<ガールズムービーの巨匠>ソフィア・コッポラの魅力&おすすめ映画“5選”

映画コラム

ガールズムービーの巨匠、ソフィア・コッポラがデビュー25周年を迎えた。

それを記念して、3月6日(月)よりユニクロのコラボUTが発売中。さらには、全国のミニシアターで、ソフィア・コッポラ作品が期間限定上映されたなど盛り上がりをみせた。

本稿ではガールズムービー好きなライターが、ソフィア・コッポラの作品との出会いや魅力を語り、コラボTシャツにラインナップされた5作品の見どころを紹介したい。

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知らぬ間にハマっていったソフィア・コッポラの魅力

(C)2005 I Want Candy LLC.

初めて彼女の作品を見たのは、2007年に日本で公開された映画『マリー・アントワネット』だった。

学生時代のあるあるな気もしているが、とにかくどうにかエンタメに触れたかった私は「世界史の勉強のため」ともっともらしい理由をつけて、同作のDVDをTSUTAYAでレンタルしてもらったのだ。

エレガンスな生活や華やかな姿は、まさに世界史の資料集で見たイメージ通り。その一方、彼女が抱えている心の孤独や強かに成長していく人間性は、私が描いているマリー・アントワネット像を大きく覆したのを覚えている。

しかしこの出来事をきっかけに、私がソフィア信者になっていったかというと、残念ながらそうではなかった。恥ずかしながら、当時の私は感覚的に映画を楽しんでおり、監督やスタッフ陣に関心を向けていなかったからだ。

だからこそ、学生時代に好んで見ていた複数の映画作品の監督を務め、愛用するブランドMILKFED.の立ち上げをしたのがソフィア・コッポラだと知った時は驚いた。

自分が気づかぬうちに、1人の人間が生み出す世界観に引き込まれていたからだ。

ソフィア・コッポラの世界観に惹きつけられた3つの理由

なぜ、そこまで彼女の世界に引き込まれたのか。あえて言葉にするならば、その理由は3つある。

1:細部までこだわったアートワーク

『マリー・アントワネット』(C)2005 I Want Candy LLC.

ソフィア・コッポラと聞いて、幼心をくすぐる、細部まで徹底された映画美術を想起する人は多いだろう。

例えば、映画『マリー・アントワネット』は、実際にマリー・アントワネットが暮らしていたヴェルサイユ宮殿にて撮影。それゆえ、作り物っぽさを感じず物語に没頭できる。

その一方、ただ当時を再現するだけではないのがソフィアらしさ。

マリー・アントワネットが生きていた1700年代には、まだ登場していなかったはずのコンバースのハイカットスニーカーが紛れ込んでいたり、1970年代半ばに登場したパンクロックジャンルの曲がサウンドトラックとして使用されていたり……。

14歳で王室に入ったマリー・アントワネットが、王室のしきたりに感じる違和感と、静かに反発する心の内を表現した違和感をビジュアライズしているおもしろさがある。

ちなみに「ソフィア=ガーリーカルチャー」と結びつけられがちだが、あえてガーリーなアートワークが魅力と言いたくないのには理由がある。

『SOMEWHERE』や『ロスト・イン・トランスレーション』を見たときに、あるがままの風景を作り込まずに切り取ることにも長けていると感じたからだ。

特に東京・新宿を舞台にした『ロスト・イン・トランスレーション』に描かれた東京に蔓延る寂しさはぜひとも見てほしい。

2:不自由な環境に身を置くキャラクター

『ヴァージン・スーサイズ』(C)1999 by Paramount Classics, a division of Paramount Pictures. All Rights Reserved.

ソフィア・コッポラの作品に登場するキャラクターは、不自由さを持ち合わせている。

監督デビュー作『ヴァージン・スーサイズ』の物語の軸は、学園のマドンナ的存在の5姉妹。

街の男の子たちから高嶺の花として興味を持たれている彼女たちだが、末っ子の自死をきっかけに母が子どもたちをより深く“愛そう”と過保護に。そんな中で、四女ラックスが朝帰りしたものだから、姉妹は学校に行かせてもらえず、ロックを聴くことも、外出することも許してもらえなくなってしまう。

また『ロスト・イン・トランスレーション 』では夫の東京での仕事についてくるも、ホテルに置いてけぼりにされた妻、『マリー・アントワネット』ではヴェルサイユ宮殿という閉鎖的な空間に暮らすマリー・アントワネットが描かれている。

一説によるとソフィアは幼少期、父であり『ゴットファーザー』を手がけた巨匠フランシス・フォード・コッポラの影響で、ホテルで過ごすことが多かったとのこと。閉鎖的な空間の中で感じる孤独感に寄り添う作風は、このときのことが影響になっているのかもしれない。

3:満たされない心と虚無感

『ヴァージン・スーサイズ』(C)1999 by Paramount Classics, a division of Paramount Pictures. All Rights Reserved.

