仮面ライダー生誕50周年記念プロジェクトのひとつとして制作された『仮面ライダーBLACK』(1987年)のリブート作『仮面ライダーBLACK SUN』が、プライム・ビデオにて配信中。監督は『凶悪』『孤狼の血』シリーズなどで知られる白石和彌氏、仮面ライダーBLACK SUN/南光太郎役は西島秀俊、仮面ライダーSHADOWMOON/秋月信彦役を中村倫也が演じ、日本中の仮面ライダーファンの注目を集めている。そこで、白石監督と主演の西島秀俊さんに撮影秘話や見どころを聞いた。
——西島さんを光太郎役に起用した狙いは?
白石和彌監督(以下、白石):50周年企画ということで、物語も50年にわたる展開を考えました。その50年の時を刻んだ奥深さを感じさせてくれることと、寡黙な光太郎の内に秘めた思いを、西島さんならその立ち姿だけで表現できると思ったので、西島さんに南光太郎役をお願いしました。
西島秀俊(以下、西島):仮面ライダー作品自体はずっと見ていて、「いつか出たい」と思っていたんですね。その話をたまたま長谷川晴彦Pに話したところ、「えっ、西島さんあの企画の話、知ってるんですか⁉」みたいな偶然があって(笑)。もちろん全然知らなくて、お弁当食べながらの雑談レベルの会話だったんですが。その後に仮面ライダーBLACK SUN役でオファーをいただいたんです。『仮面ライダーBLACK』は歴代の仮面ライダーシリーズの中でも金字塔と呼ばれる作品であり、そのリブート作を主演でやるというのとは思った以上にハードルが高いことでした。ですが、「チャレンジしたい」という気持ちが勝り、オファーを受けさせていただきました。
——本作は1972年の過去と、2022年の現代、50年の時を行き来する構成になっています。お二人は70年代前半のお生まれですが、その時代の印象と言えば?
白石:あさま山荘事件に象徴されるように、学生運動をやっている人たちが社会に向かってみんなでコミットして、日本がどこへ向かうべきかを議論している時代でしたよね。今はあんまりそういうことを考えなくなったんじゃないかなぁ。
西島:僕はそのころまだまだ子供で……自意識もまだないくらいでした。ただ、はっきり覚えているのは石ノ森章太郎先生の作品が原作となった映像作品のすばらしさです。ほとんど全部を見ています。『ロボット刑事』とか……。
白石:『人造人間キカイダー』とかね……!
西島:「石ノ森章太郎ふるさと記念館」を訪ねたときに改めて思ったのですが、「俺、ほとんど全部の作品を見てるんだな」って。それで先生の作品を通して描かれている価値観を改めて感じたんです。生きることの悲しみだったり、自分が何者なのかという問いだったり……。『サイボーグ009』で、「どこまでが人間で、どこからが機械なのか」という境界線に苦しむ姿を見て、子供ながらに「人間ってなんなんだろう」っていう本質的な疑問を感じていました。それは大人になった今でも、自分の中で繰り返し感じていることです。そう思うと、幼い頃から石ノ森先生に影響を受けて育ってきたんだなと思います。
——本作では、仮面ライダーとして戦う孤独や悲哀以外にも、怪人として生まれたマイノリティ側の苦しみも強く描かれていますね。
白石:立ち上げの段階から「大人の仮面ライダー」というテーマが掲げられていたんです。でも、先ほど西島さんの話にもあったように、仮面ライダーってもともと大人が見ていい作品なんですよね。じゃあ、何をもって大人向けとするのか。それをとらえるため、これまでの仮面ライダー作品を改めて全部見てみたんです。それで感じたことは、その時々の社会情勢が色濃く反映されているんだなということ。それで今、世界中で議論されている問題であり、日本でも意識が高まっている、社会的少数派・マイノリティ側の視点で描くということを考えました。
——西島さん演じる南光太郎も仮面ライダーBLACK SUNに覚醒するまでは、黒バッタ怪人として描かれていますね。
西島:僕のイメージとしては怪人というよりは獣に近い。ほかの怪人たちは社会の中で生活を営んでいるわけですが、南光太郎はその中でも外れた印象。
——怪人の中でもマイノリティということでしょうか?
