現在、映画『すずめの戸締まり』は公開10日間で41.5億円を記録し、最終的に149.4億円の大ヒットを記録した。
今作でヒロイン・岩戸鈴芽役を務めたのが、声優初挑戦となる若手女優・原菜乃華である。
『君の名は。』の上白石萌音、『天気の子』の森七菜に続き、新海誠映画のヒロインに抜擢されたことで今後の活躍が期待されている彼女。
弱冠19才ながら、芸歴13年に渡る着実なキャリアを積み上げてきた彼女の正体やいかに。今回の記事では彼女の初期作から最新作までを振り返り、その魅力を紐解いていく。
原菜乃華:子役時代
2009年にデビューし、子供向けファッション誌やサスペンスドラマの脇役として、キャリアをスタートした原菜乃華。子役時代には子供向けバラエティ「おはスタ」のおはガールや「ピラメキーノ」「痛快TV スカッとジャパン」に出演し、同世代からの人気を集めた。
彼女が注目されるきっかけとなった作品が『地獄でなぜ悪い』(2013年)であろう。
二階堂ふみ演じるヤクザ組長の娘・武藤ミツコの幼少期を演じた彼女は、作中でキャッチーな歯磨き粉CMの楽曲を歌い踊っている。バイオレンスコメディの本作において、一服の清涼剤にもなる登場シーンは観た者の脳裏に深く焼き付いたことだろう。
続いて「ピラメキーノ」の劇場版『ピラメキ子役恋ものがたり〜子役に憧れるすべての親子のために〜』(2015年)では、鈴木福演じる主人公・春人が一目惚れする人気子役・由衣役で登場。
ヒロインとして作品の重要な役割を担った。
また、人気マンガの実写化で神木隆之介主演の『3月のライオン』(2017年)では、有村架純演じる幸田香子の幼少期に大抜擢された。のちにプロ棋士となる主人公・桐山零を妬む義理の姉という複雑な役回りを見事な演技力で体現し、零を追い詰める香子を憑依させているのだ。
当時は“大人びた子供”の役柄が多かった原菜乃華。その結果、作品毎に演技力を伸ばしながら、キャリアを積み重ねていくこととなった。
そんな彼女が初主演を務めたのは短編映画『Lieland』(2011年製作・2016年公開)だった。
近年『町田くんの世界』や『線は、僕を描く』の脚本を務め、『この子は邪悪』で映画ファンやサスペンスファンからも高い評価を受けた片岡翔監督。彼が手がけた本作は、まさしくその原点ともいえる一作となっている。
人形劇の公演終了後、倉庫に隠れていた家出少女と2人の劇団員との交流を描いたダークファンタジー。その内容は「しゃべる人形と男の子の関係性」を描く予定だった『ザ・ドールハウス・ファミリー』(『この子は邪悪』の初期案)にも繋がるものだ。
また、本作における「心の闇を抱える少女」という設定は、のちに原菜乃華が演じるキャラクターにも通じている。特に(一部劇場で)本作の併映も行われた『はらはらなのか。』とは近いものがあるだろう。
酒井麻衣監督(ジェニーハイ・きゃりーぱみゅぱみゅのMV「美しい彼」「明日、私は誰かのカノジョ」など)が手がけた『はらはらなのか。』(2017年)は、亡き母の舞台に挑む子役「原ナノカ」の成長を描く和製ミュージカル映画。
現実とファンタジーの間で揺れ動く思春期の少女を等身大で演じた本作は、間違いなく彼女の代表作のひとつと言えるだろう。
芸名そのままの役名や、過去の主演作が劇中劇として登場するなど現実と虚構のリンクも魅力的な本作。タイトルには「はらはら」する不安定な「原菜乃華」のおわり(「。」)という監督の思いが込められており、まさに子役時代の集大成となっているのだ。
この2作品が原にとって女優人生の原点となったのは確かだろう。
–{映画での活躍}–
原菜乃華が映画で魅せた演技力
その後も堅実に演技力を高めていった原菜乃華は、脇役としても確かな存在感を発揮していく。
『はらはらなのか。』と同じく、SPOTTED PRODUCTIONS配給となったミニシアター系邦画『無限ファンデーション』(2018年)では、再びナノカ役を務めている。
おおまかな設定のみが決められた台本なしの即興劇となった青春映画で、彼女は主演を務めた南沙良(「ドラゴン桜」『この子は邪悪』などに出演)と共演。まるでドキュメンタリーのように自然な演技がリアルな学生生活を映し出している。
高い理想を持つがゆえに周囲の演劇部部員と波乱を巻き起こすことになるナノカの設定には『はらはらなのか。』と地続きな要素も感じられるだろう。
また、第44回日本アカデミー賞で優秀作品賞ほか12部門を受賞した『罪の声』(2020年)でも、原は確かな存在感を発揮している。
グリコ・森永事件をモチーフにした傑作ミステリー映画で彼女は事件の鍵を握る謎の少女を熱演。
