アニメ映画『BLUE GIANT』が全細胞を沸き立たせる大傑作である「5つ」の理由

映画コラム

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館


お願いがあります。今すぐ『BLUE GIANT(ブルージャイアント)』の劇場情報をチェックし、観に行ける上映回を予約し、映画館に足を運んでください。

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前置き:今すぐ予約して、映画館で観なければならない理由

なぜなら本作はアニメ映画、青春映画、音楽映画、それぞれのジャンルの歴史をまるごと塗り替える大傑作だからだ。それは、レビューサイトのFilmarksと映画.comで4.3点の高評価(記事公開時)、そして連日のSNSでの絶賛の嵐が証明している。

しかも本作は、ありとあらゆる映画の中でも、トップクラスの絶対に映画館で観るべき作品でもある。映画館で観てこその興奮や熱狂、いや二度とはない「最高の映画体験」がある。そして超絶高評価であることは『RRR』や『トップガン マーヴェリック』とも一致している。

しかも、観る人を選ばない。原作漫画を読んでいなくても問題ないどころか、予備知識ゼロでも子どもから大人まで楽しめる(もちろん、原作を知って観てこその面白さもある)。極めて間口が広い「観ればわかる」圧倒的な魅力と面白さがあるのだ。

何より、『THE FIRST SLAM DUNK』からわずか3ヶ月後に、またも革新的で、全細胞が沸き立つアニメ映画を観られるとは思いもしなかった。何度も前のめりになり、何度も涙を流したのでオールタイムベスト級の大傑作となった。

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お伝えしたいことの本質は以上である。他に事前に知って欲しいのは、パンフレットがレコードを模しており、大きくて持ち運びにくくはあるものの、読みどころたっぷりで必読であること。エンドロール後にも1シーンあるので見逃さないで、というくらい。

繰り返しになるが、今すぐ『BLUE GIANT』の劇場情報をチェックし、観に行ける上映回を予約し、映画館に足を運んでください。お願いします。公式Twitterのツリーでは、Dolby Atmosなどの音響にこだわった上映がされている劇場のアナウンスもあるので、ぜひ参考にしてほしい。



それだけで終わりにしてもいいのだが、ここからはアニメ映画『BLUE GIANT』の具体的にどこが素晴らしいのか、核心的なネタバレに触れない範囲で、たっぷりと解説していこう。何も知らずに観たい方は、いいから、もう、先に映画館で観てください。

1:震えるほどの感動がある、ライブシーンの表現

本作は「ジャズ」を題材とした作品であり、全編の約4分の1程度をライブシーンが占めている。つまり「音楽がメイン」の映画だと断言して良い。公式サイトのプロダクションノートでは、このアプローチについて、以下の2つの「問題」が挙げられている


1:見せ方の問題:歌詞がなく、数分間にわたる楽器演奏シーンを、ジャズに興味のないお客さんにいかに飽きずに見てもらえるものにするか

2:アニメーション技術の問題:ミュージシャンの演奏する様子などをいかにリアリティをもって描くか


これらについて、本作は「凄まじい」と思える回答をして見せている。まず、ダイナミックな構図、原作漫画の荒々しくも躍動感のある「線」の表現などから、ただでさえ迫力の音楽を、ド迫力のアニメの表現で「魅せて」くれることにも感動があったのだから。

その表現は、違う監督の名前を挙げて申し訳ないが、湯浅政明監督の作風を連想させられる。演奏シーンの迫力は同じく音楽映画である『犬王』を、幻想的で「ドラッギー」とも言っていい表現は『マインド・ゲーム』も思い出したからだ。

それでいて、サックスを弾く時の身体、ドラムを打ち鳴らす時の手、ピアノを弾く時の指など、それぞれの動きがジャズの門外漢でも「本物そののままだ」と確信できるほどのリアリティがある。

作り込まれたアニメは、時に実際の人間の動きを「こうなんだよなあ」と思わせてくれることにも感動があるのだが、それに見事に当てはまった。実際のレコーディング時の演奏をモーションキャプチャーして劇中に反映する、アニメーターが様々な演奏風景を参考にするなど、まさに「本物」を意識して細部までこだわって作られているおかげだろう。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

