アニメ『チェンソーマン』OPのパロディから映画に「さあおいで」と全力でお迎えする特集

映画コラム
© 藤本タツキ/集英社・MAPPA

累計発行部数1600万部突破した超人気マンガを原作とした、『チェンソーマン』のアニメが、第1話から話題騒然だ。

・製作委員会方式でなく製作会社のMAPPAが100%出資(だから地上波放送でほとんどCMがない)

・主題歌担当は米津玄師(タイトル「KICK BACK」はチェンソーが使用者に跳ね返る現象を意味する)

・豪華アーティスト提供のエンディング曲が毎回変わる(音楽フェスみたいな状況)

・アニメそのものもが超絶鬼クオリティ(CGも併用されているが戦闘シーンの多くが手描き)

・地上波で流せる限界ギリギリアウトのグロ描写(しかもAmazon Prime Videoのレーティングはなぜか「NR:Not Rated 指定なし」)

などなど枚挙にいとまがないのだが、ここでは公開からわずか3日ほどで(しかもYouTubeだけで)1000万回再生を突破した、オープニング映像を猛プッシュしておきたい。

何しろこのオープニング、有名映画のパロディが満載なのだ。1話の放送からすぐに、映画ファンたちはこぞってそのネタぶりに笑いつつ感動し(筆者含む)、Twitterではすぐに元ネタの映画をあげる投稿が相次いだのである。

それぞれの映画のこのエッジの効き方がおすすめだ!

そのラインアップを見ると、かなりエッジの効いた映画ばかりであり、だからこそ同じく尖った内容である『チェンソーマン』のファンにこそおすすめしたい。

そんなわけで、ここでは『チェンソーマン』が大好きな人たちを、「さあおいで」と映画の世界へ招待するべく、パロられた元ネタの映画それぞれの『チェンソーマン』らしさ(あるいは影響を受けているかもしれない要素)と合わせて、魅力や特徴を簡潔に解説していこう。

『レザボア・ドッグス』

パロディ箇所:スーツを着たキャラクターたちが闊歩しているところ

『チェンソーマン』らしさ:殺し合ったりする殺伐さや残酷さ(タランティーノ監督作共通)


『キル・ビル』2部作などで知られるクエンティン・タランティーノ監督のデビュー作。強盗計画を実行した犯罪チームのメンバーそれぞれが疑心暗鬼になり、互いに拳銃を突きつけあったり殺し合ったり拷問したりする様がいちばんの特徴。カンヌ国際映画祭で「心臓の弱い方は観賞を控えてください」との警告が出るほどのショッキングさも話題となった。

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『悪魔のいけにえ』

パロディ箇所:幼少時のデンジがポチタを抱いているところ

チェンソーマンらしさ:殺人鬼がチェンソーを使ってるし、その悲惨な生い立ちも……


5人の若者たちが田舎の屋敷で次々に殺される、ホラー映画の金字塔。ラストシーンが特に有名でよくパロディの対象とされるが、今回は同じくインパクトが絶大な冒頭のパロディになっていることがミソ。墓を荒らし腕や足を切り取って作られたグロテスクな「アート作品」が大映しになる……これがどういう意味を持つかは、映画本編を確認してほしい。

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『パルプ・フィクション』

パロディ箇所:岸辺が震えつつ銃を構えているところ

チェンソーマンらしさ:殺し合ったりする殺伐さや残酷さ(やっぱりタランティーノ監督作共通)


こちらもクエンティン・タランティーノ監督作。タイトルの意味は「安っぽい小説」で、その通りの取り止めがなく時系列もバラバラの、意味のない会話や暴力が繰り返されるようでいて、それぞれのエピソードが絡み合い一種のグルーヴ感が生まれる。個人的な推しは日本刀を構えるブルース・ウィリス。余談だが、現在公開中のアニメ映画『バッド・ガイズ』にも『パルプ・フィクション』の秀逸なパロディがある。

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『貞子vs伽椰子』

パロディ箇所:ジャンプして井戸の上でぶつかり合うところ

チェンソーマンらしさ:「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ!」(劇中の名言)


