一人になったのも嬉しかった。そこで聞いてみたいのは、今後どう攻めて、どうやって映画を撮り続けていくのかということ。例えば、実力のある広告やMVの監督が、映画界へ行っても、なかなか予算がつかないという現状を見ていますよね。エネルギーだけではどうにもならない。しかし、パッションがなければ誰もついてこない。予算を持ってくるには、今までのキャリアはまったく通用しないじゃないですか。
木村:映画を撮ってみてわかったことだけど、なぜ予算1億円のCMを撮ったような輝かしいキャリアのある人たちが、映画の世界で失敗するのか。それは0からのスタートだと考えていないからだと思った。それを認識していないから、変なタイアップをつけたりするからつまらなくなるんだよ。オレは正直、映画を作ったことで、やっと第一歩目に立てたというか。『AFTERGLOWS』には配給を付けず、自分で各地へ出向いて映画館へ頭を下げて、映画をかけてくれるようにお願いした。その苦労が大切なんじゃないかなと思う。
OSRIN:プロセスということですね。
木村:MVを始めた頃、オレたちは散々泥水を啜ったわけじゃない? それを映画で、もう一回やるだけ。先人たちは「CMで苦労したからいいよね?」とスキップしちゃう。年齢やキャリアもあるし、そんなことできないのかもしれないけど、オレにはそんなプライドなんてないから。映画館と交渉する時、土下座でもなんでもするつもりだったけど、実際に「こういう作品はやらないんすよ~」とか、上から目線で言われて。めちゃくちゃムカついたこともあった。それから出資者の方に「お金を出してくれたら、今から延々と飲みますけど、そのつもりがないなら帰りましょう」と言ったり。思い返すと、かなり無礼なことも言って恥ずかしいけど。改めて、そういう苦労をすることが大事だと思った。
OSRIN いいねー! 間違いない!
木村:一館かかるごとに感動を覚えられるから。「わっ、すげえ!」みたいなね。CMやMVを作るのも好きだけど、本当に映画を撮りたかった。そのために売れていくというか。まぁ、たまたま才能があっただけというか(笑)。
OSRIN:(爆笑)よく言いますね。
映画を撮るなら好き勝手にやった方がいい
木村:それから、撮影監督の今村圭佑くんから「一作目は好き勝手やった方がいいと思う」と言われて、めちゃくちゃ刺さったんだ。先々、お金や配給がついてくるとできなくなっていくから。一番大事なのは、撮って楽しかったと感じることだと思う。評価されるということは、それほど大事なことではないかな。
OSRIN:最初に映像を始めた時の動機は、それでしかなかったですからね。
木村:大学を卒業する時、初めてショートフィルムを撮ったんだけど「映画監督になれる」って思ったもん。当時は、自分では100点だったけど、何も賞とかもらってない(笑)。
OSRIN:好きになる、惚れるということは、マジで大事なことですよね。最近はどういうわけか、最初からクオリティを求めにいっちゃう。それはお門違いだよね。クオリティの高いものがいいかというと、それは見た人の判断。自分は違うハズなんですよ。オレが映像を始めたのは、親友の誕生日祝いの映像からで、そいつを泣かせるためだけに作った映像がスタートでした。とにかく笑って、泣けるものにして。観賞後の感想も嬉しかったな。多分、太一さんが映画を撮って楽しかった理由って、CMやMVでは得られない、いろいろな人からの感想にあったんじゃないですか?
木村:そうだね。そう言われてみると、確かにMVの感想は言われないよね。映画観た人は1500円払ってもらっているから、ディスる権利はあるんだけど、ワンクリックでディスるのは、マジで許さん!
──OSRINさんは、長編映画を撮る予定はあるんですか?
OSRIN:実は先日一本書いたんですよ。近い人へ読んでもらう用の第一稿なんですけど。
木村:どれくらいかかったの?
