<全力解説>『ソニック・ザ・ムービー』がゲームの映画化作品として大成功した「5つ」の理由

映画コラム

2022年8月19日の夕方5時55分より、『ソニック・ザ・ムービー』がテレビ東京系列で地上波初放送となる。

まず、本作はゲームの映画化作品として、トップクラスの大成功を果たしたと断言しておきたい。事実、2020年2月に全米で公開されてすぐに超大ヒットを記録し、『名探偵ピカチュウ』(2019)を超えてゲーム原作映画史上最高のオープニング記録を樹立していたのだから。

だが、その後すぐに新型コロナウイルスの蔓延のために世界中の映画館が閉鎖されてしまうという、公開のタイミングとしては不遇な作品でもあった。日本でも2020年6月に延期され劇場上映されたものの、観逃してしまったという方も多いのではないか。

それは非常にもったいない。原作ゲームへの愛に溢れていると同時に、全く知らなくても問題なく楽しめるので、ぜひ今回の地上波放送で、万人向けの面白さや志の高さを(再)確認していただきたい。ここでは、重要なネタバレに触れない範囲で、映画の内容そのものを称賛したい理由を記していこう。

1:大不評のデザインを作り直したからこその大成功!

この『ソニック・ザ・ムービー』は、とてつもなく悪い意味で話題になったこともある。2019年3月〜4月にビジュアルや予告編が公開された時に大ブーイングの嵐となり、ソニックの産みの親である中裕司も苦言を呈してしまうほどだったのだ。


その理由は、肝心の主人公であるソニックが、申し訳ないが「可愛くない」「気持ち悪い」と言わざるを得ないキャラクターデザインだったこと。これらの批判を受けてジェフ・ファウラー監督はデザインの変更を約束した。



その時点でどれほど本編が完成していたかは定かではない(大部分が作られていなかったという噂が多い)が、CGをイチから作り直す作業にかかった費用と労力とは尋常なものではなかっただろう。

※こちらの特報では変更前のデザインのソニックが見られる

その結果として、出来上がった映画のソニックはとても可愛らしく、クールな印象や毛並みのモフモフ感も見事に表現された、ファンも大納得のデザインとなった。そして、完成した映画は興行的にも批評的にも大成功。「批判を受けての作り直しという決断」「血の滲むようなスタッフの尽力」が報われる映画としても、歴史に残るだろう。

(C)2020 PARAMOUNT PICTURES AND SEGA OF AMERICA, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

なお、その変更前のデザインのソニックはなかったことにされたかと思いきや、2022年5月よりDisney+で配信中の映画『チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ』に「アグリー(醜い)・ソニック」という不名誉すぎる役名で登場している。同作は際どいパロディが満載の内容であり、そのアグリー・ソニックはネタ枠として登場するだけかと思いきや……ぜひ、実際に観ていただきたい。

2:ソニックといえばやはりハイスピードアクション!

この『ソニック・ザ・ムービー』で多くの人が魅力としてあげるのは、やはり、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ(音速のハリネズミ)」という主人公の名前通り、原作ゲームで最も重要な特徴であるハイスピードアクションを映画で再現したことだろう。

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特に中盤のバーでの「ほぼ止まった時間の中でたくさんのことをする」というシーンは白眉。(後述する悩みを抱えるが)ちょっとイタズラ心もあるソニックが生き生きとしていて楽しい。アイデアそのものはヒーロー映画『X-MEN:フューチャー&パスト』(2014)という先駆があるものの、さらに軽快かつコミカルに、もちろん世界最高の映像技術を持つチームが総力をもって描いたことに魅力がある。

その他もソニックが一瞬で様々なことをする様がコメディとして楽しいし、オープニングからド迫力のハイスピードバトルから始まり「展開が早すぎ?性格でね!」と、(後述する)「おしゃべり」な様も含めて、メタ的なセリフで示してしまうのも上手いところだ。

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なお、ソニックが中盤でプレゼントされる「あるもの」は原作ゲームの再現。初めのパラマウントのロゴや、はたまたエンドロールの映像で原作への愛がストレートに打ち出されていることも本作の美点だ。

また、ソニックは「どうもキノコは好きになれない」と言っているのだが、これはキノコを食べると大きくなったりする、「マ」から始まる世界一有名なゲームキャラクターへの「くすぐり」だろう。

–{『新世紀エヴァンゲリオン』にもあった「孤独」への言及}–

3:「孤独」を描いた物語

さらにクレバーだと思ったのは、ゲームでのクールなソニックの「らしさ」はそのままに、新たに「孤独」という悩みを持たせたことだ。例えば、彼はとても「おしゃべり」でもあり、「生きるのに必死な悲劇のハリネズミでも想像してた?」などと言いつつ、洞窟の中で「1人」で卓球やジム(洗濯機の中で走る)を楽しんでいた。