表面的には気づかれない虚無感を持つソフィア・コッポラ作品のキャラクター。その一方で「絶対にここから抜け出したい」と血眼でもがいているキャラクターはいない。

辛いことは確かにあるが、絶望的な環境にいるわけではない。満たされない毎日に「ここではないどこかへ」とは思っているが「それがどこがいいのかわからない」というような感覚のキャラクターが多いのだ。

それゆえの虚無感や退屈そうな表情は「何者かになりたい。でも、なにになりたいのかわからない」ともがく10代の頃の自分と重なる瞬間が度々ある。

キャラクターと自身のモヤつきが重なったからといって「この映画を見たから、私も頑張ろうと思った!」とポジティブな力をもらえるわけではない。しかし、自分がたびたび感じる虚無感は自分だけのものではないと思える安堵感がある。

–{おすすめしたいソフィア・コッポラ監督作5選}–

UTコラボの5作品

今回は彼女の監督作の中でも、おすすめしたいユニクロコラボの5作品の簡単なあらすじと、見どころを紹介する。

『ヴァージン・スーサイズ』(1999年)

(C)1999 by Paramount Classics, a division of Paramount Pictures. All Rights Reserved.

プロデューサー・脚本家・女優・ファッションデザイナーとさまざまな顔を持つソフィア・コッポラの監督デビュー作。

1970年代のミシガン州にて、テレーズ・メアリー・ボニー・ラックス・セシリアという5人姉妹がいるリスボン家が話の軸となっている。物語は末っ子のセシリアが手首を切って「死にたかったわけではない。自分を消したかった」と話すところからスタート。

そのことがきっかけで、娘たちを今まで以上に“深く愛する”ようになる母と、その母のもとでがんじがらめになる姉妹たちの苦しさを描いている。

外出できない姉妹たちの鬱屈とした表情、そして悲劇の物語と、アメリカの少女たちが好むパステルカラーの小物やファッションの普遍的なかわいらしさの対比は、まさにソフィア・コッポラらしさが凝縮されている。

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『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年)

(C)2003, Focus Features all rights reserved

2004年のアカデミー賞で、作品賞・監督賞・主演男優賞・オリジナル脚本賞にノミネートされ、アカデミー脚本賞を受賞した同作。

物語はウイスキーのCM撮影のために日本にきたハリウッド俳優ボブ・ハリスと、同じホテルに宿泊するカメラマンの夫を持つアメリカ人女性シャーロットが自然と距離を縮めていくというものだ。

正直、2人の関係を恋と断言していいのかわからない。だからこそ、物語の結末に向かっていくにつれて一挙一動に尊さを感じる。

ちなみに撮影期間中、ソフィアが定宿していたパークハイアットや、日本の芸能人・ダイアモンド☆ユカイやマシュー南に扮する藤井隆も登場。

MILKFED.立ち上げた当初から、幾度となく訪れている日本をソフィアがどう描いたのか。言語の通じない異国の地で感じる大人の孤独感を味わってほしい。

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『マリー・アントワネット』(2006年)

(C)2005 I Want Candy LLC.

歴史映画ではなく、マリー・アントワネットの孤独や寂しさにフィーチャーした作品。

「パンがなければケーキを食べたらいいじゃない」という言葉(※現代では彼女の言葉ではないとされる)が未だ語り継がれており、“イヤなやつ”イメージを持たれがちなマリー・アントワネット。

しかし、もしもこの映画に描かれているマリーが本来の顔だとしたら、そういうところばかりをフォーカスされるのは、あまりにも気の毒だと思ってしまう。

絵に描いたようなロマンティックな世界観にちりばめられたソフィア流のスパイスにも注目だ。

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『SOMEWHERE』(2010年)

(C)2010 – Somewhere LLC

ロサンゼルスの高級ホテルで華やかな生活を送り、フェラーリを乗りこなすTHEハリウッドスターなジョニー・マルコと、その娘・クレオの期間限定の生活を書いた作品。

どんなパーティーをしようとも、寝室にポールダンサーを2人呼び自分だけのためにパフォーマンスをさせようとも空虚な目をしたジョニー。

そんな彼の日常にクレオが現れたことで、彼は忘れかけていた何かに気付かされていくという物語なのだが、そんなジョニーとクレオがこぼす言葉の対比が切ない。

スターと人間の人格の間で葛藤するジョニーが、シュールな笑いを誘うのも魅力だ。

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『ブリングリング』(2013年)

(C)2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved.

2008年から2009年にかけて起きた、ハリウッドセレブの家に盗みに入る高校生たちを描いた作品。

事件を起こした高校生たちの良し悪しはともかく、大人と子供の間で「早く大人になりたい」と背伸びをする姿と、自分たちのやっていることを“悪ふざけ”程度にしか思っていない浅はかさは、近年SNSで話題になる学生たちの行動と通ずるものを感じる。

特に大人や警察が出てきた途端に、必死に自分を正当化し、他責する姿は10代の未熟さそのもの。

ほかの4作品と比べると、映像のテイストが良い意味でソフィアっぽくなく、2000年代のハリウッドセレブのギラギラ感を表現。

劇中に登場するハイブランドや、ヒップホップを多用したサウンドトラックは、見ているだけでワクワクする。ちなみに映画の中で登場するパリス・ヒルトンの自宅は、実際の彼女の自宅なので必見だ。

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『SOMEWHERE』(C)2010 – Somewhere LLC

「ソフィア・コッポラの作品っておもしろい?」と言われたら、正直返答に迷う。

劇的に何かが起こるというわけではなく、ふと心の中で思い起こす感覚を「おもしろい」と表現するのが適切だとは思えないからだ。

しかし、人に勧めたい気持ちはもちろんある。不安定な毎日を送り、どこか満たされない人にこそ見てほしいのだ。初見ではわからずとも、何度も思い返してしまうソフィア・コッポラの世界を。

(文:於ありさ)

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