総じて、この『BLUE GIANT』は、良い意味で現実から拡張されたアニメの表現と、本物さながらの演奏時の動きが組み合わさり、もはや「異次元」。震えるほどのとんでもない映像を作り出している

先ほどの文言では、作り手は「飽きさせないこと」を目指したとあるが、実際に出来上がったライブシーンはそれどころではない。「この一瞬一瞬に作り手の血のにじむような努力があることがわかる」「その一瞬一瞬を大切にしたくなる」「表現のすべてに放心するほど圧倒されて涙が出てくる」のだから。それこそが、作品に集中できる映画館という空間で観てほしい、第一の理由である。

–{超一流のジャズ奏者がキャラクターの「らしさ」を表現した}–

2:3人の若者たちの、ジャズに賭けた青春物語

メインの物語は「3人の若者たちがジャズバンドを組む」という、それだけのシンプルなもの。そして、3人がとても魅力的で、2時間の映画の物語の中で急激に成長するが、甘やかしたりもしない。だからこそ後述する「いつかは終わりを迎える」青春物語として、多層的かつ素晴らしい内容となっていた。

主人公の宮本大は「世界一のジャズプレイヤー」になることを信じて疑わない。サックスを初めてわずか3年で圧倒的な演奏をする「天才」だ。ともすれば感情移入しにくくなってもおかしくないが、実際は彼の「純粋さ」が他の2人の物語を大きく動かしていくことが何よりも重要だった。それでいて、彼は朗らかな面も見せているため親しみやすく、その天才的な演奏に見合う努力をしていることもタイトかつ存分に示されている。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

沢辺雪祈は「無意味」や「無駄」を嫌い、才能がある演奏者を「踏み台にします」と言い放つ。はっきり言って「常に上から目線」のイヤなやつだ。ピアニストとしての自信は一人前だが、人を見下すことをなんとも思っていない。いやそのことにも気づいてすらいない彼が、どのような壁にぶち当たり、そして前に進むのかも、大きな魅力となっている。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

玉田俊二は、ドラムにまったく触れたことのない素人。彼はあることをきっかけに2人の仲間になりたいと願うのだが、もちろん経験ゼロであることが雪祈から見下されるし、その技術が簡単に上達するはずもない。だが、それでも、彼は夢中になれるものを見つけて、青春を賭けて努力をする。もっとも多くの方から共感を覚えるキャラクターであるだろうし、その成長の物語そのものに感動があった。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

映画を観終われば、誰もがこの3人のキャラクターのことが愛おしくなるだろう。山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音、それぞれの演技と役のハマりぶりも完璧で、声だけでわかる繊細な感情表現にも感動があった。

3:超一流のジャズ奏者が、キャラクターの「らしさ」を表現した

もちろん、「音楽」そのものも魅力的だ。なにしろ劇中の音楽は、日本のジャズシーンのトップランナーであり、世界的に知られるピアニストの上原ひろみが担当。特に演奏シーンでの、書き下ろしとなるオリジナル楽曲それぞれがメロディアスで耳に強く残る。日常的なシーンでの音楽も担当しており、それぞれの場面もよりエモーショナルにしてくれていた。

加えて感動を増幅させるのは、オーディションで決まった超一流のジャズ奏者が、キャラクターの「らしさ」に合わせた表現をしていることだ。

例えば、主人公の大を担当する、満場一致で選ばれたというサックス奏者の馬場智章は、オーディション時には「艶っぽくて、大人っぽい音」だった。そのため、立川譲監督は「100%の力を毎回出しているような、突っ走っている感じ」とオーダー。音楽のディレクションも担当していた上原ひろみは「もうちょっと下手に」「大ちゃんぽくない」などと上手すぎたからこそのダメ出しをしたのだとか。それでいて、馬場智章自信は「大として演奏をするにつれ、彼の音楽への情熱や貪欲さがどんどん音になって表れるような気がしました」と、自身と役が一致していく感覚を味わったという。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

雪祈のピアノ演奏を担当するのは上原ひろみで、「少し背伸びをしたような」「距離を置いて俯瞰して見ている」ようなイメージで、自身が10代だった頃を思い出しつつ、やはり彼らしい演奏を追求し挑んでいた。しかも、上原ひろみは成長物語であるため、時系列に沿って演奏が変化していく表現にも気を配ったそうだ。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

