<解説&考察>DC「ピースメイカー」の魅力:エログロに終わらないアメコミドラマの傑作

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2022年6月現在でも『THE BATMANーザ・バットマンー』の世界的な大ヒットや、『ジョーカー』続編の発表、 『ブラック・アダム』の予告編解禁など、話題に事欠かないDCコミックスの実写作品。

今回は、その中でも全8エピソードがU-NEXTにて見放題で独占配信されているドラマ「ピースメイカー」の魅力に迫る!

ファンから高い評価を得て、すでにシーズン2の制作も決定している本作。
今回の記事では、当サイトのアメコミ好きライターが、その見どころを紹介していく。

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「ピースメイカー」とは

※こちらの動画から過去のピースメイカーの活躍を振り返ることが出来る。(ネタバレ有)

ドラマ「ピースメイカー」は、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』のスピンオフとなるドラマ作品。

前作で描かれた「スターフィッシュ計画」から、奇跡的に一命を取り留めた男・ピースメイカー。
彼が個性豊かなメンバーと共に、謎に包まれた「バタフライ計画」を阻止するため、そして、彼自身のトラウマを乗り越えるために戦う物語だ。

『ワイルド・スピード』シリーズの参戦も記憶に新しいジョン・シナが主演を務めた本作は、意外にもDCドラマとしては初となる映画シリーズのスピンオフ。

これまでにも、バットマンの世界が舞台の「ゴッサム」、「ARROW / アロー」からヒーローのクロスオーバーへと発展した“アローバース”など、数多くの人気ドラマが産み出されてきたDCコミックス原作の実写作品だが、本作ではついにドラマが映画と繋がることとなった。

魅力的なキャラクターたち

本作の監督を務めたのは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズや『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』で知られるジェームズ・ガン監督。

彼の過去作同様、本作でも魅力的なキャラクターたちは健在だ。

平和のためなら殺人もいとわない主人公・ピースメーカーに始まり、陽気な新米・アデバヨ、美しい女性エージェント・ハーコート、メンバーの指示役・エコノモス、ミステリアスなボス・マーンと個性豊かなメンバーが登場。

また、主人公をサポートする自称親友・ビジランテやピースメーカーの父・オーギー、柔術を得意とするジュードーマスターに主人公を追う捜査官・ソフィー、さらには、予想を超える強大なラスボスまで……。

一癖も二癖もあるキャラクターたちが入り乱れ、それぞれの秘密が次第に明かされる物語には、誰もが惹きこまれることだろう。

DC映画との繋がり

『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』のスピンオフである本作は、前作エンドクレジットと地続きの場面から始まり、冒頭では同作をオマージュするように清掃員が登場。

『スーサイド・スクワッド』シリーズに続投しているアマンダ・ウォラーも再登場し、劇中では彼女の娘が大きな役割として初登場することになる。

また、劇中では、『ジャスティス・リーグ』のヒーロー・アクアマンやフラッシュを茶化すようなジョークも登場。

その他、シリーズを追っている人であれば嬉しいサプライズシーンもあり、ファンは特に必見といえる作品となっている。

音楽の魅力

ジェームズ・ガン監督作品と言えば、各場面とシンクロした楽曲のセンスも抜群。

とりわけ、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』以降のアメコミ実写映画では、印象的なオープニングがファンの人気を集めていた。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』では、主人公が宝探しの最中、ウォークマンで音楽(Redbone「Come And Get Your Love」)を聞いて歌い踊るシーンが話題に。

続編の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』では、グルート(人間そっくりの木から生まれたキャラクター)が、戦闘中に音楽(Mr. Blue Sky「Electric Light Orchestra」)にのせて踊る姿が登場した。

本作では、Wig Wam「Do Ya Wanna Taste It」にのせて、敵・味方関係なく、出演キャラクターが勢ぞろいするダンスシーンが登場。

何ともシュールな振り付けとキャストのポーカーフェイスが相まって、冒頭だけでも満足度の高い作品となっている。

ちなみに、ジェームズ・ガン監督作品で使われた楽曲の一部は、以下のプレイリストから聞くことができる。

監督本人のアカウントによってプレイリストが組まれている。
(ちなみに、このアカウントでは映画未使用のお気に入り楽曲も共有されており、この中には今後の作品に使われるものもあるのかも……)

–{ポリコレに向き合う物語}–

ポリコレに向き合う物語

近年のアメコミ実写作品では、過去にはスポットのあたらなかった人々がメインキャラクターになることが増えている。

性別や人種、国籍に囚われず、多様性を組み込んだポリティカル・コレクトネス(偏見や差別を含まない中立的な表現や用語)を意識した物語作りが重要視されるようになったからだ。