『リング』の貞子と『呪怨』の伽椰子という、日本の2大ホラー映画キャラクターが夢の共演。しっかり怖いところもあるが、思わず吹き出してしまう「ギャグだろ!」なシーンの印象も強い。個人的にはここで挙げた映画の中でもイチオシ、ハリウッドの有名映画たちと肩を並べる作品であることが証明されたと言っても過言ではない。あと、貞子公式Twitterもこのパロディを受け「伽椰子姉さんの家で一緒に観ようかな〜?笑」などと投稿した。



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【関連記事】『貞子vs伽椰子』感想、これは世界中を幸せにする傑作だ!

『ノー・カントリー』

パロディ箇所:暴力の魔人がベッドに座っているところ

チェンソーマンらしさ:理不尽に殺されたり暴力を振るわれまくる様


『ファーゴ』のコーエン兄弟監督作で、会う人会う人を殺していく、おかっぱのようなヘアースタイルの殺人鬼に追われる様を描くスリラー。こちらの常識や倫理が通用しないような相手であり、一方で理詰めで問答をしてきて、あまつさえ「コインの裏表」で自分の考えを押してくる様がめちゃくちゃ怖い。原題は「No Country for Old Men」であり、それは老人だけでなく、良識的な考えを持つ者の居場所もないということを、皮肉的に示していたのかもしれない。

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

パロディ箇所:自動車の後部座席から運転を眺めるところ

チェンソーマンらしさ:とある過酷な運命に対して……(ネタバレになるので秘密)


3本目のクエンティン・タランティーノ監督作。どんだけ好きなんだ。 1969年に起きた実際の事件、女優シャロン・テート殺人事件を題材としており、その運命の日に至るまでの、落ち目の役者のレオナルド・ディカプリオと、その相棒のブラッド・ピットのブロマンスな関係も見どころ。古き良きハリウッド映画のネタも満載。

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『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』

パロディ箇所:むちゃくちゃ狭い会議室の机になんとか座ろうとするところ

チェンソーマンらしさ:妙な悪魔というかバケモノをぐちゃぐちゃにしながら戦うこと


Z級映画としてむしろ超有名な作品で、机の上を移動する動きが精密にパロられていた。中毒性抜群のオープニング曲、トマトが襲いくる様の設定のバカバカしさ、カットによって昼夜が異なる雑な作り、同じ場所を撮影しながら「別の場所です!」とテロップで示す開き直り精神、そこそこに繰り出されるミュージカル、興味をそそられない恋愛パート、とんでもないオチなど、全編が脱力感に満ちている。

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『女優霊』

パロディ箇所:デンジがカメラ目線でめちゃくちゃ怖がっているところ

チェンソーマンらしさ:日常的な光景から、時に恐怖を覗かせる様とか……


中田秀夫監督による『リング』の前身、ジャパニーズホラーの礎(いしずえ)ともされる作品。新人映画監督が、自身の作品のカメラテストで、別の映像が紛れていることに気づく……というあらすじで、この時代のフィルムならではの荒い映像がむしろ恐怖を呼ぶ。モンスターが派手に襲ってくるような内容ではないが、じわじわと来る恐怖を求める方にはおすすめ。

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『ジェイコブス・ラダー』

パロディ箇所:階段に天使の悪魔が座っているところ

チェンソーマンらしさ:悪夢的な内容そのもの


ベトナム帰還兵が、悪夢なのか現実なのかもわからない恐怖に直面していくスリラーで、ゲーム『サイレントヒル』などに影響を与えた、知る人ぞ知るカルト作。グロテスクかつシャープな画が特に印象に残る。シーンごとに解釈が分かれる、どんでん返しとも言えるラストなど、難解だからこそ語り草になる要素が多い。旧約聖書のヤコブのはしごの物語に着想を得ている。『ホーム・アローン』のマコーレー・カルキンも出演している。

