あなたはエンタメ業界から注目を集めるマルチな8人組ユニット・ダウ90000を知っているだろうか……?
M-1&キングオブコントの準々決勝・ABCお笑いグランプリの決勝進出を果たし、主催公演は演劇界の芥川賞・岸田國士戯曲賞の候補作に選出。
現在放送中の「エルピス—希望、あるいは災い—」スピンオフドラマやBOSSとNetflixコラボによるオリジナルショートムービー、さらには主演を務める連続ドラマが放送されるなど、各方面での活躍が後を絶たない。
今回は映画やドラマ好きにこそオススメしたい、新時代ユニット・ダウ90000の魅力を“5つの切り口”からご紹介したい。
■配信情報※11月30日(水)まで!
▶︎「いちおう捨てるけどとっておく」
1:ダウ90000とは
ダウ90000とは、お笑い・演劇・ドラマなどマルチな分野で活動する8人組ユニット。
主宰で脚本や演出も務める蓮見翔を筆頭に、日本大学芸術学部出身のメンバーである園田祥太・飯原僚也・道上珠妃・上原佑太・忽那文香・中島百依子・現役大学生の吉原怜那の計8人で活動する平均年齢23歳(2022年11月現在)の若手集団である。
作風としては複数の人物が入り乱れる会話劇コメディが特徴。注目されるきっかけとなったM-1準々決勝の漫才では、男性1人+女性4人という異色のメンバー構成で話題を呼んだ。
このネタ同様、冴えない男性(大半が蓮見)が周囲の人物に振り回されていくパターンや恋愛模様を題材にすることが多いが、時にはミステリー的な題材にも挑むなど、ジャンルにとらわれない内容が魅力である。
また、芸風としてはコントでも公言しているようにラーメンズの影響を感じられるだろう。会話劇としての面白さを追求した「演劇のようなコント」は、まさしくその典型例である。ラーメンズが過去に手がけた短編映画『机上の空論 ARMCHAIR THEORY』が冴えない男性の恋愛模様を描いていたことも、今となっては興味深いポイントだ。
そして、若者ならではのあるあるネタを取り入れるのも彼らの特徴と言える。
コント「結婚の挨拶」ではヴィレッジヴァンガードを題材にしているほか、「ONE PIECE」や『花束みたいな恋をした』など(詳しくは後述)固有名詞を多用するネタも多く、現代のサブカルチャーを代表する要素でイマドキの笑いを生み出しているのだ。
–{ダウ90000のコントとは}–
2:コント
コロナ禍を中心に多くのファンを獲得したダウ90000。その理由の1つとして、動画配信を中心に定期的に新作コントを発表している点が挙げられる。
彼らの魅力を知ってもらうためには、何よりもコントを見てもらうのが早いだろう。ここからはYoutube公式チャンネルで配信されているコントの中から、その魅力が凝縮された3本のコントを厳選して紹介する。
■「元カノ」恋愛会話劇の秀作
「元カノ」は、元カノ・えりに呼び出された男性・こうたの困惑を滑稽に描いたコント。こうたに訪れる予想外の告白と衝撃展開、とある事実が明かされる結末を経て、1つの物語としての満足感が得られる秀作だ。
テンポの良い会話劇と個性豊かな人物による「人を傷つけない笑い」は、まさしくダウ90000の真骨頂と言える。この発展形として2組のカップルが登場するコント「花束とハイヒール」を合わせてみると、思わぬ仕掛けに驚かされることになるだろう。
■「まちがいさがし」パズルのような台詞が光るドタバタ喜劇
こちらはシェアハウス生活をする男女のすれ違う会話を滑稽に描いたコント。メンバー総出演で8人組ユニットとしての真価が発揮された内容だ。
個性豊かな人物が入り乱れる内容ながら、パズルのように繰り出される巧みなセリフの掛け合いが素晴らしい。各々の役割分担と安定した演技力が、作・演出を手掛けた蓮見の確かな手腕でまとめられ、奇跡のアンサンブルを実現しているのだ。
■「オーディション」コント内コントというメタ構造
上記で紹介した2本のコントからも分かる通り、ダウ90000のコントは演劇的要素が強い。
たびたび、お笑いファンからも批判される芸風をそのままコントに落とし込んだのが、コント「オーディション」だ。
オーディション会場に集まった3組の芸人たち。次々にネタを披露する彼らに下される理不尽な審査が大きな笑いを呼ぶ。コントの中でコントを披露するというメタ構造も面白いが、ネタ自体にダウ90000の実体験がリンクしているのもポイントだ。
ABCお笑いグランプリでは彼らのコントが「お芝居」とも批判されたが、その意見を踏まえて、同決勝に出場した芸人までパロディする渾身の自虐ネタとなっている。タイムリーな話題をいち早く取り入れるフットワークの軽さも、彼らの魅力と言えるだろう。
–{ダウ90000の演劇とは}–
3:演劇
ダウ90000では主宰・蓮見翔が作・演出を手掛けた演劇公演も行ってきた。
これまで(2022年11月現在)に『フローリングならでは』『旅館じゃないんだからさ』『ずっと正月』『いちおう捨てるけどとっておく』の4作品が上演された。また第2回公演『旅館じゃないんだからさ』では、演劇界の芥川賞と言われる岸田國士戯曲賞の候補作に選出されている。
井上ひさし・つかこうへい・野田秀樹・平田オリザ・ 三谷幸喜・ 中島かずき・宮藤官九郎・三浦大輔・山内ケンジ・上田誠などなど。名だたる面々が選出されてきた歴史ある賞ゆえに、この快挙が演劇業界からも多くの注目を集めることとなった。
そんな彼らの演劇作品に共通するのは、ワンシチュエーションコメディという点だ。シェアハウス・レンタルビデオ店・ショーウィンドウと路地・予備校のオフィスなどでコミカルな日常会話が展開されつつ、その人間関係にささやかな変化が訪れる。