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だが、そのおしゃべりな様は、孤独や悲しみをごまかす、あるいは抵抗するための「せめてもの方法」に見えてくる。ソニックはいつでも明るく楽しそうにふるまっているが、それでも夜にひっそりと野球をしても、昼間に見た子どもたちのようなハイタッチをしてくれる相手はいなかったのだから。その特徴は、正体を明かせない宿命を背負いつつも過酷な戦いに挑み、そしておしゃべりなキャラとして描かれることも多いヒーローのスパイダーマンにも近いだろう。

このソニックの悩みは、『新世紀エヴァンゲリオン』でも言及されていた「ヤマアラシ(ハリネズミ)のジレンマ」のメタファーとも言えるかもしれない。それは「相手と仲良くなりたいけど、傷つくの恐れてためらってしまう」という心理。ソニックが孤独でいようとするのは、自分が特別な力を持っていて、育ての親のロングクローから「生き延びるためには身を隠すしかない」と言われていたことに起因するのだが、「自分や他の人のためにも孤独でいようとする」悲しい心理そのものは現実にあり得るものだろう。

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そんな孤独なソニックが、大切な友達となっていく青年と旅をするロードムービーでもあることがミソ。彼は「バケツリスト」という「やりたいことリスト」を作り、それを短い旅の中で達成しようとする。その顛末には、確かな感動があるだろう。

>>>【関連記事】2020年のロードムービー傑作10選

ちなみに、映画『最高の人生の見つけ方』(2007)の原題は「The Bucket List」。本作と同様に「やり残したことを実現する」冒険に旅立つ友情の物語である。

さらに、本作は他にも映画ネタが多く、警察署で「俺の記憶を消していかないのか?」と言うのは『メン・イン・ブラック』(1997)が元ネタだったり、ソニックが「ヴィン・ディーゼルの映画(『ワイルド・スピード』シリーズ)みたいだ!」と言ったりもする。エンドロール後のオチはおそらく『キャスト・アウェイ』(2000)を意識しているのだろう。

4:悪役とその部下との関係性が尊い……!

ジム・キャリー演じる悪役ドクター・ロボトニックを抜きにして本作は語れないだろう。クレイジーという言葉はもはや褒め言葉、ダンスも含めてキレキレな振る舞いや行動はいっそスガスガしいほど。ジムは娘がソニックの大ファンだからこそジプロジェクトに惹きつけられていたそうで、脚本に基本的な指示しか書かれていないこともあってジムの言動の多くがアドリブだったというのもすごい話だ。

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さらに魅力的、というかこの記事で最も書きたかったことは、ロボトニックと、リー・マジドゥブ演じる部下のエージェント・ストーンの関係性がものすごく尊いことだ。というのも、ロボトニックはしきりに命令通りに行動する機械(ロボット)のみを信用して、人間嫌いであることを告げているのだが……そばにいるストーンへの言い方は悪辣であったとしても、素直になれない「ツンデレ」な部分が垣間見えるのだ。

例えば、ストーンが家から逃げ出したソニックたちを尻目に、ロボトニックの方に駆けつけた時のことを思い出してみよう。ロボトニックはここで「止めようとしたのか?おい言ってみろ!そいつを止めようとしたんだろうな?」としつこく聞き、ストーンが「ご無事かどうか確かめようと……」と言うと、さらにロボトニックは「世界一賢い人間の苦労は、周りがみんなバカに見えるということだ!」と声を荒げ、ストーンはそれを(何度も言っていて知ってるから)「ほぼ同時に復唱」するのだ。

このシーンは、表向きにはロボトニックは「機械通りにできない人間とお前はバカだ!」と言っているのだが、「ひょっとして、自分を優先して心配してくれる、機械ではあり得ないストーンの行動が嬉しかったんじゃないの〜!?」とも思わせる。だからこそ、その嬉しさをかき消すために、「他の人間はバカ」だと強調しようとしたのではないか。

さらに、中盤でロボトニックが音楽をかけて、機械たちによる演出もあってノリノリに踊るシーンも、彼がいかに機械を愛しているかを象徴するようなシーンなのだが……そこでストーンは「オーストリアのヤギで作ったラテ」を持ってきて「お好きかと」と聞き、ロボトニックはややキレ気味に「もちろん飲むとも、お前のラテはうまい!」と答えるのである。

