2022年4月11日より放映スタートしたNHK朝ドラ「ちむどんどん」。
沖縄の本土復帰50年に合わせて放映される本作は、復帰前の沖縄を舞台に、沖縄料理に夢をかける主人公と支え合う兄妹たちの絆を描くストーリー。「やんばる地域」で生まれ育ち、ふるさとの「食」に自分らしい生き方を見出していくヒロイン・比嘉暢子を黒島結菜が演じる。
本記事では、その第96回をライター・木俣冬が紐解いていく。
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「ちむどんどん」第96回レビュー
第20週「青いパパイアを探しに」(演出:中野亮平)は暢子(黒島結菜)が妊娠していることがわかります。妊娠2ヶ月。結婚してすぐに赤ちゃんができたんですね。
それまで恋愛にまったく疎く、幼く見えた暢子が結婚と同時に妊娠。なんだかくすぐったい気持ちになります。
結婚指輪して「うちのおなかに赤ちゃんが 命が宿っていると思うと 涙が出るくらいうれしい」としみじみ優子(仲間由紀恵)に電話で語る暢子は、成長したのだなと思って微笑ましいのですが、問題は、独立して店を開店するときであること。
房子(原田美枝子)は、開店を延期するように言います。その間は、フォンターナで経理の仕事をするようにはからおうとするのですが、暢子はその好意を受け入れる気はありません。店も出産、子育ても両立すると言います。
暢子はフォンターナで10時まで働いたあと、あまゆで手伝いしたり、飲み食いしたりしていたくらいで、スーパー体力ありそうなので、なんとかできちゃうのかもしれません。優子も、朝から晩まで働いて(それも一時期、男性に混じって肉体労働もしていた)いたから、比嘉家は丈夫な家系なのでしょう。
さらに、多江(長野里美)も、戦時中に妊娠しながら、三郎のいない間、彼の仕事も代わりにやっていたというようなことを言います。「ちむどんどん」の世界は強い女性ばかりです。唯一、房子が慎重派になっています。
第20週まで来てようやく違う考え方にも耳を傾けようという考え方が提示されました。房子の心配を聞かず「反対された」と言う暢子に優子が「反対する人の話にもちゃんと耳を傾けて」と諭すのです(優子、だったら、賢秀の社会的にいささか問題な行動も全面的にゆるさず、反対する人の話にも耳を傾けて〜〜)。
勝手に話を先回りして想像すると、これまで自分、自分でやって来た暢子が、他者の意見に耳を傾けられるようになったとき、お店「ちむどんどん」は知らないお客さんでいっぱいになるのではないでしょうか。
いまは、暢子の思うようになる人たちの集まりという、狭い世界なのです。
視聴者としても、独立開店を前に、妊娠するなんて無謀だと思ってしまうのですが、それをやってはいけないわけではなくて。挑戦してみることもあっていいし、それで暢子がみごとにやってのけても、みんなができるわけではないので、やれない人もいていいというふうになるといいのですよね。
そういう考えはわかるのですが、いかんせん、物語が、そう冷静に考えるようにできてなくて、強引に暢子無双みたいになっているのが残念です。視聴者だって暢子の出産と開店を素直に応援したいですよ。ちょっとだけ常識に囚われている視聴者にも歩みよってほしい。ただそれだけなんですよね。
さて、やんばるでは、良子(川口春奈)が、優子の野菜生活に感化され、給食で地元の野菜を使った献立を出そうと考えます。こっちもこっちで、その発想はすてきなのですが、かなり短絡的で、根回しが丁寧でなく、面倒くさい人に見えてしまいます。
結局、うまいこといくのでしょうけれど、うまいこといく流れがチートぽいんですよね。こういうのが現代的でしょうと思ってやっているような節を常々感じるのですが、この手の現代性が朝ドラという伝統と相性が良くない。
筆者は朝ドラは歌舞伎のような伝統芸能だと拙著「みんなの朝ドラ」で書きましたが、歌舞伎は、古典をやりながら、「風の谷のナウシカ」や「ONE PIECE」や初音ミクを題材にした新作もやっていて、そこに古典の技術も巧みに組み合わせています。原作という他者でのリスペクトと自分たちの伝統への誇りをうまく両立させているのです。どっちが好きな人にもサービスがあるのです。
いまの「ちむどんどん」は朝ドラの伝統も、新しい現代的な物語性も、相殺されてしまっているように感じます。育児と仕事の両立がすてきにできるように、伝統と革新の両立だってすてきにできるはずと信じているのですが……。
(文:木俣冬)
–{「ちむどんどん」第20週目のあらすじ}–
「ちむどんどん」第20週目のあらすじ
暢子(黒島結菜)の開店準備が進む中、和彦(宮沢氷魚)が東洋新聞を退職することに。そしてその直後、暢子の妊娠が判明。不安もあるが、二人は大きな喜びの中にいた。だが事態を知った房子(原田美枝子)が暢子に告げたことは…。一方、沖縄では、良子(川口春奈)が学校給食を改革しようと奮闘していた。だがこれまでのやり方を変えるのは、相当難しいようで…
–{「ちむどんどん」作品情報}–
「ちむどんどん」作品情報
大好きな人と、おいしいものを食べると、誰でも笑顔になる―――
ふるさと沖縄の料理に夢をかけたヒロインと、支えあう兄妹たち。
“朝ドラ”第106作は個性豊かな沖縄四兄妹の、本土復帰からの歩みを描く
笑って泣ける朗らかな、50年の物語。
放送予定
2022年4月11日(月)~
<総合テレビ>
月曜~土曜: 午前8時~8時15分 午後0時45分~1時(再放送)
※土曜は一週間を振り返ります。
日曜: 午前11時~11時15分(再放送)翌・月曜: 午前4時45分~5時(再放送)
※日曜、翌・月曜は、土曜版の再放送です。
<BSプレミアム・BS4K>
月曜~金曜: 午前7時30分~7時45分
土曜: 午前9時45分~11時(再放送)※月曜~金曜分を一挙放送。
出演
黒島結菜
仲間由紀恵
大森南朋
竜星涼
川口春奈
上白石萌歌
宮沢氷魚
山田裕貴
前田公輝
山路和弘
片桐はいり
石丸謙二郎
渡辺大知
きゃんひとみ
あめくみちこ
川田広樹
戸次重幸
原田美枝子
高嶋政伸
井之脇海
飯豊まりえ
山中崇
中原丈雄
佐津川愛美
片岡鶴太郎
長野里美
藤木勇人
作:
羽原大介
語り:
ジョン・カビラ
音楽:
岡部啓一 (MONACA)
高田龍一 (MONACA)
帆足圭吾 (MONACA)
主題歌:
三浦大知「燦燦」
沖縄ことば指導:
藤木勇人
フードコーディネート:
吉岡秀治 吉岡知子
制作統括:
小林大児 藤並英樹
プロデューサー:
松田恭典
展開プロデューサー:
川口俊介
演出:
木村隆 松園武大 中野亮平 ほか