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『コンスタンティン』

パロディ箇所:夜に向かい合っているところ

チェンソーマンらしさ:悪魔祓いの話である


悪魔や天使を見分ける特殊能力を持つ私立探偵が、死後に自分が地獄へ送られる運命を知り、悪魔を倒すことで天国に行くことを目指す。ミュージックビデオ出身のフランシス・ローレンス監督による悪魔のビジュアルや地獄の光景、ホラー要素強めのアクション描写は多くのファンを持つ。2022年9月に、続編製作へ正式にゴーサインが出たことも映画ファンの間で話題となった。

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『ビッグ・リボウスキ』

パロディ箇所:デンジたちがボーリング場にいて、ボールを拭いているところ

チェンソーマンらしさ:巻き込まれ型の不条理な物語


2本目のコーエン兄弟監督作。同姓同名の大金持ちと間違えられ強盗に押し入られた挙句、誘拐事件に巻き込まれてしまう、うだつの上がらない中年男性の行く末を追うブラックコメディで、良い意味で脇道に逸れまくる様が人生の不条理性を描いているようだった。やたらとボウリング場に行くシーンが多い。ジョン・グッドマン演じるパートナーの男がめちゃくちゃな性格をしたトラブルメーカーであり、実質パワーちゃんみたいなヤツだった

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『ファイト・クラブ』

パロディ箇所:パワーがハンマーで巨大な鉄球を打つところ

チェンソーマンらしさ:主人公が怪しい組織に入ってさらに血みどろの事態に


デヴィッド・フィンチャー監督による、暴力的であるがゆえに好みが分かれるものの、映画史に残る傑作とされる1作。拳闘をする秘密のクラブが、やがて恐るべきテロ集団へと変貌していく様を描き、とあるネタバレ厳禁のどんでん返しの要素は多くの模倣を生んだ。性格も体つきもマッチョなブラッド・ピットと、それとは外見も内面も対照的なエドワード・ノートンの怪演も見どころ。

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この他の『チェンソーマン』のオープニングのパロディには、『ソー:ラブ&サンダー』のロゴのカラーリング、『新世紀エヴァンゲリオン』、「Perspective」という読書量の差で見える世界の違いを表す風刺画、原作者である藤本タツキの『チェンソーマン』第2部の第1話や『さよなら絵梨』の後方で爆発する構図がある。短い時間にどんだけ詰め込まれているんだ

–{そもそも、なぜ映画のパロディを?}–

藤本タツキが大好きな映画と被ってた

そもそも、なぜ映画のパロディを?と思われる方も多いだろうが、「原作者の藤本タツキの差し金」という説が唱えられていたりもする。なぜなら、いくつかの映画はマンガ『チェンソーマン』単行本の折り返し部分で、藤本タツキが「大好き!」と宣言している作品といくつか一致しているのだ。リストアップしておこう。

1巻:チェンソー
2巻:『悪魔のいけにえ』
3巻:『ヘレディタリー/継承』
4巻:『貞子vs伽椰子』
5巻:『デス・プルーフ in グラインドハウス』
6巻:『コララインとボタンの魔女』
7巻:『女優霊』
8巻:『降霊〜KOUREI〜』
9巻:『ゲット・アウト』
10巻:『ジェイコブス・ラダー』
11巻:『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』
12巻:Netflix配信の『呪怨:呪いの家』

お分かりいただけただろうか。こちらにもクエンティン・タランティーノ監督作『デス・プルーフ in グラインドハウス』、『貞子vs伽椰子』の白石晃士監督作『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』が入っているので、それぞれがどんだけ好きなのかがよく分かる。それぞれの作品で、『チェンソーマン』がどのように影響を受けたのかも、観たら分かるかもしれない。また、アニメの第2シーズンのオープニングなどでこれらの作品もパロられる可能性がある。

「田中脊髄剣」の元ネタがあった!?