例えば、現在オンライン配信中の第4回公演「いちおう捨てるけどとっておく」では、予備校で働く若者たちの人間模様が描かれるのだ。
初授業を前に落ち着かない予備校OBの新人や学歴コンプレックスを抱く女性、さらには向かいに住んでいる騒がしい浪人生などが登場し、リアルな職場事情がコミカルに描かれていく。互いへの気遣いゆえに壁を作ってしまう関係性や人を傷つけることに敏感な価値観、本音を言い出せない女性コミュニティのリアリティや赤本とポケットモンスターの攻略本を入れ替える男性キャラクターの馬鹿馬鹿しさ。
大学のサークルからスタートしたダウ90000らしい、若者世代ならではの視点が光る現代喜劇となっているのだ。
ちなみに、蓮見はダウ90000のみならず、玉田企画の玉田真也とテニスコートの神谷圭介が企画を務めたコントライブ「夜衝」でも作・演出を務めた。このことから、今後、彼が劇作家として人気を集めることも期待されている。
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–{ダウ90000のドラマとは}–
コントや演劇での高い評価もあり、近年ではダウ90000が手がけるドラマ作品も作られるようになった。以下では、現在視聴することの出来る3作品をご紹介する。
■8人はテレビを見ない
ドラマ「エルピス—希望、あるいは災い—」のスピンオフとして制作された短編ドラマが「8人はテレビを見ない」。
シェアハウスで暮らしている若者8名が繰り広げるワンシュチュエーションコメディであり、本編の偶数回(第2話・第4話・第6話・第8話)に合わせて、Tverで配信予定となっている。
「エルピス—希望、あるいは災い—」の登場人物とすれ違ったり、劇中番組が登場したりと本編とはうっすら連動する形式のため、基本的には本作のみで楽しめる作り。また1話完結形式のため、ダウ90000の世界観に触れるには丁度良いショートドラマとなっている。
※2022年11月現在はTverにて独占配信中
■ダウ90000 深夜1時の内風呂で
ダウ90000の単発ドラマ初挑戦となったのが「ダウ90000 深夜1時の内風呂で」だ。
とある旅館を舞台に彼らが得意とするワンシュチュエーションコメディを展開している。父娘で旅館にやって来た“たまき”と、その友人である大学生サークルのメンバーたちの気まずい鉢合わせ。浮かび上がる疑惑と甘酸っぱい恋愛模様が交差する青春コメディとなっている。
とりわけ、ベテラン俳優・勝村政信を客演に加えたこと巻き起こる化学反応が見所。カット割りなど、コントや演劇と異なるTV的演出が目立ち、いつもと少し違うダウ90000の世界観を楽しめる。
※2022年11月現在はFODにて配信中
■今日、ドイツ村は光らない
千葉県のテーマパーク・東京ドイツ村を舞台に、主演・小関裕太を迎えた1話2分~6分×全15話の群像劇が「今日、ドイツ村は光らない」だ。
コントに近い尺でワンシチュエーションが連なる構成ゆえにダウ90000の魅力が爆発。花束・フードトラック・おもしろ自転車など、独特な要素が各エピソードに繋がっていく展開が秀逸な作品となっている。
恋愛や友情、心温まるエピソードが、見る者に元気を与えてくれる優しい人間ドラマとなっている。
※2022年11月現在はHulu
にて配信中
–{ダウ90000と映画の関係性とは}–
5:映画
「タイタニック」や「ワンピース」などのコントからも、ダウ90000は様々な映画に影響を受けていることが分かるだろう。
特にその傾向が顕著に表れた名作コントが「ピーク」である。
このコントでは2021年に大ヒットを記録した恋愛映画『花束みたいな恋をした』や『愛がなんだ』で知られる今泉力哉といった人物が言及されている。
固有名詞が多用される『花束……』、冴えない男性の恋模様がたびたび描かれる今泉力哉作品と、両作品はダウ90000の作風にも共通する要素が多いのだ。
ちなみに今泉力哉はかつてNSC(吉本の養成所)に所属していた経歴の持ち主。監督業から芸人へと転向しようとしたものの、講師から「物語」を生み出す技術を認められ、現職に復帰したという逸話もある。「コント」と「物語」の違いにぶつかった作家として、ダウ90000の芸風と親和性が高い存在と言えるのだ。
また、彼らのコントの中には内容が映画的と言えるものもある。例えば、コント「東京」では田舎町から東京にやって来た兄妹の哀愁が描かれているが、この設定は日本映画の『東京物語』にも通じているだろう。
『東京物語』は1953年に公開された日本映画の古典的名作で、世界的に評価された名匠・小津安二郎の代表作。劇中では尾道から上京した老夫婦が都会の厳しさに直面し、居場所を失っていく様子が哀愁深く描かれているのだ。
このように、映画との縁が深いダウ90000。先日、その裏側が「劇場版」と題したドキュメンタリー作品としてイベントで特別上映された。タイトルは『劇場版ダウ90000ドキュメンタリー 耳をかして』。
本作は、主宰・蓮見以外の7人に密着したドキュメンタリー作品となっている。果たして、本作で明かされるダウ90000の裏側とは……。ぜひ貴重なドキュメンタリー映像から、その人気の秘訣を探っていただきたい。
以上、今回はマルチな8人組ユニット・ダウ90000の魅力を紹介した。お笑い・演劇・ドラマ・映画などで各方面での活躍が期待されるダウ90000の既存のジャンルを飛び越える新たな才能は、今後どのような物語を生み出していくのだろうか。
是非、枠にとらわれない彼らの挑戦に注目してみてほしい。
(文:TETSU)
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