OSRIN:1年間考えて、8日間で書きました。仕事の後、深夜1時から6時まで執筆時間にあてて。題材はあるけど、尺のロング/ショートとか考えているとキリがないので、まずは書き始めて。やってみたらめちゃくちゃ楽しくて。実現するかしないかは別にして、書き上がったことはすごく嬉しかった。一回印刷して、クリップにまとめた時に“うわっ、分厚っ!”とか。これから知り合いの脚本家に、体裁をどう作ったらいいのか相談するんですよ。「ト書きはこっちにあったほうがいい」とか、全然わからないから。
木村:結果的に楽しかったなら、よかったね。
OSRIN:実は人から「映画を撮らないのか?」と聞かれていたし、太一さんのように実現した人もいて、変な強迫観念があったんですよ。でも、自分の中に物語があるから、やるしかないと思って。仕事をセーブして、言い訳のできない状況を作って。取捨選択をしながら生きてきた人間なので、書けなかったら仕方ないし、映画は諦めようかと思っていました。ただ、負けん気は強い方だから、一泡吹かせたいという気持ちもある。
木村:やっぱり真面目だね。
OSRIN:そんなイメージなんていらないですよ(笑)。絶対に人からダサいと言われたくないだけで、だから、ありがたいと思ってますよ。良くも悪くも、周りが強くしてくれていると思っているので。でも、本当は柔らかく生きていきたいけど。
木村:なんで最後に保険をかけるんだよ(笑)。
–{いい作品を作って、黙らせるしかない}–
いい作品を作って、黙らせるしかない
──秘密裏にされた予算の捻出方法や、脚本制作の過程など、なかなかうかがえないお話です。これから映画を撮ろうという人の参考になると思います。
木村:若い子たちはYouTubeやTikTokなどの動画から入っているので、長編映画なんて撮りたいと思っているのかな? オレが影響を受けたのは、スパイク・ジョーンズ(*2)やミシェル・ゴンドリー(*3)のような、まずMVで成功してから、映画に進むという道程で。もっとそういうプレイヤーが増えて欲しいとは思いますけどね。
*2……ビョークやケミカル・ブラザーズなどのMVからキャリアスタート。後に『マルコヴィッチの穴』『her/世界でひとつの彼女』などの監督も務める。
*3……ケミカル・ブラザーズやレディオヘッド、ダフト・パンクなどのMVや、コカ・コーラなどのCMも手掛ける映像作家。長編映画では『エターナル・サンシャイン』などを担当。
OSRIN:そう思います。
木村:それからMVの映像作家に、もっと映画を作ってもらいたいと思いますね。僕も映画界からは、MV出身ということで「映像しか気にしていない」とか、叩かれていたりもしていますけど。昔からそんなフィルターはあったけど、日本はまだそういう価値観を通して見ちゃう人が多いというか。
OSRIN:マジでくだらないと思う。
木村:映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で、たくさんMVやCMを監督してきたダニエルズ(*4)が、アカデミー監督賞や作品賞を獲ったことだし。フラストレーションはあるけど、いい作品を作って黙らせるしかない。『AFTERGLOWS』はありがたいことに評価を得たけど、やっぱり批判はあるね。
*4……DJスネークなどのMVでキャリアをスタートさせて、2016年からは映画界にも進出。今年の3月から日本でも公開となった『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が話題に。
OSRIN:それは映画を観てくれた結果ですよね。
木村:そうなんだよね。だから、悪評も甘んじて受け入れないと。
Profile
木村太一(写真左)
1987年東京生まれ、ロンドン在住。 映画監督を目指し12歳で単身渡英、映像制作を学ぶ。 2015年に制作したGRADES「KING」のミュージックビデオが、イギリス最大のミュージックビデオ祭で最優秀ダンスミュージックビデオにノミネートされる。最近ではChase & Status、Kano、日本ではKing Gnuらの作品を手掛けるなど、日本を代表する映像作家として注目を集めている。2016年の自主制作短編映画『LOST YOUTH』は、ストリーミングプラットホーム<BOILER ROOM>で上映された。 今年1月に公開された『AFTERGLOWS』は初長編作品になる。
OSRIN(写真右)
1990年生まれ。名古屋芸術大学ライフスタイルコース卒。クリエイティブレーベルPERIMETRON所属。映像作家として圧倒的世界観の中に精密な表現を設計し ミュージックビデオ・コマーシャル・ファッションフィルムなど エモーショナルからエッジーな演出で振り幅の広い作品を手掛ける。 さらには、アートワーク・LIVE演出・舞台演出など 垣根を超えた活動で現在の日本のクリエイティブシーンをリードする。
(撮影=濱田普/取材・文=渡辺克己)
映画『AFTERGLOWS』が公開中
【公開スケジュール】
UPLINK 京都
3月31日(金)~4月6日(木)1週間限定上映
詳細は劇場HPにて
kino cinema 天神
4月3日(月)、4月9日(日)の2回上映
詳細は劇場HPにて
【出演】
朝香賢徹:守島 輝 MEGUMI:小松 さゆり/ 永山ちさよ 小家山晃:袴田 竹下景子:ラジオの声
【スタッフ】
監督:木村太一
脚本:浅野良輔、キムヤスヒロ
エグゼクティブ・プロデューサー:平松卓真、白田尋晞、木谷謙介、志村龍之介
プロデューサー:田川優太郎
撮影:上原晴也
照明:熊野信人
音響:小野川浩幸
美術:安田昂弘、福田哲丸
音楽:トーマス・ヤードリー