本作では、主人公・ピースメイカーが自分と異なる背景を持った人物に悪態をつき、暴言を吐く。

その設定から、本作はポリティカル・コレクトネスに抗った内容と思い込みがちだが、物語が進むにつれ、むしろ、真摯に向き合っていることが分かるだろう。

男性権威的かつ、白人至上主義な父・オーギーに育てられたピースメイカーには、様々な偏見が染みついており、その価値観を変えることは容易ではない。

しかし、親元を離れた彼は、異性や同性愛者、アフリカ系アメリカ人やアジア人、様々な動物や宇宙人に至るまで、自身とは異なる生命が共に生きる世界を知る。

時にはダイレクトな感情で他者と対話し、そうでなければ歩み寄ることを繰り返す中で、彼は1人の人間として自立し、父とは異なる人生を選ぼうと試みるのだ。

とりわけ、本作のラストシーンは、このことを踏まえて見ると、感慨深いものになるだろう。

最終回を見終えた時、私たちのピースメイカーに対する思いがどう変わっているのかにも、是非注目していただきたい。

ジェームズ・ガンという作家

ここまで述べた物語の大きなテーマは、ジェームズ・ガン監督のこれまでの経歴を知っていると、より、説得力が増すことになるだろう。

彼のキャリアは、エログロや差別的なジョーク満載の作風で知られるトロマ・エンターテインメントのもとで始まった。

その後、『ドーン・オブ・ザ・デッド』や『スリザー』といったグロテスク描写のあるホラーを手掛けたのち、『スーパー!』を監督。

ドラッグや人体破損など、大人向けヒーロー映画として一部で脚光を浴びた本作がきっかけか、続いて、マーベル映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の監督に大抜擢される。

© 2014 Marvel

以降、アメコミ映画を代表する人物として、多くの映画ファンに知られることとなった彼だが、2018年の7月、異変が起きる。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』第3作目の制作最中、彼がキャリアの初期に行っていたTwitterでの差別的発言が掘り起こされたことで、マーベル作品を担当するディズニーは彼の解雇を言い渡したのだ。

過去の自分とは大きく変わったことを釈明しつつも、当時の罪を償うために解雇を受け入れることを公表した監督。

そこで目をつけたのがDCコミックスの作品を担当するワーナーブラザーズだった。
「やりたいことをやってほしい」というメッセージと共にスタジオは彼をスカウト。

その結果、製作されたのが『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』であった。

この流れを意識したうえで『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』と、スピンオフ「ピースメイカー」を見ると、物語そのものが監督自身の経験を色濃く反映したものであることが分かるだろう。

過激なグロ描写や、一見、気持ちの悪い演出を詰め込みつつも、その表現でしかできない感動とカタルシスに到達した前者。

そして、差別主義者であった主人公が多種多様な生命と向き合い、次第に変化していく後者。

この両作は、まさしく、この経験を踏まえたうえで、ジェームズ・ガンが辿り着いた2つのアンサーと言えるだろう。

ちなみに、現在、ディズニーに再雇用された彼は、改めて『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の第3作目を製作している。

SNSの炎上が多い主演のクリス・プラットに対しては、一部のファンから「彼を降板させてほしい」という声も挙がっているが、監督はこの意見を断固として拒否。
SNSの文字情報だけでは人を判断することはできないという旨のメッセージも公表している。


以上、U-NEXTにて見放題で独占配信中の「ピースメイカー」について、紹介した。

揺るぎない信念を持った作家・ジェームズ・ガンの最高傑作という呼び声も高い本作。

ぜひ、そんな本作を一人でも多くの方に見ていただきたい。

(文:TETSU)

–{「ピースメイカー」作品情報}–

「ピースメイカー」作品情報

■作品概要

「スターフィッシュ計画」での負傷から一命を取り留めたピースメイカーは、引き続きアマンダ・ウォラーの監視下で、蝶型の地球外生命体を駆除する新任務「バタフライ計画」を命じられ、彼女の部下・エミリアらと寄生された人間たちの調査にあたるが…。

■予告編

■出演

ジョン・シナ(ピースメイカー/クリストファー・スミス)、ダニエル・ブルックス(レオタ・アデバヨ)、フレディ・ストローマ(ビジランテ/エイドリアン・チェイス)、チュクーディ・イウジ (クレムゾン・マーン)、ジェニファー・ホランド(エミリア・ハーコート)、スティーヴ・エイジー (ジョン・エコノモス)、ロバート・パトリック(ホワイトドラゴン/オーガスト・“オーギー”・スミス)

■配信情報

『ピースメイカー』U-NEXTにて(全8話)見放題で独占配信中

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