また、玉田のドラムを担当する石若駿は、上原ひろみが指名している。彼もまた、初心者のぎこちないドラミングをスティックの持ち方にもこだわって、徐々に上手くなっていく様を表現し、その心情も自分なりに音に注入したという。実際に、素人が聞いても序盤の彼の演奏は下手だということ、そして成長物語に合わせて変わっていくこともわかるのだ。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

音楽そのものにも感動があるのに、さらに「キャラクターの感情が乗る」のだ。馬場智章は日頃から「その人を生み出す音はその人そのものを表す」と感じながら音楽に取り組んでいると語っており、それと同様のセリフは劇中にもあり、門外漢でも「ジャズの本質」を表す言葉であることがわかる。

つまり、演奏者がキャラクターの「らしさ」に合わせた表現をしたことが、物語の主題にも、ジャズという題材を扱う上でも必然だということだ。映画に限らず創作物は往々にして多数の要素が密接に絡み合っているが、『BLUE GIANT』はそれらが作品の魅力へ見事に結実している。

同じくジャズ奏者を主人公にしたアニメ映画『ソウルフル・ワールド』、「ジャズ柔道」という奇抜なアイデアと表現が面白すぎる『アイの歌声を聴かせて』、アカデミー賞作曲賞にノミネートされるほどのジャズの楽曲が全編に流れる『バビロン』を合わせて観ても、きっと面白いだろう。

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–{青春は「終わる」「二度とない」からこそ、愛おしい}–

4:「映画」にしてくれて、本当にありがとう

映画館で観るべき理由、それはアニメとしての圧倒的な表現、キャラクターに合わせてもいる音楽の魅力にあることをわかっていただけだろうか。スクリーンで観てこそ、まるでライブハウスに来て、内面も含めて成長していく彼らの演奏をほぼ「生」で目で見て音で聞き、ずっとその記憶が残り続けるような、観客たちと「興奮と感動を分かち合う」体験ができるだろう。

そして、スクリーンでかけるべき映像と音を作り出したことだけでなく、2時間という映画の時間に物語を凝縮したこと。だからこその感動があったことも賞賛したい。映画では、テレビアニメやドラマとは違い、限られた時間の中でどのように原作を「再構成」をするかも見所のひとつではある。しかし、それは作り手にとっては難しく、また原作のファンからは賛否が出やすいポイントでもある。だが、このアニメ映画『BLUE GIANT』その点においても、完璧という他ない。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

なにしろ、映画の物語にあたる原作漫画の5〜10巻を読むと、エピソードの取捨選択、細かい構成の入れ替え、タイトに細かい心理描写を入れている。上映時間が限られている「映画の物語のため」の改変が実に的確で拍手したくなるほど、すべての映画化作品がお手本にしてほしいと願うほどだったのだから。それは、原作漫画で石塚真一と2人で協力して物語を手がけていたNUMBER 8自身が、今回の映画の脚本を執筆したためでもある。

具体的に原作漫画から変わったポイントでは、「(パンフレットでアニメ評論家の藤津亮太も指摘している、原作の3巻にある)冒頭で大が野良猫にかける言葉」「大と雪祈がバンドを組むまでの過程」などに注目してほしい。そしてクライマックスの原作漫画と異なる展開では「映画ならではの『BLUE GIANT』の物語」として、原作を読んだ方も、全く知らない方にも、劇中最大の感動を呼び起こしてくれるだろう。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

実は、映画化にこだわったのは原作者の石塚真一であり、それは「実際のジャズのライブのように大音量で、熱く激しいプレイを体感してもらえる場所は映画館しかない」との考えによるものだったとか。初めはテレビシリーズを想定していた立川譲監督もそれに納得したそうだが、筆者も「『映画』にしてくれて、本当にありがとう」と感謝を告げたい。

5:青春は「終わる」「二度とない」からこそ、愛おしい

キャッチコピーの「二度とないこの瞬間を全力で鳴らせ」は、映画の魅力と主題を見事に言い表している。誰にとっても、青春は人生のどこかに何度もあるものだが、「同じ」青春は二度とない。その青春の二度とない瞬間を、演奏シーンのひとつひとつの「魂を込める」ようなアニメの表現と、ジャズという音楽の魅力そのもので提示しているのだから。