ところで、マンガ『チェンソーマン』の第2部の第1話が公開された時、Twitterのトレンドに「田中脊髄剣」というパワーワードがあがったことがある。どういうことか、何を意味しているのかは、百聞は一見にしかず、ぜひ本編を読んでいただきたい。

[第98話]チェンソーマン 第二部

言ってしまえば、人間(クズ教師)の脊髄を引っこ抜いて剣にするというものなのだが、それを「田中脊髄剣」と呼称するセンスが凄すぎる。筆者の子どもの頃に『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』の「アバンストラッシュ」という技のマネが流行っていたが、今の小中学生は田中脊髄剣を休み時間に披露しているに違いない(たぶん)。

そして、その元ネタなのかもしれない映画がある。2021年に日本で公開され、藤本タツキ本人がイラストとコメントを送っている『サイコ・ゴアマン』である。



『サイコ・ゴアマン』は『スーパー戦隊』や『仮面ライダー』など日本の特撮へリスペクトを捧げている、しかもの宇宙怪人たちとのPG12指定ギリギリな血しぶき飛び散るバトルがてんこ盛りというアナーキーな作品である。

女子小学生の性格が傍若無人で最悪というのも特徴で、大学生の頃に女の子に自転車をひっくり返されて「お前の自転車をひっくり返してやったぞハハハ!」と言われて幸せを感じた逸話が有名な藤本タツキであれば、それは気に入るだろうなと納得できる内容である。

で、この『サイコ・ゴアマン』に田中(じゃないけど)脊髄剣があるわけだが、そこに至るまでの経緯が実にひどい(褒めてる)ので、田中脊髄剣ファンにぜひ観ていただきたい。

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映画パロディは『リコリス・リコイル』にもあった!

余談だが、この『チェンソーマン』の前にも、オープニングでの映画パロディが話題になったアニメがある。それは、原作のないオリジナル企画ながら、かわいいキャラクターが織りなす関係性(特に百合)、設定は過酷ながらギャグ多めな作風などが愛された『リコリス・リコイル』だ。

このオープニングで、主人公2人が歩きながら蹴り合うというシーンは、あの『スタンド・バイ・ミー』のパロディであり、動きがめちゃくちゃ精密に再現されていた。

あと、次回予告では、かわいい女の子が好きな映画を聞かれて『死霊のはらわた』『ゼイリブ』と答えるという、なかなかに趣味の良い一幕もあった。

いずれにせよ、こうした若者にも人気のアニメで映画がパロられたり名前が出ることで、少しでも興味を持ってくれれば、なんなら観てくれれば、映画ファンの1人としてこんなに嬉しいことはない。いいぞもっとやれ。

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『チェンソーマン』の劇中にある映画へのリスペクト

© 藤本タツキ/集英社・MAPPA

さらに余談だが、『チェンソーマン』5巻収録の39話にて、デンジがマキマにデートに誘われ、夜の12時まで映画をハシゴして映画館で観るという場面がある。そして「オレ映画とか、わかんないのかも」と言うデンジに対して、マキマはこう言うのだ。

「私も十本に一本くらいしか面白い映画には出会えないよ、でもその一本に人生を変えられた事があるんだ」

わかる、わかるよマキマさん……!本当に面白い映画は十本に一本くらいしかないかもしれない、だけど、その十本の一本が人生を変えるくらいの大きな力を持つのであれば、それはけっこう高い確率だし、なんと映画は素晴らしい娯楽であり芸術なのではないか。

つまんない映画を観てしまった時でさえも、そう肯定的な考えを巡らせてくれる、このマキマさんの言葉が大好きだ。何より、映画はそのくらいの力を持っているというのは、事実だ。筆者も実際に人生が変わったよ、現在各種配信サービスでレンタル中の、十万本に一本レベルの、アニメ映画史上最高の大傑作とかで!

そして、こうして『チェンソーマン』のオープニングや、マキマさんの映画への尊い言及や、単行本折り返しの藤本タツキが大好きだと公言している映画から、若者たちが映画に興味を持ってくれることを、心から願っている。そして、それらの映画を観た後に、影響を受けている『チェンソーマン』にまた戻って映画の豊かさを知り、また映画を観る。そんな「永久機関が完成しちまったなアア~!!」になればいいと思う。

(文:ヒナタカ)