決して長くない回想シーンでの出演ながらも、事件に隠された「悲しい真実」を象徴する人物として物語を支えている。懸命に生き抜く彼女の姿には、多くの観客が胸を打たれたことだろう。
そして、恋愛青春映画『胸が鳴るのは君のせい』(2021年)では、見事な怪演で作品を盛り上げている。
彼女が演じたのは主人公の恋敵・長谷部麻友。お人好しの主人公を翻弄するぶりっこの彼女には狂気すら感じられる。仮病や嘘を使いこなすサイコパスな一面を持ちながらも、純粋な恋心を吐露する裏表の激しい性格なのだ。
そんなトラウマ級のキャラクターながらも同情心をも抱かせる迫真の演技によって、ラブストーリーとしての面白さを底上げさせているのだ。
–{ドラマ界からの注目}–
民放ドラマでの原菜乃華の大活躍
彼女が民放ドラマでとりわけ注目を集めたのが、ドラマ『朝が来る』(2016年)の名演だ。
第1話で主人公ひかりの中学校時代を演じた原は、14歳という若さで出産&我が子を養子に出すという壮絶な人生を体現している。残酷な運命に翻弄されていく主人公の始まりを見事に演じきったのだ。
以降、近年では民放ドラマのレギュラーとしての抜擢も多く、大躍進は止まらない。
三谷幸喜が脚本を務めた和製アガサ・クリスティ実写版の第3弾「死との約束」では富豪一族の次女・絢奈を、考察合戦が白熱した異例の2クールドラマ「真犯人フラグ」では主人公が行方を探す娘・光莉を演じた。
特に「真犯人フラグ」では、後半戦で事件の真相を語る重要な役割としても大活躍し、その演技が記憶に新しい視聴者も多いだろう。
多くの作品で清純派な娘役を演じた原だが、昨今ではコミカルな演技も目立つようになっている。
「MIU404」第7話でのBABYMETALファンのスゥ、「ナイト・ドクター」のメインキャラクター・深澤の妹・心美、「ナンバMG5」の主人公の妹・吟子、「村井の恋」で主人公に思いを寄せる弥生などなど。
その中でも「ナンバMG5」で演じたヤンキー一家の長女・吟子役は強烈だ。髪の毛にメッシュが入り、改造自転車を乗り回す姿は、まさしく彼女の新境地。彼女がフューチャーされたエピソードもあり、吟子がエピソードを通して徐々に成長していく姿もドラマの見どころとなっているのだ。
–{そして、『すずめの戸締まり』へ……}–
原菜乃華の新たな“挑戦”
『すずめの戸締まり』では1700人超のオーディションを勝ち抜き、ヒロインの座を射止めた。
女子高校生・岩戸鈴芽は、まさしく彼女にピッタリのキャラクターと言えるだろう。
可愛らしい声色が特徴的でありながら、シリアスな場面で魅せる暗いトーンの声のギャップ。コミカルな場面での心躍るような話し声と、松村北斗演じる宗像草太との見事な掛け合い。そして、物語にとって重要な求心力となる芯のある声。
本作での名演は彼女のキャリアの集大成となっているのだ。
思えば、彼女の長編初主演映画『はらはらなのか。』は、亡き母のような「憧れになりたくて」奮闘する少女の物語であった。そんな彼女の新たなスタートが、再び亡き母との思い出に導かれていく少女の物語というのには不思議な運命を感じざるを得ない。
筆者は初めてのミニシアターで『はらはらなのか。』を観た時、主人公の成長に少しだけ人生を救われたような気持ちになった。そして『すずめの戸締まり』を観終わった後にも、不思議と当時と同じ様な気持ちを抱いたのだ。
果たして本作を通じて、今後の彼女はどのような成長を遂げていくのだろうか。
今は、『はらはらなのか。』という作品でその存在に出会った1人のファンとして、彼女の新たな門出を応援したい。
(文:TETSU)
–{『すずめの戸締まり』作品情報}–
『すずめの戸締まり』作品情報
ストーリー
九州の静かな町で暮らす17歳の少女・鈴芽(すずめ)は、「扉を探してるんだ」という旅の青年に出会う。彼の後を追うすずめが山中の廃墟で見つけたのは、まるで、そこだけが崩壊から取り残されたようにぽつんとたたずむ古ぼけた扉。なにかに引き寄せられるようにすずめは扉に手を伸ばす。やがて、日本各地で次々に開き始める扉。その向こう側からは災いが訪れてしまうため、開いた扉は閉めなければいけないのだという。迷い込んだその場所には、すべての時間が溶けあったような空があった。不思議な扉に導かれ、すずめの“戸締まりの旅”がはじまる。
予告編
声の基本情報
出演:原菜乃華/松村北斗/深津絵里/染谷将太/伊藤沙莉/花瀬琴音/花澤香菜/松本白鸚 ほか
監督:新海誠
公開日:2022年11月11日(金)
配給:東宝
ジャンル:アニメ
製作国:日本