そして、原作漫画には「ジャズは一生同じメンバーで演(や)るものじゃない。組む人間はどんどん変わっていくものです」というセリフがあり、今回の映画でも少し違った場面で言及される。それは、前述した3人の仲間たちの「終わり」を示唆しているのだ。

(C)2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 (C)2013 石塚真一/小学館

そのセリフは確かに現実的ではあるのだろうが、冷徹で人間味の欠ける印象もあるだろう。だが、映画はこの3人の物語にフォーカスした上で、「一生同じメンバーで演らない」事実でさえも、目から涙がダムのように溢れる「青春の終わり」の物語の感動につなげているのだ!原作漫画からあったこのセリフを、このように「昇華」されるなんて……!

それを持って、やはりアニメ映画としても、音楽映画としても、青春映画としても大傑作だと断言する。加えて「1本の映画の中だけでこんなにキャラクターみんなが大好きになれるなんて」とも、改めて思う。

最後に、あえてアニメ映画『BLUE GIANT』の不満を挙げるのであれば、演奏シーンで「3DCGに切り替わる」場面に違和感があるということ。それまで漫画そのままのタッチだったキャラクターが、急に「人形っぽくなる」ような、悪い意味でのギャップを感じてしまったのだ。

『THE FIRST SLAM DUNK』で「漫画のキャラがそのまま動いている3DCG」を観たばかりということもあって、もう少し上手くできなかったのかな、とも正直に思ってしまう。本作を絶賛している方でも苦言を呈しているのは、これが決して小さくはない欠点だからだろう。

ただ、個人的にはそれもモーションキャプチャーで捉えた演奏の動きをわかりやすく見せるためのものとして、納得できる範囲ではあった。何より、演奏シーンでバラエティ豊かな表現をしていることは本作の最大の魅力。「表現のひとつ」として肯定的にみることはできるだろう。

さて、ここまで本作の魅力を書ききったが、ここまで絶賛して観てくれなかったら、どうしたらいんだ。しつこいのはわかっているが、もう一度言おう。今すぐ『BLUE GIANT』の劇場情報をチェックし、観に行ける上映回を予約し、映画館に足を運んでください。お願いします!

▶『BLUE GIANT』上映劇場情報

(文:ヒナタカ)

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–{『BLUE GIANT』作品情報}–

『BLUE GIANT』作品情報

【あらすじ】
ジャズに魅了され、“世界一のジャズプレーヤーになる!”と、テナーサックスを始めた仙台の高校生・宮本大(声:山田裕貴)は、雨の日も風の日も毎日、たったひとりで何年も、河原でテナーサックスを吹き続けてきた。卒業を機に、ジャズに打ち込むために上京。高校の同級生・玉田俊二(声:岡山天音)のアパートに転がり込んだ大はある日、訪れたライブハウスで同世代の凄腕ピアニスト・沢辺雪祈(声:間宮祥太朗)と出会う。聴く者を圧倒するサックスに胸を打たれた雪祈が大の誘いに乗ると、大の熱に感化されてドラムを始めた玉田も加わり、3人でバンド“JASS”を結成する。楽譜も読めず、ジャズの知識もなかったが、ひたすら全力でサックスを吹いてきた大。幼い頃からジャズに全てを捧げてきた雪祈。初心者の玉田。トリオの目標は、日本最高のジャズクラブ“So Blue”に出演し、日本のジャズシーンを変えること。無謀とも思える目標に、必死に挑みながら成長していく “JASS”は、次第に注目を集めるようになる。“So Blue”出演に可能性が見え始め、目まぐるしい躍進がこのまま続くかと思ったある日、思いもよらない出来事が起こり……。

【予告編】

【基本情報】
声の出演:山田裕貴/間宮祥太朗/岡山天音 ほか 演奏:馬場智章(サックス)/上原ひろみ(ピアノ)/石若駿(ドラム) ほか

監督:立川譲/原作:石塚真一

上映時間:120分

配給:東宝映像事業部

ジャンル:アニメ/音楽/青春

製作国:日本