ここでストーンは、自分が大好きな機械とのセッションの邪魔をしているのに、「表向きにはキレる」というムーブを見せながらもなんだかんだで「お前のラテはうまい」と正直に言うので、「なんならラテだけじゃなくストーンごと大好きなんじゃないの〜!?」とキュンキュンした。少なくとも、ロボトニックははなんでも命令通りにこなす機械だけを愛していると言いつつ、そうではない行動をする人間のストーンのことが気になって仕方がないというのは明白である。

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もちろん、ストーンの方も、あれだけ悪辣な言動をするロボトニックのことが放っておけない……いや大好きなのだろう。その2人の関係は一種の共依存。ある意味で、ソニックと友達になる人間のトムとは「鏡像」とも言える。ストーンの方がソニックと同様にハイタッチを求めるが、ロボトニックは腹にパンチをするというコミュニケーションしかできないことに、とても切なくもなるのだ。

そして、ロボトニックがストーンが大好き(その逆も然り)という証拠は、エンドロール後のおまけにあった。爆笑しつつも切なくもあるこのオチから、「いつか2人とも幸せになって」という願いを新たにしたのは言うまでもない。

–{中川大志の吹き替えが完璧な理由&続編の魅力}–

5:中川大志の最高OF最高の吹き替え

本作でさらに言及しておけなければならないのは、中川大志を筆頭とする日本語吹き替え版のクオリティが最高OF最高ということだろう。

ゲーム版のソニックでは声優の金丸淳一がほぼ専属でソニックの声を務めていたため、中川大志が演じるという報道には一部のファンから反発もあった。だが、実際の声の演技でその反対意見を覆すほど、絶賛に染まったというのはものすごいことだ。

中川大志は大真面目な役も多く演じられているが、原作からあるソニックの特徴である、「クールで」「抑揚のある話し方で」「時には英語まじりで」「ちょっとイタズラ心や子どもっぽさもある」役にこれほどまで見事にハマるというのは、想像をはるかに超えていた。

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中川大志本人も葛藤があったようで、インタビューで「自分で良いのだろうかという不安と恐怖もありましたが、やるからには一生懸命自信を持ってやろうと思いました」と不安も含めて語ったこともあった。彼は子どもの頃にソニックのゲームを遊んでいたそうで、演技のための努力はもちろん、作品への「愛」があってこそ最高の吹き替えが生まれたのではないだろうか。

もちろん、前述したジム・キャリー扮する悪役ロボトニックを演じや山寺宏一の演技もキレッキレで最高である。濱野大輝演じる生真面目なストーンとの掛け合いも吹き替えで耳が幸せだった。

続編『ソニック VS ナックルズ』のここがすごい!

そして、この『ソニック・ザ・ムービー』の続編である、映画『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』が本日2022年8月19日より映画館で上映されている。実際に観たところ、魅力を引き継いだ&パワーアップした続編として理想的、素晴らしい作品だった!

何よりの目玉は、原作ゲームでも人気キャラクターである「テイルス」と「ナックルズ」が登場することだろう。広橋涼の声のテイルスが悶絶するほど可愛いし、木村昴ボイスのナックルズも「ポッ…」となるほどカッコいい。もちろん中川大志と山寺宏一の演技も完璧であり、今回も吹き替えを積極的におすすめできる最高クラスのクオリティとなっていた。

アクションもさらにド派手かつバラエティ豊かになり、原作ゲームのオマージュと言えるシチュエーションも多数盛り込まれていて、子どもから大人まで楽しめる娯楽作として申し分ない。さらに前作では「孤独」という悩みを抱えたソニックに、新たに「ヒーローとは何か?」という疑問から始まるドラマを付与しているのも上手い今回のソニックはとある「失敗」をしてしまい、そこから立ち上がり本当に大切なことを知り行動を起こす、真っ当かつ感動的な物語が紡がれているのだ。

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ちなみに、前作に負けず劣らずのキレキレな悪役のロボトニックを演じるジム・キャリーは引退を表明している。「状況次第」「ブレイクを挟もうかな」と淡い言い方をしつつも、「僕はもう充分です」などと引退が本気であることも匂わせていたのだ。今回がジムの怪演(および吹き替えの山寺宏一の楽しそうな悪役演技)を劇場で拝める最後のチャンスかもしれないので、その意味でも観ていただきたいのだ。

そして、筆者は前述した通りロボトニックとその部下のストーンの関係性が大好きで、やりとりにキュンキュンしていたのだが、この続編でも作り手がその需要をわかりすぎていて最高だった。「悪役のボスと部下」という関係性の中でも、前作をも超えた最高クラスのものが観られるので、そこに萌えたい方は明日地球が終わろうと観てください。お願いします。

(文:ヒナタカ)