6/10(金)に公開されたBiSHのオムニバス映画『BiSH presents PCR is PAiPAi CHiNCHiN ROCK’N’ROLL』。モモコグミカンパニーが主演を務めたコメディ『PEACH CHAOS PEACH』が、どの方向から見ても異色すぎる。
しっとりとしたラブストーリーや死生観に迫る作品が揃うなか、モモコグミカンパニーが体当たりで臨んだ役柄は「ある日突然、身体に男性器が生えてしまった女子学生」。異色としか言いようがない。
この作品については、まず見てもらったほうが早い。うだうだとした前情報を入れる前に、一刻も早く見てもらいたい。本記事では、すでに観賞後であることを想定し、ネタバレを交えつつ考察を試みたい。
※本記事では作品についてのネタバレを含みます。ぜひ観賞後に記事をご覧ください。
WACK代表・渡辺淳之介との危険なタッグ
モモコグミカンパニーは本作が初主演・初演技。セリフの発し方や所作などを見ると、いかにも初めてらしいあどけなさが感じられる。しかし、演技の“吹っ切れ加減”は並大抵のものではない。
なんといっても、彼女が演じたのは「身体に男性器が生えてしまった女子学生」なのだ。これほどまでに、役作りをしようにも取っ掛かりが薄い役柄もないだろう。前代未聞と言っていいのではないか。
反対に、初演技でこれだけの体当たりを見せてくれるなんて、拍手喝采の一択である。
本作でモモコグミカンパニーがタッグを組んだのは、自身がメンバーの一員である”楽器を持たないパンクバンド”BiSHの所属事務所WACKの代表・渡辺淳之介氏。この組み合わせはあみだくじで決まったそうだが、確定した瞬間に「覚悟を決めた」とコメントしている。
渡辺氏本人も「誰に決まろうと話の内容を変えるつもりはなかった。振り返れば、モモコで良かったと思っている」とインタビューで発言しているように、この2人での映画づくりが決まったのは奇跡に近い。渡辺氏とモモコグミカンパニーじゃなければ成し得なかった作品が誕生している。
言ってしまえば、これは安定で間違いのないタッグであり、同時に”危険なタッグ”である。その理由は、本編を鑑賞した方にならわかってもらえるだろう。
この作品は何を伝えようとしているのか
一般的に、映画を見るときの私たちは、そこに何かしらの「意味」を求めてしまいがちだ。野暮とはわかっていながらも、登場人物のセリフや一挙手一投足、間に挟み込まれた風景のシーンひとつとっても“何か”があると思ってしまう。
この『PEACH CHAOS PEACH』も例外ではない。
冒頭はごく普通に、朝を迎えた女子学生が母親に起こされ、学校へ向かう支度をするシーンから始まる。彼女がお手洗いに入った瞬間に、ある“違和感”に気づくのだ。そう、自身にないはずのものがある、強い強い違和感である。その違和感がこの映画のすべてと言ってもいい。
異物を抱えた主人公は、満身創痍の状態で登校。何をしても何を見ても反応する異物に辟易しながら、最後には誰にも制御できない“バケモノ”のような存在になってしまい、物語の幕は閉じられる。
ジャンルとしてはコメディ。あえて言葉を選ばずに言うなら、大人たちが最大限にふざけた結果が凝縮した代物である。
モモコグミカンパニーの吹っ切れた体当たり演技と、とんでもない脚本をぶつけてきた渡辺氏。その意味するところは、果たして何なのだろうか。そもそも、意味するところなどあるのだろうか。
コンプライアンスのその先へ
「生きにくい世の中になっている」ーーコンプライアンスといった言葉が一般にも浸透するのと同時に、よく聞かれるようになった決まり文句だ。
果たして世の中は本当に生きにくくなっているのか。そもそも、元から生きにくい世の中だったのではないか。そのあたりの議論は、ここでは置いておきたい。
いまの時代だからこそ、この映画が世に公開される意義があるのではないか。筆者が伝えたいのは、この事実である。
男性器が生えてきた女子学生を主人公に据えた物語。全力・体当たりで演技に挑むアイドル。「怒られるかもしれない」「炎上するかもしれない」と怖がっていては、決して作れなかった映画である。いや、むしろ恐怖ごとダイブする勢いで作られた映画である。
批判を恐れていては創造できない。
人の目を気にしすぎる心はクリエイティブを殺す。
監督を務めた渡辺氏によると、本作では「中学生の頃に考えていたことを具現化した」らしい。中学生らしい妄想を笑い飛ばし、バカにするのは簡単だろう。しかし、あえてそれを映画として形に残す大人がいたっていい。そんな遊び心があってもいい。
もちろん法令遵守も大切だ。人の心や意思を尊重する姿勢を崩すことは勧めない。
しかし、もっと世の中には“遊び”や“すきま”があってもいいのかもしれない。
良い意味で(そう、誰がなんと言おうと良い意味で)、この作品を見たあとには力が抜ける。フッと脱力したあとに、すべてを出し切ったモモコグミカンパニーの覚悟を感じ、抜けていった力が予感に変わっていくのだ。
この世界は、もっと面白くできる。自分たちの、ちょっとして意識の持ちようで。
すでに本作を観賞後の方には、この気持ちをわかってもらえるはずだと信じたい。未鑑賞の方は、ぜひその目で“覚悟”を感じていただきたい。
(文:北村有)
–{『 BiSH presents PCR is PAiPAi CHiNCHiN ROCK’N’ROLL』 作品情報}–
『 BiSH presents PCR is PAiPAi CHiNCHiN ROCK’N’ROLL』 作品情報
ストーリー
#1『リノベーション』 〈主演〉アイナ・ジ・エンド×田辺秀伸監督
心に悩みを抱えるダンサーの女性が、不動産屋に連れられた内見先で不思議な出来事を経験していく。踊りと映像で魅せる、一人の女性が自身のルーツを探る物語。
#2『レコンキスタ』 〈主演〉ハシヤスメ・アツコ×大喜多正毅監督
鬱屈した日々を送るOLが、ある日社内のエレベーターで奇妙な時空のループにはまる。エレベーターの停止先に見つけたものとは。過去の自分をぶち抜く爽快ムービー。
#3『オルガン』 〈主演〉アユニ・D×エリザベス宮地監督
「山に行ってくる」と言って、遠くへ去っていった兄の竜一。山小屋に向かったあーこは、竜一が撮った一枚の写真と自分宛の手紙を見つける―。
#4『VOMiT』 〈主演〉リンリン×山田健人監督
どこでもない夜道を千鳥足で歩く一人の女性。彼女の不思議な旅路の終着地は―。人間の感情を圧倒的な映像美と音楽で魅せる異色のトリップムービー。
#5『PEACH CHAOS PEACH』 〈主演〉モモコグミカンパニー×渡辺淳之介監督
普通の高校生桃子がある朝目覚めると。。。これ以上はネタバレするとなんも面白くなくなってしまうような青春ドタバタコメディ。
#6『どこから来て、どこへ帰るの』 〈主演〉セントチヒロ・チッチ×行定勲監督
チヨはアキオのことを2番目に好きだといつも言った―。
許されない関係にある男女の濃厚な文学的恋愛物語。
予告編
作品情報
企画・制作:WACK
配給:松竹 映画営業部ODS 事業室/イノベーション推進部新領域コンテンツ室
映倫:PG-12
主題歌:I have no idea.(BiSH/avex trax)
公式HP:bish-movie.com