西島:マイノリティという意識もないと思います。そういう意味で、動物的というか獣っぽい感じで、声の出し方などはやりました。ほかの怪人たちがそれぞれの正義や戦う意味を掲げている中、南光太郎は戦うことに飽いてしまって、あらゆることに無関心になった。そういう男が、大義や社会のためではなく、個人的な感情でもう一度立ち上がる。そういう風にとらえて仮面ライダーを演じました。それはこの作品の中でもずっと大事にしていたことです。
–{バトルホッパーにまつわる裏話を明かす}–
——仮面ライダーと言えば、バイクで走るシーンが見どころのひとつです。西島さん演じる南光太郎がバトルホッパーで疾走するシーンをファンも楽しみにしていると思います。
西島:僕はもともと、チェリーズカンパニーの黒須嘉一朗さんに自分のバイクを組んでもらって、乗っていたんですね。でも、諸事情によりそれを手放すことになり、黒須さんのところに返すことになって。そしたら、「バトルホッパーをよろしくお願いします」ってメールが来て。「どういうこと⁉」ってびっくり(笑)。
白石:そうだったんだ(笑)。
西島:黒須さんにバイクを返したら、バトルホッパーになって戻ってきたみたいな(笑)。黒須さんもバトルホッパーにだれが乗るのか知らずに組んでたらしいです。組みあがってだれが乗るのか聞いたら、僕だったという。これがまた乗ると怖いんですよ。黒須さんに「なんか怖いです」って伝えたら、「魂こもってるんで」って言われました(笑)。
白石:本当にすごい縁。
西島:ちなみにダイワマンのモビールも黒須さんが組んでます(笑)。
——怖いというのはどういう感じなんでしょうか?
西島:迫力がすごいし、重たいんですよ。全部鉄で作られてますからね。飾りのパーツはほとんどなくて、本物のターボが搭載されてるんですよ! 運転するときも、加速の仕方が普通のバイクとは段違いなんです。これは本当に楽しみにしていてほしい!
白石:僕はバイク乗りではないから、詳しいことはわからなかったけど、とにかくかっこよかったですね。バイクをイチから作ることは決めていたので、走らせてなんぼだと思ってたんです。そこで唯一悔しかったことは、ノーヘルで走ってるもんだから、公道で撮れないんです。バトルホッパーを公道で走らせられなかったことだけは後悔してますね(笑)。
西島:いや、でもあれはノーヘルでしょう!
白石:かっこいいシーンは撮れましたけど、撮影は大変でしたよね。
西島:そう、結構な砂利道とかでね(笑)。意外に怖かったですよ!
——仮面ライダーといえばもうひとつ、変身シーンが何よりも見どころです。本作ではストーリー前半で南光太郎は黒バッタ怪人として描かれているため、なかなか変身シーンが出てこなくてやきもきさせられます。
白石:最初の変身シーンを撮影したのは、撮影が開始して一か月半くらい経った頃でした。「どんな変身シーンになるんだろう」という感じだったんですが、もう段取りの段階から僕も田口清隆さんも、西島さんを見て号泣しちゃって。撮る前におなか一杯になりかけちゃった(笑)。この企画やってよかったと心底思いましたね。
——そこまでの変身シーンになってるんですね! 中盤まで変身させないという構想は初めからあったのでしょうか?
白石:はい。そのために黒バッタ怪人の状態をあえて作りました。
——演じられた西島さんはいかがでしたか?
西島:これまで仮面ライダー作品を見てきた中で、やっぱり考えるんですよ。「自分だったらどう変身するか」ということを。それで毎回思い描いていたのは、かっこ悪いくらいに感情丸出しの変身シーン。『仮面ライダーBLACK SUN』の脚本が、まさにその通りだったんですね。変身シーンの撮影は特別な緊張感に包まれていて、照明、効果、CG、すべての撮影チームの意図がバチっと一致しないと決まらない。スタッフ全員が集中して作り上げた空間に自分の感情がかみ合ったとき、ピークに達した感じがしました。きっと、歴代の仮面ライダーファンの方々にも満足してもらえる変身シーンになっているんじゃないかと思います。
–{特撮シーンへの想い}–
——変身シーンをはじめ、特撮シーンは苦労も多かったのではないでしょうか?
白石:まずスタッフの人数が違いますからね。時間もすごくかかるし、やっぱり大変でした。でもせっかく仮面ライダーの監督をやらせていただいているのに、妥協は許されません。田口さんとともに、歯を食いしばりながら撮影したんですが、とにかく怪人の造型が素晴らしいんですよ。出来上がったものを見ても、本当にやれてよかったと思える、幸せな時間を頂戴しました。
西島:僕は撮影チームのみなさんがこれまで蓄積されてきた特撮技術に助けられました。技術だけでなく、勘のようなものが含まれる経験値というんでしょうか。ここはCGで行こう、ここはリアルに撮影しよう、みたいな切り替えが的確なんですよ。まさに、50年の歴史が刻んできた日本の特撮技術! ハリウッドのCG技術で生まれるモンスターとはまた違う、日本ならではの怪人の魅力ってありますよね。どこかかわいらしいというか…。
白石:そうなんですよね(笑)。
西島:日本の怪人に共通する、不思議な愛らしさと、そして悲しさ…。
白石:うんうん。
西島:特撮でしか表現できないことってたくさんある。僕は本当にもう、特撮が大好きです!
——ちなみにお二人のお気に入り怪人は?
白石:どの怪人も好きなんですよ。スズメ怪人も好きなんですけど、1話で殺されちゃうハエ怪人とか…。
西島:あれもね~…!
白石:どの怪人もわが子のようにかわいいです。
西島:確かにどの怪人も好きなんですが、個人的には濱田岳くんが演じたクジラ怪人がかっこいいと思っています。
白石:へぇ~!
西島:一匹狼的な感じがして、かっこいいんですよね。「岳くんやっぱかっこいいな~」って、何度も巻き戻して見ちゃいましたから! でも、変身するとかわいいんですよ(笑)。
白石:そうそう(笑)。
西島:こう手を前に出すシーンがあるんですけど、そこめちゃめちゃかわいいんで! 注目して見てもらいたいです!
白石:本当に細かいところも見てくれてますね(笑)。
——最後に本作ならではの見どころを教えてください。
白石:これまでの仮面ライダーシリーズの怪人としては最大級の敵が現れます。スケールというか、物理的にでかいです(笑)。戦闘シーンを撮るのは相当苦心しましたので、ぜひ楽しみにしていてもらいたいですね。
西島:あの撮影は本当に大変でしたよね。
白石:めっちゃ大変でした!
西島:今村力さん、樋口真嗣さん、藤原カクセイさんらが作り上げた美術や造型が本当に素晴らしくて。実際には映っていないようなところまで、作りこまれているんですよ。その美術チームの努力があってこそ、「人間と怪人が共存している世界」という設定に現実味がわいてくる。名前が出てこないような怪人もいっぱい出てくるし、映像のフレーム外から感じられる独特の世界観に浸ってもらいたいです。当然、その中に入っていく僕ら俳優も、相当な覚悟を持って臨みました。撮影現場でお芝居自体は一度見てるんだけど、出来上がった映像を見て、本当に感動したんです。どの役者さんも素晴らしい演技をしていて。実はもう何度目かわからないくらいに全編通して見返してます(笑)。
白石:そうだったんですね(笑)。
西島:何度見ても感動するんです! 特に中村倫也くんが演じた信彦のカリスマ性は本当にすごくて。もともと信彦はカリスマなんだけど、それ以上に彼の演技がすごいんです。劇中でも、下級怪人たちが彼に魅了されていくんですが、実際の現場でももう若手俳優たちが「倫也さん!」「倫也さんはやっぱすごいっす!」「倫也さんについていきます!」みたいになっててね(笑)。それはやっぱり倫也くん自身が持っているカリスマ性によるものなんじゃないかと思いました。実際に対峙していても、本当に素晴らしいお芝居をするんです。最終回なんてもう本当にすごいんです。『仮面ライダーBLACK』ファンなら絶対に号泣すると思います! 楽しみにしていてください。
白石:仮面ライダーの歴史に助けられているところもあると思いますが、西島さん、中村さんの力添えもあり、本当に素晴らしい作品になりました。本作は50周年記念作ですが、過去の50年を振り返るだけでなく、50年後の2072年に100周年を迎えたとき『仮面ライダーBLACK SUN』をまず見よう、そう思われる作品になるのではと思っています。すばらしいキャスト、スタッフの布陣によるものです。本当に感謝しています。
(撮影:大塚秀美、取材・文:NI+KITA)
–{『仮面ライダーBLACK SUN』作品情報}–
『仮面ライダーBLACK SUN』作品情報
プライム・ビデオにて全10話配信中。
1987年から1988年に特撮テレビドラマとして放送された『仮面ライダーBLACK』のリブート作品。2022年、国が怪人と人間の共存を掲げてから半世紀を経た、混迷の時代。差別の撤廃を訴える若き人権兼活動家・和泉葵は南光太郎と出会う。彼こそは次期創世王の候補「ブラックサン」と呼ばれる存在であった。そして、幽閉されしもう一人の創世王シャドームーン。彼らの出会いと再会は、やがて大きなうねりとなって人々を飲み込んでいく。
出演
南光太郎/仮面ライダーBLACK SUN:西島秀俊
秋月信彦/仮面ライダーSHADOWMOON:中村倫也
ビルゲニア(古代甲冑⿂怪⼈):三浦貴大
コウモリ怪⼈(⼤蝙蝠怪⼈):音尾琢真
クジラ怪⼈(⽩⻑須鯨怪⼈):濱田岳
バラオム(剣⻭⻁怪⼈):プリティ太田
ビシュム(翼⻯怪⼈):吉田羊
ダロム(三葉⾍怪⼈):中村梅雀
和泉葵:平澤宏々路
ノミ怪人:黑田大輔
新城ゆかり:芋生悠
井垣 渉:今野浩喜
堂波真一(過去):前田旺志郎
小松俊介:木村舷碁
アネモネ怪人:筧美和子
仁村 勲:尾美としのり
堂波真一:ルー大柴
光太郎(過去):中村蒼
監督
白石和彌
脚本
高橋 泉
音楽
松隈ケンタ
美術
今村 力
コンセプトビジュアル
樋口真嗣
特撮監督
田口清隆
主題歌
「Did you see the sunrise?」(超学生)